【論文】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

 新潟県柏崎市は地域振興のために、原子力発電所を誘致することを決めた。国の原子力政策に沿って多くの財源を得た柏崎市の財政状況は好転しているのか。電源交付金制度とその充当事業、現在の市の財政状況から原子力発電所が柏崎市財政に与えた影響を検証する。



原子力発電所が柏崎市財政に与えた影響


新潟県本部/自治労柏崎市職員労働組合・組織内市議会議員 池田千賀子

1. はじめに

 1969年、新潟県柏崎市は原子力発電所の誘致を決議した。1978年の1号機着工以来、7号機までの出力が821.2万kWという世界最大の原発立地地域となっている。それに伴って原子力発電所にかかる多額の財源を得てきた(以下原発という)。固定資産税や電源三法交付金など、1978年から2009年までに柏崎市にもたらされた原発財源は、実に2,364億円にのぼる。しかし近年財政は悪化、2007年7月に発生した中越沖地震によって公共施設やガス水道などインフラの災害復旧にも多くの財源を投入することとなり、財政悪化に拍車をかけている。原発という他市にはない「歳入要素」を持ちながら、今日の財政状況を招いたのはなぜか。夕張市が特定の財源に頼った結果、財政破綻したことは記憶に新しく、地方自治体の財政運営について関心が高まっている。本稿では、これまで原発財源という大きな財源を得てきた柏崎市の財政運営とその結果について検証する。

2. 原発立地地域に交付される交付金

(1) 原発財源の概要
 原子力発電所の立地決定により、自治体には電源三法交付金に基づく交付金が交付される。また原発が立地していることにより電力会社が納める固定資産税、法人市民税などが歳入として入ることになる。更に柏崎市は2003年に使用済核燃料税を創設した。これは法定外目的税で、保管している使用済核燃料に対して課税するもので、施行後5年を目途として納税義務者との協議を行っている。また新潟県は翌2004年に、原子炉に挿入される核燃料に対する課税として核燃料税を創設。これにより原発立地自治体である柏崎市には県からの交付金として交付される。これら財源の内訳は表1のとおりである。

表1
柏崎市に入る原発財源
● 国県交付金:電源立地地域対策交付金・広報安全等対策交付金・原子力発電施設立地市町村振興交付金(県の核燃料税)・大規模発電用施設立地地域振興事業費県補助金
● 固定資産税
● 法人市民税:電力会社(東京電力)の法人市民税
● 柏崎市使用済核燃料税:原子炉設置者(電力会社)に課税。保管している使用済核燃料1㎏につき480円
● 原子力立地給付金:柏崎市に電気を供給する東北電力(株)と電気需給契約を行っている家庭や企業等に対し給付金が交付され、原子力発電施設の運転終了まで交付
 ※新潟県核燃料税:法定外普通税。原子炉への核燃料税の挿入に対し原子炉設置者(電力会社)に課税。税率は100分の12

(2) 電源三法交付金の充当可能範囲の緩和
① 電源三法交付金とは
  電源三法とは、1974年に制定された「電源開発促進税法」「電源開発促進対策特別会計法」「発電用施設周辺地域整備法」を総称したもので、それぞれ、電力会社に販売電気に応じて電源開発促進税を課す法、この税をエネルギー特別会計に入れて管理する法、発電所周辺地域における公共施設整備を促進するために交付金として交付する法である。これらの法は、原子力・水力等の長期固定電源を支援し、電源地域の振興や地域活性化を図り、発電用施設の設置や運転の円滑化をはかることを目的としている。

② 交付金の使途の制限と緩和
  電源三法は何度となく制度運用の変更を経て、2003年に法改正がなされ6つの交付金が統合されて「電源立地地域対策交付金」となった。表2は旧電源立地促進対策交付金と旧電源立地特別交付金、旧原子力発電施設等立地地域長期発展対策交付金の制度の変遷を示したものである。交付金の使途は、公共施設そのものの整備というハード整備に限定されていたが、次第に緩和されていった。最も大きな変化は2003年に交付金が統合されるとともに、交付金が施設の維持運営に活用できるようになったことである。
  当初の制度では、その使途が施設整備に限定されていたため、施設整備が進むことによってその運営にはランニングコストが発生することになる。交付金の使途を維持運営費にも拡大してほしいという、立地自治体の声に対応して交付金の使途が緩和・拡大していったものと思われる。

表2 交付金対象事業の変化
【旧 電源立地促進対策交付金】
1974年 運用開始
1981年 交付対象事業の見直し(「10%程度を施設維持管理費に充当」を追加)
1982年    〃
(「農林水産・商工業に係る共同利用施設」を「産業振興寄与施設」に拡大)
  ※この後も「産業振興寄与施設」に範囲が拡大される
1999年 交付対象事業の見直し(「基金造成による維持運営事業」の追加)
【旧 電源立地特別交付金】
1981年 運用開始
1999年 交付金対象事業の追加(維持運営費に充当可能となる)
【旧 原子力発電施設等立地地域長期発展対策交付金】
1997年 運用開始
1999年 交付対象事業の追加
2002年 運用開始後30年経過施設への交付金制度創設
2003年 交付金統合し
「電源立地地域対策交付金」
交付金対象事業の統一化、地域活性化事業の創設、維持運営費へ用途拡大

 柏崎市では2003年の改正前にも、長期発展対策交付金を「ごみ収集事業」や「学校給食共同調理場運営事業」に充当していた。改正後、統合されて電源立地地域対策交付金となった交付金を「市政協力費(40,000千円)」「地域コミュニティセンター活動推進事業(90,000千円)」「学校給食共同調理場運営費の人件費(50,000千円)」「ごみ収集委託費(150,000千円)」、「保育園運営費の人件費(565,000千円)」(2005年予算額)など、ソフト事業をはじめ、人件費へも充当している。
 交付金が交付されながら、自治体運営の中で膨らむ事業運営費に充当できなければ、他の財源を充てなければならない。交付金対象事業が拡大したことは自治体にとって歓迎すべきことではあるが、交付が始まる当初からこのような柔軟な使い方が許されていれば、自治体の判断は違ったものになっていた可能性があるのではないかと考えられる。


3. 原発財源と建設事業

(1) これまでの原発財源
表3 1978~2009年までの原発財源合計額と内訳
(単位:千円)
国県交付金計
53,035,878
法人市民税
6,886,366
固定資産税
171,893,998
使用済核燃料税
3,365,741
原子力立地給付金
1,260,859
合  計
236,442,842
 1978~2009年度の32年間に柏崎市にもたらされた原発財源の総額は2,364億2,480万円にのぼる。
 先に述べたように、これら財源の中で電源三法に基づく国県の交付金は、2003年まで使途が公共施設整備に制限されていた。一方、原発財源の中で最も額が大きいのが固定資産税である。固定資産税のピークは1995年で、127億円であった(1994年から1998年度は100億円を超えている)。原発交付金に併せ、一般財源である固定資産税が潤沢であったことにより多くの建設事業が実施されたと考えられる。

(2) 交付金による整備事業
表4 交付金充当事業の事業費と交付金充当額(柏崎市施工分)1978~2002年
事業区分
事業費
(千円)
交付金
(千円)
事業区分
事業費
(千円)
交付金
(千円)
道  路
6,419,123
5,713,414
教育文化施設
5,233,278
4,814,059
水  道
1,339,140
1,264,925
医療施設
535,694
465,800
防災無線
591,178
457,654
社会福祉施設
855,601
801,023
スポーツ・レクリエーション施設
6,598,604
5,994,228
産業振興に関する施設
4,631,513
3,656,327
排水路など 環境施設
391,740
328,523
合  計
26,595,871
23,495,953
出典:「原子力発電 その経過と概要」(柏崎市2009)

 1978年~2002年度の交付金を充当した整備事業は表4のとおりで、件数は67件、総事業費26,595,871千円で、うち充当した交付金は23,495,953千円であった。充当率は88.3%である。充当率には決まりがあるわけではなく、自治体の判断に任せられる。100%充当も可能で自治体としては有利な事業ということができる。しかしそれらの公共施設一つ一つがが整備された結果、今日の財政状況や市政運営があるということを考えれば、整備の必要性を振り返ることが必要ではないかと考えられる。

(3) 原発財源と建設事業費の推移
 図1は各年の普通建設事業の単独事業と補助事業の額と、その年度にもたらされた原発財源(国県交付金・固定資産税・法人市民税・使用済核燃料税・原子力交付金の合計額)、そして交付金を充当した主な事業名と事業額を表したものである。原発財源が最も多かったのは1995年度で、153億3,700万円であった。1994~2000年度の原発財源は100億円を超えている。原発財源の中で比率として大きいのは固定資産税で、1995年の原発財源のうち、国県交付金は13.9%、固定資産税が82.8%である。しかし固定資産税は減価償却で減少していくため原発財源総額が減少していくことになる。2002年度になると、その比率も国県交付金49.4%、固定資産税43.5%で固定資産税の比率が低くなっている。


図1 建設事業費と原発関係歳入の推移
出典:柏崎市決算カード、原子力発電所に関する歳入(柏崎市企画調整課まとめ)、「原子力発電 その経過と概要」(柏崎市2009)

 普通建設事業は1990~1995年度の間、100億円以上の事業費を計上している。また普通建設事業の中の、単独事業と補助事業の事業費を見てみると、1996年度頃まで多くの単独事業を実施している。1990年、1991年度は普通建設事業の7割以上を単独事業が占めている。交付金充当事業は補助事業ではなく単独事業となる。これらの年度には一般財源である固定資産税の歳入が潤沢であり、単独事業である交付金事業をはじめとした多くの事業が実施されていたものと考えられる。

4. 柏崎市の財政状況

(1) 経常収支比率の悪化
 財政指標のうち、経常収支比率の推移を見ると、図2のように比率が高くなっている。2004年度に90%を超え91.5%となり、2005年度91.7、2006年度97.4、2007年度104.1、2008年度101.9となっており、2008年度の数値は類似団体中の順位が129自治体中125位であった(類似団体平均93.0)。経常収支費比率に占める割合が高いのは、人件費27.5、公債費24.1、物件費18.1などである。特に公債費は2008年度の類似団体平均が14.3であるのに対し、24.1と非常に高く、類似団体129自治体中122位となっている。地方債残高は図3のように増加しており、2008年度には54,310,930千円に達している。債務負担行為残高との合計額は60,084,623千円で、市民一人当たりの額は651,119円となる。


図2 経常収支比率
出典:柏崎市 普通会計決算状況

図3 地方債残高と公債費比率の推移
出典:柏崎市 普通会計決算状況

(2) 公共施設の維持管理経費など後年度負担
 以上のように現在の柏崎市財政は経常収支比率が高く、財政の硬直化を招いていることを見てきた。ここで原発交付金による建設事業との関係を見てみたい。図4は総務省の2008年度「公共施設状況調査」の結果から、新潟県内の自治体の公共施設の状況を比較したものである。柏崎市は市民一人あたりの財産面積(行政財産・普通財産)が大きいことがわかる。その中で、市民一人あたりの道路面積と集会施設面積を見たのが図5、6であるが、ともに柏崎市が広い面積を所有していることがわかる。

図4 市民一人あたりの財産面積(m2
出典:2008年 公共施設状況調査

図5 市民一人あたりの集会施設の面積(m2
出典:2008年 公共施設状況調査

図6 市民一人あたりの道路面積(m2
出典:2008年 公共施設状況調査

表5 経常収支比率の維持補修費比率
年度
柏崎市
類似団体平均
2007
4.0
1.2
2006
3.4
1.4
2005
4.0
1.6
出典:総務省 類似団体別市町村財政指数表
 維持補修費について見てみると、表5のように柏崎市の維持補修費の比率は類似団体の平均値と比較して高いことがわかる。これまで見てきたように、原発に関わる多くの財源を様々な建設事業に投入してきた結果、公債費や物件費を押上げ、施設の維持補修の経費を多く支出せざるをえない構造になったことを読み取ることができる。

5. まとめ

 柏崎市は、他の自治体にはない「原発財源」という特殊な財源を得たことにより、建設事業を中心に財政規模を膨らませ、後年度負担を生み財政状況の硬直化を招いたことを見てきた。更にこのような状況に至った更に具体的要因は何かと言えば、一つには電源三法交付金の対象が当初は建設事業に限定的だったこと(交付自治体としてはそこに充当せざるを得なかった)、もう一つは最も大きな財源である固定資産税が、減価償却によって大きく減少することが当初から予測できたにもかかわらず、それに見合う財政運営をしてこなかったことに尽きると考えている。整備してきた公共施設の建設時に、それらを整備することによる後年負担について、あるいは市の歳入が減少することをきちんと情報を提供してきたら、「作らない」という判断となった施設もあるかもしれない。
 柏崎市は行政改革推進計画の策定に際し、「資産・債務改革プラン」を策定した(2009年3月)。このプランの中で、柏崎市は原発財源によって他市に比べ公共施設が多いため、その維持のために経費を要していることを明確に述べている。プランによれば、まずは「真に必要な施設」を見極め、大規模修繕などの経費が単年度に集中しないよう分散化し効果的に財源を投入していくと言う。市がこのことを市民に示し、取り組んでいくことを大いに評価したい。しかし中身はこれからであり、実際に各建物等の存続か否かの議論の時には、利用する市民へはていねいな説明が必要となる。この役割はまさに私たち市議会議員にも課せられていると強く認識しなければならない。