【論文】

第33回愛知自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による安心のまちづくり

 山口県は高齢化が全国平均より10年も早く進展している地域である。高齢化が進展すると高齢者が高齢者の介護を在宅で行う老老介護家族の割合も高くなる。同時に高齢化の進展で認知症の高齢者も増える。これまで在宅介護が理想と考えられて来た中で、認知症の高齢者が認知症の人を介護する認認介護の家族数も増加している。そこで、この悲惨な認認介護世帯が、県内にどの程度存在するのか予測するための調査を行ったので報告する。



在宅介護における認認介護の出現率
組合員2万人及び介護事業所507ヶ所調査結果

山口県本部/山口県地方自治研究センター・理事長 岩本  晋
山口県地方自治研究センター・理事 堀内 隆治
山口県立大学・社会福祉学部・教授 斎藤 美麿

1. はじめに

 山口県は高齢者率も高く、老老介護も珍しくない。そのような状況の中で、在宅介護を実践している家族のなかで認知症状のある人が認知症の人を介護するという、いわゆる「認認介護」が増えているという。そこで、この認認介護の発生頻度を調べるため、まず連合組合員二万人にアンケート調査を実施した。介護保険関係の事業所が把握している認認家族を直接調査することは守秘義務違反になるので、それを回避するため家族からの報告として認認介護状態の有無を家族から調べ、発生頻度についての基礎的資料を作成した。さらに補足調査として、県内423箇所の居宅介護支援事業所と84箇所訪問看護事業所のケアマネージャーにアンケートを配布して、各事業所が対応している介護保険サービス利用者の総数、在宅介護を実践している家族数、介護する人も介護を受ける人も65歳以上の「老老介護」状態にある家族数、さらには認認介護にある家族数を回答してもらった。
 なお本調査を実施するに当たり、自治総研からの助成金50万円と労福協山口の個人研究助成金30万円、山口老年総合研究所からの研究助成金50万円を活用して実施した。

(1) 連合組合員2万人対象のアンケート調査の結果
① 回収状況 アンケート配布2万枚で回収が8,400枚で回収率42%と高くないが、組合構成員の年齢が若いことや、核家族化で介護者が身近にいないため介護について回答できないことを考えれば妥当な回収率である。
② 介護の場所 介護を必要とする家族があるのは1,801人(21.4%)で、在宅介護にある家族は814人(43.1%)と高い。施設介護が723人(38.3%)、施設と在宅の両方で介護を受けているのが240人(12.7%)であった。
③ 介護を受けている場所別に見た介護度と認知症の頻度


図1 介護を受けている場所別に見た介護度の分布
図2 介護を受けている場所別に見た認知症の頻度

④ 介護度の高いものに認知症が多く、認知症が介護の判定に重要な要素であることが分かる。図省略
⑤ 介護度が高いほど、認知症状と介護費負担の増加が家族にとって困っている問題である。図省略
⑥ 在宅で介護を受けている814人は、施設介護を受けている場合に比較して介護度は比較的軽く、認知症の割合も施設より少ない。されど在宅介護を受けている人で認知症の人が193人(24%)もある。同時に主たる介護者の役目を果たしている人が軽い認知が94人、かなりの認知症が13人と合計107人もあった。すなわち、在宅介護814人のなかで57人(7%)が認認介護であるいえる。


表1 在宅介護を受けている人と、介護する人にみられる認知症の人数
介護場所
介護を受ける人の認知
主として介護する人の認知
人数計57人
在宅 あるが軽い 軽い認知症
43(5.3%)
在宅 ひどい認知症 軽い認知症
2(0.2%)
在宅 あるが軽い かなり認知症がある
3(0.4%)
在宅 ひどい認知症 かなり認知症がある
9(1.1%)

(2) 介護保険事業所による在宅認認介護者数調査の結果
① 回収状況
   調査対象施設として山口県内の居宅介護支援事業所423箇所、訪問看護事業所84箇所、合計507事業所に郵送でのアンケートを実施した。回収は居宅介護支援事業所が76か所で回収率18.0%、訪問看護事業所が21事業所で回収率25.0%だった。事業所全体の回収率は19.1%と低かったが、これは介護保険事業所への様々なアンケートが毎日届く状況での、事前説明もなしの我々の調査方法に問題があったものと反省している。
② 調査結果
  居宅介護支援事業所および訪問看護事業所から得られた在宅介護にある5,734人についての介護状況をまとめると、老老介護にある人が1,403人(24.5%)、どちらか一人が認知症は722人(12.6%)、二人とも認知症が146人(2.5%)であった。しかし、老老介護にあるケースを100%とした場合にどちらか一人が認知症は51.5%、二人とも認知症は10.4%の割合であった。さらに、事業所別に集計すると居宅介護事業所では二人とも認知症は11.0%、訪問看護事業所では8.5%であった。


表2 介護保険事業所が把握している介護保険利用者の介護状況のまとめ
在宅介護の状況
報告人数
在宅介護を100とした出現率
老老介護を100とした出現率
宅介護にある
5,734
100.0%
 
老老介護にある
1,403
24.5%
100.0%
どちらか一人が認知症
722
12.6%
51.5%
二人とも認知症
146
2.5%
10.4%

図3 事業所調査による在宅介護での認認介護の出現率

 このアンケートで明らかになった事は、在宅介護にある老老介護世帯の10.4%が認認介護であるということであり、この数値を参考に基礎的な山口県の高齢者データを利用して、県内の認認介護家族数を推計したら、県内には1,000家族以上が認認介護である可能性が高いという結果であった。さらに、今回の事業所アンケートの回収率が19.1%であることから、県内すべての事業所が回答したとして単純に表2に示した146人を5.23倍すると764人となる。このことは高齢者世帯数などから推計した1,000人近くが認認介護状態にあるという数値に大きな違いはない事がわかる。


表3 山口県における在宅介護の認認介護者数
山口県
人または%
総人口 19年度人数  
1,473,223人
65歳以上人口 人数
383,551人
高齢化率 65歳以上  
26.0%
世帯数 総世帯  
600,144世帯
単身高齢者世帯数  
65,945世帯
高齢者のみ世帯数
74,774世帯
介護保険要支援・要介護認定者数
66,899人
高齢者に占める介護認定者%
③/①=④
17.4%
高齢者のみ世帯に占める介護認定者
②×④=⑤
13,042人
認認介護家族数  本調査推計値
⑤×0.104
1,356人

(3) 介護保険事業所による地域の在宅介護支援サービス量の調査結果
① 事業所の活動地域における介護サービスの充実状況について、居宅サービス計画を立案する際に地域で不足していると感じるサービスは何ですか、とケアプランを作成する担当者に質問した。
  その結果、リハビリ機能のあるサービスを求めている割合が最も高く、次いで短期入所機能であった。これらは、施設介護を受けることのできない利用者に対してリハビリを受けさせたいという思いと、せめて短期であっても介護者提供者の負担を軽減したいのに出来ないという悩みがあふれていると言える結果であった。
  一方で過剰だという意見はデイサービスが最も多かった。サービスに該当する利用者が居ないのは、居宅療養管理指導であった。これらの意見をまとめると、過不足なしと回答する項目が一番サービスとして定着していると考えると、福祉用具購入費の支給や、福祉用具の貸与はサービスとしては行き渡ったものと考える事が出来る。


図4 在宅介護を支える介護サービスの過不足感について

② 介護支援事業所が感じている、介護サービスの問題点
  アンケートで貴事業所が事業を展開する中で直面している難題についてお書きくださいという項目に対して、とてもたくさんの書き込みがあった。すべての記入例には在宅介護を支える介護事業所の困難さが溢れていた。


表4 介護支援事業所が感じている、介護サービスの問題点 一部抜粋
老老老介護、独居の方、経済面を含めていろんなサービス利用ができない方が多くなると思われる。認認介護ではキーパーソンが(子どもなど)状況を判断できない場合が多い。
老老介護や認知症の方の権利擁護や、成年後見人制度などがなかなか進まずお金がないから……とサービスをしり込みされる方がいる。そのため、ケアマネから紹介されてもサービス開始とはならない。高齢の親の年金をあてにして生活している家族もあり、本当に高齢者にとって在宅で生活することが幸せなのか考えさせられることもある。
老老介護状態にあるにもかかわらずサービス利用を嫌う利用者の対応に困っています。(家族は近くに住んでいるが、あまり支援していない。)
老夫婦生活者で実子なしの身元受取人の選定
有料老人ホームは利用料金が高いため、現社会状況(不景気)において負担が多い。病院から退院し在宅には帰れず、特養老健では入居待ち、とりあえず入居されるケースが多い。特に精神障害者については障害者自立支援法後病院で長い間暮らし(生活)地域(家族)に戻れず入居される。(身体、精神、認知)問題行動が多く現場では対応に苦慮する。内科、整形等で入院が必要になるが病院でもある程度の治療が済めば早めの退院を予期されることが多い。
訪問介護の提供(社協や包括より指導又は制限をされるが各々の実態を確認のうえ決めてほしい、書類と30分くらいの面接では実態が分からない。変死に対し、寿命だからの言葉はショックです。入浴介助を提供していれば溺死は防げたと思う。介護の申請(なるべくなら却下させろと言われるが必要のない人は申請をしていないのでは。)
二人とも認知症があるが、在宅生活の継続意志が高い。その利用者宅にヘルパーの導入をしているが、ヘルパー訪問に2時間の間隔を空けなければならず、その2時間の間に問題が起こっていることが多い。認知症の夫婦で、何度注意しても猫に餌をやり、増え続けている。行政の協力を求めても難しく、対応に困っている。
われるが、夜間、行方不明となってしまったケースもあり、やはりコミュニティの中での共同生活体制の方が安心、安全な対応が可能と思われる。不安感ばかり増し(お金がない、回覧わからない、あなた誰?……etc)認知症の進行を助長している。また、お金不足や地域の干渉がイヤで「かかわらないでほしい」と遠方の子どもから連絡があったり、"放置されている老人も多いと思われる。「プライバシーにふれる」などと言われたケアマネージャーもいた。その他は、包括センターへの連絡としたが、後のことはわからない。金銭管理における権利擁護、成年後見人制度等も、親子関係により阻むものと多いのが現状はある。具体的に調整となると、それまでの関係が悪いとうまくいかないことが多い。
認知症を支える家族も介護保険法の理解が難しい、何度説明しても忘れる。キーパーソンとの関係がスムースにいかない。数時間、数日後には意見が違ってくるため説明に時間を要し決定までに振り回される。夫婦で頑張っていて、子どもに迷惑をかけたくないので話さないでと頼まれることが多い(子どもは両親とも元気だと思い込んでいる)子どもへの連絡を嫌うため連絡できない。
10 認知症やパーソナリティ、精神症状のある方に対する金銭管理を請け負ってくれるサービスがない、行政サービスの中で軽度の状態であるうちに対応できる期間があればよいと思う。
11 認知症高齢者の受け皿となる病院や施設が少ないため、医療難民、介護難民となる人がいる。ケアマネ1人の力ではどうしようもないケースがある。
12 精神や認知などの困難事例に対して、市の保健士さんはケアマネ任せきりにしないで、担当し、助言や指導をして欲しい。
13 市により、介護予防が介護給付に変わり、介護計画を立案する上で包括センターから居宅へケアマネが移動する場合、有効期間の開始月になり、居宅依頼届を提出して、その後に医師の意見書がもらえる状態です!!
予防から介護になるためプランなど担当者会議を行う上で必要とされる書類が取れない。ケアマネには事前に計画し会議を行うように求められていながら実際には違う問題が発生していると思う。何度も市に伝えたが「はぁ~」というだけでした。
14 実生活では介護や見守りがされていたのだが、同居家族がいることにより訪問介護サービスが利用できず、生活環境が整わず身体機能低下につながる事例が多い。
15 在宅改修だけ行っても全く報酬がない。退院時に病院と家を何度も訪問したり、理由書を作成したり、個人の業者を希望されれば写真を撮ったりかなりの時間を費やして何の報酬もないのはどうかと思う。1件の利用者に費やす時間はとても多く、重複する書類もあり、繁雑なわりには介護報酬が低いように感じる。ケアマネの資格はあるもののその職に就かないのもそのあたりが原因ではないか。ケアマネ不足の原因を見直していただけるよう願う。訪問介護サービスのサービス範囲の見直し。老老世帯への家事援助はケースによっては必要とされるが現状では困難である。

 以上の2種類の調査により、高齢化が全国より10年以上進展した山口県において、認認介護者は在宅介護を実践しているなかの老老介護者の10%に上り、推計で1,000世帯程度は存在することが推測される。これは、我が国の介護保険制度が急速な高齢化に追いついていないシステムの欠陥を示したものと考えられ、在宅医療を推進するなら、認認介護という悲惨な状況にある高齢者を予防するなり救い出すなりの解決方策あるいは根源的な対策を早急に確立することが必要であり、地域主権の重大、深刻な検討材料と言える結果であった。