【論文】 |
第33回愛知自治研集会 第13分科会 温暖化ガス25%削減 地域での可能性を模索する |
地球温暖化対策のためとして推進される原発だが、その不安定な稼動が自治体の対策に悪影響を与えている。本当に原発は温暖化対策に役立つのか? 原発の電気はCO2排出が少ないと言われているが、文献レビューや温対法にもとづく報告データの解析により、実際には多量のCO2を排出している実態を明らかにした。原子力産業の排出合計は、なんと山梨県の全事業所の排出量に匹敵していた。 |
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1. CO2排出量に大きな影響を与える電気の排出係数 「大阪府域における2007年度の温室効果ガス排出量は5,440万トンであり、1990年度と比べ5.9%減少し、前年度と比べても減少している。」大阪府が最新のデータとして公表しているホームページを見ると、次のような注釈がついています。「2007年度の排出量は、電力の排出係数を2006年度と同じとして算定している。」 |
2. 原発の電気の排出係数は? (1) 電中研論文引用の問題点
電中研論文には、さらに深刻な問題があります。原子力の計算は、ウランの採掘・精錬、転換、濃縮、再転換、成形加工、再処理等々の各工程で一切のロスが出ない前提で行われているのです。例えば再処理工場が100%フル稼働し、ロスなくプルトニウムを取り出せるなどという前提は、机上の空論そのものです。高レベル廃棄物の処分は計算に入れているとのことですが、処分場閉鎖後のエネルギー消費はないことになっています。アメリカ環境保護庁ですら100万年間の放射能規制が必要としている高レベル廃棄物で、処分場の閉鎖後にモニタリングすらせず、CO2排出ゼロなんてありえません。また、処分場がどこになるか決まっていないので、中間貯蔵地から最終処分場までの輸送も計算に含まれていません。論文自体に「前提条件如何で評価が大きく変化するので、前提条件の変化が結果に与える影響を十分に把握した上で結果を解釈すること」と書かれているのです。 (2) 世界の研究結果では |
表1 CO2排出係数(g/kWh) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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3. 原発からのCO2排出実態 電中研論文のような机上の数字ではなく、実績値を調べるため、温暖化対策推進法にもとづく「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」により、集計公表されている2006年度から2008年度の全データを開示請求し、解析しました。 |
表2 原発からのCO2排出実績 | (単位:t/年) |
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P:加圧水型 B:沸騰水型 |
柏崎刈羽原発は2007年度途中に中越沖地震で被災し、この年度に変圧器に封入している六フッ化硫黄の排出(CO2換算3,600t)も報告しています。また、2008年度は完全停止していたにもかかわらず、復旧工事に伴うと考えられる排出量が大きな値になっています。2007年度の志賀原発も完全停止していましたが、この年度で一番多い排出量になっています。 |
今回開示されたデータには、六ヶ所再処理工場などのデータも含まれます。 高レベル廃液処理で欠陥が露呈し難航している再処理試運転による排出量が、報告のあった原発の合計値に迫るほど大きい値になっています。電中研論文では再処理の運転では0.7g/kWhしか見込まれていませんが、この程度ではすまないでしょう。このころ運転再開を目指していた高速増殖炉もんじゅや廃炉になったふげん(現 原子炉廃止措置研究開発センター)からもコンスタントに排出があります。このようにまだ確立していない核燃料サイクルの工程や研究開発からの排出も大きく、原子力全体から排出されるCO2の量は無視できるものではありません。原発とあわせて116万トン(2008年度)という排出量は、山梨県の全事業所排出量(都道府県別で下から3番目)とほぼ同じ値です。 地球温暖化対策を名目に推進されている原子力ですが、温暖化対策に逆行するCO2排出の実態を明らかにすることができました。原子力偏重の政策では自然エネルギー開発に十分な予算がまわらないなど、これまでも多くの問題が指摘されてきました。一刻も早く、脱原子力へ政策転換を図る必要があります。 |
参考文献:「ライフサイクルCO2排出量による原子力発電技術の評価」電力中央研究所 2001年 |