【自主レポート】
誰のための公共事業 ─ 霞ヶ浦総合開発
茨城県本部/波崎町職員組合・環境省環境カウンセラー 横田 文弘
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1. 誰のための
「公共事業は国益のためではなく一部企業のためにある」こういっても過言ではない公共事業が全国各地で行われている。水の需要がないのにダムを作る。税金がたれ流しにされたうえ環境が破壊されている。その典型的な例が「ダム、河川」などの水資源開発。「公共事業の問題点はまず、第一に経済、財政規模から見て肥大すぎること。つまり、税収でまかなえる範囲を越えて、借金でやっている。第二点はムダな公共事業が、何ら検討もされず実施されていること。本来ならその事業が本当に必要かどうかを検討(見直し・中止等)すべきなのだが、それがまったくといっていいほどなされていない。呆れたことに建設することだけが目的である公共事業がどれだけ多いことか」という声がある。
その理由としては、まず最初に過大な数値(水の需要など計画に見合った数値(a))を設定し、だからこの工事が必要だと計画の重要性を訴える。しかしながら「本当にその地域に必要なのか」という論議はなされず、「この計画を進めるためにはこの数値が必要である!」という、計画のための計画があり、事業を続けていかなければ予算が減ってしまうという国サイド(建設省等)の愚かな論理で計画され、その地域に住む住民のためではない公共事業が過去から現在まで行われてきた。
2. 公共事業
茨城県を例にとってみても、霞ヶ浦総合開発(2,740億円)・霞ヶ浦導水事業(1,900億円)・霞ヶ浦用水事業(2,300億円)・水源地整備事業(4,170億円)の4つの計画で霞ヶ浦を中心に計1兆1千億円もの税金が投資され、当初の計画(霞ヶ浦周辺の人口が90万人から将来200万人に増加するので水が足りなくなる、そこで霞ヶ浦の堤防をかさ上しダムにする)の内容と現実がかけ離れ、当初の目的を失っている(思ったより人口は増加しないどころか、人口は減少、水需要も減少)。にもかかわらず、見直し等の検討もせず目的をすり替えてそのまま計画を続けようとしている。既に霞ヶ浦総合開発(常陸川水門により海水の逆流が防止されている霞ヶ浦・北浦において、湖岸堤を嵩上げにより、当初は治水を目的とし、霞ヶ浦をダムの代わりにし後に利水から水質浄化に目的を巧妙にすり替え1976年より始められた事業)が終了。
霞ヶ浦導水事業では、利根川と霞ヶ浦、霞ヶ浦と那珂川を結ぶ導水工事のうち95年に利根川ルート(霞ヶ浦~利根川)が完成し、1995年9月に霞ヶ浦から利根川への通水試験(第1次通水試験(b))が行われた。ところが通水試験直後に利根河口堰下流でシジミが大量に死滅。この事件をきっかけに私たち波崎町職員組合自治研部は利根川の水質及び公共事業の必要性について独自に調査・研究を開始。また地元漁業者(波崎共栄漁協)と協力し、利根川の水質等について共同調査(c)を実施するとともに、同時進行という形で情報(検討委員会の設置、メンバーの人選等)を提供するとともにサポートを行い、地元漁業者たちと国(建設省・水資源開発公団)等に対し利根川下流の水質に関する検討委員会の設置を要望。その結果、翌年専門家を含めた検討委員会が設立され、私たちの代表も検討委員会の中で調査結果のレポートを発表するなどの活動を展開。こうして3回開催された検討委員会での審議の結果、「検討委員会よりシジミの死因の究明がなされない限り、通水試験の実施は認めることができない」という回答が出され、現在も第2次通水試験(利根川→霞ヶ浦→常陸利根川)・第3次通水試験(利根川と霞ヶ浦の双方向通水)は実施されていない。なお、この事業(導水事業)は学者、ジャーナリストによる「21世紀環境委員会」により「緊急に中止、廃止すべき100の無駄な公共事業」の中の1つに選ばれた。心のなかで「やった!」そう思った。県内外の多くの人たちに「この事業」が知れ渡ることになった。
3. すりかえとごまかし
ここで思い出されることは、昭和30~40年代にかけて塩害防止を目的に利根河口堰・常陸川水門(通称・逆水門)・黒部川水門と併せ、長良川河口堰よりも巨大な堰(建設費の合計は128億円)が建設されたこと。しかし「塩害防止」はあくまで表看板であって、実際は工業用水・都市用水の確保がねらいであり、特に常陸川水門は鹿島臨海工業地帯の企業に大量に用水を供給することが直接の目的であった。こうしてこの一大事業が完成した後、生態系が変化し利根川の漁獲量は激減、霞ヶ浦等の水質も悪化した。
ここで私たちが特に問題にするのは住友金属への工業用水の提供(確保)のためともいわれている常陸川水門の建設。表向きには流域で多発した洪水対策と逆流による塩害防止を目的に建設されたことになっていたが、当時の県知事(岩上二郎)と住友金属との間で密約(塩分の混ざっていない水を提供するために水門を建設する)が結ばれたことが堰建設後に発覚。このことから常陸川水門の建設による「堰上流の塩害(d)防止」という目的はかくれみのであり、千葉県議会の一般質問での知事(当時・友納知事)の「河口堰は塩害防止に有効ではありません」という答弁のように、建設当時から堰建設については疑問視されており、この事業は住民・自治体を頭に置いた事業ではなく、一部企業のために行われた公共事業といわれることになった。
こうして、国(公団)及び県等は堰建設の主目的をすり替え、住民には「絶対に水質の悪化はない」などといい、事前調査の結果を改ざん(またウソの報告等)し発表。住民をだましたのである。これは長良川等全国どこの公共事業でも繰り返し行われてきたことだが、現在も根本的には昔と比べて変ってはいないのである。
4. ウソと無駄
なお、前述の公共事業(霞ヶ浦関連事業)の当初の目的である利水については、計画から20年以上経った今では水需要の増加が認められず、また、人口の増加も思ったほど増えず、さらに工業用水に限っては計画の半分にも充たない量(供給能力が110万トンに対し需要が50万トン)が利用されているのが現状である。これらの数字は「事業を行うために造られた数字」ということになる。こうして1兆円をも超える公共事業がなぜか諌早湾や中海、長良川などのような住民たちを含めた環境問題に対する抗議行動等もなく、ごく一部だけで反対運動が展開され、多くの人たちは自分たちは国のやることだから間違ってはいないので反対はしないという考えでこれまで進められている。
公共事業は住民のため、自治体のためというのは真っ赤な「ウソ」であり、住民はもっと積極的に国等が行っている公共事業に対し「NO!」というべきである。このまま黙っていたら、国や自治体の借金が財政を圧迫、その莫大なツケは結局住民が払わされる。茨城県では前述の工業用水の水源開発費の負担分として今後、水資源開発公団に230億円を支払わなければならない。茨城県民300万人、前述の4つの事業に対し県民一人あたりが約40,000円ものお金を出している。「もったいない!」と思うことはないのだろうか。今からでも遅くはない。当事者、地元漁業関係者だけでなく住民・NGO・NPO、そして私たちを含めて「NO!」といえる力を持ち、いろいろなことに対し力を合わせ真剣に考え、行動していくことが必要なのである。また、そのためには自治体職員、自治労県本部が率先して情報の収集・分析、発表等を行い、積極的に地域住民と協力して、霞ヶ浦・北浦をよくする市民絡会議等に参加し、連帯するべきである。公共事業に対する無駄使いに対して行動を展開し、情報の公開及び事業の中止・見直しを止める、または代替案を作成することが大切なのです。
5. すべきこと
このレポートは1998年に作成したものである。レポート作成時点までの内容及びデータを使用して、今となってはいろいろな部分で変わったところがある。しかし変わらないものが一つある。それは私たちの活動である。私たちは1998年以降もこれらの問題に対して継続して調査・研究等を行い、自治研県集会・全国集会、水郷水都全国会議(宮古島)等にも積極的に参加するとともに「市民オンブズマンいばらき」に協力し、鹿嶋市で『霞ヶ浦の水 飲みますか?』というテーマで公開講座を開設、さらに霞ヶ浦・北浦をよくする市民連絡会議・NPO法人アサザ基金・市民オンブズマンいばらき・21世紀環境委員会等とも連携し活動の輪を広げてきた。
また、この活動の中で判ったことだが、霞ヶ浦導水事業の費用が1,900億円から3,000億円近くにふくれ上がる(工事進捗率3割弱で1,100億円を費やす)らしい。そこで2001年、漁業関係者・有識者・市民オンブズマンいばらきのメンバーたちが「霞ヶ浦導水事業を考える県民会議」を設立。私たちもメンバーの一員として参加し、2001年6月にはNHKの首都圏ニュースの特集「霞ヶ浦を検証する」の取材に協力するとともに、会議としても国等に対し霞ヶ浦導水事業についての代替案、監査請求に続いて同事業の中止を求める住民訴訟を起こし現在に至っている。その結果、同事業は事実上の凍結ということになった。なお、これらの事業に対して他の単組にも協力をあおぎましたが残念ながら協力は得られなかった。
私たちは今までこれらの活動を一単組で取り組んで来たが、今は「無駄な公共事業はもうやめよう」という意見が市民の共通認識されている。「無駄だと思ったら声を出す」時代。あらためて考えてみても一単組だけではなく、自治労中央本部及び自治労県本部・各単組がまとまり、国や県等に対し正面から追求すべきではないか。まるで傍観者のようにマスコミや自然保護団体など他人任せにせず、「無駄なことは無駄」とはっきりいい、活動を起こし展開しなければならない。私たちにはその使命があるはずだ。
※参考
(a) 1991年の1人1日平均給水量324リットル→2020年では452リットルに、また県の人口も現在の300万人→400万人になるという過大な予測から水需要を推計。(2002年の国立社会保障・人口問題研究所「都道府県の将来推計人口」では2020年の茨城県の人口は293万人と推計)
(b) 9月12日~9月15日までの4日間にわたって霞ヶ浦の水を導水管で2.6キロ離れた利根川に毎秒10実トンを通水。利根川下流の各漁業組合は事業の発表時から通水の中止を求めたが、通水試験後に漁獲量が激減した。
(c) 合同調査の結果、河口堰直下(堰から下流約100m)での低層の溶存酸素が1.9㎎/リットルという信じられない数値が検出。(底生生物は3mg/リットル以下で死滅するといわれている。)
(d) 塩害は河口堰がなくても満潮時に川の表層より取水することで防ぐことが出来、これを「選択取水」という(海水は比重が重いため表層の塩分濃度はかなり低い)。塩が混じるのは塩が引く時だけ。その間取水を止めればいいのである。また「潮止め(常時水の中に隠れ、塩水の進入をくい止めるもの)」やマウンド(潮止め堰と同じような働きをする)、そして取水口の上流への移転など他の方法でも塩害の被害を減らす(なくす)ことができる。この地域の塩害は利根川の川床を浚渫し大きく掘り下げた結果、水のとおりがよくなり塩害に結びついたという調査結果が出ている。
毎日新聞切り抜き(1996年3月13日付け茨城県版)
市民オンブズマンいばらき 第1回 連続市民行政講座 in 鹿嶋市
茨城新聞切り抜き(2001年7月22日付け)
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