【要請レポート】

風力発電事業における現状と課題

北海道本部/苫前町職員組合

1. 苫前町の概要と風の関わり

 苫前町は、北海道の北西部留萌支庁管内の中央部に位置し、総面積454.52km、西は日本海、東は天塩山脈連峰に接し、総面積の83%を豊かな森林資源が占めており、本町臨海地域には、日本海に沈む夕陽を望む「とままえ夕陽ヶ丘ホワイトビーチ」及び「とままえ夕陽ヶ丘オートキャンプ場」、そして湧出48.5℃の源泉が活用された温泉「とままえ温泉ふわっと」があり、天売・焼尻両島や利尻富士を望める壮大な日本海の景観を楽しめるマリンスポーツを兼ね備えた宿泊観光体験ゾーンとなっている。
 本町の風との関わりは、明治初期からニシン漁でにぎわいを見せ、中でも「やん衆」と呼ばれる青森方面からの出稼ぎ労働者が海岸部へ根付き、浜からの強風を利用して望郷の思いを津軽凧に乗せ、大空いっぱいに乱舞させ、本場「凧づくり」の技を後生に伝承してきた。
 このような強風が吹く当地の地理的条件を生かすため、冬場のイベント「町民凧あげ大会」が1974年に始まり、現在「北海道凧あげ大会」として冬空を彩る一大イベントとして守り育ててきた。そして、往時からの凧づくりの伝承や凧あげ大会イベントを通し、地域住民が風との関わりをなお一層深め、風が地域の財産として再認識する要因となった。
 その後、この強風を生産性のある「風力エネルギー」として生かすため、検討協議が進められ、地域組織である「苫前町まちおこし協議会」から「風力発電事業の研究を積極的に」との提言を受け、風車建設に向けての具体的な取り組みが始まった。

2. 風力発電事業への取り組み

 本町では、1995年度から夕陽ヶ丘地区において通産省の補助を受け、風況調査を実施。
 年間平均風速7.5m/s(地上高40m)という風力発電事業を展開する上から極めて有望との調査結果を得て、1998年度600kW機1基、1999年度600kW機1基、2000年度には1,000kW機1基を建設し、合計3基で総発電出力2,200kW規模の風力発電機が稼働した。
 この町営風力発電施設は、「夕陽ヶ丘ウィンドファーム・風来望(ふうらいぼう)」と名付けられ、発生電力は風車まわりのライトアップや同施設内の消費電力に活用したほか、余剰電力を電力会社との専用線により売電している。
 また、地域住民や観光客にも自然再生可能エネルギーとしての風力エネルギーの意義や理解を深めてもらうため、役場ロビーへ発電状態などをリアルタイムに確認できる電光表示システムを導入。環境と調和したクリーンエネルギーの重要性を肌で感じることのできるシステムと普及啓発活動を積極的に展開しており、この町営風車3基2,200kWは、町内約1,700世帯の約70%の電力量を創り出している。
 一方、町内上平地区(町営牧場内)では、総発電出力2万kW(1,000kW風車×20基)の風力発電施設を総合商社トーメンの現地法人「トーメンパワー苫前」が建設し、1999年11月より商業運転を開始。2000年12月には、総発電出力30,600kW(1,500kW風車×5基、1,650kW風車×14基)の風力発電施設を「ドリームアップ苫前(町並びに電源開発、オリックス、カナモトが出資)」が建設し、この地区に民間企業二社による総発電出力50,600kWに及ぶ集合型大規模風力発電施設(上平グリーンヒルウィンドファーム)が誕生した。
 民間企業二社による集合型風力発電施設における年間発生電力量は、一般世帯が年間に消費する電力量に換算すると約31,000世帯に相当すると試算されている。
 そして、苫前町内に建設された風車は合計42基52,800kWと、現在の国内で導入された風力発電設備容量の10%にもおよび、年間発電する電力量約1億kWhは、約7万トンのCO削減に寄与している。

3. 風力発電の事業性の検証について

 町営風力発電所「風来望(ふうらいぼう)」は、1998年に発表された北海道電力㈱の電力購入メニューにより、11.95円/kWh、17年間の契約を結んでいる。
 風況調査の結果では、年間の設備利用率は35%以上と予測されたが、実際は19~23%程度である。これは、風車は大きな面積で風を受けるのに対し、風況調査では、わずか数センチの半球状の風速計により観測するため、調査数値がそのまま発電数値とはなりづらく、更に、風車は風速約13m/sで定格出力となり、それ以上の風速があっても定格以上の出力は発生しないためである。
 また、風車機は全てデンマーク製品で、デンマークの風の質で設計されたもので、日本の風の質は考慮されておらず、実際に苫前の風の質にあったプログラム変更を行い、順調に稼働するまでに約1年半かかっている。
 売電事業は、資料のとおり歳入のほとんどが電力会社への売電収入である。歳出は、建設事業費における起債償還金が最も多く毎年約3,000万円。次に、人件費2名分を計上しており、電気主任技術者もこれに含まれる。その他、委託料として、風車機や電気設備の保守点検にかかる費用が約400万円。歳入から歳出を差し引いた剰余金を基金として、現在までに約3,700万円を積み立てている。このため、歳出合計が約5,000万円となることから、売電金額がそれ以上となる設備利用率約20.7%であれば、風力発電事業として成り立つこととなる。
 地域経済への影響では、この事業を展開することで、企業誘致となった2つの民間風力発電所が建設され、町における経済効果が考えられ、次のとおり整理した。
 2つの民間風力発電所から町への収入は、①固定資産税②土地の賃借料③法人税④協力費の4つである。
 2社の総事業費は、約110億円であり、そのうち約3分の2が評価資産となる。これにより初年度の固定資産税額は約9,000万円であるが、その75%は地方交付税から減額されるため、実質収入は少額である。土地は、2社で約6,000mを17年間の契約で貸し付けているが、建設地である上平牧場の土地の評価額は極めて安く、借料は年間約14万円。法人税は、資本金の額で決まり2社で約25万円である。4つの収入の中で一番多いのが協力費で、年間売り上げの2%を協力費としており、約2,160万円/年となっている。以上のことから、誘致された風力発電によって、町にもたらされる収入は、年間約4,500万円となる。
 風力発電の利点の一つに、ランニングコストがかからないことがあげられる。風車機は、コンピュータ制御のため、人件費がかからないため、町内3つの風力発電所に勤務する職員の合計は11名と事業費に比べ少ない。
 このため、燃料や資材の新たな投入をほとんど必要としない風力発電にとって、人も物も活発に動かないことを考えると、新しい産業が発展することは考えにくく、その維持管理には専門的な技術が必要であることから、地元企業が風車メンテを手がけることは難しく、風力発電事業における産業誘発効果は薄いものと考えられる。
 しかし、近年急速に普及した風力発電により、サービス拠点の拡充が必要となってきたことから、町に初めての風力発電施設メンテナンス会社が誕生し、これから風力発電の普及に伴い、今後も多くの会社が生まれてくることを期待したい。

(1) 風力発電におけるメリット
  ① 風力は無尽蔵な自然エネルギーである
    現在、国内発電の主軸は原子力や火力では、発電で使用されるウラン、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料が必要となり、枯渇する資源である。風力発電の燃料は風であり、風は太陽と空気があれば必ず発生し、自然からの恵みである。
  ② 環境にやさしいエネルギーである
    原子力発電は放射性廃棄物を放出し、冷却水は海洋の温度を上昇させる問題があり、火力発電は、化石燃料である石油、石炭、天然ガスを燃焼させ、多くの二酸化炭素を排出する。
    一方、風力発電は、燃料を必要とせず、二酸化炭素を排出しないクリーンな純国産エネルギーとして、地球温暖化対策の切り札となる。
  ③ シンボル性が高い
    大きな風車は高さが100mを超え、自然との景観を調和させれば、企業や町のシンボル的価値を高め、苫前町は「風力発電のまち」として全国的に知名度をあげた。
  ④ 有効な土地活用ができる
    約300haある町営の上平牧場には、39基の風車が林立しているが、風車建設に使用した面積は、わずか0.15%でしかなく、放牧や採草に影響を与えず、タワーの直径分の面積のみを利用することで、使用していない空の空間部分を活用し、土地の有効利用が図られた。

(2) 風力発電における問題点
  ① 風力のエネルギー密度は小さい
    一般的に風車機は、風のエネルギーの30%程度しか利用できない。一定量の発電量を確保するためには、大きな風車を数多く設置しなければならず、原子力発電1基は約100万kWに対し、風力発電は、設備容量1,000kWの風車が1,000基必要となり、発電量では4,000基も必要となる。
  ② 発電量が不安定である
    風力発電は、風が無いときは発電できず、電力需要量に応じた供給が不可能であることから、基幹電源として利用するのは難しく、更に、発電中の出力は、風速に応じて変動するため、周波数や電圧の変動を起こす要因とも位置づけられている。
    しかし、今年度「上平グリーンヒルウインドファーム」内で、世界初となる風力発電電力系統安定化等開発事業における「大型蓄電研究施設」が建設され、電力安定化に向けた研究が始まる。
  ③ 風力発電は場所を選ぶ
    自然エネルギーを利用する風力発電は、自然環境の制約を受け、中でも次の4つの要素が重要となる。
   ア 風があること。風力発電事業の採算が取れるとされている年間平均風速5.0m/s以上の風がなければ、事業は成り立たない。
   イ 広い用地が必要である。風車の建設理論は、風車間は主方向に対しローター直径の3倍、縦方向は直径の10倍離して設置するというもので、多くの風車を建てるとなると、それだけ広い土地が必要となる。
   ウ 道路が必要である。風車機を建設するためには、部品を輸送する道路が必要となる。大型風車は32mにもおよぶ翼、直径は4mを超えるタワー基礎部分、更に、57tのナセル部分と、部品の建設地点までの輸送には、道路の幅や勾配、カーブ、路肩の強度などを考慮しなければならない。
   エ 近くに送電線があること。発電した電気は、送電線へ連系し、電力会社へ売電することとなるが、送電線までは事業者の設置負担となるため、風力発電設備から送電線までの距離が長ければ、それだけ建設コストがかかることになる。一般的に、特別高圧線を1km架線すると約1億円かかると言われている。建設地での送電線の位置が、重要な要素の1つである。
  ④ 発電コストが相対的に高い
    各発電形式の発電単価(円/kWh)は、火力発電(LNG)4~6、原子力発電9、火力発電(石油)10、水力発電13、地熱発電15~20、風力発電16~25、太陽光発電70~100である。このことから、風力発電の発電単価は原子力・火力発電と比べて50%ほど高くなる。
  ⑤ 野鳥等の自然環境への配慮
    日本は、年間を通して季節風が吹き、風力発電に適した多くの場所を有しているが、その適地は野鳥が飛び交う自然環境が整ったところも多く、風車を建設するに当たっては、その自然体系を維持するため、十分な調査を要する。

4. わが国の風力発電の課題

 日本は、2010年までに300万kW導入という目標を掲げている。これは、原油換算量において134万klとなる300万kWを設定したもので、これは、現在国内で導入済みの風力発電設備約60万kWの5倍となるもので、その導入における民間試算は、その半分にも満たないという報告がされている。その原因として、次の問題点が考えられる。
① 電力会社の電力量買い取り制限がある。
② RPS法の施行に伴う買い取り価格の低下。
③ 風車機設置場所の送電線受け入れ可能量が不明である。
④ 風力発電適地は、送電線等のインフラ整備がされていない場所に多い。
⑤ 国立・国定公園内の設置が事実上認められない。
⑥ 補助金の補助率の変動や補助金交付スケジュールが明確でない。
⑦ ブラックボックス化された海外製品のトラブルが多い。

 以上の課題に対し、その対策と将来の展望を以下のとおり考える。
① 風力発電には周波数変動や電圧変動の問題があるものの、電力会社が相互に電気を融通しあえる仕組みづくりを構築し、電力買い取り量を増やすこと。
② 国は、2年後に見直すとしているRPS法を前倒しし、地域の状況に応じた電源別の数値設定とすること。
③ 電力会社へ事業の概要を報告するまで連系可能量がわからないという現状を考慮し、送電線の空容量(連系可能量)などの系統に関する情報の開示を義務化すること。
④ 風力発電適地(風の強い場所)は過疎地域に多いことから、風力発電のためのインフラ整備が必要である。
⑤ 国土の約14%を占める公園地域内には、比較的好風況が期待でき同時に道路・送電線など風力発電施設の設置に必要なインフラが整っている場所が多く、風力発電は景観との調和性も高く、経済的な貢献も大きいため、これらを総合的に勘案した上での審査・判断するなど、個別の案件ごとに柔軟に対応することが必要である。
⑥ 事業性を左右する補助金の額については、変動させずに一定の額を交付するなど明確化する必要性がある。
⑦ わが国の風力発電機器を将来に渡って健全に維持運営していくためには、「日本の風にあった風力発電機システム」の開発及び構築が早急に必要である。

5. まとめ

 現在、地球規模で深刻な問題となっているのが環境問題である。その原因の一つに、地球温暖化ガスとされている二酸化炭素や窒素酸化物、フロン等があり、その二酸化炭素の多くは、人口増加、火力発電による排出があげられ、窒素酸化物は、自動車の排ガスによるものと考えられる。
 これらは全て20世紀の経済産業発展によって引き起こされた人的環境問題である。日本は、化石燃料である石油の重要性に気づき、その対策として、原子力発電を推進しているが、地球温暖化ガスを排出しない発電方法ではあるものの安全とは言えない。さらに、核燃料廃棄物最終処分には大きな問題を抱えており、世界の原子力発電は、減少方向に向かっているが、日本は未だ方向を変えていない。
 風力発電だけで地球温暖化問題などを最終的に解決するものではないが、風力発電の果たす役割の重要性は、各国の事例からも明らかである。風力発電をはじめ太陽光、バイオマスなどの自然エネルギーは、小規模で地域分散型であり、それぞれの地域にあった取り組みができ、自治体や大企業だけではなく、一般の人々が参加できるシステムづくりと実践が必要である。
 現在、国内には約60万kWの風力発電が導入され、建設中のものを含めると約85万kWとなる。CO削減における2010年風力発電300万kW導入に向けた取り組みとともに、安心して暮らせる社会が求められており、我々にできることは何か考えていきたい。

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