【要請レポート】
第13回(2003年)福島県原子力防災訓練検証行動報告
福島県本部/自治研原発部会・双葉地方平和フォーラム
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目の前で起こっていることが信じられなかった。東海村の臨界事故は国にとって、起きるはずがない、そして信じられなく、信じたくない事故だった。その思いこそが国の対策を大幅に遅れさせた原因ともいわれている。
防災訓練は、「訓練を通してのデータの収集」「マニュアルの補正」「行動のイメージを作る」などを目的として行わなければならない。
東海村JCOの臨界事故後、毎年開催されている県原子力防災訓練。そして2002年8月29日明らかになった東京電力の29件にわたる検査データ改ざん問題やその後の第一原子力発電所1号機の密閉性検査データ捏造など、4機が運転再開したが、圧力抑制室プールに工具など1,000点以上のものが見つかるなど依然として東京電力の体質は変わっていないと思われることが現れている。こんななかでの今回の原子力防災訓練だった。
今回の検証行動は、自治労福島県本部自治研原発部会会員及び双葉地方平和フォーラム会員と共同でオフサイトセンター、楢葉町対策本部、避難地区で行い、避難地区と避難地区の隣接地区でアンケートを初めて実施した。
○訓練日時 2003年11月28日
○事故想定原子炉 福島第二原子力発電所1号機
○関係町 福島県楢葉町及び富岡町
1. 訓練基本想定
(1) 訓練事故想定
2003年11月28日午前8時00分東京電力第二発電所1号機で発生した主蒸気系のトラブルは、同日午前8時30分に特定事象(原災法第10条第1項前段の規定により通報を行うべき事象)に該当したことから、県と地元関係4町は、地域防災計画に基づき「災害対策本部」を設置するとともに、国や防災関係機関の協力を得て、万一の原子力災害の発生に備えた準備活動を開始した。
その後、1号機では多重の安全装置が全て作動に失敗したことから、同日午前10時00分、内閣総理大臣が原災法第15条に基づく「原子力緊急事態宣言」を発出するとともに、現地のオフサイトセンターでは、国、県、関係町、専門家、防災関係機関及び原子力事業者による「原子力災害合同対策協議会」が組織され、応急対策活動を実施することとなった。
(2) 気象条件
午前8時30分現在の気象条件は、北北西の風、風速2m/秒、大気安定度はBとし、その後の変化はないものとする。
(3) 被害想定
原子力災害合同対策協議会は、今後の事故の進展によっては放射線等による影響が発電所敷地外に及ぶおそれが生じたことから、午前11時30分、発電所から半径1.5キロメートルまでの全方位の地域における「避難」を、さらに発電所から1.5~3キロメートルまでの風下3方位(非難対象地区を除く)における「屋内退避」を、またこれらの防護対策区域における安定ヨウ素剤の予防服用準備、飲食物の摂取制限、防災関係者以外のものの立ち入り制限を決定した。
また、午前9時5分及び午前10時40分に、発電所内においてそれぞれ1名及び2名の作業員が負傷し、放射性物質による汚染等が認められたことから、緊急被ばく医療活動を行うものとした。
2. 訓練の重点
(1) 緊急時被ばく医療活動訓練
緊急被ばく医療活動をより実効性のあるものとすべく地域防災計画原子力災害対策編が改訂されたことに伴い、関係機関の連携を中心とした訓練活動を実施する。
(2) オフサイトセンターと県庁が連携した実践的な訓練
昨年度から運用している「福島県原子力災害対策センター」(オフサイトセンター)の防災関係設備及び資機材の運用について訓練を行うとともに、県庁に災害対策本部を設置し、現地と県庁が連携した実践的な訓練を行う。
(3) 発電所内における対応訓練
発電所内における一連の緊急時対応として、所内対策本部の設置、事故プラントの復旧対策等の訓練を行う。
(4) 住民への迅速かつ的確な情報提供のための広報訓練
県災害対策本部及びオフサイトセンター等における情報収集と整理、各広報班によるプレス発表から報道まで、分かりやすい住民広報を重視しつつ一貫した情報提供が行えるようにする訓練を行う。
(5) 住民の参加
発電所周辺地域の住民を対象に、災害弱者を含めた屋内退避及び避難訓練を実施し、災害時において住民がとるべき行動について周知を図る。
3. 検証行動報告
(1) オフサイトセンター
1階は、原子力専門官室とプレスルーム。
2階の会議スペースには、県・町ブース、住民安全班、医療班、放射線班、広報班、総括班、経済産業省ブース、プラント班、事業者ブース、関係省庁ブース、中央に全体会議スペースがあり、別室として緊急事態対応方針決定会議室がある。
対策会議もスムーズに、そしてさまざまな機能班もそれぞれスムーズに訓練が進行していた。しかし事故発生現場、避難地区の現場が関係なく進行しているのではと感じた。
感 想
○ シナリオどおりに進行していた。
○ 通報から会議そしてプレス発表までの時間がかかっている。
○ スペースが狭い。柱があり全体が見渡せない。
○ 対策会議をするスペースの周りに各機能班のスペースがあり、各機能班の連絡とかで騒々しい中会議ができるのか。
※ここの部署の一番心配な点は、要員がすぐに集まれるかであろう。
昨年(2002年)の訓練でのプレス発表訓練時での質疑
Q. 本番のときは会議のやっている2階の部屋には入れるのか。
A. 入れないと思う。
Q. 避難したかの確認はどうする。
A. 町が対応するが集合場所で区長がチェックする。
Q. 時間内避難は難しいと思うし確認を取るのは難しいと思う。
A. 防災無線があるので聞こえると思うし、(避難)漏れはないと思う。 避難は時間的余裕を持って決定した。 避難地区の決定は、線量、スピーディな予測で。
Q. このオフサイトセンターが避難対象になった場合はどうするのか。
A. 機能をサブ施設である原町合同庁舎に移す。
今年(2003年)の訓練でのプレス発表訓練時での質疑
Q. プレスルームに映像は流れていて音声は流れていなかったのはなぜなのか。
A. そういうふうにすることになっている。
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(2) 町災害対策本部
○ 本部の設営状況は、既にいす、机、テレビ会議システム等の設営は済んでいた。
○ 消防団員は、訓練開始前からすでに対策本部会議場へ待機していた。
○ 町職員の対策本部会議場への移動は、自席から館内放送後に集合していた。
○ 第1回目のテレビ会議でモニターが作動しなく、音声だけが流れていた。第1回目の会議後に業者が再設定し、モニターが映るようになった。
○ シナリオどおりの会議の運営だった。
○ 指示が対策本部長でなく、それぞれの班長でもなく事務局の指示で行動しているようで、本部全体の訓練ではなく事務局の訓練的な面もあった。
○ シナリオどおりの会議の進行で、構成員の発言も原稿の棒読み状態であった。
○ 役場で聞く広報無線は聞きづらい。
○ 広報は緊急性を持たせるためにも男性の声のほうが良いのでは。同日行われた富岡町では男性の声だった。
(3) 避難対象地区(楢葉町・波倉地区)
○ 避難してくる住民に広報の聞こえ具合や避難場所までの時間などのアンケートを配布し記入をお願いした。記入したアンケート(大型ハガキ)はポストに入れてもらうことにした。当日5枚回収。(参加者22名中配布18枚)
○ 防災無線の屋外スピーカーは車内と堤防付近では聞き取りづらかった。場所によって聞き取り具合にだいぶ差があった。
○ 広報車のスピードが速く聞き取りづらかった。
○ 避難広報が予定より15分ぐらい遅れた。
○ 広報がなってから避難と連絡していたのに、避難指示の広報前に来た人が多く以後は何人も避難してこなかった。早く来すぎた人には地区の役員が戻るように話し戻ってもらっていた。高齢者で遠くから歩いてきた人(15分以上=アンケートによる)にはそのままいてもらった。
○ 参加者は普段着。消防団、役場の誘導員、警察、自衛隊は防護服を着用。
○ 役場の誘導員は参加住民のチェックをし、避難用のバスに住民を乗り込ませる。
(4) 避難地区以外のアンケート
○ 避難地区以外の住民対象に広報の聞こえ具合や原発からの方角距離など、聞き取りアンケートを行う。(10件)
○ 場所によって屋外スピーカーの聞こえ具合が大きく違う。
○ 家にいた人は訪問したうち半分ぐらい。
○ 原発の方向はわかっていたが、距離はあまりわかっていなかった。
○ 関心は高かった。
4. ま と め
「新原子力防災ハンドブックあなたのまちをチェックする」(自治労)から
国の定めた防災基本計画にも「参加者に事前にシナリオを知らせない訓練、訓練開始時間を知らせずに行う訓練、机上において想定事故に対する対応や判断を試す訓練などの工夫や図上演習の方法論を活用するなど、現場における判断力の向上につながる実践的なものとなるよう工夫する」と書かれている。
「訓練を通してのデータの収集」「マニュアルの補正」「行動のイメージを作る」などはどうだったのか。
① 訓練も次第に内容がより現実的な方向をめざしていることは感じられる。しかし、国、県、町で訓練に対する意識のずれが感じられることが心配である。とりわけ町段階は首長の考えによってどんな訓練にしていくのかが大きく変わっていくし、町段階のより現実的な訓練が求められている。
② 原子力災害は、対応の遅れや判断を誤れば大変な事態となることから、より実効性のある原子力防災訓練とするため、シナリオを示さない訓練をすべきである。
また客観的な評価のため、住民代表を加えた「原子力防災訓練評価会議」をつくるべきである。
③ 住民広報を防災無線で行う場合、男性の声でとか、放送の前にサイレンを入れるなどし、緊急性をもたせないと聞き流してしまう場合がある。特に第一報のときなどは聞かせるために工夫をすべきである。また、音声による住民広報の放送は、難聴や聴覚障害者には伝わりづらいので、伝達方法を検討し周知すべき。
④ テレビ会議システムは、訓練では楢葉町のモニターのトラブルを除き何とか運用できた。しかしこのテレビ会議システムは、町の段階では、普段会議室の片隅に置かれていて、訓練の前に業者が設定をしている。常時運用できる体制と定期的な運用訓練をすべきである。設置の場所も庁議室など常に会議ができかついつでも運用できる体制が取れるところに設置すべきである。
⑤ 事故のとき一番混乱すると思われるのが学校である。事故を聞き、子供を迎えに車で学校に親が殺到するおそれが強い。子供の避難についても親に周知しておくべきである。また、チェルノブイリで甲状腺がんが少なかった国では、ヨウ素剤を服用させていたのである。ヨウ素剤を効果的に服用するための対策(学校に配備、家庭に配備など)を講じるべきである。
⑥ 会社など事業所に対する事故発生の連絡は一般住民と同じく防災無線になると思うが、事業所の事務室などへの屋内スピーカーの設置と、社外で仕事をしている社員等への連絡体制等の指導も検討すべき。
⑦ 国、県、町どの段階でも事故の時対応で一番重要なのは、対策会議を含め要員を確保できるかである。マニュアルは、対策の第2案、第3案など要員不足の事態を考慮したものも想定すべきである。またテレビ会議システムの不具合時における会議開催の仕方等も検討しておくべきである。
以上がまとめである。
防護対策区域図(案)
平成15年度 福島県原子力防災訓練 事故シナリオの概要(福島第二原子力発電所1号機)
新聞切り抜き(2003年11月29日(土))
新聞切り抜き(2003年11月30日(日))
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