【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第3分科会 自然災害に強いまちづくり~災害から見えた自治体の役割~

 2000年に総務省消防庁では、住民の生命、身体及び財産を守る責務を全うするため、消防力の充実強化を着実に図っていく必要があるとして、市町村が目標とすべき消防力の整備水準を示し、施設及び人員の消防体制整備を図るための「消防力整備指針」を策定しています。しかし、全国的に整備指針への整備充足率は低迷しており、地方交付税での消防費措置も不十分な現実があります。私が居住する盛岡市の実態を考察します。



盛岡市の消防充足率の考察


岩手県本部/自治研推進委員会・非常勤研究員 刈屋 秀俊

1. はじめに

  昨年の東日本大震災の教訓や巨大地震への不安などにより、地域の防災に対する住民の関心が高まっています。災害等から市民を守る盛岡市の消防行政の実態と課題について検証してみましたが、他の自治体でも同様の調査や問題点の抽出を行いながら、住民の安全・安心が向上することを願うものです。

2. 国の消防力整備指針と盛岡市の現状

 前述した通り、消防庁では市町村の市街地や建築物の配置実態、人口の集積状況や土地利用の面積等を勘案した「消防力整備指針」を策定し、市町村が適切な消防力を整備する人員や設備の基準数値を定め、地域の実情に即した消防体制の整備を求めています。
 盛岡市内の消防体制は、中央消防署、西署、南署の3つの消防署と8地域への出張所、消防職員数は307人であり、出動件数はこの10年間で約20%も増加して年間1万9千件を超えています。
 しかし、国の整備指針による盛岡市の消防職員基準人員は458人となっており、現状では151人が不足し、119番通報を受信する通信要員を合わせて、その充足率は67%と全国平均を下回る実態にあります。また、消防ポンプ自動車には常時5人の乗車を基本としていますが、実際には3人乗車での出動態勢となっているものです。
 消防車両の充足率でも、はしご付き消防車は基準数3台に現有台数は2台、同じく化学消防車は2台に対して1台、救助工作車は3台に2台、救急自動車は8台に対して7台と消防車両全体の充足率も91%であり、消火栓等の消防水利の整備確保は96.1%と盛岡市民の生命財産を守る消防力整備の低い実態が見られています。
 また、背景には団員の担い手不足という実態があるものの、盛岡市の非常備消防の消防団員も1,250人を有していますが、消防団基準団員では2,807人であり充足率は44.5%と半分以下の実態です。
 盛岡市内には同規模の他都市に比較してマンションなどの高層住宅が多く、高さ30メートル以上の高層ビルは200棟ほどが建築されており、仮に、直下型地震で盛岡市内が大火災に襲われたらと考えると、背筋が寒くなる思いとなっています。

3. 地方交付税の消防費措置と予算の現状

 一方、これらの消防力整備指針に対する地方自治体の低い充足率の背景には、国から自治体に交付される地方交付税での消防費の基準財政需要額との乖離や自治体の財政力の格差問題が上げられます。
 地方交付税で措置される基準財政需要額の消防費の額は、自治体人口数に補正を加え、消防費単位費用である1万1千円を乗じて算出され、その費用積算では人口10万人の標準地方団体における消防職員数を123人としており、国が定めた消防力整備指針の基準数と著しく乖離して、自治体財政力の格差が消防力水準の地域格差につながる現実となるものです。
 盛岡市の2009年度決算では、交付税算定額が32億1千8百万円、歳出の消防費も同額規模であり、この10年間も同様の水準で推移しています。国が定めている消防力整備指針の目標を達成するためには、恒久的な財源確保の制度化を求めていくことが重要です。
 参考に、盛岡市の地方交付税の積算内容、交付措置と歳出の推移についての資料を掲載します。


盛岡市の消防費の基準財政需要額について(盛岡市財政部提出資料)

① 標準団体又は標準施設の行政規模
  基準財政需要額の算定に要する単位費用を産出するために、標準団体(施設)の行政規模が設定されています。消防費においては、市町村の人口を100,000人と想定し、常備消防及び非常備消防を併設するものとしています。
  人口100,000人に対して必要とされる消防施設や人員は、常備消防では消防本部数が1本部、消防署が1署、消防吏員の数が123人等、また、非常備消防では消防団数が14分団、団員数が563人等と設定されています。
  2009年度は、この標準団体における消防費の経費総額を1,103,797千円、そのうち一般財源所要額を1,097,220円と見込んでいます。

② 単位費用と消防費の基準財政需要額
  基準財政需要額は、「単位費用×測定単位×補正係数」により算出されます。
  2009年度の消防費の基準財政需要額の算定に当たって、単位費用は、一般財源所要額の1,097,220円を標準団体行政規模である100,000人で除した額の11,000円としています。
  測定単位は各市町村の2005年国勢調査人口を用いることになっているため、当市の測定単位は300,746人となります。
  補正係数は0.9730です。係数の内訳は、段階補正0.820、密度補正1.000、態様補正1.186であり、最終的な補正係数はそれぞれを乗じた値となります。
  以上により算出された2009年度における消防費の基準財政需要額は、3,218,886千円となります。


資料1 消防費の基準財政需要額(2009年)

③ 過去10年間の消防費決算額と基準財政需要額
  盛岡市の過去10年間の消防費決算額と基準財政需要額は次のとおりです。


資料2 盛岡市の消防費決算額                      (単位:千円)


4. 3年間の総合計画でも充足率は向上されず

 以上の実態に対して盛岡市政がどのように受け止め、どう向き合おうとしているのかも重要な観点であり、盛岡市政推進の最上位計画である盛岡市総合計画では、盛岡市の消防力充足率向上をどう図ろうとしているのか、その検証が必要です。盛岡市総合計画で盛り込まれた、具体的な事業名や予算規模を示している、実施計画で掲げられた「火災に強い消防体制の構築」の分野では、向こう3年間の実施事業として、盛岡地区広域消防組合の運営費、中央消防署庁舎建設事業費、緊急無線設備デジタル化整備費、消防団の屯所やポンプ車更新などの実施事業に対して、実施計画期間3年間での全体事業費を97億3千7百万円と見込み計上しております。
 しかし、これら消防体制整備に係る実施計画での事業進捗によっても、国が定めている消防力整備指針に基づく、盛岡市の消防力充足率の向上とはならず、現状体制を維持する整備計画の内容となっています。
 これらは前述の通り、国が定める消防力の整備指針と地方交付税の財源措置との乖離問題がその基本的な背景にありますが、同時に、盛岡市として国の消防力整備指針に対応し、その目標を達成するための姿勢や努力の問題も指摘されます。盛岡市が重点施策として掲げている「災害に強いまちづくり」の理念が、掛け声倒れにならないためにも、今後、盛岡市独自の消防力整備基本方針の策定やその検討と進行管理を行うため、市民各界代表者で構成する諮問機関を盛岡市政として設置し、消防力の向上に取り組むことが重要と考えます。

5. まとめ

 昨年の東日本大震災では大津波被害や原発事故を含めて、事前に策定されたシミュレーションやマニュアルは、想定外という言葉でその限界を露呈されました。非常事態へのリスクに対する備えは、政策的にも最優先で考えられるものと認識されてきましたが、消防行政の分野だけを見ても不十分な体制を否めません。ひとつの自治体だけでは、成し遂げられない課題を取り上げましたが、住民の安全という観点から見て、地方行政が一致して向き合うべき現実であると、改めて再認識されるものです。これらの問題意識が少しでも広がり、地域の消防力の向上に寄与出来れば幸いです。