【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第3分科会 自然災害に強いまちづくり~災害から見えた自治体の役割~

 厚生労働省の派遣要請を受け、熊本市栄養士は、2011年4月10日から6月27日の間、宮城県南三陸町で、栄養士活動に従事した。すでに、保健師の派遣は始まっていたが、避難の長期化に伴う栄養状態の悪化が懸念されることから、余震が続く中、栄養士活動が始まった。私は、熊本市第10班と20班に参加した。限られた体験であるが、今後に活かしたいことや感じたことをお伝えしたい。



東日本大震災における熊本市栄養士活動

熊本県本部/熊本市役所職員組合・熊本市健康づくり推進課 猿渡 秀美

1. 栄養士の派遣目的

(1) 要請理由
 被災者の栄養改善の強化を目的に4月5日厚生労働省保健指導室からの通知があった。

(2) 栄養士に期待された役割
① 各避難所における、食事提供体制の改善による内容の平準化
② 保健活動で把握された対象者への個別栄養サポートによる個々人の栄養状態の改善
③ 在宅者や仮設住宅の被災者の長期的栄養サポートによる栄養状態低下の防止

2. 派遣先被災地の状況

(1) 宮城県南三陸町の状況
① 南三陸町について
  南三陸町は、宮城県の北東部、本吉郡の南端に位置し、東は太平洋に面し、三方を標高300~500mの山に囲まれ、海山が一体となって豊かな自然環境を形成している。また、沿岸部はリアス式海岸特有の豊かな景観を有し、南三陸金華山国定公園の一角を形成している。
  人口 男 8,655人、女 9,011人、計17,666人、5,362世帯(2011年2月末日現在)
② 被災状況
  町の主要施設である町役場、災センターが被災に遭い、町職員自体が被災しているという状況で被害甚大であった。
  3月28日(月)午後3時の町のプレス発表では、避難人員 9,500人、避難所:45箇所。
  4月3日(日)午後3時現在(南三陸警察署発表)は、以下のとおり。
  人的被害:死者 396人、行方不明者(届出数) 612人、負傷者 調査中。
  建築物被害:(概数)3,330戸(り災率約62%)
  避難者: 8,719人
③ 派遣時の状況
  4月25日(月)午後3時町のプレス発表では、避難人員 6,808人(町内避難所:41箇所、6,245人、町外避難所:5箇所、563人)集団避難人員:1,377人。

3. 被災地における本市栄養士の活動状況

 本市では、3月20日より保健師4人、後方支援員1人(1チーム体制)派遣を開始し、4月9日から、栄養士1人の追加派遣を開始した。さらに、4月28日から6月28日においては、2チーム体制とし、歯科関係職員1人(歯科医師又は歯科衛生士)と後方支援員1人追加した。その後、7月4日から7月29日は、保健師2人、後方支援員1人の1チーム体制となった。栄養士は、7班~22班に参加。16回の派遣に12人で対応した。
 本市栄養士は、前半では、南三陸町栄養士、宮城県栄養士、派遣の関西広域連合兵庫県栄養士、香川県栄養士とともに「南三陸町の栄養改善対策チーム」での活動に従事し、後半になるにしたがって、熊本市チームでの訪問活動へ推移していった。



(1) 第1次食事調査による対応(4月10日~)
① 避難所における調査実施(避難所42箇所)3/31~4/11
  食品等支援物資の流通や食事の提供状況栄養サポートのニーズなどの現状を把握し、課題に応じた栄養改善活動につなげることを目的に「食事状況・栄養関連ニーズアセスメント調査」「炊き出しにかかる衛生管理状況調査」を実施した。
  調査結果は、炭水化物主体の食事提供であり、たんぱく質、ビタミンが不足した食事である。塩分の過剰摂取や野菜や果物の摂取不足によるカリウム不足がある。
  気温の上昇に伴う、衛生管理指導が必要であることがわかった。
② 民泊家庭の食生活状況調査実施(48軒86世帯)4/13~4/16
  在宅生活者の食材の調達状況、充足状況を調べることを目的に実施。調査結果としては、十分とはいえないが、支援物資や買出しにより、民泊家庭の食生活は自立できていると判断した。

ある日の昼食

③ 第1次食事調査結果とその対応
  民泊家庭より、避難所の炊き出しによる栄養改善を最優先とした。避難所は、備蓄や寄付による食材にたよっており、災害救助法の適用により、収容施設の供与(仮設炊事場)、炊き出しその他による食品の給与及び飲料水の供給の救助が受けられるので、炊き出しの体制づくりのために避難所の炊き出しの状況調査実施(拠点避難所8箇所)と弁当導入の検討を開始した。

(2) 第2次食事調査時期の活動(5月5日~)
① 炊き出し体制の対応
  避難所の栄養状態に格差が生じないよう、基本献立を作成。たんぱく質や野菜不足の解消をはかり、避難者の栄養状態の改善に努めるため、夕食献立、「主食・主菜・副菜2種」を基本に作成。
  その他、帳票等を作成し、調理施設関係対応などに従事した。
  5月12日より、拠点避難所5箇所と、平成の森、アリーナへの野菜等の食材の配送が開始。
② 弁当導入への対応
  役場職員において導入への意思統一を行い、業者選定、仕様確定、契約のための文書作成、帳票作成を行った。
各避難所へ弁当導入の意義、注文方法、配送場所での受け取り方法、衛生管理等の説明や納品避難所担当者への検食指導、自衛隊(炊飯)との打ち合わせ、配送ルート確定を行い、5月23日より弁当支給開始となった。
③ 避難所栄養相談
  避難所において、栄養相談を実施。特に健康状態に問題のある人はいなかったが、間食を食べ過ぎている人が見受けられた。地域には、保健師と同行し、栄養相談を実施した。
④ 乳幼児健診(南三陸町事業)開始準備 
  南三陸町の事業開始のために、指導資料作成などを行った。

(3) 第3次食事調査時期の活動(6月1日~)
① 避難所調理・衛生状況調査
  6月より夕食基本献立の配付に伴い、使用食材を計画的に確保した。献立表に1人分分量、食材の調理方法等の調理手順も記載。衛生管理の面から、野菜は原則下処理済み、果物はカット不要、肉カット済み等の食材を使用。避難所毎の発注量に関しては、役場栄養士で担当。
  調理員の確保については、被災者を町の調理担当の臨時職員として雇用し、衛生管理による安全・確実な食事の提供と、緊急雇用による地域の活性化をはかることとなった。
  調理場所については、避難所の人数に応じた食事を調理できる場所を確保し、衛生的に調理を行える場所として、プレハブ設置場所の確保、給排水、電気、シンク・調理台設置について、業者打ち合わせや調理器具等の発注作業を行った。

② 栄養教育 お茶っこ会の開催
  避難所では支援物資も多く、体重増加がみられる被災者も多い状況であったため、避難所栄養講話等を行い、ハイリスク者や食事面で不安を抱える者に対し、今できる食べ方の提案や、補助食品・サプリメント等のアドバイス等の支援を行った。
  生活不活発病対策の茶話会が行われており、その際にも食事のワンポイントアドバイスを実施した。 
③ 熊本市チーム活動(保健師等と同行訪問、仮設住宅・避難所健康調査など)
  熊本市チームとして、仮設住宅など家庭訪問に保健師、歯科衛生士と同行し、個別の支援を行う
  調理材料調達の問題(特に高齢者は移動販売車を利用)や離乳食に対しての不安や避難所生活での間食摂取について等の相談があった。


4. 活動成果

(1) 目標栄養量の充足
 「避難所における食事提供の計画・評価のために当面の目標とする栄養の参照量(4/21)」を目標に活動した結果、たんぱく質、エネルギー、ビタミンB1、B2が充足した。

 

期間

調査数

エネルギー
kcal

たんぱく質
g

V.B1
mg

V.B2
mg

V.C
mg

塩分
g

1次

3/31~4/11

42

 1,574
(1,546   

45
44.9


0.72


0.82

 
32)

 

2次

5/6~5/11

26

 1,854
(1,842   

60.4
57.1

0.79
0.87

0.99
0.96

55
 48)

12.1

3次

6/1~6/15

15

 1,990

70.2

1.5

1.16

62

12

避難所における食事提供の計画・評価のために当面の目標とする栄養の参照量(4/21)

 2,000

55

1.1

1.2

100

 

被災後3カ月以降の避難所における食事提供の評価・計画のための栄養の参照量(4/14)

1,800~2,200

55g以上

0.9mg
以上

1.0mg
以上

80mg
以上

 

(2) 食事の個別対応が必要な住民への対応
 個別対応(刻み、柔らか食)が必要な住民への対応ができた。低栄養者の把握をし、避難所等へ栄養補助食品の配布をした。

(3) 食べることは、生きること
 避難所から仮設住宅へ移ることにより「食の自立」となるのだが、避難所での食糧支援に慣れてしまった被災者が自分で調理したくなくなる傾向にあるが、「食べること、作ることが苦でなくなった」との声あり。

5. 今後の課題、大事だと思うこと

(1) 栄養管理の重要性・食事の大切さの理解・説明
 発災当初は、まずは生きていくための食べ物を確保することが第1義である。しかし、その食事を何日も続けていては、健康状態に支障がでる事も含めて、普段から食事の大切さやできるだけ早く栄養を充足するために、防災部局への説明や周囲の理解を得ておくことが大切である。温かい食事は、栄養を充足することだけでなく、食べる楽しみが生きる楽しみになり、食事中の会話が人と人を繋ぐことになったことは、実証できていると思う。

(2) 情報収集・発信
 情報が、栄養の部署まで届かない。それぞれが精一杯動いているが、無駄も多かった。情報がどこに集まるのかを周知しておき、判断が遅れることの無いようにしなくてはいけない。反面、栄養士活動が、防災部署に理解されていないから、情報が入ってこないのかもしれない。日ごろの活動への周知や地域の防災計画への盛り込み等を検討する必要がある。

(3) 関係者、関係機関の連携
 他の支援者及び援助機関と連携し、積極性や協調性をもって活動することが大切であると感じた。ゼッケンに「栄養士」と記載していたことで、医療チームの栄養士から、声をかけられ情報を得ることができたのは、ありがたかった。また、熊本市チームとして現地活動をしていない時期も、他職種との情報交換により、地域の把握もでき、良かった。
 さらに、職能団体やボランティア団体との連携を含め、少しでも円滑に対応できるようコーディネート能力が求められる。
 災害は、毎回同じではない。行政職員には、日ごろの備えと的確な判断力が求められる。今回貴重な体験をさせていただいたが、この経験を風化させず、今後に生かしていきたい。