1. はじめに
今回の津波、地震、原発事故の被災地、避難所の状況などを知ることで、自治体職員として、また社会教育を担う現場の公民館職員としては、「公民館の施設機能の役割」「公民館で日常を営み続けた地域の人々との交流」「学びの実践のあり方などを再構築する機会」として受けとめました。自治労西東京市職員労働組合と公民館の協働の一つの実践を紹介し新たな公共サービスについて考えたいと思います。
2. 被災地福島県新地町公民館の復興支援まつりへ
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芝久保公民館まつり支援バザー |
東京都西東京市芝久保公民館では、毎年地域の方々、公民館利用者、公民館の3者で芝久保公民館まつりを開催しています。
2011年3月11日東日本大震災の発生を受け、第29回芝久保公民館まつり実行委員会(2011年6月から同年11月まで開催)では、11月のまつり開催について、例年と同じことをしていていいのかどうかと迷い、話合いがもたれました。
ここ数年継続しているまつりテーマ「出会い、ふれあい、広がる絆」に「今できること」を加えました。これを形にする方法として、「支援バザー」と「体験コーナー」で「チャリティ募金」をし、体験コーナーで折った折り紙を添えて被災地に届けることにしました。
「支援バザー」は、まつり実行委員、及び地元中学校の校長先生の協力を得て、中学生ボランティアの皆さんが担当しました。
まつり参加の各サークルから集まった250点ほどの品物が全部売れて、目標にしていた金額の倍の支援金が集まりました。まつりに来場された皆さんも、被災地へ「今できること」を共有していただけたと思います。
顔の見える関係の中で「チャリティ募金」を届けたいという思いが実行委員会の総意でまとまり、候補地を自治労西東京市職員労働組合に相談したところ、西東京市・自治労西東京市職員労働組合・職員互助会として支援に行った被災地の一つである福島県新地町の駒ヶ嶺公民館を通じて、被災された方に届けることができました。地域住民である公民館利用者の方々から提案された意見、アイデア、想いを具体的な形にして自治労西東京市職員労働組合が繋ぎ、そして協力、支援を得て、私たち公民館として新たな公共サービスを実現できたと思います。また、この活動を一過性、一方通行に終わらせることなく、継続可能な活動・双方向性を確保するには、これからも住民と公共サービスを担う相互の協力は不可欠です。
今回のまつりテーマに実行委員会が「今できること」を加えたことによって、このような具体的な形で支援の絆を広げることが出来て本当に良かったと思います。
3. 復興に歩みだした新地町・生涯学習フェスティバル参加報告
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復興カフェでの集合写真 |
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復興・生涯学習フェスティバル2012風景 |
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2012年2月24日、25日に被災地福島県新地町「復興・生涯学習フェスティバル2012」に、西東京市芝久保公民館まつり実行委員会の広報委員長、まつり副実行委員長、そして公民館から私が、及び被災地支援活動として西東京市職員労働組合委員長及び特別執行委員の合計5人で参加してきました。
2011年11月の芝久保公民館まつりでの復興支援バザーの支援金で購入した西東京かりんとう、コーヒーメーカーなどがまつり当日大活躍しました。さらに、地元のボランティアの方々が、支援金で材料を仕入れてガトーショコラを作って下さり無料で配り、地元の方々からはメッセージカードを記入していただきました。
復興カフェなど、いろいろなコーナーが開催され、町民の方々には、大豆雛と折紙をプレゼントして、お互いが楽しく時を過ごし、「絆」を深めました。
公民館職員、まつり実行委員会有志、西東京市職員労働組合合同で、各種イベントの販売ボランティアやワークショップの指導補助を努めました。
4. 新地町の生涯学習フェスティバル参加報告記のロビー展
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熱いメッセージカード |
2012年3月11日から4月11日の1ヶ月間、報告を兼ねて芝久保公民館で新地町の生涯学習フェスティバル参加報告記のロビー展を開催しました。
パネルには、被災地福島県新地町「復興・生涯学習フェスティバル2012」のスナップ写真を展示しました。具体的には西東京かりんとう配布の様子、地元の婦人会の協力で作ったガトーショコラの無料配布の様子、新地町生涯学習フェスティバルに来場された住民の方々に記載していただいたメッセージカードなどの貼り出しを実施しました。
実行委員会の皆さんの思いが詰まった支援金がどのように使われたか、新地町の被災地の皆さん、公民館の関係者の皆さんたちと、どのような形でまつり実行委員会として親交を育んだかを、写真とメッセージカードに書かれた心温まる文字から、芝久保公民館利用者、地域の皆さんに読み取っていただいたと思います。
今回の経験、支援する立場からこれらの交流を通じて、お互いの理解を深め、新地町の皆さんから元気と勇気、地域の大切さ、絆の重要性を学びました。これからも地域の絆と公民館の役割を改めて考えていきたいと思います。もちろん、一律で大規模な募金、義援金も重要な制度ですが、小さな組織や団体が、被災地の特定の組織や団体とつながり、即ちその点と線が、いくつも出来上がり、面として広がることも、批判の多い従来の硬直化していると言われる公共組織に一石を投じる重要な活動ではないかと思います。
5. 西東京市公民館の活動実績から
公民館の歴史、社会教育の展開として、戦後初期の公民館は地域づくりの総合的機能を有した機関であったと言われています。社会教育法の制定後は、教育・文化機関と位置づけられ、東京都三多摩地域では1970年代に公民館が次々と建設され、都市型公民館として整備されていきました。事業形態もいちはやく市民参加の手法を重視した学習・講座が展開され、公民館は住民にとって「私の大学」等の4つの役割・「職員必置の原則」等の7つの原則を示し、当時の東京都教育庁社会教育部で示された「新しい公民館像をめざして」に理論的に裏付けられました。東京都の社会教育活動は全国レベルにおいて、先進的でした。西東京市の公民館もこの時代に整備され、運営面では「使用料無料の原則の条例化」「公民館主事制度」などは全国的にも高い評価を受けています。
2010年7月、文部科学省が「新しい公共」の実現をめざし、「公民館海援隊」という公民館支援事業を展開しました。西東京市の公民館の一つである芝久保公民館は「地域で創る教育ネットワーク講座」で「公民館海援隊」に参加しています。文部科学省が示す「新しい公共」の具体的な目的は、公民館を地域住民の学習拠点として充実を図るため、地域の課題に対する解決支援策を実施すること。地域の活性化を図るとともに、課題・支援策について情報を共有し、公民館活動を充実するため、優れた公民館の取り組みを文部科学省が公表し、新しい公共の実現をめざすと明記しています。また、同年12月には、文部科学省主催の「国際シンポジウム・公民館とアジアのCLCの協力」において、インドネシア国民教育省地域部長などアジアの教育関係者の間で、日本の公民館の運営方法、形態、講座の組み方等の議論が交わされました。日本からは、杉並区、松江市、西東京市の公民館職員が参加しました。以上のように、文部科学省から日本の社会教育を担う公民館として東京都において高い評価を受けています。
このような西東京市の公民館活動の実践の過程で培われた住民と公民館の信頼関係や先駆的実践の延長上に、自ら行動する市民、問題解決ができる市民、行政や公的教育機関と協働し、共に活動できる市民が育っていったからこそ、今回の被災地支援の活動が実現したと思います。
6. 公民館の機能・役割と、新たな公共サービスの可能性
3・11の東日本大震災と福島第一原発の事故後、公民館が住民の避難所として機能したことから、改めて公民館の独自性を考えたいと思います。
(1) 施設の機能
和室、調理室、ロビー、給湯室、トイレなどが設置されていることが、市民の日常の暮らしの延長としての生活空間になっている。
(2) 地域性
建物が、小学校区・中学校区などの住民のコミュニティが形成されうる生活圏エリアに設置されていることが、顔の見える関係、絆のつながりを保障している。
(3) 市民のホームベースとしての機能
公民館の顔であるロビーを中心に、あらゆる市民に開かれ、だれもが気軽に立ち寄ることができる、地域の溜まり場となり、集まった市民同士が顔見知りになり、声を掛け合う場を提供することが、地域づくりのきっかけとなる。
(4) 地域の学習拠点としての機能
公民館として明確な目的のもと、各種講座などを実施して、その事業内容、事業の企画・実施・学習成果の活用と還元などで、地域づくりや市民の自治能力の向上が図れる。
また、サークル活動などの市民活動の拠点になる。
(5) 市民のつながりの場としての機能
公民館まつりなどの事業を実施することで、サークルとサークル、個人と個人とが関わる機会が設定され、公民館が市民のつながりの場となる。
(6) 市民活動の情報センターとしての機能
公民館は、市民にとって身近な(地域性)教育施設であり、日頃から市民との接触が多い。市民活動に関する情報を幅広く収集、整理、提供することで、市民の学習を支援する。また、市民活動や学習活動に関心のある市民からの相談にも的確に対応でき、生活一般について困ったときにも立ち寄れる場となる。
(7) 「新しい公共」のネットワークを創る機能
近年、公民館の貸館化、市職員の削減と委託化等が進められているが、住民と住民を繋ぐ、多様な住民組織やボランティア活動が地域で孤立することがないよう組織間を繋いだり、調整、支援したり、また必要に応じ相談や学習活動を担う。
7. おわりに
職員は公民館にとって欠かすことのできない存在です。職員が地域を繋ぎ、地域社会の充実を実現することは、3・11の東日本大震災と福島第一原発の事故から、公民館が住民の避難所として機能したこと、被災した住民がこの未曾有の災害に立ち向かう、向き合う力になった現状から、公民館が果たす役割は重要であり職員は使命を持って対応していかなければならないと思っています。
長引く不況による雇用状況の悪化、また、社会教育費の削減に伴う専任職員の減少など、公民館を取り巻く状況は厳しくなっていますが、市民の教育機関として公民館職員の必要性、専門性の確立、地域づくりとしての公民館職員集団の資質向上を十分認識し、盤石なものとしなくてはなりません。
平時でも緊急災害時であっても、公共サービスの提供は大切なものです。そのためには、公民館職員の非正規雇用化、身分保障の衰退が進む中で、改めて雇用の安定化、適正賃金と身分保障の改善に今以上に取り組んでいく必要があると思います。
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