【論文】

第36回宮城自治研集会
第1分科会 ~生きる~「いのち」を育む・いかす、支えあう

 2012年10月の兵庫自治研では「これからの非正規公務員労働運動の課題と展望~大阪市家庭児童相談員労働組合の実践を通して~」と題した自主レポートを書き、兵庫自治研で発表する機会も得た。それから約4年。橋下市政以降の大阪市家庭児童相談員労働組合、非正規公務員の労働運動がどのような変化をとげたのか、「その後」についてまとめた。



大阪市家庭児童相談員労働組合と
非正規公務員運動の展開
―― 2012年兵庫自治研のその後 ――

大阪府本部/大阪市家庭児童相談員労働組合 西村 聖子

1. 大阪市家庭児童相談室の変化

 家庭児童相談室・家庭(児童)相談員は、1964年旧厚生省の事務次官通達によって、各市町村(政令市の区も含む)の福祉事務所に配置された。その職務は、家庭児童福祉に関する専門的技術を要する相談指導業務とし、身分を「非常勤」とした。全国家庭相談員連絡協議会調べでは、現在相談室は道府県市(東京都は該当なし)で合計855室、1,623人が配置され、そのうち非正規が93%、女性が86%を占めているが、その任用根拠はあいまいで臨時・非常勤、一般職・特別職などが混在している。  
 大阪市も各区に順次配置するが、地方公務員法3条3項3号の「特別職」を任用根拠とし、全員非正規である。1965年1月から週2日各区に2人、月額報酬11万円とし、1999年からは週4日30時間各区に2人、月額報酬は18万円となる。2013年4月には区によって1人~4人の配置へと変遷した。  
 しかし、週4日体制になって約17年間、途中労働組合の前身である協議会から労働組合へと移行し、毎年要求書を提出して交渉を行ってきたが、一度の昇給も得られずにいた。
 そのような中、2016年4月に従来の業務を担うものを「家児相Ⅰ」と称するとともに、新たに「家児相Ⅱ」(月21万円)が新設された。Ⅱは従来の業務Ⅰに加え、児童虐待防止関連の業務を追加した、新たな職への任用という名目であったが、現職者にとって業務の大幅な変更はなく、実質的には昇給に近い待遇改善の側面があった。これは、当局側も、近年の離職率の高さや児童虐待部門への専門性の強化をねらったものと推察される。 
 これは、2003年・2004年の児童福祉法の2度の改正により、住民にとって身近な市町村(区)において、子育て支援事業や児童虐待防止施策の充実・強化を図る目的のもと、大阪市は2006年にこども青少年局開局、同年7月に各区役所内に要保護児童対策地域協議会の調整機関である「子育て支援室」を開設し、体制強化を図ったことを発端とする。これまで、大阪市家児相は児童虐待を扱わないとした労使の取り決めと、区役所で児童虐待案件の増加に伴う人手不足解消の解決策として、Ⅱの職務の新設は、児童虐待を含む新しい業務を追加するという形式に踏みこんで待遇改善を図ったのである。
 こうして、約10年の時を経て一応の昇給を獲得したが、ⅠとⅡが、経験年数と異なる各区の予算的諸条件によって決定されるため、組合が要求する「勤務年数に応じた昇給制度」の確立には至っていない。

2. 雇用年限問題と橋下市長就任の影響

 2011年12月に橋下徹氏が大阪府知事から大阪市長になった影響は、2012年7月ごろから出始める。特に「大阪市労使関係に関する条例」が制定されたことで交渉が持ちにくいと感じるようになった。
 2004年の非常勤嘱託職員要綱制定(任用期間1年以内、2回の更新後、希望者は再選考して再任用)以降、労使間で締結した労働協約に沿った試験方法(新規・現職の選考は試験日、内容を別にし、それぞれの能力の実証をはかる方式)をとってきた。
 しかし、橋下体制の下、各区長の発言が尊重され権限強化がされるなか、こども青少年局は、上記の従来方式では各区長に説明がつかないと判断したのであろう。2012年11月から約1ヶ月の期限を決めて、新方式を組合の反対にもかかわらず強制的に導入したのである。それは一方的に労働協約を反故にするものであった。その新方式は、10年以上働く現職者も含め、3回目の更新を迎える該当者は全員いったん雇止め(契約終了)としたうえで、雇用継続希望者は一般公募試験に応募し受験するというものであった。この数年、団交でもめ続けてきた「雇用年限問題」の表面化であった。 
 また、当局は交渉中に、私たち特別職の労働組合は上記の条例が適用外であるにもかかわらず、この条例に沿った労使交渉ルールに変更しようとしたのである。
 雇用年限問題の重要な観点は、NPO官製ワーキングプア研究会理事の本多伸行氏が指摘したように「[更新]と[再任用]の重大な分かれ目の一つが[公募]である。現職の臨時/非常勤が公募採用試験又は面接に応募するということは、雇用期間満了(退職)を受け入れたということであり、実体的には更新拒否=雇止めが「不合格」とされ、当局の裁量権の中に入ってしまう(不当労働行為や期待権侵害の訴えは厳しい)」という点である。公募試験を受けて合格することは、「雇用が継続した」ことを意味しないのである。
 私たちは雇用年限の撤廃、一般公募試験の導入を防ぐことはできなかったが、受験した組合員の雇用は全員勝ち取った。試験制度については、継続協議となり現在も交渉中である。
 また、今後交渉するにあたり雇用年限廃止に向けた次の課題として、本多氏の以下の指摘も参考になるであろう。すなわち本多氏は「雇用年限廃止に向けたステップとして現職者の更新[選考]という妥協は有り得ると思う」としたうえで、2014年7月4日の総務省通知「臨時・非常勤職員及び任期付職員の任用等について(26年通知)」を以下のように言及している。総務省が「任用経験のある者についての人事評価を客観的な能力の実証として活用するのは可能」としたことをとらえ、「ハイリスクな試験や選考ではなく、(人材育成のための)非常勤人事評価で更新基準を作る方式」を考えるべきであるとしたのだ。
 事実、近年の保育士の不足同様、大阪市の家児相の離職率も高く、年度当初から欠員が出る状況が出ている。ようやく決まった相談員も数ヶ月で退職するといった問題も表面化し、その影響は各区にとって深刻なため、使用者側からも新しい試験制度への異議がでており、見直す機運が出てきている。
 労働組合は、この試験制度の問題点を使用者と共有し、離職者を防ぐ努力をしていくことが必要であろう。この仕事を誰よりも知っているものとして、使用者側からのお仕着せの制度にのらず、私たちの担っている公共サービスを、さらに「良い仕事」「必要とされる仕事」として建設的に考えることは重要である。
 離職を防ぐためには、試験制度を変えるだけでは十分ではない。正規と非正規の賃金の均衡を意識することに加え、家庭児童相談員の雇用年数に応じた昇給制度、新任・中堅・ベテランの交流、この仕事に対する適切なスーパーバイザーを担保できる研修、正規同様に必要な情報を取得できる仕組などをセットにした、人財育成の観点で考えることも必要であると思われる。

3. 既存大労組の姿勢の問題

 関連して、橋下市政のもとさまざまな制度改悪を経験した、当時のことにも触れておきたい。様々な点で「恐怖」に近い感覚をもった。ちょうど藤田和恵さんの「ルポ労働格差とポピュリズム」(岩波ブックレット)がでたころだった。労働組合活動に対する市民の冷たい視線、使用者側の一変した態度、職場はひたすら嵐が過ぎ去るのを待つ萎縮した空間と化し、組合活動がまるで違法行為かのように内部告発にもおびえた。その後多くの組合員の脱退を経験した。
 それは、私たちを支援してくれている労組側のメンバーらの対応にも大きく影響した。「家児相の労組のため」「解雇という最悪の結果を招かないため」という主観的意図・善意もあったかもしれないが、内外から目立つような活動をすることへの自主規制を強いられた。身近な人を信頼できない恐怖は、戦時下の庶民が「戦争反対」を唱えることの怖さ、空気感と似ているのかもしれない。
 また、そんな時だからこそ活動を助けてくれた執行部や組合員、既存の枠組みを超えて私たちの活動に賛同してくれ時間と労力を割き、支えてくれた活動家たちがいたことも、身に染みてありがたかった。
 補足だが、その後「大阪市組合事務所退去事件判決」や「職員アンケート支配介入労働行為救済申立て事件」「刺青調査」、「大阪『都』構想」など、裁判や労働委員会、住民投票を経て一定決着している。

4. 非正規公務員に関する法令・通知・裁判・調査・集会

 この4年間に非正規公務員に関する重要な法令、通知、裁判、調査、集会があり注視する必要がある。主なものとして前述の総務省の「26年通知」や、それをふまえて、前回から4年ぶりの2016年5月27日に「臨時非常勤職員に関する調査(各都道府県総務部長・各政令指定都市総務局長当て)」が行われたことも重要である。
 裁判では「2014年4月24日 東京都(専務的非常勤職員設置要綱)事件」や、「2015年11月の中津市特別職非常勤職員に対する退職手当請求事件最高裁判決」も出ている。総務省もこれらの裁判を意識しているのが、総務省のHP資料「地方公務員の臨時・非常勤職員及び任期付職員の任用等の在り方に関する研究会(第1回・2016年7月26日開催)」の添付資料からもみてとれる。民間法令ではパートタイム労働法、労働契約法の改正も重要である。また、2016年10月から適用する「短時間労働者の厚生年金の適用拡大(事業所501人以上 1ヶ月20時間以上)」の自治体への影響にも注意しておく必要がある。
 さらに、2016年5月には自治労も「自治体臨時・非常勤等職員の賃金・労働条件制度調査」を行っているので、結果の公表が待たれるところである。
 これらによって、総務省が、近年の非正規公務員の増加や職場実態を従来の地方公務員法の枠では抑え込めないと認知しているのがわかる。同じ職種の非正規公務員が、自治体によって特別職や一般職、臨時や非常勤、任期付、あるいは根拠不明と、任用根拠が統一できていない状態であるのを察知し、「26年通知」や今回の調査に至ったのであろう。また、労働者性の高い特別職の存在、裁判闘争を懸念しているのも伺える。
 さらに、「なくそう、官製ワーキングプア」の東京・大阪・北海道での集会や、昨年全国と大阪で実施された非正規公務員ワークルール調査も、今後の非正規運動にとって重要な意義がある。

5. 自治労非正規公務員に関する資料とその評価

 自治労が作成した、非正規公務員に関する資料について、一部紹介し評価を加えたい。2014年8月「雇用継続の取り組み事例・資料集(追記版)」は各非正規単組が実際に交渉するうえで参考になる良質なものと考える。
 また、特に興味深いと感じたのは「非正規労働者組織化事例集 単組執行部の皆さんへ パート7(2016年1月発行)」である。これは、自治労が2015年8月の定期大会において「第4次組織化・拡大のための推進計画」を決定し、それにもとづき、非正規労働者を組織化した8単組の実践を書いたパンフレットである。   
 内容は、組織化の概要、任用根拠や勤務労働条件、取り組みの経過(具体的交渉内容や日程)が端的に記載されている。また、取り組みの中で困難だったことや、未組織の非正規労働者の声、結成後勝ち取った賃金額を明らかにした単組もある。なかでも、組織化にあたって直面したネガティブな情報も隠していないことが、非常に良心的である。
 一部紹介すると、8県中2単組は、組織化することについて正規職員の必要性が薄れるという理由などから、正規職員から反対意見が出されたことを、隠していない。他にも「組織化した場合の組合加入者への当局の圧力に対する執行部の不安」「役員になることへの不安」や、未組織の非正規労働者の声として「組合には入るが活動はできない」「組合結成のメリットがわからない」「組合に加入した場合、職を失わないように守ってくれるのか」「賃金が安いので組合費を払いたくない」「このような集まりに参加していることを当局が知ると、次年度の雇用に影響があるのではないか」「臨時職員同士でも業務量が平等になっていない」「正規職員にだけ伝えられる情報があり、分からない事が多い」「賃金や休暇など、自分の雇用条件がよくわからない」といった声も興味深い。課題として「非正規職員については入・退職が頻繁であり、組合加入者の退職もあることから、離職防止につながる諸条件の改善が必要」といった指摘は、私たちがぶつかっている課題でもある。
 このように、非正規労働組合の活動や組織化に関われば、多少なりとも直面する、労働組合の意義や誤解(しかし、非正規労働者にとっては当然の不安である)や活動への負担感、主体性の問題や費用面、情報の少なさなど、感情的な部分も掲載した意義は大きい。
 他にも、自治労大阪では2016年非正規労働者組織化行動計画(期間:2016年4月~2017年3月)の一環として「2015年 自治労組織基本調査 組織化状況一覧」を明らかにした。これは、大阪府内の各単組の非正規の組織数や組織率、組織化対象人数を調査したものである。それを加入率20%という目標値に達するために、必要な組織化対象人数を割りだし公表したのである。
 これは、組織化の達成ノルマを壁に張られたような居心地の悪さ、「うちの組合は目標に達していない」、「うちは成績優秀」という成果主義、競争を助長する部分があった。他方、組織率や対象人数を公表することで現状を隠さずに共有した側面もあり、その点は重要だと思う。目的はどうあれ、事実を隠さないのは非常に大事なことだと思う。その評価は、各単組個別の事情があるので、慎重にすべきだと思うが、各単組の組織率が「平均的」に揃っているというより、1%のところから100%のところまで、高低差が極端であるといえる。ちなみに、当時の家児相労組の組織化率は、全相談員52人中の9人の加入で組織率17%だったが、現在はもっと下がっている。また、大阪市内ということで補足すると、大阪市職員労働組合の組織化対象人数は3,590人だが、組織率はわずか1%の44人である。
 また、自治労第151回中央委員会 一般経過報告書(自治労資料2016年36号)には「2016年自治体臨時・非常勤職員の春闘要求 交渉結果(全国計)」が統計的数字として掲載された。非正規公務員のおかれた実情を共有し、課題を解決する一歩として、その点では評価できる。
 しかし、内容的には自治労加盟の非正規公務員労働組合や関連団体は、本当に労働組合を有効に活用しているのだろうか? と不安になるようなものであった。
 一部を紹介すると、1,546単組中、要求書の提出は全体の半数が行っている。しかし、労使交渉の合意・妥結事項を書面・協定書で確認したのはわずか9%という驚くべき数字である。
 また、雇用安定、賃金水準、最低到達基準、均等待遇、雇い止め、任用替えに関する共通課題について、すでに達成済みと回答した単組の水準は、だいたいが20%以下で、そのほとんどが10%にも満たない。さらに、今回前進回答があったものは0%~2%、ほとんどが0%(正確には全くの0%ではなく0.○○%を四捨五入した結果)である。つまり、以上の二つを合わせても、わずか数パーセントしか、課題を達成していないということになる。
 この状況をみると、労働組合は力である、といえるのであろうか? 私はこの現実を直視しなければならないと思うし、非正規労組の交渉力の相対的な底上げが必要であろう。
 しかし、当事者の単組のみの交渉力や、加入人数の低さの問題として限定的にとらえてはならない。もっと、正規公務員の組合や関連諸団体が、非正規問題を自分たちの課題として取り上げるべきではないだろうか? 内容的には、正規の労働組合が一緒になって運動したとしても、なんら自らに支障のある課題ではないはずだ。同じ職場の非正規職員の権利が、これほどまでに守られていないことを、無視してはならない。
 なぜなら、そこに挙げられている共通課題は、雇用年限や均等待遇など、課題達成に時間を要する問題も一部あるが、主要なものは労働基準法の最低基準をわずかに上回るような、働く上であたりまえに獲得すべき権利、有給休暇の継続、産前産後・病気・忌引き・育児・介護休暇の制度化や時間外手当、通勤手当の補償、雇用保険や健康保険、厚生年金への加入など、休暇、手当、社会保険や年金に関する事柄だからである。
 また、これらは総務省の「26年通知」を活用することで達成できる課題でもある。事実、2014年7月4日の自治労書記長(川本淳氏)談話では、この通知に対し「これまで求めてきた内容が概ね盛り込まれているものであり、現行制度下における対応としては一定評価できるもの」と評価した。そのうえで、今後は、通知を踏まえ自治体当局に適切な取り扱いを早急に実施させることや、民間労働法制における正社員と非正規社員の差別的取扱いの禁止を踏まえた賃金・労働条件の均等待遇を求めていくと明言している。さらに、臨時・非常勤の課題は当事者のみならず、自治体で働くすべての職員の問題であるという認識の重要性も指摘している。その談話が、今後全国の自治体に浸透していくことを期待したい。

6. さいごに

 このように、大阪市の非正規公務員の労働運動全体が未発達な中で、橋下市長就任後の2012年冬から、私たちの組合は雇用年限問題を皮切りに、立場を明らかにせざるを得ない局面に立ち向かわされた。そのなかで、橋下市長の組合攻撃に対抗する形で原点に戻り、特別職とは何か、その問題点、就業規則問題等、労使協議を粘り強く継続したことで、結果的に一定の成果を得ることができた。また、局内に10年近く同じ交渉担当者がいたことも一定のプラス効果をもたらしたであろう。
 この4年間に昇給を獲得したし、希望した組合員は、一般公募試験をクリアするかたちだが雇用が守られた。また、各区の管理職からも今の試験制度への異議が出ており、雇用年限問題を改革できる気運も高まっている。就業規則の整備という形を通じて、家児相の労働条件全般への見直しも他の職種の人たちへの連帯的言及も進んでいる。全てが悪い方向に向かったのではなかったなと、感じている。同職者のみの少人数単組だからこそ、なしえたこともあったであろう。
 一方で、私たちは、この4年間本当に苦しい組合活動を経験したと思う。2006年の組合立ち上げ当時の執行部や先輩たちがほとんど退職し、新しく迎えた組合員たちも加入しては退職してゆく。また、今でも一緒に働いている相談員らの中には、組合を脱退したものも少なくない。組合員は多い時で27人いたが、今では5人にまで減ってしまった。裏切られた気分や、活動の意義を見失いそうになったこともあったが、どうにか活動は続いている。そして、こんな状態でも、辞めずに執行部や組合員を続けてくれるひとたちがいることに感謝している。
 ただ、その間に「自由度」=自分たちで考え行動し結果に責任をもつこと、は増したであろう。そのなかで、情報不足、情報分析力不足、情報活用不足、他組合との連携不足を補うことの重要性を実感した。
 交渉スタイルのバリエーションの乏しさを補える機会も持て、従来の交渉方法が全てだと理解していたことを反省した。人任せにしていたのだなとつくづく感じている。
 また、労使交渉や総務省の通知の活用だけが、たたかいの場ではないことも実感した。厚生労働省管轄の労働基準監督署や、労働局を活用することも可能なのである。
 一例を記しておく。特別職の就業規則未作成・未届問題として訴えでたあと、2013年11月7日に大阪市に対し、西野田労働基準監督署からの「労働条件通知書未交付、就業規則未作成・未届け」の是正勧告が出た。同年12月27日が期限であったものの、大阪市は何もできず、2014年4月に労働条件通知書が交付され、同年7月に福島区のみ、ようやく就業規則を作成したが、内容も形式も全く不十分なものであった。
 しかし、それに対する労働者代表の意見書を提出し、同年12月に同じ特別職の宿日直専門員の労基法違反の申告を当該労働者が行った。それにより、2016年3月25日に管轄労基署は宿日直専門員の労働基準法第24条、最低賃金法第4条第1項・第2項違反を是正勧告する。それをうけて大阪市は、全区で過去2年間にさかのぼって、およそ1.5億円の未払い賃金があることを4月25日に報道発表した。そしてこの6月24日に100人をはるかに超える労働者・元労働者個人に未払い賃金が支払われた。
 これらは、前述の総務省のHP資料にも一部影響を与えているのではないだろうか。それは、平成26年通知を踏まえた取り組みとして、大阪府特別職の一般職化を例にあげている。しかし、労働者性の高い特別職を一般職化してもなお残る、労働者性の高い特別職について「特別職に位置付けられる非常勤職員については、引き続き、地方公務員法の適用を受けないため、従来通り就業規則において種々の規定を定め雇用を行う」と記述したことからも推察される。
 労働者性の高い特別職の就業規則策定を求める活動は、賛否両論もあるかもしれない。しかし、この間の私たちの経験からは、意義があるものだと考えている。そこを軽視してきた従来の労組活動家らの判断は誤りだったと思われる。なぜなら、労働組合の役割や存在が職場の中で薄れるなか、労働者代表を決め、意見書を作成することで、矛盾の放置をあぶりだす意義があるからである。本来、条例や規則・要綱であいまいにされていたこと、かつ各事業所の非正規公務員が分断されたままになっていたことを、変えていく機能が就業規則作成にはある。
 2012年当時、私たちの組合は今よりもっと未熟で、この難関にどう立ち向かえばよいのかわからず、怖かった。その中で走りながら経験してきたことは、今になれば必要な経験だったと思える。わずかながら「依存体質」からの脱却ができたと思う。常に大手労働組合の意向に従うことや、その陰に身を潜ませ、結果の責任を負おうとしない態度は無責任だったと、客観視できるようになった。  
 しかし、最近言われるような「非正規労働組合活動の、当事者意識や主体性を」という言葉にも注意が必要である。「非正規労働組合の単組の事柄は、当事者として単組の中で解決してください。私たちはそれをサポートします」が、正規の組合の「逃げ」になってはならない。働く現場の主流秩序を作っているのは、正規公務員労働者でもあるという「当事者性」から逃げてはならない。2016年6月8日の朝日新聞の記事でもあるように、携帯電話大手のKDDIは正社員と非正社員の賃金格差を縮める取り組みを続けている。販売現場に多い契約社員の士気を高めるため、労組全体の3割を占める非正社員の賃上げを、正社員の賃上げより優先しているのである。非常にめずらしい試みである。
 最後に、宮城自治研基本コンセプトで「消滅」や「創生」という言葉が並んでいることについても一言触れておきたい。非正規公務員の労働組合運動に関わる、多くの方々の熱意や努力に一部でも触れて、その尽力を知りつつも、10年ほど労働組合活動に関わった私の今の気分は「消滅」でも「創生」でもない非正規労働組合活動、というのがぴったりである。
 日々の団体交渉の中で、自分自身は労働組合の必要性や権利は重要だと認識しており「消滅」してはならない権利だと思っている。
 しかし、一方で2019年8月までに「公共サービスを担う非正規労働者10万人の組織化」方針など数の力で勝負することを「創生」とするならば、自分の限られた力や情熱を込めるのが難しいのも正直な気持ちである。日々の現場のなか、組合活動に参加することの魅力や意義を感じてはいるものの、それを人に伝える「ことば」をいまだ持っていないのだと思うし、今も探している。それは4年前と変わっていないと思えた。