【自主レポート】

環境総合計画に対する取り組み

大阪府本部/自治労大阪府職員関係労働組合

1. はじめに

 自治労府職は、「環境自治体」の実現をめざす自治労方針のもと、これまでも様々な取り組みを重ねてきた。自治労が打ち出したエコオフィスを実現する環境ISOを大阪府が認証取得したことなどを、98年の米子・全国自治研ではレポートし、「環境自治体運動に終わりはないが、提言を続けてきたことが、1つの到達点にまできた」と総括した。政策・制度の一定の枠組み作りから、今後はそれを実行に移し、いかに効果をあげるかが問われるとの認識であった。
 本レポートでは、その後の大阪府の新環境総合計画への提言活動を中心に、環境施策立案時における府民参加という視点から報告する。

2. 大阪府の環境計画の歴史

 大阪府は、1973年に全国に先駆けて、総量規制を導入するなど産業公害への対処を主目的とした「大阪府環境管理計画(BIG PLAN)」を策定している。1982年には、環境影響評価制度の導入など予見的総合的管理を柱に「大阪府環境総合計画(STEP21)」を策定。1991年に、産業公害だけでなく、自動車公害や生活排水を主因とする水質汚濁などの都市・生活型公害への対応や、地球環境問題の視点をとり入れた「大阪府新環境総合計画(NEW STEP21)」を制定している。
 その後、1994年に環境基本条例が制定されたことから、環境基本条例に基づく環境総合計画が96年3月に策定されている。これらの計画は施策を体系化し、総合的・計画的に推進する役割を果たしてきた。

3. 今回計画の課題と策定の経過

 しかし、96年策定計画の目標年次を2001年に迎えることから、2000年8月に環境審議会に対して諮問が行われ、新たな環境総合計画の策定作業が着手された。また、大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とした経済社会システムやライフスタイルに根ざしている今日の環境問題の解決には、行政のみではなく、府民、事業者等の各セクターが主体的な行動をとることが求められ、そのためにもパートナーシップに基づく計画策定時からの府民参加が求められた。
 諮問を受けた環境審議会は、15人の審議会委員に4人の専門委員を加えた新環境総合計画部会を設置した。専門委員の1人は、「地球環境NGOネットワーク関西運営委員代表」の岡靖敏氏であり、環境NGO代表が委員になったのは大阪府環境審議会では初めてであった。
 環境審議会新環境総合計画部会は、府民意見を募集するとともに、2000年11月21日の第3回の部会で意見発表会を開催している。自治労府職は、書面による意見を提出するとともに、府本部等にも意見を提出するよう要請を行い、府本部を代表して中井現対部長(当時)が意見発表を行っている。
 自治労府職の書面提出意見が、2001年7月3日の審議会答申(及び最終的な計画)に反映された状況の点検表を別表に示す。
 大阪府は、環境審議会答申をもとに計画策定作業を進め、2002年1月16日から1ヵ月間案に対するパブリックコメント意見を募集した。意見は、延べ300人・団体から506項目寄せられた。自治労府職は、概ね評価できる案であったことから、次の3点に絞って意見を提出した。

自治労府職意見
府の見解・計画での対応
○「環境保全目標」を用いて望ましい環境の短期的目標、中期的目標が示されているが、「環境保全目標」は巻末に参考として示されており、位置付けが不明確である。 
 現行計画では、主要課題別の目標に続いて「環境保全目標」を定めている。
 参考扱いとせず、「環境保全目標」を計画に位置付け、環境基準を準用している項目以外についてどのような目標値にするのがふさわしいか議論すべきである。
(位置付けは必ずしも明確ではないが、策定された計画では「参考」の表現がはずされた。)
○「府立の試験研究機関を中心として、国等の試験研究機関や大学、事業者と産・学・官の連携による研究体制を整備します。また、都市の緑化や親水空間の創出、生態系の保全など都市における自然環境との共生に関する調査研究を積極的に推進します。」と書かれているが、「連携による研究体制」で、現行公害監視センターにおける府の自前研究を廃止することは認められない。
  高度に都市化した府域の実情に合わせた研究の必要性は高く、研究のコーディネ-ト行うためにも中核となる府立の試験研究機関の充実が必要であると考える。
 公害監視センターを循環型社会の構築など今日的な環境ニーズに対応するため、環境保全技術の研究調整機能、環境情報発信機能、環境リスクに関する機能等を有する「大阪府環境情報センター」として再構築を図ります。
○廃棄物処理施設の整備に伴い解体撤去される施設のダイオキシン類対策を徹底する施策を、計画に位置付けるべきである。  本計画は、各分野の施策展開の基本方向について示しており、御意見の趣旨については、現在検討中の「廃棄物処理計画」に位置づける予定です。

 32件の意見について指摘に従って案が修正され、2002年3月、計画は策定された。
 計画策定に併せて新年度から組織改正が行われ、公害監視センターの名称変更に示されるように、従来の公害行政に区切りをつけ、環境行政の大きな転換点となったと思われる。最初の総合計画策定時に採用された技術職がこの計画の終了時には退職を迎えるが、今後どのような形で技術職・研究職として存在していくのか、課題となるであろう。

4. 市民参加の検証

 今回の計画策定に当たっては、2000年11月提出の自治労府職意見書(別表)に示すように策定段階から市民参加で、「単に大阪府施策の基本方針を示すものにとどめず、市民、NGOとのパートナーシップ行政展開の宣言書と位置付けた計画」を作るよう求めた。全国的には市町村の環境計画で、公募による市民により構成された環境市民会議等の場で原案作成から市民参加で作成された事例が数多く存在する。
 大阪府は、意見書見解(別表)のとおり市民参加の重要性を認識しながら、都道府県の計画策定では実務的に公募制による市民参加方式等は困難というものであった。その代わりに行ったのがインターネット等を利用した意見募集であった。パブリックコメント意見書募集以外に、審議会での議論段階で、府民に大阪の環境に関する2回の問いかけを行って、1回目のPart1(募集期間:2000年9月~2001年10月)で323件、2回目のPart2(募集期間:2001年1月~2001年10月)で255件の意見・提言を受け付けている。設問が適切であったか、審議会議論に十分反映されたか、疑問の残るところはあるが、その試みは評価されてよい。
 パブリックコメントに寄せられた300件・506項目という意見も、前回計画策定時の意見募集29件・243項目の意見に比べて格段に多い結果となった。
 「市民参加の環境政策」高橋秀行著・公人社刊は、「政策決定への市民参加」から「市民参加の政策決定」へと帯封に掲げ、数多くの事例を収録分析した示唆に富む著作であるが、計画策定に対する市民参加の形態を、次ぎのとおり分類している。
  ・形式的参加(環境審議会等の関係者で議論)
  ・諮問的参加(事務局用意の原案をもとに環境市民会議等で議論)
  ・部分的参加(一部分のみ原案作成から環境市民会議等が行う)
  ・実質的参加(環境市民会議等が原案の作成から行う)
 今回の計画策定は、市民参加の4段階で言えば、まだ諮問的参加レベルかもしれないが、前回などに比べると格段に市民参加のレベルは上がったのではないだろうか。
 大阪府は、自治労府職が提言した「市民、NGOとのパートナーシップ行政展開の宣言書」としての性格を示すために新環境総合計画のタイトルを「大阪府環境総合計画」とせずに「大阪21世紀の環境総合計画」とした。このことも評価できる。
 あとはやはりいかに実行に移し、実効をあげるかである。自治労府職は数値目標を拡大するなど進行管理ができるシステムを盛り込むことを要求し、府は計画の進捗管理をPDCAサイクルでやるとしているが、これまでとどう違うか、違いが出せるのか見守っていきたい。


環境総合計画のあり方に関する自治労府職意見の反映状況

2000年11月14日付け自治労府職意見書
環境審議会答申 2001年7月
環境総合計画 2002年3月
1. 計画の位置付けについて
  今日の自動車公害、廃棄物問題などの生活型公害の解決には、大量浪費型の社会システムの変革が不可欠であり、その実現は市民参加なくしてはありえない。
  環境総合計画を、単に大阪府施策の基本方針を示すものにとどめず、市民、NGOとのパートナーシップ行政展開の宣言書と位置付け、各主体の取り組みを含めた府総体の計画となるよう検討すること。
 新しい環境総合計画の策定にあたっては、(中略)それが単に大阪府の行政計画という位置付けにとどまらず、すべての主体の行動指針となることが必要である。  この環境総合計画は、大阪府環境基本条例に基づき、豊かな環境の保全及び創造に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために策定するものです。
 また、大阪でくらし、学び、働くみなさんや事業者、環境NPOなどの民間団体、行政の各主体が、「人のこころがかよいあう豊かな環境の保全と創造に向けて」いっしょに行動するための目標や、その実現のための方向性など、基本的な考え方を示したものです。(計画の主旨 p1)
2. 市民参加について
  上記1.を実現するためにも、今後とも市民参加型で計画を策定するとともに、計画にも市民参加を促進するシステムを盛り込むこと。また、NGOへの支援を充実すること。
○環境総合計画の推進は府民一人ひとりの理解と実践が基本であり、このためには計画検討の早い段階から府民の意見を聞きながら、府民とともに策定する姿勢が必要である。
○行政機関は地域ボランティアや学校、民間団体、事業者などが行う環境保全活動を一層支援するとともに、その活動のリーダー養成にも努めなければならない。
 第3部 第4章 すべての主体が積極的に参加し行動する社会の実現
 府民、事業者、民間団体、行政など各主体のパートナーシップによる取り組みを推進するために、各主体の交流の場を提供したり、機会づくりを行います。また、環境NGO・NPOなど民間団体の環境保全活動を支援します。(p151)

3. 市町村との関係について
  地方分権一括法が施行され、まだ課題は多いものの分権時代が到来した。環境施策についても、府と市町村との役割分担のあるべき姿を打ち出す計画とすること。

 豊かな環境都市の構築の基礎は、地域における環境の保全と創造の施策展開であり、市町村は、地域の実情を最も身近なところで把握しており、地域に密着した環境施策を進めるにあたってその役割は極めて大きい。このため、市町村は環境保全に関わる各主体と連携しつつ、それぞれの地域特性に応じて、独自に多様な環境の保全と創造に関する施策を総合的に推進しなければならない。

4. 市町村の役割
  豊かな環境都市の構築の基礎は地域における環境の保全と創造の施策展開が基礎となります。市町村は地域の実情を最も身近なところで把握しており、地域に密着した環境施策を進めるにあたってその役割は極めて大きいことから、市町村は環境保全に関わる各主体と連携しつつ、それぞれの地域特性に応じて、独自に多様な環境の保全と創造に関する施策を総合的に推進しなければなりません。(後略)(各主体の基本的な役割 p9)

4. 進行管理と策定評価について
  環境総合計画とその実現のための個別計画について、適切な時期ごとに評価を行い、数値目標を拡大するなど進行管理ができるシステムを盛り込むこと。また、府民が環境施策の適否を判断できるよう政策評価の仕組みを構想すること。
 環境基本条例第10条に基づき、知事は、環境の状況、環境保全等に関して毎年度、講じようとする施策及び講じた施策に関する報告を取りまとめ、府議会に提出しており、これらの年次報告を通じ、環境総合計画の進行管理がなされているところである。今後は、環境総合計画の目標達成をより確実なものとするため、これに併せてPDCA(Plan Do Check Action)サイクルによる手法など、新たな進行管理・点検評価システムを検討し、導入を図る必要がある。  私たちが直面する環境の危機を解決し、「豊かな環境都市・大阪」の実現に向け着実に行動していくために、より効果的な進行管理・点検評価のシステムが必要です。(略)府は、行政評価システムにより、一つひとつの施策など効果を公開しています。
 今後は、環境の状況、目標達成に向けた取り組みの進捗状況や施策や事業の内容を、さらに分かりやすく公開できるよう努めるとともに、各主体の目標達成に向けた行動についてもその進行管理に役立つように、環境に関する情報の公開に努めていきます。
 また、PDCA(Plan Do Check Action)による環境マネジメントシステムによる進行管理・点検評価システムの具体化を図り、計画の目標達成に向け継続的改善ができるようにします。(第4部 第1章 計画の推進体制と進行管理 p184)

5. 戦略アセスメントの導入
  今後、立案される公共事業等の計画について、立案段階に市民参加で環境面から予測評価を行うシステムを導入することを総合計画で示すこと。

 環境影響評価制度は環境悪化を未然に防止し、持続的発展が可能な社会を構築していく上で、極めて重要な施策である。今後とも現行の環境影響評価制度を推進するとともに、さらに事業に先立つ上位計画や政策レベルにおける環境影響評価の導入について検討する必要がある。  現行の事業実施段階における環境影響評価を推進するとともに、事業に先立つ計画や施策策定の段階における環境配慮を行うため、戦略的環境アセスメントの導入等の検討により、環境影響評価制度の拡充を図ります。(事業活動における環境への配慮 p163)

6. 府独自の研究体制の拡充について
  財政危機により環境総合センター構想が凍結されている。府独自の研究体制については、現状の公害監視センター等で対応しているが、人員が補充されず、厳しい状況におかれている。
  高度に都市化した府域の実情に合わせた研究の必要性は高く、研究体制の維持、拡充を計画に盛りこむべき。

 循環型社会の構築には、私たちの価値観の変革とともに環境技術の向上も不可欠であることから、公的な試験研究機関においては環境に関する機能の一層の充実を図り、産官学や民間団体との連携による共同研究や技術開発を進めることが必要である。

 調査研究体制の整備と研究開発の推進
 府立の試験研究機関を中心として、国等の試験研究機関や大学、事業者と産・学・官の連携による研究体制を整備します。
 また、都市の緑化や親水空間の創出、生態系の保全など都市における自然環境との共生に関する調査研究を積極的に推進します。
(環境監視及び調査研究 p161)