【要請レポート】

第33回愛知自治研集会
第1分科会 自治体の「かたち」を変える

 地方分権の流れの中で、地域自治・住民自治がようやく議論され始めています。既に自治協議会やコミュニティ協議会と銘打って先行する市町村もありますが、果たしてその住民自治組織が内実を伴っているかは疑問符の付くものも多い。今までの行政のコミュニティ政策は、行政各部局の縦割りをそのまま地域に持ち込み、次々に行政に言いなりの住民組織を養成してきました。
 耳ざわりのよい地域自治・住民自治も、結局は従来型の行政のコミュニティ政策の延長でしかありません。真のコミュニティにおける自治とは、国が地方に権限を分任するように、市町村がどれだけの権限を地域に委ねるかの一語につきます。



地域コミュニティの再構築
~市民と自治体の協働は可能か?~

神戸市西区竹の台1丁目自治会・自治会長 絹川 正明

1. はじめに

 我が国の多くの地域コミュニティでは、筆者の住む神戸市のように、旧来型の地縁団体系、行政が主導して地域に設立した地域コミュニティ団体系、それにNPO・ボランティア団体が林立しています。



 一つの小学校区にこれだけ多数の住民組織があることは、「行政の部局の数だけ地域団体がある」と揶揄されるように、かえって地域の総合力をそぐ結果となり、住民の手による、このリストラ・改編こそが地域コミュニティを再構築することになります。

2. 地域の力をそぐ行政の態度

 竹の台地区では、従来から行政に対し、地域コミュニティの活性化のために下記にあるような様々な意見・要望を提出してきましたが、結局、部局・課の壁と事なかれ主義に阻まれ、多くの積極的な試みが頓挫しています。地方分権が、「住民生活に密着し地域の実態をより熟知した地方自治体に委ねる方が効果的」というなら、国以上に地方自治体職員の意識改革が必要です。


竹の台地区の要望

行政の回答
・福祉や防犯など行政の個別の広報ではなく、総合的に地域課題を提供できる地域ペーパー「竹の台総合新聞」を発行したいが、発行費に対する貴局の助成は可能か。 ・(神戸市:初期回答) 我が部局は福祉部局であり総合化されるとどの紙面が福祉関係なのか分からなくなるので助成は出来ない。
・(その後) 地域課題は広い意味で全て福祉に関わるのでOK。
・地域において、子ども達の登下校の安全をより充実するため、青色回転灯と車載スピーカーを行政の助成金の中から購入したい。 ・(文科省) 運用は神戸市に委ねており神戸市の判断による。
・(神戸市) 文科省の委託事業であり判断は国による。
・国民の健康づくりの意義は分かるが、「健康日本21」「健康兵庫21」「健康神戸21」が別々であるのはおかしいのではないか。 ・(兵庫県) 国や地方自治体がどういう取り組みをしているのかは不知。県は県の施策を遂行するまで。(同様の三層構造は多数)
・国が地方への「一括交付金」を検討しているように、地域も自治体に対し、従来のひも付き助成金を統合した「交付金」を求めたい。 ・(神戸市) 趣旨は理解できるが一朝一夕にはできない。モデル地域で実施している結果を1~2年待って欲しい。(部局の反対、手続きの大幅変更が予想され、二の足を踏んでいる)

3. 地域に残る機関委任事務

 自民党政権による2000年の「地方分権一括法」以降、中央政府の機能を純化し、自治体への大幅な権限委譲を図る動きは民主党政権になっても地域主権戦略大綱の策定などで継続・進展しています。しかし、自治体と地域(地域住民)の関係を見ると、真に「生活者の視点」に立った地方行政が進展しているのかは、上記のやりとりからも疑問を感じざるをえません。
 国が廃止した機関委任事務のような形態が自治体と地域団体の間には厳然と残っています。行政の決めた枠の中だけで地域活動を余儀なくされ、地域の発案は、「要綱にないから」と言って門前払いされてしまいます。
 地域住民と一緒になって議論しさまざまな分野で協働を進め、その成果を国に対し住民と共に政策提言していく、それこそが「生活者の視点」に立脚した地方行政の役割であり、地域主権のはずです。現状は、地域住民はそっちのけで国の方にばかり意識が向いています。
 一方、2004年5月の「地方自治法」改正による地域自治区制度(地域が一定の権能をもつ)の創設をはじめ、各自治体でも条例制定による学校区単位での住民自治組織の設立が急速に進められています(福岡市、伊賀市、名張市、飯田市など)。
 しかし、それら組織の多くは行政主導で設立され、地域住民の意思が反映されたものかどうかは大いに疑問が残るところです。
 竹の台地区では、地域住民が自主的、自立的に住民自治組織の設立を目指しています。
 

4. 竹の台地区の取り組み

 竹の台地区(小学校区)は、人口8,900人、3,100世帯。まちづくりから25年が経過し、オールドニュータウンの様相を見せ始めています。竹の台地区では、2005年より漸進的に地域組織の改編、住民意識の向上に取り組んできました。それは大きく4つのステップを踏んでいます。6年にも及んだことは、提案→納得→活動のサイクルを繰り返さなければ真に住民意識を変えることができなかったからです。本年は、ようやく最終ステップにさしかかり、2011年度よりそれらの成果が問われることになります。


手 順

ス テ ッ プ で の 実 践
時 期
第1ステップ
・行政が地域に設立した地域コミュニティ団体のリストラ(但し、行政は認めていない)
・地縁団体と地域コミュニティ団体の協調(竹の台円卓会議・地域行事の共同開催など)
・地域課題を提供する媒体の確保(「竹の台総合新聞」「竹の台ホームページ」)
・各団体の規約の中に、「情報公開」、「会計公開」、「議事録公開」を明記
2005年~2007年
第2ステップ
・地域団体(地縁団体と地域コミュニティ団体)とNPO・ボランティア団体の協調(相互の役員乗り入れ、NPOによる企画提案、行事の共同実施など)
・NPOの持つ先駆性、実験性を地域に導入 (特に「環境、子育て、遊び」において有効)
2008年~2009年
第3ステップ
・地域団体(地縁団体と地域コミュニティ団体)とNPO・ボランティア団体の協働作業(我が国初の地域基金「竹の台子ども安全基金」の創出、NPO講師の招聘など)
・地域の課題や将来像についての勉強会の開催
2009年~2010年
第4ステップ
・住民が自律的に地域を代表する自治組織を設立(全団体の参加、地域内民主制の確保、対外発信、一括交付金の受け皿など)
・神戸市長とのパートナーシップ協定の締結による組織の認知と存立基盤の確保
・まちづくり5カ年計画の策定と課題達成に向けた目標値の設定
・コミュニティビジネス(ソーシャルビジネス)のテークオフ
2010年~

◎ 各ステップでの主要な取り組み

 

取り組み
参  考
「竹の台総合新聞」発行、地域HP「竹の台地域情報局」 ・地域情報から遮断されている地域の現状を克服するため2005年より「竹の台総合新聞」を発行。A3版6ページで、年6回発行。費用は1部30円。
・竹の台ホームページ「竹の台地域情報局」では、地域の活動をリアルタイムで伝えるとともに、「竹の台あんぜん・安心ネット」として、地域住民に防犯・防災情報を定期的に発信している。
竹の台円卓会議 ・地域の全団体がフリーに話し合う場を2006年からスタート。
・地縁団体と地域コミュニティ団体の協調、相互理解を深める。
・新任自治会長の悩みを受けて、小学校区全域の道路点検を住民が行い、優先順位を付けて神戸市に提出。こうした取り組みは、市民と市の協働の取り組みの端緒となる。
竹の台ふれあいまつり・竹の台朝市 ・「ニュータウンには住民が一つに集う場所がない」との声を受け、2003年から開催。
・子どもコーナーでは、「こどもハローワーク」や「こども銀行」を設け、お手伝いした分のお菓子がもらえる。
・竹の台朝市は、ニュータウン近郊の農家と提携し、住民や遠方への買い物が困難な高齢者に新鮮野菜を提供。併せて来場者を対象に環境啓発や住民アンケートも同時に行う。
竹の台こども安全基金 ・我が国で初めての「地域基金」。共同募金やNPOへの寄付と同様に地域にも寄付の受け皿が必要。初回募集で36万円、現在65万円が基金残高。
各種マニュアル・年次報告書の作成

・「自治会運営マニュアル」、「集会所運営マニュアル」、「地域安全に関する報告書」、「竹の台防災・防犯ハンドブック」、「竹の台地区年次報告書」などの作成。
・マニュアルや年次報告書の作成には、竹の台総合新聞のバックナンバーを活用できる。

コミュニティ喫茶 ・神戸市より地域集会所の管理委託を受け、兵庫県の助成により「コミュニティ喫茶」を開店。月間の売り上げは40万円程度で従事者には500円/時間の謝礼を支払う。将来のコミュニティビジネスの萌芽。
・竹の台では、NPO法人を地域団体の傘下に置き、コミュニティビジネスの進展と地域の継続的なマネジメントの中核組織にする予定。

5. 市民参加と協働への疑問

 行政を中心に参画(参加)や協働が標榜されていますが、それはあくまで行政の視点からの参画(参加)や協働です。「官」=「公」「民」=「私」の構図ではなく、民が「公」に関わり。「民」からの提案を「官」が柔軟に受け止めることこそ、協働なのです。


 

それぞれの場面
疑   問






(1) 情報公開(情報開示、公文書公開、広報)
(2) 企画・計画(パブリックコメント、委員会・公聴会、ワークショップ)
(3) 事業実施(協議会、実行委員会、外部委託(指定管理者、市場化テスト)
(4) 評価・検証(アンケート、年次報告、外部評価委員会、指標・目標値、住民投票)
・市民参加の会議では、行政に都合の良いように議論を誘導したり、意見や結論は「聞き置く」だけで実際の政策には反映されない。
・公募による市民の参加やNPO・NGOの参加は、市民参加のアリバイづくりでしかない。
・圧倒的な情報を持つ行政に対して、パートタイム的参加の市民(住民)は、必要な情報を持ち得ない。
・指定管理者、市場化テストも、地域団体の参入を閉め出している。


(1) 情報公開(情報開示、公文書公開、広報)
(2) 補助・助成(市民活動が主体となる公共的事業に対し、資金の援助を行う)
(3) 委託(行政の事業等の実施を委託する。市民活動が技術や専門性を発揮する)
(4) 共催(市民活動が行う事業に対し、行政が企画・資金面で参加・協力して実施する)
(5) 公の財産の提供(行政が「場」の確保を行う)
(6) 評価・検証(アンケート、年次報告、外部評価委員会、指標・目標値、住民投票)
・市民基本条例等で謳われる「市民と行政は対等の関係」は、NPOセクターや企業セクターとの関係であって市民との間ではない。
・(国民)主権と市民の信託という、民主主義の原則からすれば市民と行政の関係は決して<対等>ではない。
・補助・助成、委託、共催のどの場面を見ても、市民は「下請け」に甘んじている。
・要求型市民や生活の全ての解決を行政に迫る住民が増える中で「市民性」や「協働意識」を持つ住民はいない(少ない)。
・住民の側に「行政との協働」を調整する人材や組織(NPOにおける中間支援センター的なもの)がない。

6. 自治体運営におけると行政組織の課題


民間企業
行政組織
行政組織の特徴
代金(利益)による評価 代金の先取り(税)
~顧客の意思伝達媒体の欠如~
・品質が常に劣化する危険性 
・住民意識と乖離する危険性 
・顧客の不満足の増加
参入、退出の自由 地域独占
・イノベーション(革新)が起こりにくい 
・行政独特の無謬性
競争環境 供給独占
・無駄や非効率が発生しやすい
・最低許容行動
・訓練された(無)能力

7. 最後に

 自治体の形を変えるためには、内部だけの議論や有識者の提言だけでは全く不十分で、職員にとっては恐るべきカオスとも思える地域コミュニティに果敢に出向き議論することから始めるべきです。地方分権の議論も、市民と自治体がうまく連合軍を組んで「国にもの申す」方がはるかに迫力も出てきます。そのためには双方の距離をもっともっと縮めなければなりません。