【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第1分科会 自治体の「かたち」を変える

 北海道平取町では2008年4月に「平取町自治基本条例」が施行されました。私たち平取町職員労働組合自治研推進委員会では、第32回集会でこの自治基本条例の住民認知度(知ってるか・知らないか)のアンケート結果について報告しました。今回はその後、この条例が「どう活かされているのか」を「食育推進計画」という計画策定の実践から報告します。



自治基本条例は、どう活かされているか
~「食育推進計画」策定の過程から考える~

北海道本部/平取町職員労働組合・自治研推進委員会

1. はじめに

(1) 平取町自治基本条例の制定
① 2008年3月議会で「平取町自治基本条例」が議決、4月1日より施行される
  2001年北海道ニセコ町に単を発した「自治基本条例」は燎原の火のごとく全国へ広がりました。平取町においても同様、地域住民からその制定に声があがり、一般的とは順序が逆ですが第5次平取町総合計画のなかで自治基本条例の制定を盛り込みました。
  2007年1月から団体推薦5人、公募10人で「平取町自治基本条例をつくる会」がスタートし15回の委員会、1回の視察を行い議論時間は52時間、深夜まで議論し「案」を作成し町長へ答申、町長は案文を変更することなく議会へ提案、可決されました。
  2006年11月からは役場職員10人でつくる「検討チーム」も「つくる会」と同時並行して条例の検討を行い16回の検討委員会を行っております。この間、町民向けシンポジウムを1回、住民のつどいを3地区で2回開催しております。

(2) 町民580人(有権者4,800人)、職員227人(全員)へアンケート調査の実施
① 「大丈夫か?」危機意識からのアンケート調査
  自治基本条例が議論されている頃から組合では、条例の対象となる自らの「行政運営」や主権者たる「町民」の判断の厳しさなど執行委員会で不安視されました。その不安解消のため、行政の新規政策のチェック機能として自治研活動で自治基本条例の認知度調査を施行3ヵ月後に行うことにしました。
② 認知度は、住民44%、職員68%。
  住民アンケートの回収率は32%と町が行う各種アンケートの平均値と変わらない数字でした。住民の認知度は44%と過半数を切る結果となり、鳴り物入りで議論された割には低い結果となりました。内訳は、女性が32%と低く、20、30代の認知度は皆無に等しい結果でした。
  職員アンケートでは、回答率が77.5%、職場アンケートの割には回答率が高くはありませんでした。認知度は68%で、直接仕事に影響する職員ですら3割の人が「知らない」と回答したことはショックでした。

(3) 自治研集会への報告
① 全国の仲間との連携を目指して
  私たち自治労平取町職員労働組合は、全国に波及しているこの「自治基本条例」は、これからの自治体運営の大事な手法と考えて、全道・全国自治研集会へこの結果を報告しました。同じ悩みをもつ単組から今後の課題や取り組みについて交流できると思いましたが残念ながら条例の全国集会での報告は私たちのみでした。短い時間での発表のみで助言者からの批評・コメントも無く、会場での意見交換も行われない状態でした。
② その後の取り組み
  その後、組合としては「民主的な行政運営を積極的に推進する立場から、必要な研修会への参加や組織としての行政チェック機能を充分にはたしていく」事を執行委員会で確認し、自治研推進委員会でも「自治基本条例」を引き続き活動テーマとして取り組んでいくこととしました。

2. 平取町自治基本条例

(1) 平取町自治基本条例
① 8章38条からなる条文
  条例は「最高規範」として位置づけられ「前文」にはじまり8章立て38条から成り立っています。条例の基本原則は第4条で「情報の共有」「町民参加」「行政運営」「議会」「行政組織」「連携・協力」と定められており町民主体の自治を実現するため各章で具体的に謳われております。
  前文には「私たちは、情報の共有による積極的な町民参加が自治をつくる原動力となることを強く認識し、町政運営の基本理念や制度運営の原則を明らかにするとともに、協働の精神を基本とし、みんなで力を合わせ、町民主権による自治を確立するため、平取町自治基本条例を制定します。」と、「町民主権の自治」を高らかに謳っております。

(2) 平取町自治基本条例の特徴
① 「選挙」「出資団体」「公益通報」
  平取町自治基本条例の特徴は、「選挙」の項目で合同演説会の開催を促し、「出資団体」では出資団体の経営状況の公表、「公益通報」では公益通報者保護法が職員に適用できるように規定しています。

(選挙)第9条 町長、町議会議員の候補者は、選挙の時に、町政に関する自らの考え方を町民に示すよう努めなければなりません。

 

(出資団体)第21条 執行機関は、町が出資している団体、職員を派遣している団体、公の施設の管理を委ねている団体などに関し、町との関係と出資団体等の経営状況などに関して資料を作成し、毎年度公表しなければなりません。

 

(公益通報) 第22条 町の職員は、公正な町政運営を妨げ、町政の信頼を失う行為が行われている、若しくは行われようとしていることを知ったときは、その事実を放置し、隠してはなりません。

(3) 総合計画などを進める上で重要視される条項
① 「情報共有」「町民参加」
  本来「総合計画」を策定するにあたり考えられる「自治基本条例」ですから計画策定の手続き・手順について自治の基本から書かれています。なかでも、計画等を策定するにあたり「第2章 情報共有」「第3章 町民参加」が重要視されます。

(情報の共有と公開)
 第5条
  町は、町の保有する情報が町民と共有する財産であることを認識するとともに、町政に関する正しい、わかりやすい情報を積極的に公開しなければなりません。 
(町民参加の権利)
 第10条
  町民は、町政の主権者として、町政運営に参加する権利があります。
(町民参加の保障)
 第11条
  町は、町政の基本的な事項を定める計画や立案等の検討過程において、町民の参加を保障しなければなりません。 

3. 自治基本条例の具体的な実践

(1) びらとり町食育推進計画の策定
① びらとり町食育推進計画
  厚生労働省は、2005年に食生活を取り巻く情勢に危機意識をもち「食育」を国民運動として取り組む法律「食育基本法」を制定しました。平取町では1989年に「健康づくりの町」宣言を行い町民の健康づくりについて積極的に取り組んできており、この法律の助言を受け当町においても「計画策定」の機運が高まり2009年から策定作業に入りました。
  2008年の「自治基本条例」制定後、初の「計画策定」作業にあたり担当課では、条例の精神が生かされる策定作業が余儀なくされました。

(2) 基本条例に沿った運営
① 情報の共有と公開
  「食育」と言う聞きなれない分野の作業になりますので、委員及びプロジェクトメンバーの認識を共有するため専門家の講演会を、一般町民を含めて開催しました。
  現状把握に行った「食」に対するアンケート調査は、児童・生徒650人、保護者650人、一般町民400人に対して行い回収率60.9%でした。その結果についても全戸配布し、児童・生徒、保護者にはより詳しい報告書を学校を通して配布しました。
   従前の計画は「行政からの提案(押し付け)」型が多い中、今回の計画は、講演会や、アンケートの結果を聞いてから、それぞれの委員及びプロジェクト会議(役場担当課15人)のメンバーから意見・コメントをもらう委員会・会議を各2回開催し、64本の意見・コメントを出してもらいました。これらは全て案文に書き込むことが出来ました。
  情報の公開では、町では初めて「計画策定委員会」を公開で開催しております。2週間に1回発行の「まちだより」で会議日程を周知し傍聴を呼びかけています。3月から6月の3回の委員会で少ないながら毎回傍聴者がありました。
  中間の「柱組み素案」段階で町民向けのパネルディスカッションを開催し、町民の前で専門家や団体代表から意見をもらい委員、プロジェクトメンバーも交えながら意見交換を行いました。
  「素案」や「アンケート結果」については、ホームページでも公表しコメントを投稿できる体制もつくりました。
  今後は、成案が出来次第、町内3地区で自治基本条例の申し子と言われる「びらとろん2010」で意見交換を行う予定です。さらに「素案」に対する関係団体との意見交換会も開催予定です。
② 町民参加
  町民の参加を保障するため策定委員会のメンバーは公募枠を設け募集しました。結果2人の応募があり全員採用、他は専門的な分野の学識経験者や関係団体からの推薦を受け、策定委員は15人となりました。
  委員会や講演会等には女性が参加しやすいように必ず「託児」を設けて開催しています。(委員会傍聴者についても同様)
  最初の「食育講演会」、中間の「素案に基づくパネルディスカッション」、ホームページでの素案公開・成案公開に対するパブリックコメント募集、関係団体との意見交換会、「成案」に対する3地区での意見交換会などを開催し町民参加の体制を今まで以上に設けています。更に、開催時間を夜間開催にし、託児を設けるなど参加しやすい環境づくりにも努力しています。
 会議では、司会(委員長)運営で全員が発言しやすい雰囲気をつくり、全員発言をこの委員会では出来ています。今回の計画案は、その発言から案文を作成しており事務局の整理は発言を集約しつなぎ合わせる事に収斂しています。文章がつながらない不足している部分(情報など)は事務的に補足をしています。そのことで案文に「自分の発言内容」が明記され、委員の自信と責任につながり計画実践に対する責任感を持たせることにもなっています。

4. 実践で明らかになった課題

(1) 職員としての課題
① 長期日程の管理を
  委員会の公開は周知媒体の関係で一ヶ月前に決定しないと周知出来ず、以前のように直前の日程確認では遅すぎ中間にプロジェクト会議や講演会、視察などが入ると、さらに全体日程を長期的に確実管理しないと周知が遅くなる可能性があります。計画策定までの日程を明確にして管理することが求められ、それは「あたりまえ」の事を「明確に確実」にすることで仕事に緊張感が増しています。
② 結果公表には多少の経費が
  アンケート結果などは今までは計画策定の事前に公表していませんでしたが、情報の公開から集計時点で全世帯に配布・公表しさらに、協力いただいた児童・生徒や保護者には直接結果票を配布、見やすい紙面にするためカラー刷りにするなどを行うことで印刷経費等が増えました。
③ 参加しやすい体制=託児を設ける
  計画策定に関わる委員会、講演会などには必ず「保健師による託児」を設けましたが同一職場で保健師が常駐しているので経費増にはなりませんが一般的には経費の増が見込まれます。常に託児の設置は、委員会に参加する委員にも好評で「託児」があるから委員に公募できた委員もおります。
④ 人手(時間)不足
  条例の謳う「情報の公開」や「情報の共有」を拡大しようとすればするほど、作業に時間がかかり、国や道のように仕事が増えることにより職員を新たに配置することが出来ない小規模自治体の悩みと自治基本条例を共有できない職員間の温度差が担当者の大きな悩みとなっています。

(2) 自治の主体としての住民の課題
① 公募に対する応募は2人
  自治基本条例のつくる会では、公募に10人の応募がありましたが、今回は2人の応募に終わりました。計画がメジャーで無かった事も影響していますが、募集を2人と表現した事もあり反省は残ります。
  また「食育講演会」開催前の募集であり、開催後であれば講演会出席者から応募があったかもわかりません。
② 委員会の公開に対する傍聴
  この3ヶ月間、3回の委員会で傍聴は4人(職域栄養士連絡会から2人、新聞記者2人)、関係者のみ傍聴に推移しています。夜間開催や託児の用意、早めの日程周知など努力はしていますが身内以外の傍聴がいないのが現状です。

(3) 時代は変わった=意識改革
① 「お任せ自治」からの脱却
  自治基本条例を作るときと比べてマイナーな計画であったことも影響してはいますが「委員の公募」「委員会の公開」これから予想される「パブリックコメントの募集」なども地域住民にはまだ馴れていない現状があり「難しい」「面倒」「時間が無い」などの従来型志向がまだ多くあります。
  町民からみると急に「町民主権と言われても……」と言う現状もあります。アンケート結果からも54%の人は「知らない」と回答していますし、職員も「知らない」と答えている人が32%おりました。アンケート実施時期から2年を経過していますから多少は変わっているかも知れませんが「知らない」人がいることは明らかです。「知っている人」を「知る」から「参加」へ、「知らない人」を「知らない」から「知る」へ変える努力が強く求められています。
② 習うより馴れろ
  自治基本条例の申し子「びらとろん」で毎回言われた『説明する側の「的を得た丁寧な説明」と参加者の「的確な質問と真摯な討論」』が大事で常に自治基本条例の精神である「町民主権による自治」の深化のためにも、行政職員や町民に求められているのは「従前からの脱却・意識改革」と「繰り返し繰り返し実践する」ことにあります。時代が変わったことをみんなで理解し、条例の精神に根本的に馴れるしかありません。