1. 事の発端
(1) ごみは広域処理か自区内処理か
① 三浦半島でのごみ処理広域化の動き
厚生省は、1997年5月にダイオキシン問題をきっかけに「ごみ処理の広域化について」の通達を都道府県に送った。100トン以上の焼却炉など、大規模な施設へ誘導し効率的な運営を目指すという方針のもと、神奈川県は、県内を9つのブロックに分け、ごみ広域処理への協議を促した。神奈川県三浦半島では、三浦市、横須賀市、葉山町、逗子市、鎌倉市の4市1町での話し合いが、1998年にスタートした。資源化についての方針の違いから、2005年に4市1町のごみ処理広域化協議は、横須賀市・三浦市・葉山町と鎌倉市・逗子市の2つに分かれて進めることとなった。
その後、2008年5月に、葉山町は町長選挙後、新しい町長が「脱焼却・脱埋め立て」を目指すと、ごみの広域処理計画から離脱した。
② 葉山町のごみ処理広域化協議脱退の影響
循環型補助金の申請準備中の突然の脱退に、横須賀市・三浦市から2009年1月に葉山町に対して、1億4,700万円の損害賠償請求を求める裁判が起こされ、現在審理が行われている。本年11月には葉山町長が裁判の証人に立つと見られている。
葉山町内では、広域離脱の後、町長から突然、ゼロ・ウェイストを目指す方針が出された。5年で燃やすごみを半減、20年でごみをゼロにする方針。ごみがゼロになるので、それまでは現在使用中の35年経過した焼却炉が壊れたら、民間等に焼却を依頼する、施設の新設は不要との説明が行われた。
(2) 葉山町のごみ処理の現状は
① 葉山町の簡単な紹介
葉山町は、神奈川県の南西部、三浦半島にあり、横須賀市と逗子市に挟まれた人口約3万人の小さな町である。鉄道の駅はなく、お隣の逗子市からのバスが交通手段となる。御用邸のある美しい海岸と緑の山々に囲まれ、東京圏に通うサラリーマンが多く居住している。自主財源比率が72%と、財政危機とは言いながら、各財政指標はまだ良好。しかし実情は、財政調整基金が底をつき、数年内に急激な財政悪化が見込まれている。
② ごみ処理費は県下ワースト1
町提出資料の記述のように、老朽化した施設(築後34年以上)の高額な補修費、維持管理費並びに、狭いクリーンセンターで、ごみ処理の大半を未処理のまま民間委託していることが、県下ワースト1という高額なごみ処理の原因となっている。その原因を確かめるため、近隣市の見学を重ね、他市町の担当者から話を聞いて、葉山町の現状と比較を行った。県の一般廃棄物処理事業の概要は、よい資料となった。
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* 2008年度数値(神奈川県資料により作成) |
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* 不燃ごみは、2010度より青森県三戸市から群馬県草津市へ、搬送先が変更されている。 |
同規模自治体・近隣地域とのごみ処理費比較
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人口(人) |
ごみ処理費(千円) |
一人当たり
(円) |
一トン当たり
(円) |
葉山町 |
32,234 |
931,432 |
24,990 |
68,498 |
大磯町 |
32,837 |
600,368 |
18,283 |
46,922 |
二宮町 |
29,585 |
491,652 |
16,538 |
51,704 |
逗子市 |
61,415 |
888,120 |
14,249 |
45,987 |
三浦市 |
49,014 |
895,387 |
16,965 |
43,510 |
県平均 |
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12,148 |
38,132 |
2008年度神奈川県一般廃棄物処理事業の概要より(神奈川県環境農政部廃棄物対策課、2010年3月)
この表で明らかなように、葉山町のごみ処理費は、県下でダントツ、(観光客の多い箱根を除いて)ワースト1の状態が、約10年続いている。
2008年4月17日、議会に提出された葉山町環境課資料を引用すると、
「現状における町の清掃事業費が一般会計に占める割合は約13%と非常に高く、又、町民1人当たりのごみ処理経費においては県内トップレベルの費用(約32,000円/人年)を要してごみ処理を実施している。原因としては老朽化した施設の維持管理費の増加もさることながら、一番の原因はごみ処理の大半を未処理のまま外部に委託していることであり、現クリーンセンターが狭小であることも相まって委託費が高額になっているのである。
現在のクリーンセンターについては、約30年前に施設を稼働し、社会情勢の変化によるごみ質の変化やリサイクルへの対応を順次実施し、現在に至っている。しかし、すでに現クリーンセンター内には活用可能なスペースが無く、効率の良い搬出入を妨げるとともに新たな分別収集によるリサイクル実施のためのストックヤードの整備ができないのが現状である。しかし、廃棄物施設は迷惑施設の代表格であり、その用地確保は困難を極める。」と記述され、町単独でのごみ処理の困難さを指摘している。
しかし、この資料が提出されてわずか1ヵ月、突然ゼロ・ウェイスト政策が発表された。
(3)「ゼロ・ウェイスト」でごみはゼロになる
① 20年でごみはゼロになるから、焼却施設は不要。
「ゼロ・ウェイスト政策」についての町長の説明は、当初の20年後にはごみはゼロになると説明。現在は「ゼロ・ウェイスト」は交通キャンペーンと同じで、目標である。ゼロにはならない。現在使用中の古い焼却炉が壊れたら、民間委託、もしくは近隣自治体でも焼却してもらうという答弁が続いており、耳を疑う場面も多い。
② 5年間でごみを半減、現場職員に説明なく戸別収集へ
本年5月ごみ処理基本計画案がようやく提示され、この6月30日まで、パブリックコメントが行われた。基準年をごみ量の多かった2006年として、そこから50%の削減数値を出していること。(計画開始は2011年度の予定)焼却炉に関しては、10トン炉(計40トン)に年間1億を超える修繕費を予定し、壊れたら民間委託もしくは他自治体へ委託を考えるとの記述が繰り返されていること。5年間で焼却ごみ50%削減の目標はあるものの、具体的な減量計画が見えないなどの問題点について、町民から多くの意見書が出されたが、その数や内容はまだ発表されていない。
ごみ減量を目的として、ごみの戸別収集、有料化を掲げている。あとで触れているようにこの計画についてのごみ収集の現場職員、職員労働組合への説明はないままである。当局は、この戸別収集への変更は軽微なものであり、交渉事項ではなく管理運営事項との見解で、組合への説明を行わなかったため、町職員組合から県労働委員会への斡旋要請が行われている。
議会での質問で、この点が明らかになった場面では、傍聴席から驚きの声が上がった。
2. 議会が何とかしてくれるのでは?
(1) 議会・行政との折衝からようやく見えてきた
① 行政、議会が頑張るはず? 頑張るのは自分?
議会本会議、ごみ問題特別委員会などを傍聴していた町民は、なぜ議会でごみ処理についての議論が深まらないのか、次々変わる町長答弁をどうして議員は徹底的に追及しないのか。不思議に思って議員に聞いてみたところ、あまり町長を追い詰めると議会解散されちゃうから、との返事が返ってきて、一時は議員に対する失望が広がった。
それでは、せめて自分たちでできることはやっていこうと、「ごみ問題から葉山を救う会」をつくり、数多くの署名をつけて請願を議会へ提出することを決心。署名活動の前提として、何を最終の目的とするのかの議論と確認、そのための説明資料作成、チラシの作成、その費用集めなど、活動しながら考える日々が続いた。
今まで、政治活動や社会活動をした経験のない人たちばかりで、1つ1つの行動に戸惑が出た。しかしそれぞれの持ち味が違う強みもある。そのためスピード感は足りないものの、粘り強い地道な活動となっている。
この署名活動は戸別訪問に踏み切ったメンバーの努力や、周囲の方々の助けで、当初の目標を超える署名数となった。「ごみ問題から葉山を救う会」から「ごみ処理広域化を望む請願」を、7,817人の署名を添えて2009年6月に提出。
議会は数回の継続審議のあと、横須賀・三浦市との裁判に影響するとの理由で、本年3月に採択8人、不採択9人で不採択とした。前年11月に行った全議員アンケートでは、近隣との共同のごみ処理を望む議員が17人中13人という結果が出ているので、大切な採決における議員の意思表示のねじれは、傍聴者には謎と映った。
② 議会にも、行政にも真剣に話しかけたが
議員の中にも町民の調査に協力、議論にも参加して、積極的に意見交換をする何人かの議員がいた。近隣市町村の調査に議員とともに出向き、県庁や行政センターへの聞き取りも一緒に行う中で、協力できる議員には、調査結果を整理して渡し、本会議や委員会の質問で活用してもらった。質問内容と予定時間を多くの人に連絡し、質問を傍聴し続ける中で、気づくことも多かった。
③ ごみ問題について、議会との意見交換会開催を
町議会では長い準備を経て「葉山町議会基本条例」が、2009年10月1日施行され、要綱で町民との意見交換会の開催が定められた。議会内の議論では、議会報告会や町民との意見交換会に消極的な意見が多く出ていたが、この意見交換会の要綱をもとに、ごみ問題についての町民との意見交換会開催を求める要望書を提出。9月5日に開催することが決まった。町民側では、意見交換会でどのような意見を出すか、何を質問するか、準備を始めている。
3. 組合は、県労働委員会による斡旋で町当局へ団体交渉申し入れ
職員組合への説明もなく、戸別収集への変更を計画
① 戸別収集計画について説明を
戸別収集、有料化問題は、現段階では県労働委員からの斡旋に基づく話し合いが、職員組合と当局で行われている。町からは「説明できない。必要はない」との答えが繰り返されているという話が伝わってくる。その内容いかんでは、不当労働行為ともなりかねない。
町民から見ると、ごみ収集で接する職員が町のごみ処理担当の職員であり、町の方針変更についても、説明を求める声や苦情が直接多数寄せられるのは当然である。担当の職員に何の説明もなく、方針変更が行われるとは、町民には想像できない。
② ごみ問題について、議論が必要
町民がごみ問題を調査し議論すると、まず目につくのは県の水準の2倍以上という高額なごみ処理経費である。この問題は、他自治体の清掃センターを見学し、葉山のクリーンセンターと比較すると、葉山町のクリーンセンターがあまりに狭く作業動線が確保しにくいこと、古い焼却炉、ごみの中間処理のスペースが取れないこと、民間委託の問題点なども見えてくる。しかし、データでのごみ問題への理解は深まっても、現場の職員との接点が持ちにくいという課題が町民側にもある。首長の方針に反することについては、職員に話かけてよいか悩む。また職員側も、町民の無理解を感じる場面も多かったのではないか。
4. ごみ問題への取り組みをきっかけに
① ごみの経費削減が始まり
ごみ問題に取り組むにつれ、町の財政問題、政策決定への議会の関与、町民の議会や行政への参画の問題、多くの町民の無関心など、改めてさまざまな問題が課題として見えてきた。
ごみ問題以外にも首長、行政に対する疑問や不満を持つ町民も多く存在する。のんびりとごみ問題の勉強などしないで、早くリコールして首長を変えてほしいという意見も寄せられる。しかし、行政や議会から目を離さず、町の問題について積極的に発言し、提案する町民が多く存在しなければ、また同じ繰り返しになる。まず自分たちに力をつけていこう。しかも楽しくという、言うは易く行うは難しい目標に取り組んでいる。
② 難しい問題をやさしく、やさしい問題を深く、おもしろく人に伝える
新聞でこの言葉を読んだ何人かの合言葉になった。議会で議員から資料要求が繰り返され、その資料がなかなか出ずに時間が経過する場面が多く、不思議に思った人たちが自分たちで必要な資料をつくってみることにした。
1つは、ごみの行方の図表化。1つ1つのごみが、どこへ運ばれ、どのように処理されているか。委託先やその契約額まで含めたわかりやすい図表ができた。葉山のごみが全国各地に運ばれ、高額な委託費を払い続けているのがわかる。また、ゼロ・ウェイストでの取り組みが、ごみ処理の一部だけであることも、図で理解できる。
2つ目は、財政分析。県自治研センターのフォーマットにより、約19年間の決算カードから財政分析の基本表の打ち込みが終わった。別途、ごみの経費のみの打ち込みも手をつけた。
作業をしたメンバーで話し合った結果、改めて、どのような形でこの財政分析を活用するか、話し合うことになった。財政分析の表から年度ごとの問題がわかり、財政予測まで可能となるので、町民にも議員にも標準装備になるようにやってみようかと話し合っている。しかし、なかなか財政分析に関心を持つ人がふえないのも事実である。難しそうに見えているようだ。もっとおもしろくしなければ!
③ じっくり取り組もう
議会の重要性を痛感した経験から、来年の町議選に力を注ごうという意見も出てきた。この活動の中で、協力し合う仲間ができたのが一番よかった、自分たちの町のことだから、自分のこととして、やれることは気長にしっかりやりましょうという仲間の言葉は、「自治」の始まりかもしれない。
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