市民参加手続の問題点・デメリットとして挙げられたトップ3を見ると、第1位が「参加市民の固定化」で、これは問4で「ある」と答えた市民参加手続経験者の7割近くにあたる。第2位が「時間・手間・コストがかかる」、第3位が「市民の代表性に対する疑問(一部の市民)」となっている。
(3) 市民参加手続における課題
以上のようなアンケート結果や筆者のこれまでの経験から、従来の市民参加手続には、次のような課題があることが指摘できる。
① 参加者の固定化・特定化
限られた市民の参加にとどまり、広く市民の意見が集約されているとはいえない状況にある。大多数の市民の「声なき声」をいかに吸い上げることができるかが課題となっている。
② 効率性
より多くの市民の参加や丁寧な情報提供や議論を求めるほど、市民参加手続に要する時間や手間、コストがかかる。(ただし、アンケートの自由記述において、民主主義は時間と手間がかかって当たり前である、という指摘があったことにも留意が必要である)
③ 成熟した議論の難しさ
従来の市民参加手続においては、行政への批判や要望が中心となり、参加者同士による成熟した議論から提案型の結論を導くに至らないまま議論が終了してしまう、という課題もある。
3. 「Cafe 語らッテ」の試み
現在検討を進めている条例は、これらの課題の解決に結びつかなければならない。そこで、条例の検討作業の一環として、日進市では初めてとなる無作為抽出された市民による意見交換の機会として、「Cafe 語らッテ」を開催した。
(1) 「Cafe 語らッテ」開催のヒント
「Cafe 語らッテ」は「プラーヌンクスツェレ」と「ワールドカフェ」という二つの手法を組み合わせて行われた。「プラーヌンクスツェレ」とは、ドイツ由来の制度で、無作為抽出で選ばれた市民が、一定期間有償で、そのまちの課題について討議し解決策を提案する方式である(注3)。また、「ワールドカフェ」とは、カフェの中で、または会議室をカフェのように装飾し直して対話を進める手法で、他人の意見を聴きながら、自分の意見を変えていくことに主眼が置かれている(注4)。
この二つの手法を組み合わせたねらいは、まず、無作為抽出による参加者の募集は、①参加者の固定化や特定化を防ぎ、新たな参加者を掘り起こすこと、②参加者の年齢構成が市全体の年齢構成と類似することで市全体を代表する意見の集約が期待できる。また、カフェのようなリラックスした雰囲気の中で議論を行うことで、③参加者同士が落ち着いて意見交換できる、など先にあげた課題を克服できる可能性を有している、からである。
(2) 「Cafe 語らッテ」の概要
「Cafe 語らッテ」の概要は次の通り。(当日の詳しい内容は日進市役所ホームページをご覧いただきたい。)
① 日 時 2010年3月22日(月・祝)13:00~16:05
② 場 所 日進市スポーツセンター 会議室
③ 出 席 市民 11人(注5)、アドバイザー 1人、事務局(日進市) 6人、ファシリテーター 2人
④ プログラム
ア あいさつ
イ はじめの一歩! プチ講座
ウ アイスブレーク(ときほぐし)
エ ルールの説明~テーブル選び
オ 語らッテ おしゃべりタイム ① (30分)
テーブル選び (5分)
おしゃべりタイム ② (35分)
カ 発表~共感シール投票
おしゃべりのテーマ
グループ名
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テーマ
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「地」
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ご近所プロブレム! お住まいの地域の困りごと
(ウチはスゴイよ! ご近所自慢プロジェクトも…) |
「知る」+「技」
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わたし、こんなことで、みなさんのお役にたてます!
(ワタクシ発! 公益に役立つ特技や活動の情報交換)
市民にとって、市役所ってどんなところ?
(これからの時代に、市役所の果たすべき役割って?) |
「夢」
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未来のこどもたち~次世代への贈り物ってなあに?
(子どもがずっと住み続けたいまちって、どんなまち?) |
4. 市民参加手続における無作為抽出の可能性と課題
さて、上述のような狙いを持って実施した「Cafe 語らッテ」は、市民参加手続における量から質への転換という意味で一定の成果があったと考えている。一方で、1,000人を対象に案内を送付して11人の参加という結果からも、今回の実施において課題があったことも否定できない。本稿の締めくくりとして、「Cafe 語らッテ」に見られた3つの課題を指摘し、無作為抽出という新しい市民参加手続の発展の一助としたい。
(1) テーマ性
「Cafe 語らッテ」は、「自分のまちについて、お茶を飲みながら、みんなで楽しく語り合う」ことを目的としていた。特定の課題解決を目指した、明確なテーマを設定しなかったことが、かえって参加者に「何をするのか分からない」という印象を与えたのではないだろうか。案内を受け取った市民がこれなら自分も議論に参加できる、と思わせるテーマ設定が必要であろう。
(2) 有償性
「プラーヌンクスツェレ」においては、拘束時間に見合う謝礼が重要な要素となっているが、「Cafe 語らッテ」の参加者への謝礼はなく、終了後、参加賞として、木曽ひのきを利用したお箸と消費生活相談啓発のボールペンとシャープペンのセットを手渡した。謝礼の有無や金額が参加者数にどの程度の影響を及ぼすか検証の必要性はあるものの参加するインセンティブとなっている可能性は高い。
金銭という直接的な謝礼のほかに、特定の地域のみで使える商品券や公共交通の乗車券など、様々なアイディアや工夫が考えられる部分でもある。
(3) 効率性
1,000人の市民に案内を送付し、参加申込を受け付け、会場を用意する。これまでの会議にはない、多くの時間や人手と細やかな心配りが必要な「Cafe 語らッテ」のようなやり方を、市役所すべての分野で、すべての会議に応用することはできない。どのような会議にこそこの手法が有効なのか見極めることが大切である。
おわりに
日進市の市民自治は、「日進市自治基本条例」の制定により、ひとつの結実を迎えたと思う。一方で、自治基本条例によって具体的に何か市民の生活が変わったか、と問われれば、その実感はない、というのも正直な感想である。
現在検討を進めている、(仮称)日進市市民参加及び市民自治活動条例が、自治基本条例の理念を具体化し、市民が市役所を変えるためのツールとして有効に機能すること、また、無作為抽出という新たな手法が市民参加をより豊かにするであろうことを願ってやまない。 |