1. はじめに
地方公共団体を取り巻く環境は、地方分権改革にともなう国と地方の役割分担の明確化や、市町村合併による職場環境の変化、市町村間における行政事務の効率化競争のなかでの団塊世代の大量退職や職員の純減、三位一体改革を通じた地方財政の悪化等により大きく変化し、未だに明るい兆しを見ることができない状況にある。
しかしながら、地方公共団体は、このような時代の潮流にあっても、なお、住民ニーズの多様化・複雑化・高度化するなか、行政(都市)経営を行っていかなければならない。とりわけ、この原動力は、人(職員)と職場(組織)が源泉であるが、例えば、私たちが、職場に入庁した約20年前と比較して見るとどうであろう。
市町村合併や国の新地方行政改革指針等のもと、職員数は漸減傾向にある一方、仕事に対する時間的余裕のほか、上司・先輩・同僚などを思いやる気持ちさえ希薄になり、職員一人ひとりは、孤軍奮闘の状態のなかで、日常業務を堅実に遂行しているというのが実情ではないだろうか。
2. 現状と課題
(1) 地方公共団体を取り巻く環境の変化
① 地方分権の進展
地方分権改革にともなう市町村への事務の権限移譲は、時代の潮流であり、また、住民の利便性等を考えた場合、第2の地方分権改革によって更に推進されるものと推察される。しかしながら、各地方公共団体においては、行政改革を通じた職員の純減に取り組む一方、地方分権にともなう事務事業の増大に加え、必要な財源が移譲されないケースもあり、人材面・財政面での負担が増大している。
② 市町村合併による職場環境の変化
市町村数は、2003年(平成15年)の3,190団体から2010年(平成22年)には1,765団体に減少する予定である。しかしながら、職員によっては、市町村合併前後における職場風土や考え方の変化に順応できない者や、通勤時間の延長、年齢と職位の極端な逆転現象など、人事管理面などにおいても様々な問題を抱えている。
③ 職員数の削減
1998年度(平成10年度)と2008年度(平成20年度)を比較した場合、地方公務員数は、36万8,000人、11.3%の減少となっているが、事務量は、職員数の削減に反して増加傾向にある。
図表2 地方公務員数の推移(1994年~2008年) |
|
④ 地方財政の悪化
地方財政は、バブル経済の崩壊以降、国の累次の景気対策に呼応した公共事業等の大幅な追加による地方債の増発や、三位一体改革による地方交付税の減額、人口減少・少子高齢化の急速な進展等により、地方債の償還や社会保障費が増加している。
(2) 職員を取り巻く状況
① 人事評価制度の導入状況等
仕事をがんばった職員は、本来、人事面・給与面等において評価され、結果的に、仕事に対するやる気が出て、組織の団結力も高まるということが一般的であるが、その“ものさし”の1つである「人事評価制度」の導入状況については、各地方公共団体での対応に差異が見受けられる。これは、公平性や納得性等に疑義があることのほか、職員団体(労働組合)等が導入に反対しているケースも見受けられる。
いずれにしても、様々な問題や課題等を抱えていることから、人事評価制度を導入したものの、人事面・給与面等で簡単には反映できていないのが現状である。
図表3 地方公共団体における人事評価制度の導入状況について(2002.9.1現在) |
区 分 |
都道府県 |
指定都市 |
市 区 |
町 村 |
合 計 |
実 施 |
87.3% |
91.7% |
55.8% |
25.1% |
32.6% |
未 実 施 |
12.8% |
8.3% |
44.2% |
74.9% |
67.4% |
*地方行政運営研究会第18次公務能率研究部資料より |
② 心身の故障による休職者の増加
心身の故障は、現代病として社会全体で問題視されており、地方公務員の精神疾患等の障害による長期病休者も、年々、増加傾向にある。
このようなことから、職員の精神疾患等の障害を早期に発見し、早期に治療できる職場環境や職場復帰への対応が求められている。
図表4 地方公務員における、職員1万人あたりの精神及び
行動の障害による長期病休者率の推移 |
|
参考出所:財団法人地方公務員安全衛生推進協会
地方公務員健康状況等の現況(平成20年11月) |
③ 組織・職場の環境変化
(財)社会経済生産性本部のメンタル・ヘルス研究所が実施したアンケート調査結果(2007年4月)では、1874の市町村から回答が寄せられ、それを見ると、「1人当たりの仕事量がかなり増えている」と回答した割合は、「そう思う」「ややそう思う」の合計が94.6%となっている。また、「個人で仕事をする機会が増えている」と回答した割合は、「そう思う」「ややそう思う」の合計が71.8%となっている。
このことからも、組織・職場の環境は、悪化していることがうかがえる。
(3) 課題の整理
以上のように、地方公共団体を取り巻く環境の変化及び職員を取り巻く状況から導き出した主な課題については、次のとおりである。
○ 勤務の成績や能力を把握するシステムが不十分である。
○ 職員が削減される一方で、職員の資質向上等の基礎体力の強化が必要である。
○ 心の病にかかる職員が増加しており、その予防策や職場復帰後の支援策が求められている。
○ 職場風土や考え方の変化に順応できず、やる気をなくしている職員がいる。
○ 住民の行政を見る目が厳しくなっている。
○ 一人当たりの仕事量が増加傾向にある。または、そう感じている職員が増えている。
○ 職場でのコミュニケーションが不足している。
ここから、今、問題となるのは、やはり職場のコミュニケーション不足であると考えられるのではないだろうか。つまり、安心して働くためには、コミュニケーション力を養うことが必要であることが分かる。しかし、実際の職場では、コミュニケーションどころか、孤立感を感じる職員が多く、それにともない、メンタル不調により職員が長期休養する事例が後をたたず、今後も増加していくことが予想される。そんななか、今回は、そういったメンタル不調による長期休養について、その予防や、回復後に復職するとなった際に、どのようなことを行う必要があるかについて、以下の対策案を提案したい。
① メンタル不調の予防
保健師と人事担当者による相談体制の確立及び専門的な相談員研修の受講をさせる。
また、メンタルドクターとの連携やカウンセラーの活用により予防を徹底する。
図表6 臨床心理士の満山先生へのインタビューによるキーワード |
ショートタームのキャッチボール |
積極的傾聴 |
上司の気配り |
聞き上手 |
みんなのヘルプ機能になろう |
世間話 |
細かくたくさん多角的 |
相手の顔が見える |
声かけ |
メンタルをプロデュースする |
ソーシャルサポート |
優秀な人は他人にまかせられない |
ほめる |
残業=仕事の証明となっている |
仲間意識が重要 |
ヘルプが出来ない |
達成感を与える |
専門家にまかせる |
連帯感 |
大切な人だから休んでもらう |
孤立化させない |
|
② 休みを取ろう!(リフレッシュ ⇒ コミュニケーション ⇒ チームワーク)
私たちの職場では、「休むこと」への忌避感があるが、休むことは心身の故障の予防(リフレッシュ)になる。休む時間を作るためには、自らの仕事を効率的に行うことや職場の理解(コミュニケーション)が必要であり、同僚が休んだ時に協力(チームワーク)する環境をつくり出すことができる。そのため「休む」ことを中心とした総合的なメンタル研修を実施する。
③ 職場復帰支援体制
メンタル不調により休職した職員の復帰に係る復職プログラムを構築する。
なお、復職者には次のような視点からフォローアップに努める。
④ 効 果
◆ 職員に休むことへの安心感を与える
◆ 職場におけるメンタル不調に対する理解を深めることができる
復職プログラムを運用することは、メンタル不調により休職した職員の復帰に安心感を与えるとともに、職場の理解や連携を深めることや、どうすれば自らの仕事を効率的に行うことができるのかを考えるきっかけづくりになることが理解できる。これは、「メンタル・ヘルスへの理解」が、コミュニケーションスキルの向上にも繋がるモチベーションアップ術であるということを表しているといえるのではないだろうか。
今回は、「メンタル不調」から復職プログラムを取り上げたが、これは、育児休暇や介護休暇後の復職についても、応用が可能である。「休む」ことへの忌避感を払拭し、「メンタル・ヘルス」だけではなく、育児休暇や介護休暇、ワークライフバランス等への理解を進めることで、「休む」ことが「後退」するのではなく、実は「攻める」ことにつながっていくと言えるのではないだろうか。
このことから、これまでの受け身姿勢の「メンタル・ヘルス」から、攻める姿勢を示す「メンタル・イノベーション」:「精神の革命」へと進化させることを提言し今回の発表とする。
|