【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第2分科会 「新しい公共」を再構築する

 岡崎市動物総合センターは、動物に関する窓口・業務を一元化した全国的にも珍しい施設です。動物に関するワンストップサービスを市民に提供すると共に、動物愛護思想の普及啓発拠点、動物に関する教育・学習拠点としての役割を担っています。ここで行われる様々な業務をご紹介するとともに、現場担当者としてぶつかる諸問題についてお伝えしたいと思います。



動物総合センターの役割
人と動物 よりよい関係作りを目指して

愛知県本部/岡崎市職員組合・動物総合センター 日名地洋介

1. はじめに

 皆さんは、動物行政というとどのようなことを連想しますか。愛玩動物を愛し守る動物愛護、農作物を荒らす有害鳥獣の駆除、産業動物の診療等といったところでしょうか。このように動物行政では一方では動物を愛護し、他方では有害鳥獣を駆除しています。これらは一見矛盾しているようですが、人と動物がより良い関係を作るにはとても大切なことなのです。
 『動物の愛護及び管理に関する法律』をご存知ですか? 1973年に制定されたこの法律において、『動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない』と基本原則に記されています。
 こんな当たり前に思うことを、わざわざ法律に謳わなくてはならないのでしょうか。そこには、人間を中心とした社会のあり方が問われているようにも思います。この大きな命題に対して、まずは草の根から「行政を含めた市民の意識」へのアプローチを試み、地道な取り組みを始めた岡崎市の動物総合センター(以下「センター」)を紹介していきたいと思います。

2. 沿 革

 岡崎市では、2003年度に中核市へ移行したのを契機として、「岡崎市動物の愛護及び管理に関する条例」を制定し、動物愛護管理行政を推進しています。そして2008年3月29日に動物愛護思想の普及啓発拠点、動物に関する教育・学習拠点としてセンターを開設し、各種事業に取り組みましたのでその概要をご説明しながら、動物総合センターの特徴とその業務について、レポートさせていただきます。

3. 各業務の紹介

(1) 動物愛護管理業務
 センターでの動物愛護啓発活動としては、犬のしつけ方教室、動物相談、犬の譲渡のための事前講習会を毎月3~5回土日祝日を中心に行っています。その他、動物愛護講演会は、犬猫だけでなくカメや海の生き物など、動物に興味を持ち、ヒトと動物の関係を考えて頂けるような内容で動物愛護週間を中心に実施しています。
 市民活動団体等が行っている動物愛護啓発活動としては、センターの多目的ホールや研修室において、活動の報告などのパネル展示、各種会議などを行っており、動物愛護の啓発に一役買っていただいています。また、動物愛護精神の涵養には動物とのふれあいが大切であることから、岡崎市獣医師会・市民活動団体と協働して市内小学校、幼稚園、保育園にて動物ふれあい出前教室を実施しています。小学校については岡崎市獣医師会の方達と動物園のモルモットやうさぎを使用し、また幼稚園や保育園は市民活動団体と団体員が飼育されている犬を使用します。どの小学校・幼稚園・保育園からも楽しかった、動物に触れなかった子が触れるようになったと好評です。
 センター内のふれあいコーナーでは、ねことのふれあいを平日の午後、土日祝日は午前・午後に実施しています。
 同じくセンター内で犬ねこの新たな家族探しも行っています。センターができたことにより、保護した犬、ねこの譲渡事業を本格的に開始しました。2008年度は犬116頭、ねこ89頭を譲渡しました。センターができたことにより前年の犬15頭、ねこ6頭から大幅に増加しました。なお2009年度は12月末までで犬48頭、猫93頭を新たな家族に譲渡しています。譲渡した犬、猫については適正飼養されているか追跡調査も実施しており犬猫の適正飼養の模範となる飼い主になっていただくようアフターフォローに努めています。

(2) 狂犬病予防業務
 犬の登録の鑑札や予防注射の注射済票は狂犬病予防法で装着が義務付けられていますので、講座の案内送付時や申し込み受付の際にも装着の啓発に努めています。狂犬病予防注射を打っていない方に対しては督促状を送付するなど、予防注射未接種の解消に努めています。
 保護した犬を飼い主に返還するにあたっては、鑑札や注射済票を手がかりに素早く返還することが出来ましたが、何も手がかりがない犬については年齢を推測し、毛の色・性別・保護した地域を考慮し、登録情報から該当する可能性のあるお宅に確認をとることが必要なために返還まで相当な時間を要する事となります。
 このことからも鑑札、注射済票の装着が飼い主にとっても犬自身にとってもいかに大切なことかがご理解いただけるものと思います。

(3) 野生動物の保護業務
 負傷した野生動物の保護も動物愛護の観点からセンターで保護・治療を行っています。保護される動物種は多岐にわたっています。野鳥のヒナなど負傷していない場合には基本的には自然の状態にしておくことをお願いしておりますが、子どもさんから相談をいただいた場合には、情操教育も含めた上で柔軟な対応をとっております。
 2008年度はシカ、タヌキなど合計で95頭を保護しました。

(4) 動物園の管理運営業務
 岡崎市には全国的にも数少ないゾウのいる入場料無料の東公園動物園があり、その動物の飼育・展示に係る事務や動物園で行うイベントの運営を行っています。
 例年、年間延べ30万人以上の来園者がありますが、年度によっては展示動物に休養を与えることや施設維持管理のための休園日を設けることにより若干の上下があります。
 イベントとしては飼育員による動物の特徴などを楽しく説明するスポットガイドなどを行っていますが、センターオープンと同時に新設したふれあい広場で、来園者はモルモットと直接ふれあうことができるようになり、多くの方に楽しんでいただいています。
 また、動物園は小学校から大学までの多くの学校の職場体験などの場ともなっています。2008年度は、中学生47人・ 高校生1人・ 養護学校教諭3人・大学生3人を受け入れました。
 依頼のあった小学校にはセンターで飼育員が命の学習、飼育指導、職場見学等を行うなど、教育の場として重要な役割を担っています。子どもたちは直接動物にふれたり、世話をすることにより命の大切さ、動物を飼育することの責任など多くのことを学んでいます。

(5) 動物園動物診療業務
 動物園では、哺乳類17種、鳥類16種、爬虫類2種 合計35種230点と多くの動物を飼育しており、その動物の健康管理・疾病の治療を行っています。診療業務には多くの知識と経験が必要であるため、症例検討会に出席して情報交換したり、場合によっては直接指導者を招き、治療を行っています。
 また動物由来感染症にはより一層注意を払っており、年2回全頭糞便検査を行っており、動物の健康管理に努めています。

(6) 野生蜂駆除処理業務
 市民から駆除依頼があった場合、必要に応じて岡崎養蜂組合に委託し、巣の駆除を行っています。2008年度駆除件数は694件にのぼり、2007年度の約2倍の数字となりました。ちなみに2009年度も12月末で678件でした。これは春先に雨が少なく気温の上昇が急激で、蜂の営巣(巣づくり)に適していた事などの気象要件が原因のひとつと考えられます。そのほか相談のみの件数は2008年度で420件ありました。

(7) 家畜診療業務
 当センター獣医師が市内畜産農家からの依頼により往診し、家畜の疾病治療・予防を行っています。その他、衛生管理者からの指導、薬剤の適正使用の指導を行っています。2008年度血液検査実施頭数は150頭、乳汁の細菌検査の実施件数は227件を実施しました。このようにセンター内に診療・検査設備が整ったことにより診療に必要な検査を外部に委託せずに行うことができるようになり、疾病の早期発見や予防に役立ち、安全で安定した畜産物の供給の一役を担っています。

4. 今後の課題

(1) 駆除と愛護
 一つは、野生動物の保護について、被害を被っている方・保護する立場の方それぞれの動物に対する気持ちに関することです。
 例えば、自分が丹精こめて作った農作物が野生動物に荒らされてしまった場合、どんな気持ちになるか想像に難くありません。被害を被っている方にとって、動物は自分の仕事や生活を脅かす存在であり、積極的に駆除する対象です。しかし、保護する立場の方にとっては、友愛の気持ちを持って愛護する対象です。どちらの気持ちも充分に理解できますが、この2面性は動物行政にとって今後正面からぶつかっていかなければならないものと考えています。
 また、類似の視点になりますが、所有者のいないねこ問題があります。野良ねこが庭を荒らす、糞尿をされて困る、車を傷つけられた等の苦情が後を絶ちません。ねこをつかまえて欲しいとよく言われますが、ねこは昔から放し飼いされているので、飼いねこと所有者のいないねこの区別がつきません。また、犬のように登録制度が無いため所有者を特定することができません。このことにより、ねこの被害を受けている人からの捕獲してほしいという要望には答えられないのです。かといって絶大な効果のある方法もないため、被害を受けている方に自己防衛をしていただいているのが現状です。
 これまでのそれぞれの部署での業務を一元化したことにより、改めて具現化した問題ととらえることもできますが、いずれも冒頭に記述したとおり「人間中心の社会のあり方」という大きな命題にも結びつく諸問題です。一朝一夕に結論が出るものではありませんし、抜本的な解決策は無いのかもしれません。しかし、これを読んでいただいた皆さんや市民の方々に「こんな問題もあるんだ」ということを忘れないでいていただけたらと思います。
 私たち岡崎市動物総合センターのスタッフは、そんな思いを込めて日々の業務にあたっています。

(2) 業務の整理
 前述のとおり、動物総合センターを設立したことで、これまで市の各部署で行ってきた業務を集中的に管理運営することとなりましたが、逆に言うと新規業務に着手したわけではなく既存業務を1箇所にまとめただけにすぎません。しかし、これにより動物行政における情報やニーズがまとめて手に入る環境が整ったと考えることができます。後述にあるように、動物行政推進計画策定にむけて様々な検討・調査を重ねていく過程で、必要があれば新規業務への着手や、既存業務の統廃合についても積極的に取り組んでいきたいと考えています。

5. まとめ

  現在、動物愛護のみでなく動物行政全体の動物行政推進計画策定のため、各分野の関係者、市民公募選出者の方々に岡崎市動物行政推進協議会にご参加いただき取り組んでいます。策定後は、市民への発信を行い、行政と市民そして市民相互が共通の認識を持てればと考えています。そのために、動物行政は多岐にわたり専門的でかつ、長期的視点からの取り組みが必要であり、他の行政機関、関係団体等とのネットワーク作りも重要です。そして共通認識の形成のためこれら施策の整備および推進を図っていきたいと考えています。