【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第2分科会 「新しい公共」を再構築する

 公設試験研究機関の独立行政法人化は、すでにいくつかの都道県や政令市で実施されています。このため自治労京都市職員労働組合経済支部として、学習会や全国研究職集会などを通じて情報収集を行い、独立行政法人化制度について学んできました。これらの活動の内容について以下に報告します。



自治労京都市職経済支部における自治研活動の事例紹介
公設試験研究機関の独立行政法人化を考える

京都府本部/自治労京都市職員労働組合・経済支部 廣澤  覚・真下 美紀・仙波  健

1. はじめに

 全国における自治体の職場では、市場化テスト法などの規制緩和によって委託の拡大・民営化、地方独立行政法人化などが進められてきました。そんな中、多くの病院、大学、公設試験研究機関などが、その対象となり、公共サービスの質の低下や労働条件の悪化が危惧されています。
このような状況の中で、私たちが所属する京都市では、京都市病院事業を地方独立行政法人化することが確定し、2011年(平成23年)4月に移行することを予定しています。さらに、京都市芸術大学については、2012年(平成24年)を目標に公立大学法人化する方針を発表しています。また、公設試験研究機関では、産業技術研究所の独立行政法人化の是非について、2011年(平成23年)度中にその方向性を示すとしています。
 この公設試験研究機関の独立行政法人化についてはすでにいくつかの都道県で行われており、政令市においても実施されています。このため自治労京都市職員労働組合経済支部としても学習会や全国研究職集会などを通じて情報収集を行い、独立行政法人化制度について学んできました。さらに、産業技術研究所の存在意義や役割について再確認するとともに、独立行政法人化の是非について議論する際の指針とするため、自治研活動を行ってきました。そこで、これらの活動の内容について以下に報告します。

2. 公設試験研究機関の地方独立行政法人化の流れと京都市

 2003年に制定された地方独立行政法人法に基づき、2006年に岩手県と東京都で、2007年に鳥取県で、2008年に大阪市で、2009年に山口県で工業系公設試験研究機関(以下、公設試)の地方独立行政法人への移行が実施されました。さらには、前例のない新たな動きとして全分野の試験研究機関を統合した上での地方独立行政法人への移行が2009年に青森県で実施され、2010年には北海道でも行われました。政権交代で地方公設試を独法化する動きは収束に向かうかと思われましたが、大阪府立産業技術総合研究所でも独法化の検討が行われているとの話もあり、予断を許さない状況です。独法化された現場では、移行前に当局から示された構想とは異なり、研究環境の悪化や職員の雇用や身分など本制度に内在する様々な問題点が明らかになりつつあります。また、試験研究機関の場合は、将来の独立行政法人化を視野に入れ、スケールメリットを出すための統廃合を先行させるケースが見られます。そのため、本市における産業技術研究所も、工業技術センターと繊維技術センターが本年10月に立地的統合されることを考えると、経済支部としては危機感を持ち、注視せざるを得ない状況となっています。

3. 第13回自治労全国研究職集会・第14回自治労全国研究職連絡会総会

 2009年10月16日~17日、青森県職労と青森県本部の支援・協力のもと、青森市のラ・プラス青い森で第13回自治労全国研究職集会と第14回自治労全国研究職連絡会総会が自治労研究職連絡会により開催され、34都道府県から90人が集結しました。経済支部からは、工業技術センターと繊維技術センターに所属する執行委員をそれぞれ1人ずつ派遣し、情報収集を行いました。このときの特別講演の講師が大阪市立大学商学部大学院経営学研究科准教授の本多哲夫先生でした。講演内容の一部に工業技術センターと繊維技術センターの調査内容が含まれていたことから、是非とも職場の組合員および理事者に聞いてもらい、独立行政法人化制度の検討の前に改めて公設試験研究期間の役割について考える機会を提供したいと考えました。

4. 経済支部における自治研学習会

 2010年2月4日「京都市職員会館かもがわ」において本多哲夫先生による「公設試験研究機関の特性と課題」と題した講演を、経済支部の自治研学習会として行いました。当日は研究職の組合員だけでなく、行政職の組合員や理事者など、多くの参加者がありました。
 公設試験研究機関は、明治期に設置されて以来、地域に根付いていて地域産業の近代化や育成にかかわってきており、海外の文献でも公設試は「Kohsetsushi(もしくは Kosetsushi)」と英語表記されるほど独自の存在として認知され、評価されています。しかし、国内では、中小企業と公設試の報告はほとんど調べられてきませんでした。
 公設試は、研究開発、技術指導や試験分析業務等を通じて、地場産業の育成や地元企業の技術開発力の向上、人材育成等、地域の技術振興、産業振興に大きな役割を果たしてきました。とりわけ、昨今のように企業の競争力強化のため、製品の高付加価値化や独創的な新製品開発等が求められる中で、地域における中小企業の技術支援の拠り所である公設試が果たす役割は引き続き重要なものとなっています。
 公設試は行政機関であり、企業の研究・開発に協力し、大学が行う学術研究にも携わっており、行政・企業・大学それぞれの分野の重複するところに位置して地域の産業に貢献しています。しかし、その機能の重複が行政改革の格好の的になり、予算や人員の削減対象になっていることは憂慮すべき点であります。もちろん、これらに対応し独自の財源を確保すべく、国の科学技術政策に対応した競争的資金など外部資源の導入等に努めながら、成果の創出に努力していますが、経済状況と同様、厳しいものとなっています。しかし、研究成果だけでなく数字に表れていない地域産業への貢献についても評価されるべきと考えられます。
 このような従来から公設試の持つ機能を発展させることで、現在、海外モデルを模倣した形で進められている地域イノベーションシステム(RIS)で目指されている姿よりもより日本にふさわしい日本型RISを形成することが可能となると思われます(下図参照。本多先生講演レジュメより転載。)。しかし、財政改革の標的になり、予算・人員の大幅な削減が行われることによって、公設試の機能が縮小し、RISが停滞することが懸念されます。
 さらに、公設試現況データ、公設試アンケート調査より公設試を3類型(特化型、中規模総合型、大規模総合型)で客観的に分析した結果が報告され、今後の研究職員、公設試のありかたについて提案もされました。

5. おわりに

 これまでに進められてきた他府県の試験研究機関における独立行政法人化の流れを考えると、一度決定したことを覆すことは非常に困難であり、当局が方針決定する前の前段の取り組みが非常に重要です。自治労全国研究職集会への参加や学習会などの活動から得られた情報を整理し、今後の活動の方向性を見極めていかなくてはなりません。そして、その活動を有効なものとするためにも、高い組織率の維持と、組合員の支持は不可欠です。さらに、研究職以外の組合員に対しても、問題を共有してもらえるよう活動していくことが大切になります。
 そして、産業技術研究所の独立行政法人化の是非について方向性が示されるまでの期間は、非常に重要であるという認識を持ち、一致団結して活動を行っていく必要があると考えています。