【要請レポート】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

財政再建計画から財政再生計画へ
夕張市の将来は示せたか

北海道本部/夕張市職員労働組合・執行委員長 厚谷  司

1. 財政再生計画策定へ向けた取り組み

(1) 今度こそは市が作ったと言える計画に
① 計画策定のスタート
  2009年4月20日から5月15日を期日として、早速「財政再生計画に係る後年次推計調書(経常的経費分)」、5月18日から6月5日を期日として「懸案事業分」調書の作成作業が始まった。まさに「財政再生計画」の策定がスタートした。
  懸案事業とは2009年5月までに集約された、「財政再建計画策定後に生じた課題」「新たに財政再生計画に盛り込むべき事業」、このうち、全提出事業のうち整理案「A」にランク付けされた事業を指すものである。
  財政再建計画の徹底的な歳出の削減により、いわば「全国最低の行政サービス」を夕張市が遂行してきたことは、人口流出を加速させ、市内の経済にも大きな打撃を与えた。多くの市民に将来不安を与え続けてきたものであっただけに、懸案事業をいかに財政再生計画に反映させるかということは、「夕張市の将来像」を僅かでも市民に担保することでは財政再建計画との違いでもあり、計画策定の大きなポイントとなった。いかに財政再建計画は夕張市の行政運営に必要なものまで削ぎ落とされていたかをあらためて感じるものであった。
  しかし一方では、事業調書の作成にあたり総務省や北海道の過度なプレッシャーはなかったものの、庁内での通知文書などには勿論、「所要(見込)額の算定にあたっては、引き続き財政再建と効率的な行財政運営が図られるよう留意」とされ、調書作成前の北海道との協議(総務省指示)においても尚、事業の選択、検討に際しては「全国最低」の基本線は固持しなければならない旨の指導があり、市側が夕張市の維持・存続のために必要な事業をすべて挙げきることにはブレーキ作用があったことは否めないものである。
② 「必要」な事業もあくまで「懸案」事業
  事業区分こそ「懸案」とされているものの、後に自治労組織内協力国会議員からは「これで夕張市の財政需要が見えてきた。これは懸案ではなく自治体に本来必要な業務である」とのコメントがあったところである。このことからも、「懸案」という言葉で「本来必要な業務」であろうと、夕張市は「精査・検討」を行わなければならない、国の管理下にある財政再建団体・夕張市には現段階で自由裁量を与える余地はないという基本的姿勢は変わっていなかったと判断できる。唯一の違いは、いかに国の管理下にある夕張市であろうとも、財政再生計画策定にあたっては、まず課題は議論に付すというスタンスであったと思う。
  しかし財政需要はともかく、もしくは将来の夕張市に必要な事業をすべて洗い出した上で検討が行われたかと言えば、そこには債務の早期解消には財政需要を過度に膨らませない、引き続き全国最低でなければならない、「必要」な事業もあくまで「懸案」とする総務省の指示がブレーキ作用となり働いていたことは事実であった。それゆえに幹部を中心とした「財政再生推進会議」が検討母体となるものの、各職場長によってのスタンスの違いが見受けられる状態で、各事業経費の積算に際しても妥協や市民に我慢を求める姿勢が見え隠れする財政再生計画策定のスタートであった。

(2) 財政再建による市民・職員の疲労とあきらめ
① 住民説明会
  住民説明会は、2009年5月22日から28日、同年10月22日から29日、2010年1月20日から26日の3度に渡って開催された。各説明会における出席者はいずれも低調で、平均20人程度の参加者による開催となった。説明会の参加が少なかったことは即ち市民の「あきらめ感」の強さでもあったと判断できる。またもう一方の判断としては、過去の反省にたち、市民も積極的に行政参加をしていく必要があることは財政破綻の際にも大きく声にされたところである。しかし新たな自主活動組織が増え、住民自治を支える組織が増えた半面、「役所の仕事は役所が考えてくれればいい」という旧来の行政依存型の体質もまだ多いことの表れとも推察されるものである。高齢化率も高く、その多くの高齢者は「自らの日々の生活で精いっぱい」という。その言葉から考えると、これからの街づくり議論のあり方は現役世代がしっかりと担っていく形づくりが急がれる。
  財政再建計画策定時の住民説明会とは違い、各会場とも議論に混乱を来すこともなく、計画素案に対しては一定の評価がなされたものと判断できる。
② 職場の状況
  2009年4月からは、2008年度間の退職者の補充策として、北海道市長会の支援により北海道内各都市及び道外都市から計9人の派遣職員が新たに各職場に配属となった。
  単純比較で職員定数を求められた結果が続く、夕張市職員への負担は、
 ・通常の自治体では職員が直営で行っていないような業務の増加
 ・通年の財政再生計画の推計作業や修正作業 
 ・誤った「頑張る夕張」へ支援したいというさまざまな事案への対応
と、職場の状態は決して改善したとは言えない状況が続いていた。当初から目されていた職員の士気低下は著しく、職員は一連のマスコミキャンペーンの深い傷を今も負ったままでいるように思えてならない。市内の雇用状況、民間の雇用形態、違法な無賃金時間外労働などが行われている状況の中、「市職員は甘い」や「不親切になった」など、好評価も増えた半面厳しい意見も囁かれた。しかし職員は精一杯業務に従事し、市民サービスを行っている。根本的に人員が不足しているということは明らかなのだが、その説明を市民に理解させるのは多くの労力を要するものである。また財政破綻について市民の責任はないというスタンスも大勢ではないものの残り続け、市民サービスの低下は、市役所への批判となって返ってくる場面も残り続けた。賃金削減、人員不足に努力が認められない言葉が投げかけられる辛さは多くの職員が共有している。
  財政再生計画においては、2010年以降退職者の半数採用が基本となっている。しかし2011年3月末をもって先述した9人の職員が離任する。その職員の配置は税、生活保護、教育といずれも自治体業務の基礎となるべきものである。もはやこのような職場に派遣職員を充てなければならないことが、職員の育成を遅らせることになるのだが、北海道や国と協議しても、賃金同様、職員採用は人件費増加、計画変更を伴うことから、なかなか議論がすすまないのが現状である。

(3) 市民の声を国に届けよう
① 市民アンケートの取り組み
  財政再生計画策定の経過を見る限りにおいて、計画への事業計上は行政側の素案により構成されていること、住民説明会も、参加者が低調であったことから、十分に市民の声を聞いたとは言えない状況であった。何とかこの状況を打開し、すべて納得できなくても一定評価できる計画作りが必要、市民の声をしっかり反映させた取り組みが必要との市職労議論から、ひとつの構想、「全市民アンケートの実施が必要である」との結論を導き出した。しかし悩ましいのは、個々の組合員も職場で計画策定に奮闘しているとはいえ、定められたルールを脱することが困難な状況の中で市職員としての行動、組合員としての行動が、場合によっては新たな混乱を呼び込むことも想定された。
  しかし実施に向けた議論を展開していく中で、この行動が恣意的なものと捉えられぬよう、自治労北海道本部・自治労北海道空知地方本部・夕張市職労はサポートに徹することを前提に、アンケート実施の必要性を訴え、実施組織の模索を行った。最終的には市職労の考え方に共鳴した東京都からの派遣職員と夕張市での財政再建計画下の市民生活を調査したいと考えていた北海学園大学・法政大学の学生を中心に実行委員会を結成し、全戸への聞き取り調査を目標に活動をスタートさせた。「財政再建計画の総括に立ち、一体市民の声はどこで反映できるのか?」と考えた時に、それは僅かな市民しか参加しない住民説明会だけでは到底足りるものではなく、新たな取り組みが必要であった。
  市民も、この4年間様々な調査・研究のための聞き取りやアンケートが行われてきていたものの、どこにそのアンケート結果が反映されたのかとの思いがあったものの、実行委員会として「必ず市・北海道・総務省へ市民の声を届けます」とし、協力を願った。
  目標通りの全戸への取り組みはできなかったものの、アンケート結果により浮き出てきた結果は、財政再建団体入り後の地域の変化について悪化したと思う66.7%をはじめ、年収300万円未満世帯が5割、200万円未満世帯が2割、行政の体制については不十分との回答が6割弱との回答がなされた。
  また、財政再生計画に対する協力意思については協力したい(歳出は増となり、計画期間延長等への理解)57.2%とする反面、約5割の回答は「市民の生活維持」と「赤字解消」は両立しないと考えており、計画期間が延長となった場合、さらに人口流出等への影響が懸念されるとした回答は、実に89.4%にものぼったのである。
  「他の自治体が行っていない事業は夕張には行わせない」とした総務省の方針は、自治権を奪うどころか、再建の土台をも打ち砕いていたことが、アンケート結果からもうかがえるのである。結果的にこのアンケート結果は総務副大臣、北海道副知事、夕張市長、夕張市議会議長あてに「夕張の現状と市民の声」として届けることができ、計画に反映させることができ、市側の事業盛り込みを後押しすることができた。またそれ以外の成果としては、財政再生計画に対する市民の評価や事業等を計数化できたこと、加えて参加学生にとっては、地域に入り市民から直接意見聴取することで行政のあるべき姿や、地域コミュニティの創造、諸施策の重要性などをフィールドワークで体験できたことは大きく、労働組合の今後の連携活動としての重要性を感じた取り組みであった。

(4) 行政機能維持のためのサポートセンター
① 夕張市民・生活サポートセンターの活動
  2007年12月27日に設立された夕張市民・生活サポートセンターは従来行政が行ってきていたものの、職員の半減、財政再建計画において廃止された4割の行政サービスの補完として、退職者の行政経験と知識を活かした支援組織として、連合の支援により設立された。2008年4月から事業を開始し、3年目を迎えている。2009年度の事業実績は別紙1のとおりである。
  サポートセンターの活動については、事態を受けて行政機能の麻痺は回避しなければならない、として取り組まれてきたものである。本来はどれも予算措置されるべきものと考えるところではあるが、サポートセンター事業の実施により、歳出を抑制できる効果のみに着目される議論が行われているもの事実である。実際に計画策定時において、「この支援は延長される見込みはないのか」等の照会が組合側にもなされるなど、「歳出さえ圧縮できれば形はどうでも良い」との考え方も見え隠れしている。
  実際に財政再生計画では、受託事業のサポート期間終了後の2013年度予算について、なんら一切の予算措置がされておらず、「計画変更で対応する」として計画からは「追い出されている」のである。

(5) 政権交代と財政再建計画・そして大臣同意へ
① 計画策定終盤での攻防
  1月に市と道の協議で明らかになった総務省の考え方は次の通りであり、最終盤で北海道とも協議済の計画内容についての指導である。
 ・事業へ盛り込むのは最小限とし、追い出した残り事業は計画変更で対応するために登録制とする。
 ・新たな財源、国への支援実現により実施することが「国民理解」に繋がる。これを引き出すためにも経常的経費の更なる削減を。
 ・退職手当の復元は5年でなくなだらかに長期に回復すべき。
 ・特別職の給与は寄付的性格のもの。
 ・一般職の人件費は北海道内都市の比較ではなく、全国の市町村で最低とすること。(沖縄県伊平野村)
 ・職員が今後も退職するとすれば、道が補完的役割を果たせばよい。
  これら指導の内容を見ても、国は「見せ方」を重視するあまりに、夕張市の実情を把握していないことが良く分かる。この間の財政再建計画と同様に、「誰も責任をとらない」構図は生き続けている。
② 政権交代の効果
  しかし2009年9月の政権交代以降、財政再生計画策定を巡って変化が現れたことは事実であり、難航を極めた職員の退職抑制措置としての一時金の1月回復については、自治労協力国会議員団、地元選出国会議員団との総務省協議により実現に漕ぎ着けたものである。
  単年度の財源が確保できたとは言え、事務レベル協議ではまったく実現の目処が立っていなかったものである。
  また計画同意後の3月15日には自治労として直接総務大臣に「夕張市財政再生計画にかかる要請書」を提出していただき、単組委員長も同席のうえ、意見をのべさせて頂いた。十数分とはいえ、直接大臣と面会、要請できたのは紛れもなく政権交代の結果によるものであり、この状況を維持していくことの重要性も感じた。
③ 計画同意に向けて
  2010年2月17日に、財政再生計画の国への提出を控え、市は市内各団体との意見交換を実施した。財政再生計画には一定の評価をするものの、産業振興策が見えない、まだ将来が見通せたとは言えない、行政執行体制は修正が必要等の意見がだされた。市も同じ認識ではあるのだが、国との調整が繰り返される状況が存在し、同意を前提に考えるならばこの計画となる旨各団体に対して理解を求めた。しかしとりわけ住民サービスを支える職員体制については、人口千人あたり職員数全国平均11.9人・夕張市7.6人を見ても明らかなように、将来不安が払しょくできず、市職労は事務レベル協議の限界と捉え、見解を公表し市民への理解を求めた。
  市職労見解については2010年2月19日に公表。計画総体については一定評価するものの、今後の修正は必至。債務解消はありつつ地域主権を確実に実践できる計画変更の柔軟な対応や、自治体として裁量権を一刻も早く回復すること、新たな事業遂行のためには職員体制の確保は検討・精査が必要で、大規模事業を実施予定の2010年度以降5年間は退職者を完全補充し、定数を維持することとしたものの、計画の見直しにまでは到達できなかった。

(6) 今後の見通し
① 課題は継続する
  このレポートを書いているのは9月であるが、翌年の夕張市長・夕張市議会議員選挙に向けた動きも活発になってきている。従来はその責任と主導的立場を担ってきた労働組合も、連合組合員の激減等、今や主体的に取り組める状況ではなくなってきている。現職市長も再出馬か退くのかまだその意思表示も行われていない。しかし一番頭を悩めるのは、その報酬の低さである。総務省は「寄付的性格のもの」と言うが、いまのままでは担える人材が限られてしまう。新たな夕張の街づくりに思いを寄せる人がいても、自身の生活等のことを考えると決断も躊躇するような状況である。実際に現段階で出馬を表明しているのは前回の夕張市長選挙をはじめ、東京都知事選挙や参議院選挙、青森県の田子町長選挙に出馬した彼である。
  現在財政再生計画は本年4月にスタートしたばかりとはいえ、夕張市が将来に向かって持続可能な自治体運営を行うとするならば、計画変更による対応や、期間短縮に向けた取り組みがいまだ最重要な課題であることに変わりはない。財政再建計画スタート当初、市民もこれまでの行政任せの体質を改めるべく、様々な団体が誕生し活動が始まったところであるが、とりわけ行政についての関わり方は従前とあまり変わらないように感じる。
  そういう意味では来春の統一自治体選挙は大きな意味をもつものである。全国から支援や声援を頂き、再生していこうとする中では、首長はその方向性をしっかりと示すときであるし、そうできるための改善は急がれるものである。

別紙1 2009年度 サポートセンター委託業務の一覧表(09年4月~10年3月)

別紙2 歳入歳出年次総合計画