【自主レポート】 |
第33回愛知自治研集会 第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する |
県都金沢市から最も離れ、少子高齢化、過疎化に歯止めがかからない人口1万7千人弱の珠洲市においても、近代化した市民生活の負の産物である生活排水対策が喫緊の問題となっている。珠洲市は1991年度に公共下水道を供用して以来、現在まで整備してきたが、市内の景気の低迷の影響もあり、多額の工事資金が必要となる下水道への接続については市民から理解されにくい状況にある。豊かな自然を後世に伝えるため、財政面など珠洲市を取り巻く状況が厳しい中であっても巨額の投資を行う当市の下水道事業の現状について述べたいと思う。 |
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1. 下水道の意義と珠洲市の整備状況 昨今の生活様式の急激な変化により、川や海、排水路などの環境汚染問題が騒がれ、水質や環境保全対策として下水道事業は地方公共団体の重点事業と位置付けられた。下水道事業の役割は、悪臭や蚊・ハエの発生の防止対策、ゲリラ豪雨等からの浸水対策、珠洲市においてはバイオマスメタンとしての資源の有効活用など、多様化する時代の都市基盤整備においても不可欠な事業である。 下水道整備状況(2009年度末) 2. 公債費の状況 下水道整備事業は巨額の建設資金が必要であり、費用対効果から人口5万人以下の自治体では民間企業による経営は困難といわれていることから、珠洲市においては公営企業として実施している。 |
【公共下水道事業の元利償還金の推移】 |
【単位:千円】 |
【農業集落排水事業の元利償還金の推移】 |
【単位:千円】 |
【地方債残高の推移】 |
【単位:千円】 |
3. 受益者負担金について 下水道が布設されると排水区域の財産価値が増加する。これは市民の負担による公費の投下によってもたらされたものであるから、その増加の一部を公費に還元することが負担の公平から見て適当であり、土地の所有者等の受益者が建設費の一部を負担するものが受益者負担金である。珠洲市においては受益者負担金は下水道整備の貴重な特定財源であり、下水道整備による環境の改善、利便性、快適性の向上、土地の利用価値の増進に照らし、1m2あたり350円徴収している。ただし問題点としては、景気低迷に拍車がかかっており、高齢化世帯の多い珠洲市においては、1m2あたり350円、100坪あたり約11万円という高額の負担金について理解してもらえない点があげられる。どの家庭においても状況が苦しい中、受益者負担金で約10万円、更に接続するのに約100万円の高額な経費がかかるとなると、容易に理解してもらえず、罵倒されることさえある。我々担当課は、工事着工の1年前と工事着工直前に住民説明会を開催し、1件1件訪問し直接住民に説明することで理解を得られるよう努めている。国定公園に指定されている能登半島・珠洲の美しい海を後世に残そうという気持ちは同じだが、先立つものは当面の生活費であり、受益者負担金の徴収は厳しい状況にある。 4. 下水道事業の今後 汚水処理を行う珠洲市浄化センターは、供用開始後約20年が経過しており、経年による劣化が懸念されている。2009年度には長寿命化計画を策定し、2010年度は耐震診断を実施する予定である。珠洲市浄化センターは供用開始後2度の大地震に見舞われたが、幸い被災することなく稼働を続けている。しかしながら耐用年数15年といわれる処理系列の老朽化は明らかであり、故障・破損が市民の生活排水対策に支障をきたす恐れがあるため、耐震診断の結果を踏まえ、順次計画的に更新する。 以上が今後の事業を進めるにあたっての重点的な留意点である。 |