【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

 常滑市は、2005年に中部国際空港が開港して以降、市税収入が増加し、地方交付税の不交付団体となりました。しかし、財政危機を理由に職員の給与削減が実施されました。税収が増えたのに、なぜ給与が削減されるのか、やめさせるにはどうしたら良いのか。組合の財政分析で、過去の行財政運営上の問題が明らかとなり、課題が見えてきました。市財政健全化のため、市民を巻き込んだ取り組みを行い、財政健全化の提言を行います。



財政分析の取り組み報告
―― 常滑市行財政の現状と課題 ――

愛知県本部/常滑市職員労働組合

1. 常滑市の財政状況

(1) 優良な市税収入
表1 主な財政指標(2008年度決算)
財政力指数(3年平均)
1.21
公債費比率
9.1%
経常収支比率
90.3%
実質赤字比率
-%
連結実質赤字比率
-%
実質公債費比率
7.5%
将来負担比率
204.7%
 他の道府県の自治体と比較して、常滑市の財政状況はそれほど深刻という水準ではないとも言えますが、将来負担の健全度は好ましくなく、危険水域が近づいていると言えます(表1)
 歳入面では、同規模の自治体と比較して市税の割合が高く、国からの交付金に頼らない優良な自治体であるといえます。しかし、それも空港関連税収に頼る部分が大きく、空港の今後が市の財政に影響することになります。空港関連税収の中心は固定資産税であるため、年々償却していきます。また、不況で空港の経営不調が続けば、新規の設備投資がされない、空港関連企業の進出が進まないなど、税収の増加が見込めなくなります。人口増加や企業誘致を進めるなど、空港税収に左右されない体質をつくる必要があります。


グラフ1 予算規模の推移(一般会計当初)

(2) 激減した競艇事業収益
 常滑の財政を支える柱の1つである競艇事業は、近年では売り上げが落ち込んでおり、1995年度には40億円あった一般会計への繰入金も2007年度には2億円にまで減少しています。

(3) 過去の行財政運営上の問題
表2 1965~84年に建設された福祉施設
1965~69年 保育園6園
1970~74年 保育園7園
1975~79年 保育園5園
児童館1館
知的障害児通園施設1施設
1980~84年 児童館7館
老人憩の家23施設
① 競艇事業収益の使いきり
  常滑市では、これまで単年度で数十億円にも上る競艇事業収益を公共施設の建設や行政サービスの提供につぎ込み、人口5万人都市の身の丈を超えた大きな財政規模で保育をはじめとする手厚い行政サービスを実現してきました(表2)。その一方で、市民の行政依存を生み出してきました。また、計画的に基金に積み立ててこなかったため、基金がほとんどありません(グラフ2)。団塊世代の大量退職に備えて退職手当基金を積み立てるよう組合が再三求めても、積み立てを行いませんでした。その結果、退職手当債の借り入れをしなければ退職手当を支給することができない状態となりました。


グラフ2 年度末基金残高の推移(一般会計)

② 多額の長期債務=借金
  競艇事業の売り上げが落ち込んできてから事業の見直しや歳出の抑制などを図りましたが、それほど効果は出ていません。依存先を競艇から空港に変え、空港開港に向けて空港関連事業として公共下水道事業や土地区画整理事業などの投資的事業のために起債を重ねた結果、616億9千万円もの長期債務を抱えることとなりました(2008年度末)。こうした行財政運営の背景には「空港が来れば何とかなる」という、当局の見通しの甘さがあります。

表3 長期債務残高の推移(中期財政計画より:2008は見込)
(単位:百万円)
 
2008年度
2009年度
2010年度
2011年度
2012年度
2013年度
市    債
47,130
47,313
46,857
46,746
45,209
44,526
債務負担行為
14,966
14,274
13,560
12,695
11,829
10,969
合  計
62,096
61,587
60,417
59,441
57,038
55,495

(4) 地方交付税不交付→給与カット
 実際に空港が来て何とかなったのかというと、空港が着工した2000年度と2009年度を比較して市税収入は64%増加しましたが、2006年度から地方交付税の不交付団体となったことから、空港関連税収は地方交付税交付金の減少分を補填したにすぎません。競艇事業収益は70%減少しており、また、予算総額が5%減少する一方で、市債残高は85%増、公債費は50%増と、借金が大きく増加しています。それに加え、定員適正化計画に基づく職員数の削減や財政危機を理由とした独自の給与カットによって人件費は18%も減少しており、私たち現役の組合員にしわ寄せが来ている状況です。

(5) 中期財政計画
 2008年5月に市が発表した「今後の財政運営の考え方」で、以降4年間に約75億円の財源不足が見込まれることが公表されました(表4)。同年6月には「行財政改革アクションプログラム推進手法(案)」がまとめられ、その後、具体的な方策と効果額を「行財政改革アクションプログラム推進手法(案)重点取組項目の考え方について」に取りまとめました。しかし、一部の大規模事業について「算定困難」との理由から効果額を示していません。
 その行財政改革効果を見込み、今後の財政運営の基準とするべく、2009年1月に「中期財政計画」が策定されました。しかし、この計画には新市民病院の建設費や常滑地区ニュータウン整理事業で売れ残った土地を市が買い取ることなどが盛り込まれていません。また、2012年度以降は臨時的財政措置を行っても、さらに財源不足が発生する内容となっています。

表4 歳入歳出収支見込(中期財政計画より:2008は見込)
(単位:百万円)
 
2008年度
2009年度
2010年度
2011年度
2012年度
2013年度
歳 入
18,644
18,670
19,046
19,263
17,929
18,471
歳 出
18,644
19,538
19,330
20,028
18,667
19,041
歳入歳出差引
0
-868
-284
-765
-740
-570

(6) 予算編成
 常滑市では、10年以上前から「前年度比10%削減」を予算編成時に各部署に要請し続けています。実際に前年度比10%削減を実施していれば、単純計算で10年前の3割ほどの予算規模となっているはずですが、そんなことはありません。予算の枠配当がされているわけでもなく、縦割りの弊害や予算消化という側面が表れています。2009年度になって、不要額は使わずに残すという動きが出てきました。


グラフ3 歳出構造の推移(一般会計当初)

(単位:百万円)
区分\年度
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
人件費
6,243
6,175
6,004
6,099
5,585
5,577
5,418
5,610
5,127
5,123
4,524
扶助費
951
987
1,028
1,243
1,409
1,412
1,536
1,601
1,692
1,763
2,647
公債費
1,223
1,288
1,216
1,283
2,246
1,308
1,487
1,627
1,692
1,808
1,879
物件費・補助費等
5,499
5,780
4,509
4,240
4,244
4,315
4,144
4,855
5,369
5,652
5,512
普通建設事業費
3,625
4,293
3,534
5,031
5,365
3,569
3,319
2,862
2,252
2,636
2,052
その他
2,669
2,337
2,264
2,204
2,021
2,149
2,406
2,275
2,228
2,288
2,346
歳出計
20,210
20,860
18,600
20,100
20,870
18,330
18,310
18,830
18,360
19,270
18,960

 予算編成にあたって一番問題なのは、政策を取捨選択する判断基準がなく、手広く事業を実施しているということです。公共事業を大幅に減少させ、財政規模を縮小させる必要があります。

             表5 特別会計一覧(2008年度)
(単位:千円)
交通災害共済事業
16,278
陶業陶芸進行事業基金
7,638
国民健康保険事業
4,839,163
下水道事業
2,304,817
老人保健
473,722
常滑東特定土地区画整理事業
767,253
後期高齢者医療
461,355
常滑駅周辺土地区画整理事業
219,663
介護保険事業
2,948,944
モーターボート競走事業
38,390,942
農業集落家庭排水処理施設
178,092
   

2. 財政分析の取り組み

(1) これまでの取り組み
表6 主な取り組み
2008年7月 財政分析勉強会開始
2009年4月 『検証!! とこなめ』連載開始
(組合機関紙・財政特集記事)
2009年5月 財政に関するアンケート
  ・対象:組合員
2009年7月 合同分会連続開催
財政集会開催
  ・対象:組合員(参加:約50人)
2009年11月 第2期取り組み方針決定
 ・財政健全化の提言を行う
 ・市民を巻き込む
 ・執行部全体で取り組む
2010年1月 旗開きで財政分析の取り組みを報告
財政分析ワークショップ開催
「財政危機……もし、あなたが市長
ならどうする?」
  ・対象:組合員(参加:約15人)
2010年2月 提言の作成に向け、作業開始
2010年3月 提言案・意見募集
  ・対象:組合員
2010年8月 常滑市の行財政に関するアンケート
  ・対象:市民・組合員
財政集会開催(予定)
「みんなでつくろう、明日の常滑
~常滑市の財政を考える集い~」
  ・対象:市民・組合員
2010年9月 財政健全化の提言(予定)
① なぜ、組合が財政分析を行うのか
  空港が開港して税収が増えたのに、なぜ私たちの給料がカットされなければならないのか。市独自の給与カットの原因となった常滑市の財政は一体どうなっているのかを把握し、このまま給与カットを続けさせないために当局に何を訴えていけばいいのかを検討するため、自治労愛知県本部と愛知地方自治研究センターの協力の下、組合での財政分析に取り組みはじめました。
② 財政分析勉強会
  愛知地方自治研究センターを通じて、講師として奈良女子大学の澤井名誉教授に遠方からお越しいただき、決算カードの見方から、市の財政状況の把握、行財政改革の計画、行財政における課題の抽出などについて話し合いました。
③ 検証!! とこなめ
  財政集会の開催に先立ち、財政問題に対する組合員の関心を高め、財政集会に興味を持ってもらうため、毎週1回、月4回発行している組合の機関紙に財政問題の特集記事を連載しました。
④ 財政集会
  それまでの1年間に取り組んできた財政分析の成果を報告したうえで、参加した組合員も含めて財政上の課題について討論しました。勉強会で講師を務めてくださっていた奈良女子大学の澤井名誉教授にコーディネーターとして仕切っていただき、当時愛知県本部の書記長だった植山さんの協力で岡崎市財政課の職員にパネリストとして参加していただいて、岡崎市の健全な財政運営について、予算作成における枠配分方式の考え方などを紹介してもらいました。
⑤ もし、あなたが市長ならどうする?
  財政集会までは10人弱だったメンバーを少しでも増やそう、一人でも多くの組合員に財政問題に関心を持ってもらおう、と財政分析のワークショップを開催しました。「堅苦しくなく、気軽に参加して楽しめる」をコンセプトに企画し、もし自分が市長だったら、今の常滑市の財政危機をどう解決するか、というテーマでグループごとに議論してもらいました。
⑥ 常滑市の行財政に関するアンケート
  提言に市民の意見を反映させて重みを増すため、市の財政状況や組合の取り組みを市民に知ってもらい、協力してもらうための取り組みとして、アンケート調査と財政集会を市民向けに行うこととしました。しかし、いざ作業に入ると市民向けの取り組みについてメンバーの理解がなかなか得られず、作業開始からアンケート配布まで2ヶ月以上かかりました。1,000通を無作為に市民に配布し、32%を回収しました。

(2) これからの取り組み
① みんなでつくろう、明日の常滑
  現在(原稿執筆時2010年8月)、市民の理解と協力を得るための市民向け財政集会の開催が目前に迫っており、大慌てで準備をしているところです。コーディネーターには奈良女子大学の澤井名誉教授をお願いし、市内民間企業労組の委員長や元市議とパネルディスカッションを行いながら、市民とともに取り組む第一歩とします。
② 財政健全化のための提言
  2011年度当初予算の編成が本格化する2010年10月に間に合うよう、市当局に対する提言を9月中に行う予定です。

3. 組合としての課題

 組合員の給料を守るため、窓口など行政の最前線で市民の批判を受ける組合員の負担を軽減するための取り組みであるにもかかわらず、組合員全体の関心は低く、中心になって取り組んでいる一部の役員にだけ負担が大きくのしかかっています。こうした無関心、他人任せの組合員の意識改革をしていくことこそが必要であると感じます。