1. はじめに
民主党の「コンクリートから人へ」というスローガンなどで象徴されるように、社会は公共事業を削減する方向に進んでいます。これは、バブル景気が崩壊した90年代に景気振興のために行われた公共事業の拡大で、マスコミに批判された、いわゆる箱物や汚職事件などにより、「公共事業は無駄が多い」という批判の高まりが背景にあると思います。しかしながら、「公共事業は本来、未来を創る夢の事業である」と思います。京都では明治時代に、都市振興策として「琵琶湖疏水」や日本最初の「電車」などの事業を成功させた実績があります。戦後、東京一極集中と官僚主導により、東京以外の地方都市では同じような「まちづくり」が進められました。今後も、千年以上も続く歴史都市京都が、「コンクリートから人へ」という時代の流れにのみ込まれてよいものか、つまり、京都には京都ならではの公共事業が存在し、実現することが必要なのではないかと思います。このような漠然とした思いを現実的な意見とするためには、京都市の現状、つまり財政を知ることが大切ではないかと思います。
今、地方行政は住民参加を進めることにより、広く意見や新しい発想を求めています。住民の方々もいろんな意見をお持ちであると思います。しかしながら、自治体やマスコミなどからの情報によってつくられた先入観のために偏った意見をもってしまっているかも知れません。自己で入手できる情報の範囲内で住んでいるまちの自治体を分析することは、先入観を払しょくでき、新しい発想が生み出されるかも知れません。また、市民参加には決まった手法はなく、参加に大小もないと思います。一番大切なことは関心をもつことではないでしょうか。
そこで、私自身もインターネット上で、誰もが入手可能な資料をもとに分析を行ってみようと思いました。しかし、どのように行えばいいのかと迷っているとき、「やってみよう、わがまちの財政分析」(自治総研ブック)と出会い、この本を参考に、ホームページで誰もが入手可能な「決算カード」「市町村別決算状況調」を基本資料として、京都市公式サイト「京都市情報館」を参考にしながら分析してみました。この本は夕張市や大阪府を事例にあげており、大変わかりやすい本で、大いに役に立ちました。
2. 京都市財政について
(1) 人口の推移
京都市の人口は、「決算カード」でもわかりますが、「京都市の統計情報」でも見ることができ、2001年(平成13年)で約146.8万人であり、2008年(平成20年)で約146.7万人、途中の2005年(平成17年)に京北町の合併が行われて増加し、147万人を超えました(面積は約610km2→約828km2)。しかし、近年は微小の減少は見受けられますが、夕張市のような大きな減少ではなく、ほぼ横ばい傾向であることが分かります。
(2) 歳入・歳出規模の推移
① 2008年度(平成20年度)は歳入出が大幅増になっています(図表1参照)。また、性質別歳出で「投資・出資・貸付金」(図表2参照)、目的別歳出で「諸支出金」「商工費」(図表3参照)、歳入で「諸収入」(図表4参照)がそれぞれ急増していることに気付きます。「決算カード」では「一時借入金」の金額はわかりませんが、「一時借入金利子」(図表5参照)が急増しています。これだけ見れば、「諸収入」による財源調達の導入に踏み切って、第三セクターなどに貸付を行い、観光開発事業などを実施し、巨額の「一時借入金」の借り替えが年度ごとに行われていた夕張市のような傾向ではないかと思えますが、実際は、9月市会の補正予算で地下鉄東西線の第三セクター区間を直営化することに係る経費等を諸収入等で補正し、一般会計で約412億円増(高速鉄道事業特別会計で約567億円増)となったことが大幅増額の原因です。一時借入金の状況ですが、一般会計及び特別会計(公営企業会計を除く)の合計残高で、2008年(平成20年)9月に95億円、2009年(平成21年)9月で194億円となっています。2007年(平成19年)は残高が0円でした。これは「京都市財政事情の公表」で調べることができます。この一時借入金の増加は、中小企業金融対策が関係していると思います。
② 歳入出の推移は、2007年度まではほぼ横ばいであり、2008年度に急に増大し、2009年度(平成21年度)の補正予算は約7,614億円、2010年度(平成22年度)当初予算は約7,687億円と増大傾向にあります。しかし、中小企業金融対策の拡充、子ども手当の新設、生活保護扶助費の増額が原因であり、これらの国の政策に影響する要素を除けば、実質的には、前年度並みの規模ではないかと思います。しかし、2008年度は4年ぶりの赤字となり、実質収支で30億円の赤字となっています。実質収支が赤字であるのに歳出規模が拡大する傾向にあるため、今後の決算における歳出の内容をよく把握しておく必要があると思います。
(3) 歳入の動向
一般財源計など(一般財源計+減収補てん債+臨時対策債)は、2005年度(平成17年度)に少しの上昇は見せましたが、以後減少、横ばい状況で、地方税は、三位一体改革にともなう国から地方への税源移譲、所得税の定率減税の廃止などの影響からか、2004年度(平成16年度)以降上昇しています(図表1・4参照)。地方税の構成比が50%以上か以下かが地方自治体の財政力の強弱をみる上で重要であり、京都市は、構成比36%程であり、財政力は弱く、地方交付税も構成比が高く、国の毎年度の諸政策の変更の影響を受けやすい自治体であります。さらに、国庫支出金(補助金)も、構成比で15%程あり、毎年の国の各省の政策変更の結果で増減するため、国に依存している自治体であることが分かります。また、地方債が2005年度から年々増加となっています。これは、京北町の合併による合併特例債と行政改革推進債の増加が原因ではないかと思われます。
(4) 目的別歳出と性質別歳出の動向
① 性質的経費では、義務的経費が少しずつ増え続けています(図表6参照)。義務的経費のうち「人件費・のうち職員給」「公債費」はほぼ横ばいですが、「扶助費」は年々増加傾向にあります。地方財政の硬直化は、人件費ではなく公債費にあることが多いのですが、京都市では、「扶助費」が硬直化の要因になっていく可能性があるのではと思います。普通建設事業費が人件費を大きく上回っている場合は、過剰投資となっている場合が多いと言われていますが、そのような傾向はないことがわかります。また、公債費が増え続けているために、普通建設事業費や人件費を大幅削減している自治体もありますが、京都市はそのような傾向はありません。物件費には委託費(民間委託)が含まれており、内容の把握が大切ですが、横ばい状況です(図表2参照)。
② 目的別経費では、「民生費」「商工費」「総務費」が年々増加しており、「民生費」「商工費」の増大が顕著となっています(図表3参照)。「民生費」の増大はさけられないことですが、「民生費」の内訳を見ていますと、それぞれに増加傾向にあり、「生活保護費」の占める割合は一番ですが、「児童福祉費」の増加割合が高いことに気付きます(図表7参照)。これは「市町村別決算状況調」から調べることができます。「総務費」は新庁舎建設が影響し、「商工費」は観光施策と主に中小企業対策が影響していると思います。「衛生費」には、保健衛生費・結核対策費・保健所費・清掃費(ごみ収集、運搬施設費)が含まれており、大幅に減少しています。「土木費」も減少傾向です。普通建設事業費の占める割合を見てみますと、「総務費」と「消防費」の増加割合が高く、普通建設費の占める割合の高いのは「土木費」であり、次に「教育費」です(図表8参照)。「総務費」は、区役所の新庁舎建設、「消防費」は災害時のための防火水槽の建設費ではないかと思います。
③ 公営事業等への繰出金の状況では、2008年度(平成20年度)に「交通」と性質別歳出で「投資・出資・貸付金」の増大があり(図表9参照)、この原因は、地下鉄東西線の第三セクター区間を直営化したことにあります。前年度までは、合計が横ばいになっており、「投資・出資・貸付金」も横ばい傾向であったことから、今後の動向を把握しておく必要があると思います。また、「繰出金」と「その他」が増加傾向にあり、「その他」の内訳を調べる必要があると思います。
(5) 財政収支の動向
① 実質収支は2004年度(平成16年度)まで赤字であり、その後、黒字となっていましたが、4年ぶりに2008年度に30億円の赤字となりました。
② 減債基金の切り崩しが続き、財政調整基金もほとんどない底をついた状態であり、2004年度の「京都市財政健全化プラン」による公債償還金からの借入も行ってきたため、基金からの借り入れは限界となっています(図表10参照)。
③ 借金残高と標準財政規模を見ると、借金残高が年々増加傾向にあり、標準財政規模の2倍をはるかに超え、約3.7倍となっています(図表11参照)。
④ 借金比率の推移で、「公債費負担率」は経験的に15%が警戒ラインで20%以上が危険ラインと言われており、京都市は18.4%で増加傾向にあります。「公債費比率」は経験的に10%を超えないことが望ましいとされていますが約17%もありました。「実質公債費比率」は2007年度から18%以下の12%に抑えられており、起債許可を受けることは免れています(図表12参照)。
⑤ 経常収支比率は、経験的に都市では75%程度が妥当な水準とされていますが、京都市は95%を超えています。「人件費」は40%を超えると財政運営が厳しくなるとされていますが、約35%でとどまっています。「公債費」は横ばいで、「繰出金」と「扶助費」が増大傾向にあることがわかります(図表13参照)。
(6) 京都市の財政状況の特徴
バブル崩壊後、景気対策の押しつけに屈して大規模公共事業を継続実施し、あるいはバブル時代の大型プロジェクトをそのまま続行し、その失敗のために財政危機に陥った都道府県もあります。京都市は、地下鉄事業によって今後深刻な財政難に陥ると思います。また、京北町の合併による合併特例債による過大投資が行われていないのかどうかも気になるところですが、普通建設事業費が年々減少傾向にあるため、この心配はないように思います。ただ、本当に必要な公共事業を先延ばしして、普通建設事業費を抑えてきたことで、公債費を抑えてきた可能性はあります。景気後退と地下鉄の影響が出始め、基金の借り入れは限界で既に財政運営が硬直化し、実質収支で赤字となった状況下で、さらに、地下鉄事業の再建と市民サービスの低下を招かないようにしなければならないということは、かなりきびしい財政運営であることは明白です。ここで新たな影響がもし出れば財政破たんは免れないでしょう。何が原因で財政が以前から硬直化しているのかは複合的で、具体的に何かを問題解決すればすむというわけではなさそうです。もしかすると大分以前の1971年(昭和46年)の国の地方財政対策からの分析が必要なのかも知れません。
3. 先入観をなくすことと、今後の組合が担う役割と課題
私が「B/C、費用便益分析」という言葉に出会ったのは、2002年(平成14年)ぐらいであり、当時は1を超えていればその事業は事業に値するという考えを持つ人が多くいたように思います。私は、日本全体のなかで事業の優先順位を決めるために、同一の評価方法で数値化することにより公平な判断で事業採択できる手法を国が用いていると思っていました。しかしながら、「B/C」の数値が3であろうが1以下であろうが、現場に行けば、この事業は必要であると確信を持つことができました。また、政策評価システムについては、1996年(平成8年)ごろの研修で初めて知り、この時に感動したのが、地域単位での評価がもたらす限界でした。はっきりとした記憶ではありませんが、道路の整備が行きとどかない山村は過疎により、医師不足となるため、りっぱな道路を整備すると医師が来てくれる。だから、交通機関の整備が必要であるとして多額の公共事業つまり建設事業を行うことが良いとする評価ではなく、いろんな評価、つまり、高度な病院を山村に建設し維持することで、道路事業で必要な予算と比較するといった評価手法の導入のために、数値化することで公正性と説得性をどうもたらすことができるのかが今後の課題であるという内容だったと思います。今、自治体で市民参加を盛んに耳にします。この傾向は、これまでの評価手法の限界から、行政側に直接参加してもらうことで公平性と説得性を確保するための手法ではないかと思います。いつかこの市民参加の手法も限界がくるのではないかと思います。そこで一番期待されるのが現場の声、つまり市民の声を直接見聞きしている職員の意見ではないでしょうか。最も大切なことは「いる、いらない」は市民が決めることであり、市民の方に正しい判断をしていただくために情報を提供することができるのも職員ではないかと思います。
現在、職場の仕事一つ一つが公務労働でよいのかどうかが問われる時代となっています。また、その仕事の必要性を一番理解しているのは職員ではないかと思います。その職員で構成されている労働組合が、自治体へ政策提案などを行うことは最も大切なことであり、公務労働のあり方も含めた検討や議論のなかで政策提案を作り上げていくような活動が、今まさに労働組合の中心的な活動課題であると思います。
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