【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

 京丹後市では、合併後、2度目となる行政改革大綱の策定にむけた審議会の委員に、労働組合への参加要請があった。労働組合は、自治労と自治労連の2つがあるが、自治労連側は拒否。自治労としては、意見の反映が困難であっても職員の立場から意見を述べることが重要と考えて承諾した。このレポートでは、審議の期間中に自治労として提出した意見書も含めて、その経験をまとめた。



京丹後市行財政改革推進委員会に参加して


京都府本部/自治労京丹後市職員組合・特別執行委員 稲岡 信一

 京丹後市は2004年4月、京都府北部丹後地域の、峰山町、大宮町、網野町、丹後町、弥栄町、久美浜町の6町が合併し誕生した。行政のスリム化・財政の健全化をめざし、2004年12月に5カ年計画としての京丹後市第1次行革大綱を、2005年10月に具体的な行動プログラムである行財政改革推進計画を策定した。
 その大綱および推進計画に沿って行革を進めてきたが、2008年度において、第1次の推進計画(京丹後市定員適正化計画)の見直し、そして2009年度には2010年からの第2次行革大綱及び推進計画の策定を行うことになった。

1. はじめに(委員会に参加することになった経緯)

 ある日、行革担当部局より、行革委員会に職員としてだれか参加してもらえないかと要請を受けた。
 当時、自治労職員組合の委員長であった私を窓口に声をかけてきたのだが、話を聞いた後、行革という、いわば職員として自分たちの首を絞めるであろう委員会に、職員が入っていいものなのか、入るべきものであるのか、純粋な疑問を感じてしまった。その時は返事できるはずもなく、執行部において相談すると回答した。
 他の自治体において、職員参加の事例はあるのかと行革課に確認したところ、数は少ないが「ある」とのことであり、それでもなお判断できなかったので、自治労京都府本部にも相談する中で「入ることに問題はないであろう。むしろ入って職員としての意見を述べることが大切ではないか」との結論に至り、自治労職員組合として参加をすることにした。
 しかし、市当局への事前確認として、「委員会に入ったからといって、職員として厳しい結果になると思われる行革の計画内容に同意するものではない。職員組合としての話は、別途交渉とする」ということを申し入れた。

2. 委員会について

 委員は旧6町から男5人、女5人、そして私を含めた計11人の委員で構成された。公務員OB、税理士、丹後織物工業組合役員、旅館若女将、NPO団体代表、主婦等々、この地域の意見ができるだけ集約されるよう一般市民から各種団体代表と幅広い人選となっている。実は、職員代表として、市当局は2つの職員組合(自治労と自治労連)にそれぞれ依頼したのだが、労連は辞退したので、自治労側からのみの参加となった。
 第1回委員会は2008年10月に開催された。第3回までの委員会は、第1次行革における京丹後市定員適正化計画の見直しであった。本庁機能を強化しながら、6町に残された各市民局も住民サービスを低下させないよう保持するといった、抜本的な行政組織のスリム化なしでの人員削減はもはや限界となり、さらには、外部職場の問題として保育所の総数も現状のままで、保育士の数だけ減らすといった無茶な職員削減も、いくら臨時職員による補充対応があるにせよ限界に来ていた。
 もはや第1次行革推進計画に沿った人員削減は達成不可能となり、まずは第2次行革に入る前に、第1次計画の見直しが先決問題であった。職員代表としての最初(最初というよりも、全体を通して一番)のヤマ場は、この定員適正化計画であったと思う。

【京丹後市行財政改革推進委員会の審議状況】
 2008年  10月3日  第1回委員会 (委員紹介、会長選出、スケジュール等)
      11月15日  第2回委員会 (京丹後市行財政改革推進計画の見直しについて)
      11月21日  第3回委員会 (京丹後市定員適正化計画の見直しについて)
      5月26日  第4回委員会 (「京丹後市の行財政改革について」諮問)
      6月17日  第5回委員会 (行財政改革の取組状況、大綱策定にかかる意見交換)
      7月29日  第6回委員会 (第2次京丹後市行財政改革大綱(たたき台))
      8月28日  第7回委員会 (第2次京丹後市行財政改革大綱(素案))
      9月28日  第8回委員会 (第2次京丹後市行財政改革大綱(素案)及び答申(案))
      10月6日  第9回委員会 (第2次京丹後市行財政改革大綱答申(案))
      11月12日  第10回委員会 (第2次京丹後市行財政改革推進計画(たたき台))
 2009年  1月14日  第11回委員会 (第2次京丹後市行財政改革推進計画(素案))
      1月27日  第12回委員会 (第2次京丹後市行財政改革推進計画(案))
      2月9日  第13回委員会 (第2次京丹後市行財政改革推進計画の答申(案))

3. 意見書の提出について

 2009年9月18日、自治労職員組合として市長に意見書を提出した。[別紙 資料]
 これは第8回委員会の第2次京丹後市行財政改革大綱(素案)及び答申(案)を前に、文書での意見の主張が必要と感じたからである。特に、「官から民へ」の安易な民間委託、「派遣制度」そのものに課題がある「京丹後市総合サービス会社」による非常勤職員、そして「行き過ぎた成果主義」の恐れとなる人事評価制度については、個別問題点を指摘しておく必要があった。大綱および答申のすべてが決定した後に提出するのではなく、案の段階で提出することにより、委員会の中では言い尽くせない職員の気持ちを伝えたかった。

4. まとめ

 本委員会は、11人の委員全員が毎回ほとんど欠席することがなかった。よくある事務局主導のシャンシャン会議とはまったく違い、毎回、時には激しい、そして真摯な意見ばかりであった。(激しくなればなるほど、時に私の立場が危うくなるということであるのだが……)。
 第1次の見直しから始まった委員会は、第2次行革の大綱、推進計画の答申まで、2010年2月までに計13回開催されたが、審議内容が「行革」なので、ほとんどが削減・節約の話であり、室内には、時には、暗く滅入ってしまいそうな重い空気の漂いを感じた。
 私の意見は、定員適正化計画、さらには民間委託が議題となった時、そのほとんどが、他の委員の意見に反する内容になることが多かったが、決して自己保身や公務員権益の確保のためではないことを理解してもらえたものと思っている(しかし、悲しいかな、それとも当然なのか、自分の発言は答申にほとんど反映されていない)。
 委員会に参加して感じたこと、それは市役所、さらには公務員である職員への風当たりの強さである。公務員バッシングは全国的なものであるとはいえ、地方における民間の景気の悪さは都会の比ではないであろう。景気悪化に加え、合併前の小さな町であったときは、相手の顔が見える仕事であったものが、市になって電話で話している相手の顔が見えない(わからない)ことが、より市に対する批判、苦情を多くしている一因であることは明らかである。逆を言えば、面と向かって話せば、わかり合えることも多いということ。
 当初、委員会の場に居ること自体が苦しいものであったが、委員会に参加して、職員でありながら委員として、市民の生の意見を聞くことができた。そして、委員の方々に職員の気持ちを直接、伝えることができた。
 嫌なことでも逃げずに、むしろ飛び込むことで相手が理解してくれるのではないだろうか。
 一人の委員としては、委員会の中で大きな流れを変えるまでには至らなかったが、その時々で、職員として問題点を指摘できたことは良かったと思う。
 京丹後市の第2次行革は始まったばかりである。
 さらなる京丹後市の発展に向けて、行革を実行するのは私たちであり、そして自治労職員組合としての取り組みはこれからが本番である。

【資料】

2009年9月18日 

  京丹後市長 中 山   泰 様

自治労京丹後市職員組合
執行委員長 河田英雄

「第2次行財政改革大綱」の策定にあたって

 現在、日本は、深刻な経済危機に陥っています。また、少子・高齢化社会の進行や格差の拡大、失業率の増加、福祉・医療制度の崩壊、地球環境の危機など、大きな課題をかかえています。そうしたなかで、地方自治体は、市民と協働して地域社会を創造することが求められています。
 地域社会は、市民が幸福に暮らし、明日に希望がもてる「良い社会」でなければなりません。「行財政改革」の目的は、そうした「良い社会」を創造するために、効率的な財政運営を念頭におきながら、政策形成能力を高め、その政策を具体化する実行力を養うとともに、行政組織や職員のあり方を不断に変革することが求められています。そのためには、行政は、市民の信頼を得、職員がいきいきと意欲をもって取り組める環境が必要です。
 こうした認識にたって、自治労京丹後市職員組合として「第2次京丹後行財政改革大綱(たたき台)」について、意見を提出いたします。

1. 「市民との協働による地域経営の推進」(第2章第1節含む)
  住民自治を基本とした行財政改革を進めるためには、「地域自治活動等への支援」や「行政の支援体制の整備」は非常に重要です。また、地域課題の解決のためには、行政内の体制づくりやシステムの整備が必要不可欠です。現在、旧町ごとに市民局を設置し、市民からの事業提案については新たに市民協働課を置くなど、体制の整備が進んでいますが、行政内にはそれ以外にも、教育や福祉・子育て、医療、農業、商工業など、さまざまな専門課が、直接、市民と関わっています。したがって、そこで把握した市民ニーズや地域課題もフィードバックし、地域全体の課題を把握する必要があります。第2章第3節1項では、「市民ニーズを把握しながら情報共有を一層推進する」とされていますが、地域自治活動等への取り組みにおいても、地域課題を解決するための情報共有のネットワークや横断的な組織づくりが必要だと考えます。

2. 「市民からみた行政満足度の向上」(第2章第2節含む)
  市民の行政満足度を向上させることは、行財政改革の本旨だと思いますが、行政サービスは、窓口サービスを含め福祉や教育、地域経済の活性化など多岐にわたります。それら行政サービスにおける満足度は、事務事業ごとに指標が異なり、満足度を測るには多種多様な手段が必要です。「窓口業務」においても、職員の意識改革だけではなく、総合窓口の設置やワンストップサービスが必要なように、行政内部の改革が必要です。したがって、行政満足度の向上をはかることは重要ですが、もう少し多様な視点から考える必要があると思います。

民間委託
 「民間委託の推進」は、住民満足度の向上に直結する改革とはとても考えられません。「市が事業主体として実施すべき業務であっても、民間で実施するほうが効率的・効果的に業務執行ができるものは民間に任せる」ことは、行政サービスの基本的役割を逸脱した、最も避けなければならないことではないでしょうか。
 現在、「行財政のスリム化」をめざし、「民間でできることは民間に」「官から民へ」という流れがあります。それには、民間企業のビジネスチャンスを拡げる意図もありますが、行政サービスは、すべての市民が無条件に利用できることが大変重要です。行財政改革は、第1次大綱時の「委員会意見」にあるように、財政のスリム化だけをめざすものではありません。安くすることだけをめざして導入した「民間委託」は、そこで働く住民を低賃金におさえ、行政サービスとしての質もあやうくなる現実があります。
 すでに、京丹後市では、市営バスの運賃を上限200円にしたことで、多くの住民に喜ばれ、利用者が増大し、財政負担も軽減しつつあります。また大阪府では、住宅・企業・労働という制度全体を、福祉を基本として見直す「行政の福祉化」を、全庁的に着手し、2003年から、民間委託をするさいには、価格だけでなく、障害者雇用率や環境への配慮、従業員の人材育成など、社会的な価値を指標に組み込んだ「総合評価一般競争入札」を導入しています。この「総合評価一般競争入札」制度は、今、全国の自治体に広がりつつあります。
  行政の基本は、「良い地域社会」をつくることです。財政のスリム化だけを追求することなく、地域住民が見本とするような、社会的に有意義な価値の実現に資することを求めます。

非常勤職員
 「京丹後市総合サービス株式会社」は労働者派遣事業を行っていますが、昨年から今年にかけて全国的に、「派遣切り」などによる雇用不安が増大し、「派遣制度」そのものの課題が浮かび上がっています。京丹後市にとっては、進出企業の人材確保や住民の雇用の安定は、重要な課題です。しかし、住民の福祉を担う行政としては、市民が、職業能力を高め、生活者として自立できる労働者になるための支援が、何よりも重要ではないでしょうか。市民と行政が信頼しあい、協働できる体制づくりのために、「京丹後市総合サービス株式会社」のあり方について、再考を求めます。

人事評価制度
 職員は、住民自治を尊重し、地方分権型社会に活躍できる人材となるため、研修制度や能力開発は必要です。しかし、人事評価制度の導入には、多くの配慮が必要だと考えます。すでに人事評価制度を導入した自治体でも、課長以上の管理職のみを対象としている自治体や、公平・公正な評価制度が確立できず導入を控える自治体、評価者の能力を育成できず導入しない自治体など、まだまだ人事評価制度には課題が多くあります。総務省においても、昨年、人事評価のリハーサルが行われましたが、まだ導入にはいたっていません。富士通のように、「行き過ぎた成果主義」によって職場が壊れ、経営にも影響した事例も多く見受けられます。
 人事評価制度は、たんに経費を節減したかどうかという評価ではなく、公共サービスとしての目標を達成したかどうかを評価するものでなければなりません。そうした成果を上げるためには、職員個人の能力のみならず、所属する組織や、上司のバックアップが重要です。よりよい公共サービスを提供するためには、職員一人ひとりを評価し、信賞必罰的に給与や昇進へ反映させる人事評価制度ではなく、職員同士が話し合い、支え合える組職づくりが必要です。
 また人事評価制度を導入する場合には、評価方法や内容、苦情処理システムなどについて、あらかじめ職員の代表と話しあい、意見を反映させるよう求めます。
 このことは、第2章第3節2項の「職員給与の適正化」においても、同様です。

3. 「市民のものとしての財政の健全化」について(第2章第3節含む)
  財政削減の方法として、行政事務のアウトソーシングや職員定数の適正化が計画されていますが、現在でも職員数が不足し、それを補うために非常勤職員を雇用しています。行政のアウトソーシングや非常勤職員の採用は、上述したように、安い人件費に依存した施策で、行政と民間との間に溝をつくり、行政不信をますます醸成することになります。行政と市民が信頼し合い、協働して地域づくりを進めるためには、安易な財政改革とならないよう、長期的な視野にたった施策が必要です。
  行財政改革にとって、「事務事業の見直し」は重要な項目です。個々の職員による事務事業評価や政策評価は、事務事業の棚卸しとして重要ですが、改革は、職場での討議や、職員提案制度を活用した組織やグループの提案も、重要な役割を果たします。そうした提案を実効性のあるものにするためには、改革に取り組む仕事を業務として位置づけ、実行を可能とするバックアップ体制の保障をし、職員が成果を実感できる仕組みづくりが必要です。

4. 結びに
  京丹後市が合併して5年が経過し、第1次行財政改革期間が終了します。合併課題の解消の段階を経過し、京丹後市の未来への自立的・持続的な発展に向けての大切な、新たな第2次行財政改革年時をむかえます。
  しかし、職員数が激減するなかで、通常の業務内容はより専門的にそして複雑化してきています。さらには府からの権限委譲による業務も益々増加していく中で、現状での市役所内部だけでなく保育所等外部職場も含めた、これ以上の人員削減は限界に達しています。
  いくら便利な時代となっても、最後は人による慎重で適切な判断と迅速な処理が求められます。小人数を理由に間違いを起こすことは許されないのです。市役所職員は国や府の職員とは違い、常に市民と向き合った職場です。デジタルに頼りすぎた、相手の顔が見えない職場環境では、ヒューマンパワーが発揮できません。計画(削減)数字にとらわれすぎて、現状を見失うことの無いよう、常に現場第一を大切に対応していくことが求められています
  セクト主義を排除し、職員一人ひとりの主体性を発揮させる職場環境こそが無限の発展を引き出せる鍵であると思います。
  京丹後市の全市民の夢のある将来にむけて、対話をとおして職員一人ひとりが生き生きと仕事ができる仕組みづくり、長期的な視点に立った第2次行財政改革を望みます。

以  上