1. はじめに
(1) 自治体財政分析の取り組み
① 府本部財政分析プロジェクトの設置
有効性・効率性・透明性の高い行財政運営の確立は、自治体ガバナンス改革(自立と自律)の基礎的条件であり、スリム化行革が政治的課題となり、公務員バッシングの嵐が吹き荒れるなかで、労使関係を越えた喫緊の課題となっている。
自治体財政は、低成長経済への転換と少子高齢化の進展によって、以前のような右肩上がりの財政拡大はもはや望めず、他方、超高齢社会の到来などによって財政需要は増嵩し、自治体財政は一段と厳しくなることを前提としなければならない。
そのもとで、展望の見えない累次の「スリム化行革」は組合員の仕事意欲を失わせ、組織は沈滞している。市民に信頼される行財政運営の確立と組織活性化は、労働組合の主体的な運動課題となっているといえる。
自治体の閉塞状況を打破し、展望を開くための第2期地方分権改革は、国の役割の縮小による権限・財源の地方移譲を掲げているが、省庁官僚と族議員の抵抗で予断を許さない状況にある。こうした状況を転換するためにも、国と対等な地方政府としての力量を形成する取り組みいかんにかかっているといっても過言ではない。その意味で行財政運営をテーマとした主体的ガバナンス改革は極めて重要な課題である。
財政制約下で、政策・予算の重点化・再編成が要請されているが「政治的・多目的組織」である自治体において、政策・予算の重点化は、その政治的利害関係を直撃するため容易なことではない。これが、縦割り組織・前例踏襲・横並びといわれる抜きがたい組織体質となっている背景要因である。―機関委任事務制度下では、省庁主導で国・自治体直結の政策分野別縦割り構造をつくっていた―。これを打破するためにも、労働組合が縦割り組織構造のもとでの職場要求積み上げ型運動から脱皮する必要がある。全庁的視点での政策・予算の検証と再編・重点化のためのシステム構築に向けて、職場討議を組織し、労働組合としての政策提起が求められている。
また、自治体の予算・決算書は「決算統計」にみられるように、国の地方財政運営のデータとして処理しやすいことを基本に作られている。国に報告することを前提に作成しているため、財政課職員以外にはわからないようになっている。主権者・納税者である市民が一見して理解できるようなものに改革する必要がある。
以上のような情勢と問題意識を踏まえ、府本部は、財政担当者を中心とした財政分析プロジェクトを設置し、①単組の財政分析の取り組みを支援する「財政手引きづくり」(財政分析シートと用語解説の作成等)。②大阪府下4市1村の財政分析による財政運営上の課題・問題を摘出して財政分析のモデル・ケースとする。③財政分析プロジェクトの中間報告として「府本部財政セミナー」、最終成果については「府本部自治研集会」で報告を行う。ことをめざしてこの間取り組みを進めてきた。
② 府本部財政プロジェクトメンバー
代 表 高橋 篤 自治労大阪府本部書記次長
事務局長 吉田 寿樹 自治労大阪府本部調査部長
委 員 須山 純次 箕面市職
小林 光 四条畷市職
堀 慶祐 大阪狭山市職
南浦 清人 千早赤阪村職
坂下 孝治 泉南市職
助 言 者 的場 啓一 関西学院大学大学院経済学研究科奨励研究員
事 務 局 川邊亜須香 自治労大阪府本部
松田 亮一 自治労大阪府本部
田上 雅章 大阪地方自治研究センター
③ プロジェクト会議の開催
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第1回府本部財政分析プロジェクト会議
日 時 2009年6月20日(日)10:00~
場 所 自治労大阪府本部事務所
(PLP会館1階)
第2回府本部財政分析プロジェクト会議
日 時 2009年8月9日(日)14:00~
場 所 自治労大阪府本部事務所
(PLP会館1階)
第3回府本部財政分析プロジェクト会議
日 時 2009年10月19日(月)19:00~
場 所 PLP会館1階事務所
第4回府本部財政分析プロジェクト会議
日 時 2009年11月16日(月)19:00~
場 所 PLP会館1階事務所 |
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第5回府本部財政分析プロジェクト会議
日 時 2009年12月14日(月)19:00~
場 所 PLP会館1階事務所
第6回府本部財政分析プロジェクト会議
日 時 2010年1月25日(月)19:00~
場 所 PLP会館1階事務所
2010年度府本部財政セミナー
日 時 2010年2月23日(火)18:30~
場 所 PLP会館4階中会議室
内 容 講演「市町村財政における持続可能性
―財政規律の確保に向けて―」
講師 的場 啓一
(関西学院大学大学院経済学
研究科奨励研究員) |
2. 何で自治体の財政が苦しいのか
(1) 留保財源の議論を中心に
大阪府下市町村の経常収支比率は、その平均値に於いて近年限りなく100%に近い水準で推移しており、財政の硬直化が進み、危機的状況にある。さらに、大阪府の財政悪化のため、大阪府単独事業の補助金削減によって事業継続が困難となったり、分権改革という大義名分の下、府下市町村への財源保障を抜きにした権限委譲も進められつつもある。
このような状況の中で、府下市町村の財政当局は予算編成時期になると口をそろえて「財政が苦しくて予算が組めない」と言う。
これは、本来地方交付税制度上の基準財政収入額の算定に当たっては、標準的税収見込額×75%ということで、残りの25%については留保財源として担保してきたところであるが、この留保財源を食いつぶしてそれ以上に事業展開してきたツケ、すなわち「繰出基準外の繰出」と「交付税措置のない元利償還金」等の留保財源対応経費と留保財源の大小関係に起因することが明らかになってきた。
従って、基準外繰出、交付税措置のない地方債と不同意債の元利償還金はその市町村の留保財源から賄われることになるので、財政力の弱い団体=留保財源の小さな団体ほど、厳しい財政運営を余儀なくされ、独自の予算が組めなくなるということなのである。
本来留保財源を充当する経費とは、①一般行政経費の単独事業 ②投資的経費の単独事業 ③交付税措置のない公債費 であり、①と②はその気になればコントロール可能であるが、③については元利償還額が決まっているのでコントロールすることが出来ない。
交付税措置のない公債費を留保財源の範囲内に抑え、地方債を借りすぎないことが肝心である。
逆に「交付税措置のない公債費>留保財源」の自治体は、投資的経費や給与の削減を過去に目一杯してきた自治体ほど削減すべき「切りしろ」がないので財政運営を大変苦しく感じるのである。
このように留保財源は財政運営にとって重要な意味合いを持っているにもかかわらず、決算統計や交付税の算定において計算されるところがない。財政運営を考える上では、必ず留保財源と留保財源で賄うべき経費を計算し、「留保財源で賄うべき経費<留保財源」であることが重要である。
3. 市町村財政の持続可能性
(1) 持続可能性の意味
一般的に持続可能性とは「ある状態がその場限りで終焉を迎え消滅してしまうのではなく、将来にわたり、その状態が継続して存在し続けること」であり、自治体財政の持続可能性とは「自治体自らの意思により財政運営が行える状態が継続すること」である。自治を遂行するためにも、財政運営は自らの意思で行わなければならない。
しかし、赤字額や公債費が一定水準を越えた場合、「財政健全化計画」又は「財政再生計画」を策定し、債務不履行となる前に国の関与のもとで強制的に財政の健全化を図ることとなる。
「財政再生団体」になっても財政運営は可能ではあるが、国の管理のもとで行財政運営が行われるので、自らの責任で考え、判断し、実施する「自治」の確保が困難になる。
従って、持続可能な財政運営を行うためには、単に収支不足額の解消だけを行うのではなく、①単年度の収支の黒字 ②将来にわたる償還可能性の両方の条件を同時に達成していく必要がある。
(2) 4つの状況に対応した処方箋
(3) 持続可能性の捉え方
① 「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」による「将来負担比率」
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将来負担額-(充当可能基金+特定財源+地方債残高等に係る基準財政需要額算入見込額)
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標準財政規模-元利償還金等に係る基準財政需要額算入額
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② 「新たな指標」
財政持続可能性指標(償還可能年)=純負債÷償還財源
純負債=地方債残高+債務負担行為額退職手当引当-積立金残高-地方債残高等に係る基準財政需要額算入額
償還財源=経常的収入-経常的支出(公債費は元金償還額を除く)-公債費の利子に係る基準財政需要額算入額
③ 「償還財源」について
④ 「地方債発行額をコントロールする」
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