【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

 基準財政需要額とは、全国どこに住んでいても同等の行政サービスが受けられるよう国が算定した行政需要に係る必要経費の額のことです。行政需要に対し、いかに予算執行されているのか、基準財政需要額とその決算額について比較することによって、適正な予算を把握し、今後、どの事業を縮小・廃止していくべきかその判断基準となります。本レポートでは、庄原市における基準財政需要額と決算額の比較結果について報告します。



基準財政需要額と決算額の比較による庄原市の財政分析


広島県本部/自治労庄原市職員労働組合・組合専従 足羽 幸宏

1. はじめに

 庄原市は、2009年度決算で財政健全化比率の一つである「実質公債費比率」が23.5%と広島県内で最も高い状況にあります。このことについては、職員も市民も地方債償還が財政を逼迫させている厳しい状況ということは認識しているものの財政健全化に向け、適正な予算執行がなされているのか? その実態を知らないのが現状です。
 また、庄原市では、2005年から2009年に財政状況悪化を理由として独自賃金カットを行っています。自分たちが賃金カットを受けた理由は何か? また、日々の仕事の中に財政を悪化させる要因があるならば、「財政分析を行い、当局へ提言すべき」という財政分析の必要性を強く認識しているところでした。そんな折、広島県本部では、2009年10月に財政分析講座が開催され、私たちはその中で基準財政需要額と決算額をシートへ入力する方法を学びました。このレポートでは、入力したこのデータを基に、基準財政需要額と決算額の比較で見えてくる庄原市の特徴的な事項や今後さらに分析が必要な部分について、中間的に取りまとめました。

2. 基準財政需要額と決算額の比較による財政分析の意義

(1) 財政健全化4指標
 現在、国が定めている財政健全化4指標は、収支が赤字かどうかという「実質赤字比率」「連結実質赤字比率」、自治体の借金である地方債等の償還状況を示す「実質公債費比率」「将来負担比率」で自治体の財政状況を計っています。この基準を一つでも超えると早期健全化団体・財政再生団体として財政健全化の取り組みが義務付けられています。しかし、決算額トータルから導き出される「収支」と「借金」の状況のみの4指標では、財政状況が厳しいということは分かるものの、自治体のお金が何にどう使われているのか、また、私たちが日々行っている仕事が適正なのか計ることができません。

(2) 基準財政需要額と決算額の比較で見えてくるもの
 そこで、今回、財政分析講座で学んだ財政分析の手法が「基準財政需要額と決算額の比較」です。基準財政需要額とは、国が定める基準に基づき、日本全国どこに住んでいても同等の行政サービスが受けられるよう算定された行政需要に対する必要な経費の額のことです。この基準財政需要額は費目ごとに積み上げられ算定されています。つまり、行政需要に対しどのように予算執行されているか、基準財政需要額とその決算額について検証することによって、適正な予算執行をしているか、事業仕分けをするなら、どの事業を縮小・廃止していくべきか明らかとなるのです。

3. 庄原市の現況と財政状況(庄原市ホームページより抜粋)

① 庄原市の現況:
 ・人口:40,888人
 ・65歳以上人口:15,327人 37.5%
 ・世帯数:16,033世帯(※参考 合併時:44,151人 35.6%・16,219世帯)
 ・面積:1,246.60km2
 ・沿革:2005年3月31日に近隣の1市6町が新設合併して誕生
② 2008年度普通会計決算状況:
 ・標準財政規模:19,272,962千円
 ・歳入総額:31,215,920千円
 ・歳出総額:30,004,702千円
 ・財政力指数:0.30
 ・経常収支比率:95.1%
 ・実質公債費比率:23.5%
 ・財政調整基金残高:1,153百万円
 ・将来負担比率:223.5%
 ・ラスパイレス指数:94.4

4. 庄原市の基準財政需要額と決算額(充当一般財源)の比較


① 消防費   ② 土木費・道路橋梁費
傾向や特徴
 各年度、決算額が基準財政需要額(以下基準)を上回っています。特に合併後からは約4億円、上回っています。経常経費のみで毎年度、大きく乖離があることから、詳細に検証が必要です。合併後においても常備消防・非常備消防の再編をすることなく体制を維持しているためと考えられます。
傾向や特徴
 各年度とも投資の決算額が基準を上回っています。しかし、経常を見ると逆に決算額が下回っており、基準と決算額の経常と投資の合算では、決算額が下回っているので、経常分で投資分を賄っていることがわかります。

③ 土木費・公園費   ④ 土木費・下水道費
傾向や特徴
 各年度ともほぼ基準と決算額が同額となっています。2007年度から経常の決算額が増加しているのは、2006年度に総合運動公園が完成し、その維持管理費が発生したためと考えられます。
傾向や特徴
 下水道事業は特別会計で実施されており、事業での普通建設費は、基準では、投資的経費に分類されますが、決算では、一般会計においては、特別会計への繰出金で支出するため経常経費に分類されてしまいます。このことから投資の決算が0となっています。下水道費は、基準の投資と経常の合算が決算に見合っているかという見方になります。

⑤ 教育費・小学校   ⑥ 教育費・中学校費
傾向や特徴
 小中学校費を合算するとおおむね均衡します。

⑦ 教育費・その他の教育費   ⑧ 厚生労働費・生活保護費
傾向や特徴
 各年度とも決算額が基準を上回っています。その他の教育費には、スポーツ、文化振興、図書館、会館等の経費が計上されます。毎年度3億円以上の乖離があり、どのような事業で予算が必要となっているのか、詳細な検証が必要です。
傾向や特徴
 各年度とも決算額が基準を下回っています。大都市では、この逆の傾向がありますが、庄原市では、まだ親戚等のコミュニティーが残っており、このような特徴的な傾向が見られるものと思われます。なお、2004年度から2005年度にかけて需要額と決算額が増加しているのは、合併により旧町で行っていなかった生活保護の事務を合併後行うこととなり、増加しています。

⑨ 厚生労働費・社会福祉費   ⑩ 厚生労働費・保健衛生費
傾向や特徴
 各年度とも10億円以上、決算額が基準を上回っています。この費目については、どの自治体でも同じ傾向があり、保育所にかかる経費がこの費目であり、この乖離が保育所の廃止、統合、民間移譲、指定管理者制度の導入の要因となっています。民主党政権下での国の基準財政需要額算定方法の変更が求められます。
傾向や特徴
 各年度とも約5億円、決算額が基準を上回っています。この費目については、国民健康保険特別会計への繰出金が主な要因と考えられます。

⑪ 厚生労働費・高齢者福祉保健費   ⑫ 厚生労働費・清掃費
傾向や特徴
 各年度とも決算額が基準を下回っています。この傾向は庄原市の特徴的な傾向で1世帯に複数世代が同居している世帯が多いため、「家」が高齢者を支えている高齢者が多いわりに「公」での経費負担が少ない状況にあります。
傾向や特徴
 各年度とも決算額が基準を上回っています。庄原市では、ごみ収集の有料化を行っていますが、それでもなお経常経費が上回っています。要因としては、広大な市域面積での収集作業を行うためと考えられますが詳細な検証が必要です。

⑬ 産業経済費・農業行政費   ⑭ 産業経済費・商工行政費
傾向や特徴
 各年度とも決算額が基準を上回っています。庄原市は農業が基幹産業であり、近年の農業衰退に対し、農業再生に向け、農業振興事業を実施しています。その経費が基準を上回る要因と考えられます。
傾向や特徴
 各年度とも決算額が基準を大きく上回っています。庄原市では市独自で中小企業者の資金借入れ、利子補給のための制度を設けており、このことが基準を上回る要因と考えられます。

⑮ 産業経済費・その他の産業経済費   ⑯ その他の経費・企画振興費
傾向や特徴
 各年度とも決算額が基準を下回っています。この費目の黒字分を農業・商工行政費へ充当しているものと考えられます。
傾向や特徴
 2007年度から決算額が0となっています。庄原市では、農業振興・観光振興・定住促進・木質バイオマス活用プロジェクト事業を行っており、企画振興費がプロジェクト事業として他の農業・商工行政費で充当されているものと考えられます。

⑰ その他の経費・徴税費   ⑱ 公債費
傾向や特徴
 徴税費≒人件費であり、合併後に大きく金額が下がっています。特に周辺地域の住民サービスの低下となっていないか、検証が必要です。
傾向や特徴
 各年度とも大きく決算額が基準を上回っています。単年度の税収40億円を大きく超える60億円を毎年度、借金返済に充当しており、庄原市財政逼迫の大きな原因となっています。

⑲ 投資的経費    
傾向や特徴
 基準は2004年度と2008年度を比べると1/3に減少しているにもかかわらず、決算額の乖離は2007年度、2008年度と大きくなっています。要因としては2008年度まで新庁舎建設を行っておりこのことが要因と考えられます。2009年度決算の状況を見つつ、要因の詳細を検証する必要があります。

5. 最後に

 以上のように2004年度から2008年度の各費目における基準財政需要額と決算額を比較しました。これによって庄原市の特徴や傾向が明らかとなり、さらに詳細な検証を行うべき事項も明らかとなりました。今後もこのデータを活用しながら財政分析を行っていきたいと考えています。
 最後に今回のレポートの作成にあたり、元自治研究センターおかやまの横山泉さんの協力により、基準財政需要額及び各年度の決算額データの入力とグラフ化をすることができました。ご協力に感謝するとともに今後の庄原市の財政分析にご協力いただきますようよろしくお願いします。