【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

決算統計から見た今後の公共下水道事業について


大分県本部/臼杵市職員労働組合

1. 臼杵市の生活排水処理

 当市では、臼杵地域においては公共下水道(臼杵処理区及び市浜処理区)、農業集落排水施設(深田地区)、漁業集落排水施設(泊ケ内地区)、野津地域においては、特定環境保全公共下水道(野津処理区)、農業集落排水施設(王子地区)、特定地域生活排水処理施設(市町村設置型浄化槽)、その他の地区においては個人設置型の浄化槽により生活排水処理を行っています。
 これらの下水道事業は、5つの特別会計で管理しており、今回は予算規模の一番大きな公共下水道事業特別会計(法非適)について、検証してみたいと思います。

2. 公共下水道とは……

① 公共下水道とは、主として市街地における下水を排除し、又は処理するために地方公共団体が管理する下水道で、終末処理場を有するもの又は流域下水道に接続するものであり、かつ、汚水を排除すべき排水施設の相当部分が暗渠である構造のものをいう(下水道法第2条第3号)。
② 公共下水道の役割には、(ア)生活あるいは生産活動によって生じる汚水の排除、(イ)都市内に降った雨水の排除、(ウ)水質汚濁の原因となる汚水を処理する公共用水域の水質の保全の3つがあります。
③ 公共下水道は都市施設として位置づけられているため、都市計画区域内に全体計画区域を設定し、その中で事業認可を受けなければなりません。事業認可を受けた地域では、公共下水道への接続が義務付けられているため、浄化槽の設置補助金が出ません。

3. 決算統計から見る臼杵市の公共下水道事業経営

① 臼杵市に限らず多くの市町村の公共下水道事業は、公営企業として実施しているため、特別会計を設置し、事業展開をしています。
  そのため、年度ごとに決算し、経営分析を行いますが、重要視されるのが収支バランスです。その収支バランスを決算統計から読み取るために、収益的収支と資本的収支を理解する必要があります。
  収益的収支とは、収入では主に使用料、手数料、雨水処理負担金及び一般会計繰入金等があげられます。支出では一般管理費や終末処理場をはじめとした各種施設の管理費及び起債借入に係る支払利息等があげられます。
  一方、資本的収支とは、収入では建設改良に伴う国庫補助金、起債、工事負担金、不足収入分を補う一般会計繰入金があげられます。支出では、工事費、工事に係る職員人件費及びこれまでの建設改良の際に借り入れた起債の償還元金があげられます。
② 上記のことを踏まえ、一部の項目を例にとって臼杵市の公共下水道事業を分析してみます。
 ア 使用料収入と水洗化率
   これは、有収水量(料金賦課した水量のこと)に左右されますが、基本的には、整備事業の推進により処理区域面積の増加とともに接続する戸数が増加すれば、有収水量が増加するため使用料収入は増えます。(表1参照)

【表1】
 
項   目
単 位
H18
H19
H20
1
現在処理区域面積
ha
409
420
430
当該年度-前年度
11
10
2
現在処理区域内人口
15,715
15,745
16,165
当該年度-前年度
30
420
3
現在水洗便所設置済人口
13,370
13,471
13,832
当該年度-前年度
101
361
★4
水洗化率
85.08
85.56
85.57
当該年度-前年度
0.48
0.01
5
年間有収水量
3
1,543,683
1,583,023
1,598,539
当該年度-前年度
39,340
15,516
★6
1人当たり年間有収水量
3
115
118
116
当該年度-前年度
3
-2
7
年間使用料収入
千円
229,832
234,469
236,232
当該年度-前年度
4,637
1,763
8
使用料単価
149
148
148
当該年度-前年度
-1
0
★9
1人当たり年間使用料
17,190
17,405
17,079
当該年度-前年度
215
-326
★は、決算統計から導き出される指標

   表1の1行から3行までを見ると、1行の処理区域面積の増加分がそのまま処理区域人口の増加につながるのではなく、前年度までの整備済地域内の人口増減も影響します。
   4行の水洗化率を見ると、H18年度からH19年度にかけては0.48ポイントの水洗化率の上昇が見られますが、H19年度からH20年度にかけては0.01ポイントしか上昇していません。類似団体比較によると水洗化率は高い方ではありますが、接続可能な状態にあるにも関わらず、約15%の住民が接続をしていない現状を多いと思うのか、少ないと思うのかが経営における感覚の差と思えます。
   H20年度の指標を参考にして、仮に水洗化率が90%になった場合、水洗化人口は14,548人となり、716人の増加となります。9行の指標より1人当たりの年間使用料が17千円と仮定した場合、716人×17千円=12,172千円の収入増となります。
   公共下水道への接続は、携帯電話のように途中解約するというようなお客様は基本的にはいませんので、一度接続してもらえれば、半永久的な顧客となります。
   このように、水洗化率向上策は新たな建設改良費を投資することなく取り組むことができる、経営に直結した施策と言えます。また、早ければ早いほど効果は絶大といえます。
   ここでは触れませんが、接続するためには桝引き工事費と汚水処理費を考慮し、採算ベースを算出する必要が生じることを付け加えておきます。
 イ 維持管理費と資本費
   次に支出のうち維持管理費と資本費について分析してみます。
   維持管理費とは、下水道管自体の維持管理に係る管渠費、ポンプ場の運転に係るポンプ場費、終末処理場の運転に係る処理場費、一般事務等に係るその他費のことをいいます。
   一方、資本費とは建設改良事業を行う際に借り入れた起債の元利償還金のことをいいます。
   また、維持管理費と資本費のそれぞれを汚水処理費や雨水処理費等費用別に振り分ける必要があります。イメージは下の図を、経費内訳は表2を参照してください。
維持管理費
資 本 費
汚水処理費
雨水処理費
繰出基準に基づく経費
そ の 他

【表2】
 
  
項   目
H18
H19
H20
維持管理費
1
汚水処理費
148,048
132,062
144,227
当該年度-前年度
 
-15,986
12,165
2
雨水処理費
5,941
9,794
11,118
当該年度-前年度
 
3,853
1,324
3
その他基準内繰入金
13,960
20,288
10,576
当該年度-前年度
 
6,328
-9,712
4
その他
756
0
0
当該年度-前年度
 
-756
0
5
合 計
168,705
162,144
165,921
当該年度-前年度
 
-6,561
3,777
資 本 費
6
汚水処理費
262,122
207,907
143,936
当該年度-前年度
 
-54,215
-63,971
7
雨水処理費
16,401
15,483
21,669
当該年度-前年度
 
-918
6,186
8
その他基準内繰入金
233,577
112,604
61,160
当該年度-前年度
 
-120,973
-51,444
9
分流式下水道に要する経費
0
269,150
298,533
当該年度-前年度
 
269,150
29,383
10
合 計
512,100
605,144
525,298
当該年度-前年度
 
93,044
-79,846
合   計
11
汚水処理費
410,170
339,969
288,163
当該年度-前年度
 
-70,201
-51,806
12
雨水処理費
22,342
25,277
32,787
当該年度-前年度
 
2,935
7,510
13
その他
248,293
402,042
370,269
当該年度-前年度
 
153,749
-31,773
14
合 計
680,805
767,288
691,219
当該年度-前年度
 
86,483
-76,069

   表2中の経費のうち、汚水処理費は受益者が全額負担することが基本となっています。
   一方、雨水処理費及び繰出基準内経費は、一般会計が全額負担し、後年度交付税措置されるようになっています。
   また、当市ではH19年度から繰出基準内経費として分流式下水道に要する経費を計上していますが、この経費は赤字補てん的役割を担うための繰出金としての色合いが強いため、別掲して表示しています。
   表2よりH20年度における使用料収入でまかなうべき支出となる汚水処理費は11行の288,163千円となり、一般会計でまかなうべき経費は12行の雨水処理費と13行のその他の合算値となり403,056千円となります。
   表1よりH20年度の使用料収入は、236,232千円であることから、使用料収入で汚水処理費のうち維持管理に係る経費の全部を、資本費の64%をまかなえていることがわかります。
   ここで、仮に分流式下水道に要する経費がなかった場合は、9行の298,533千円は汚水処理費として計上されるべき経費となりますので、
(236,232-144,227)/(298,533+143,936)× 100 = 20.8%
となり、資本費の約5分の1しかまかなえていないことになります。
   しかし、ここで公共下水道事業の投資については、道路や公民館等を造るのと同様にインフラ整備として捉え、仮に「資本費の半額は公費でまかなうべき」という政治的判断をすれば、使用料収入でまかなえていない約30%の資本費は、将来の受益者に負担してもらうことにより、数十年後には黒字へ転換することが予測されます。
   したがって、政策次第によっては、公共下水道事業は必ずしも一般会計のお荷物とは言えず、健全会計が期待されます。
   仮に維持管理費自体もまかなえない状態であれば、事業を継続すればするほど赤字が増え、一般会計に大きな影響を及ぼす事となります。
   ちなみに、公共下水道事業以外の下水道事業はこの状態にあることを申し添えます。

4. これからの公共下水道事業 

 当市では、H21年度に臼杵市生活排水処理整備構想を作成し、これまでの公共下水道事業計画区域を見直し、建設単価の高い地域の認可区域を縮小し、これからの生活排水処理を公共下水道だけに頼らない方法を模索しています。
 また、今回は建設改良費ついては触れませんでしたが、認可区域の縮小に伴う投資の抑制や老朽化に伴う施設の更新等も視野に入れ、計画的に事業を推進する必要があります。
 しかし、この建設改良費ついては、環境対策事業であるとともに景気対策としての役割を担う公共事業でもあるので、極めて政治的判断が要されます。
 これからの、公共下水道事業経営については、政治的判断を要さない分野で職員一人一人経営者になったつもりで、一丸となって、より一層の健全化へ向けた取り組みが必要となります。
 ここで、これからの取り組み例を挙げてみます。

(1) 未収金対策・滞納整理の強化
 使用料については、ここ数年の収納率は95%を超えているものの、100%収納してしかるべき金額と捉え、滞納者と連絡を密にし、積極的な滞納整理を行う必要があります。

(2) システムの導入による有効活用
 臼杵市では、H21年度にGISシステムと固定資産台帳と受益者負担金システムをリンクさせた下水道管理システムを導入しました。
 これにより、受益者負担金の賦課漏れ防止や、下水道未接続世帯等を検索することが容易となり、有効活用できることが期待できます。

(3) 水洗化率の向上
 前述の「使用料収入と水洗化率」のとおり、水洗化率向上対策に早急に取り組むことが、経営改善への近道であることは言うまでもありません。
 しかし、下水道に接続するための宅内工事費やこれから発生する使用料のことを考えれば、お客様にとって一概に下水道に接続した方が得策であるとは言えません。
 そこで、宅内工事費補助金を設けたり、使用料体系の見直しを行ったりと対策を講じる必要があります。

(4) 投資と起債管理
 前述の3.では、起債の件には触れませんでしたが、地方交付税の縮減傾向を鑑みれば、「交付税措置」という言葉をこれまでの交付税の上乗せと捉えて、起債を主な財源とした事業に投資していくことは危険であると思われます。
 したがって、今後の起債残高や元利償還金の支払額等を管理し、適正な起債計画を立て、建設改良を推進する必要があります。
 場合によっては、建設改良の推進を一時凍結するという判断をしなければならない時期が来るかもしれません。