【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

地方分権改革から地域主権改革へ


大分県本部/大分県地方自治研究センター・理事 福田 正直

1. 地方分権改革からの転換、地域主権改革へ

(1) 地方分権改革推進委員会、役割終える
 昨年9月16日に発足した民主・社民・国民新3党による鳩山連立政権は、連立とはいえ民主主導政権であるが、民主マニフェストと連立合意を踏まえて自公政権からの転換を打ち出し、八ツ場ダムの中止、高速道無料化、後期高齢者医療制度の廃止、障害者自立支援法の廃止、子ども手当の支給、郵政事業の抜本的見直し等々の公約推進を打ち上げた。分権改革についても、これまでの地方分権は中央依存型の分権改革にとどまり、しかも霞ヶ関省庁の抵抗にはばまれ進んでいないとし、「霞ヶ関」を解体・再編して、地域のことは地域で決める「地域主権」を政治主導で確立する、とした。地方分権改革から地域主権改革への転換である。政権発足後間もなくの10月2日には、平野官房長官が、「地方分権改革推進委員会と道州制ビジョン懇談会はリセットする」と表明、廃止する方針を明らかにした。続いて10月6日には原口総務相が閣議後の記者会見で「地方分権改革推進委員会の扱いについては今後検討」と述べたが、10月8日に出された地方分権改革推進委員会の第三次勧告を受けて、同総務相は「地方分権改革推進委員会は発展的に改組」する考えを明らかにした。さらに10月9日同総務相は、地方分権改革推進委員会の後継組職として「地域主権戦略局(仮称)を設置する」とし、政治主導で地域主権改革を進める方向を示した。
 一方、地方分権改革推進委員会は9月28日、丹羽委員長が新政権に対し、分権改革の「良識ある継続」をアピールして牽制球を投げた上で、10月8日の第三次勧告(義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大、地方自治関係法制の見直し、国と地方の協議の場の法制化など)に続き、11月9日には最終勧告となる第四次勧告を鳩山内閣に提出した。この第四次勧告では、地方交付税の総額の確保及び法定率の引上げ、直轄事業負担金制度の改革、地方自治体への事務・権限の移譲と必要な財源の確保、国庫補助負担金の一括交付金化に関する留意点など、主として自治財政権の強化を求めた。これで、第二期分権改革推進の役割を担った地方分権改革推進委員会はその使命を終え、本年3月19日の最終会合で4次にわたった勧告を早急に実現することを求める声明を発表した。

(2) 15年に及んだ「未完の分権改革」
 これまでの分権改革をひもとくと、1995年7月から2001年6月までの第一期分権改革(地方分権推進委員会の設置、6年間)、2001年7月から2004年5月まで改革調整・推進期(地方分権改革推進会議の設置、3年間)、2004年から2007年までの分権改革休止期(合併・行革の同時進行、三位一体改革ショック、3年間)、そして2007年4月から2010年3月までの第二期分権改革(地方分権改革推進委員会の設置、3年間)の4区切りとなる。中央集権の牙城とされる霞ヶ関の抵抗が強く、加えて自治体側の自律的、能動的な姿勢も乏しいため15年にも及ぶ分権改革はなお「未完の分権改革」にとどまってはいるが、民主党のいう地域主権改革がこれまでの分権改革の否定と断絶の上に構築されるわけではない。第一期分権改革で実現した機関委任事務の廃止は分権改革の画期となったものであり、第二期分権改革で指向された自治行政権、自治財政権、自治立法権を有する完全自治体=地方政府の確立は、地域主権改革に継承されてしかるべきコンセプトであろう。
 いずれにしても舞台は地方分権改革から地域主権改革へと大きく転換することとなった。

2. 具体化しはじめた地域主権改革

(1) 地域主権戦略会議を設置
 地方分権改革から地域主権改革へと舵をを切りかえた鳩山政権は、政権発足後間もなくの9月18日、政府閣議で「国家戦略室」と「行政刷新会議」の設置を決め、各府省に大臣、副大臣、政務官で構成する政務三役会議を置き、政治主導を徹底する方針を決めた。続いて11月17日の閣議では、地方分権改革推進本部を廃止、地域主権戦略会議を設置することも決めた。戦略会議は、関係閣僚、有識者で構成され、従来の審議会型の政策決定から政治主導の政策決定並びに推進を担うものである。
 戦略会議の構成メンバーは次の通り。
  議 長  鳩山 由紀夫(首相)
  副議長  原口 一博(総務相)
  構成員  菅 直人(副総理)、藤井 裕久(財務相、当時)
       平野 博文(官房長官)、仙谷 由人(行政刷新相)
       上田 清司(埼玉県知事)、北川 正恭(早稲田大教授)
       北橋 健治(北九州市長)、小早川 光郎(東大教授)
       神野 直彦(関西学院大教授)、橋下 徹(大阪府知事)
       前田 正子(横浜市国際交流協会理事長)
 戦略会議は前述の通り政策決定と推進の起動力をつかさどる司令塔であり、政策形成と改革推進の具体策は、総務省が中心的に担うことになろう。審議会方式とちがって効率的だが、集権的な機能と言えなくはない。

(2) 地域主権戦略の工程表(原口プラン)決まる
 12月14日には地域主権戦略会議の初会合が開かれ、当面の改革方針原口プランが確認された。その内容は次の通り。
① 地域主権戦略大綱を10年夏までに策定する
② 2010年3月に地域主権推進一括法案(第一次)を提出。2010年度末には第二次地域主権推進一括法案を提出。自治体への義務付け、枠付けの見直しと権限移譲を進める
③ ひもつき補助金を廃止して一括交付金化、地方税財源の充実確保をはかり、直轄事業負担金を廃止する
④ 地方自治法を抜本的に見直し、地方政府基本法を制定する
⑤ 国の出先機関の改革をはかる
⑥ 国と地方の協議の場の法制化をはかる
 この原口プランにそって3月3日には地域主権戦略会議が5月までに地域主権戦略大綱の骨子をまとめる方針を決め、同月5日、政府は地域主権推進関連三法案を閣議決定した。

(3) 地域主権戦略大綱骨子まとまる
 地域主権戦略会議は5月24日、6月中にまとめる地域主権戦略大綱の骨子を検討した。骨子は、
① 地域主権改革の全体像
② 義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大(第二次分)
③ 基礎自治体への権限移譲
④ ひもつき補助金の一括交付金化の基本的な考え方
⑤ 国の出先機関の抜本的な改革の基本的な考え方
⑥ 地方政府基本法の制定
 などで構成され、具体的な議論が行われることになる。

3. 地域主権改革関連三法案

 4月7日、地域主権改革関連三法案が国会に上提され、先議した参院では同月28日、三法案を可決した。

(1) 地域主権改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律
 この法律は首相を議長とする地域主権戦略会議の設置の法制化と、義務付け、枠付けの見直しに関するもの。地域主権戦略会議は従前の地方分権改革推進委員会と地方分権改革推進本部にとって替わるもので、内閣府に設置し、条文で「地域主権改革に関する基本的な方針その他の地域主権改革に関する重要事項について調査審議」し、それにもとづいた「施策の実施を推進する」ことと明記した。
 義務付け、枠付けの見直しは、12月15日に閣議決定された地方分権改革推進計画に盛り込まれた41法を一括改正するもので、児童福祉施設などの施設等の基準を条例で規定できるほか、市町村立幼稚園の設置・廃止等の認可を事前届出制とする等の改正である。義務付け、枠付け等の見直しは、地方分権改革推進委員会の第三次勧告を踏まえたものだが、省庁の抵抗が強く、自治体の自由裁量の拡大にはほど遠い。また一方で、義務付け、枠付けの見直しは国のナショナルミニマムの歯止めを無くす事項もあるとの懸念が指摘されている。

(2) 国と地方の協議の場に関する法律
 国と地方の協議の場の設置は地方6団体が強く求めていたもので、地方分権改革推進委員会の第3次勧告でも設置の法制化を求めていたもの。関係主要閣僚と地方6団体代表が国と地方の役割分担や、地方行政・地方財政・地方税制等について協議し、関係者は協議の結果を尊重しなければならない、と明記した。

(3) 地方自治法の一部を改正する法律
 この改正案は①議員定数の法定上限の撤廃、②法定受託事務など議決事件の範囲の拡大、③議会の事務局、長の内部組織、委員会の事務局など行政機関の共同設置、④市町村基本構想の策定義務付け廃止、⑤直接請求代表者の資格制限の創設等を盛り込んだもの。地方自治関係法の見直しについても、地方分権改革推進委員会の第3次勧告でふれられてはいたが、具体的な改正項目は勧告内容とは異なったものだ。これは地方自治法の抜本改正と、地方政府基本法のあり方を検討するため、原口総務相所管のもとに設置された地方行財政検討会議(2010.1.20設置)がまとめた改正項目である。

4.「地方政府基本法」の制定めざす

(1) 全国知事会、「地域主権基本法」制定を提唱
 全国知事会は昨年11月25日の全国知事会議において鳩山首相に「地域主権基本法」の制定を提唱し、鳩山首相は真剣に検討したいと応じた。また松沢神奈川県知事は、現行地方自治法は自治体管理法であるとし、地方自治法を抜本改正して「地方自治基本法」を制定するよう求めた。

(2) 「地方政府基本法」の検討へ
 総務省は1月20日、地方行財政検討会議の初会合で「地方政府基本法」制定に向け、地方自治法の抜本改正をふくめた検討に入ることとした。検討項目としては①自治体の基本構造のあり方(自治体の基本構造の多様化、基礎自治体の区分の見直し、大都市制度のあり方など)、②住民参加のあり方(議会のあり方、一般的な住民投票制度のあり方、長の多選制限、規模の拡大に伴う自治体経営への住民参加の手法など)、③財務会計制度・財政運営の見直し(監査制度等の抜本的見直しなど)、④自治体の自由度の拡大(執行機関、議会の組織・権解など)等をリストアップした。
 また「地方政府基本法」の位置づけについては、2月15日の地方行財政検討会議で原口総務相は、憲法と一般法の中間に位置し、諸法を統制する上位法とする方針を明示した。
 地方自治に関する基本法制定の動きは別に目新しいことではない。1998年すでに自治労・自治総研が参画した自治基本法研究会(代表 篠原一)が地方自治基本法(案)を作成、公表している。分権改革の流れの中で改正を重ねてきた地方自治法のあり方をふくめ、「地域における自己決定」「住民が自治体をつくる」という観点から、その名称はともかくとして基本法制定の方向はけだし当然であろう。

5. ひもつき補助金の一括交付金化

 地域主権改革の予算関連ではひもつき補助金の一括交付金化が大きな課題である。各省庁が所管する自治体向け補助金は2010年度予算で609本、合計で20兆9,794億円に上る。ひもつき補助金の一括交付金をめざす鳩山政権に対し、地方側の期待は大きいが、一方で省庁の抵抗は根強い。

(1) 各省庁、一括交付金化に難色
 3月18日 地域主権戦略会議は、補助金の一括交付金化について各省庁ヒアリングを行った。このヒアリングは副大臣・政務官から行ったものだが、いずれも一括交付金化には、「使途に縛りがないと国の政策目的は果たせない」、「使途にまったく制約がないことはあり得ない」、「保育や介護など重要な施策は一律的な方法がなじむ」などと反対意見が相次いだ。官僚ではなく政権の政治家からであるから、その根は深い。国交省が先取り的に措置したとする2010年度予算「社会資本整備総合交付金」2兆2千億円も、補助金を束ねてメニュー化しただけでその使い方は省内の局間も横断できないものだ。

(2) 地方側の期待と警戒
 地域主権戦略会議は4月19日、一括交付金化について地方3団体(全国知事会、同市長会、同町村長会)から意見聴取した。地方側は、一括交付金の「地方の自由裁量拡大」には賛同しつつも、各省庁の抵抗に懸念を示し、さらに2004年の「三位一体改革」の悪夢を引き合いにして、「一括交付金化を国の財源留保の手段にしてはならない」と牽制した。

(3) 省庁横断型の一括交付金成るか
 5月24日、地域主権戦略会議はひもつき補助金の一括交付金化に向けた考え方をまとめた。省庁横断型の一括交付金とし、6月にまとめる地域主権戦略大綱に明記、2011年度からの段階的導入をめざす。その骨子は、
①省庁横断型とし、自治体が使い道を自己決定できる財源とする、②11年度は公共事業など投資関連、12年度から義務教育や社会保障にも範囲を広げて導入する、③公共事業予算の配分先を決める「箇所付け」は廃止する、などとなっている。問題は予算分配の権限を奪われる各省庁の抵抗をどう押し切るか、である。

6. 地域主権改革と合併、そして道州制

 自公政権下の地方分権改革では、分権の「受け皿」づくりとして市町村合併が進められ、財界の要望も踏まえた形で地方制度の再編、いわゆる道州制の導入も射程に入っていたことは周知の通りである。では鳩山政権下の地域主権改革においては、合併、道州制がどうなるのであろうか。垣間見える状況を点描しておこう。

(1) 鳩山首相「合併は閉じる話ではない」
 1999年4月、兵庫県篠山市の合併を第1号としてはじまった「平成の大合併」は本年3月末をもって一区切りとなり、10年の合併期間で市町村数は3,232から1,730へと減少した。これだけ合併が進んだのは、分権の「受け皿」づくりを謳い、国策合併として財政的なアメとムチを使い、半強制的に市町村を追い込んだことによる。市町村合併特例法は改正施行され、さらに10年延長されたが、今後は自主的な市町村合併を支援する障害除去法にとどまる。
 現行1,730の市町村のうち3万人以下の小規模自治体は926、うち1万人以下は459もある。早くも小規模自治体が地域主権を担えるのかとする議論も出ており、総務省では小規模自治体の対応策として①自主的合併による行財政基盤の強化、②事務の共同処理方式による周辺市町村間での広域連携、③都道府県による事務の補完、を打ち出しているところだ。
 さて、基礎自治体重視をかかげる地域主権改革は、基本的に自治体規模拡大論と連動し易く、民主党の政策論議の中でも500自治体論、700~800自治体論が見えかくれしてきた経緯がある。また小沢幹事長は、早くから300自治体論者である。
 3月3日の地域主権戦略会議において、鳩山首相は「合併の話は閉じてしまうべきでない」と語っているが、地域主権改革が進む中で新たな市町村合併がはじまる可能性は否定できない。

(2) 道州制、早くも再燃
 少しさかのぼるが2008年の11月に民主党分権調査会がまとめた「霞ヶ関解体・再編と地域主権の確立」報告書では、基本理念として「地方分権国家の母体は道州ではなく基礎自治体とし、全国を300程度の基礎自治体で構成する」とされた。しかしその後2009年6月の民主党マニフエストでは300自治体論はタナ上げ、道州制を検討課題とした。そして鳩山政権発足後の10月23日、原口総務相は経団運と懇談、道州制導入について検討するため経団連と共に作業部会を設置することを表明した。また昨年の12月17日、経団連など財界3団体は「地域主権と道州制を推進する国民会議」を設立。さらに民主党のシンクタンクの一つを担うとも言えるPHP総合研究所は今年の2月2日、「地域主権型道州制-国民への報告書」を公表した。これらの動きは、地域主権改革に道州制をインプットする作用を少なからず及ぼすことになるだろう。それかあらぬか5月19日、原口総務相や日本経団連との意見交換会で、道州制基本法について来年の国会に提出することも視野に検討する考えを示した。

7. あらためて地域主権改革とは

 筆者は「自治研おおいた」No.148<10.1.1発行>の「ウオッチング 第二期分権改革No.10」で「地方分権から地域主権へ」と題したレポートを報告、その中で地域主権改革について筆者なりに論じてみたが、あらためて本稿で再整理しておきたい。

(1) 地域主権改革にいう地域とは
 「地方分権」から「地域主権」への転換は中央が地方に権限を分け与える分権ではなく、地域のことは地域の主権者である住民が自ら決めるというコンセプトとしているが、では「地域」とはいったいどのように理解すればいいのであろうか。地域とは通常一定の土地の区画のことであるが、地域を冠した用語は、すぐに思いつくだけでも地域開発、地域農業、地域医療、地域福祉、地域計画、地域振興、地域再生、地域公共交通、地域観光、地域住民、そして地域コミュニティとさまざまである。しかも一定の区域ではあるが区域の範囲は不均一で、地域コミュニティのようにごく狭域のものから地域開発のように行政境界を越える広域なものまである。このように漠とした地域に対して、住民の主権がどのように発揮できるのであろうか。統治システムからすれば、国民・住民としての「主権」の行使は行政体を介するしかないのであるから、まず「地域」というものの整理をするほかはない。筆者は一つの方法として地方自治法に手がかりを求めてみた。汎称としての地方自治体は、法律用語としては地方公共団体(第1条)であり、地方公共団体は地域における行政を広く担うもの(第1条の2)とされている。さらに、地方公共団体は普通地方公共団体及び特別地方公共団体とからなり、普通地方公共団体は都道府県及び市町村(第1条の3)である。そして、普通地方公共団体は地域における事務及びその他の事務…を処理する(第2条)としている。つまり地方自治法上の地域とは、地方公共団体を画する区域のことであり、具体的には都道府県、市町村である。したがって地域的な性格を有する行政・事務に限って、地域団体かつ統治団体としての都道府県、市町村が自主的に主権者たる住民から信託された主権を行使することができる、と理解されよう。民主党の言う地域主権とは、すなわち都道府県主権、市町村主権の総称とみていいのではないか。ただしかし、地域主権は現行の行政圏域だけにとどまらず、将来の道州制にも対応できる自在性を持った語法でもある。

(2) 国家主権との関係は
 ところで、わが国は単一主権国家である。憲法で明記されているように統治上の主権は国民に存する。国家統治の権力の由来は国民主権であり、国家の国際的な存立原理は国家主権である。地域主権というとき、地域統治上の限定的な主権にとどまるそれと、地域をも包括した国家統治上の国家主権との関係はどのように整理すればいいのであろうか。この主権の並立は、国と地方自治体を政府間関係としてとらえるならば、上下・優劣とみるのではなく相互不可侵・相互尊重の関係であると筆者は考えたい。第一次・第二次分権改革を通じて、国と地方は上下・主従から対等・平等となったとされ、地方自治体は自治行政権、自治財政権、自治立法権を有する完全自治体=地方政府をめざす方向が共有されてきているところだが、民主党は地域主権の確立、地域主権国家の構築というキャッチワードをいたずらに弄するだけでなく概念の明確化を急ぐべきである。
 さらに付言しておきたいのは、地域主権と言うならば、自治権の由来について「固有権説」に依った立論が求められるのではないか。これまで学説の主流は「伝来説」(国家承認説、制度保障説)であり、進められてきた分権改革も民主党が指摘するように国が分け与えるとしたもので、伝来説の限界を出るものではない。だとすれば固有権説にもとづく地域主権の論理構築は急がれるべき課題だ。

(3) 上からの地域主権改革にとどまるか
 地方主権、地域主権などの語法は今にはじまったことではなく、70年代からすでに見られる。それは地方政府論の展開とも関係しているが、主権論には、権限・事務の分与にとどまりがちな分権改革の限界を乗りこえようとする衝動があり、地方政府論には、国の末端行政機構に甘んじてきた「地方公共団体」を完全自治体に解き放とうとする意欲があった。そして、それらの提唱が分権改革論議を深めてきたことは否定できない。
 これまでの分権改革の系譜をみるとき、①実践改革(1960~70年代の革新自治体、先駆自治体の取り組み)、②行財政改革との運動(行革審や地制調の答申)、③政治・法制度改革(国会における分権決議、地方分権推進法、平成の大合併)、④国際的な流れ(ヨーロッパ地方自治憲章、世界地方自治宣言)などの視角で整理することができる。分権改革を大きく具体化したのは勿論政治・法制度改革である。第一期分権改革における機関委任事務の廃止、第二期分権改革における自治体の完全自治体化(自治行政権・自治財政権・自治立法権=地方政府の確立の明示などは評価されるべきであるが、所詮上からの改革であり、自治体にしてみれば他律依存型の分権改革に引き回されてきた感は否めない。今、民主党は政治主導をかざして地域主権改革を進めようとしているが、地域主権戦略会議の一元的な機能といい、政治主導といい、これまでの審議会型、官僚主導より以上に上からの改革にとどまる懸念を禁じ得ない。
 真の分権(あるいは主権)改革は、自治体自らの自律自存型の実践改革を伴わない限り、その実は上げ得ないのではないか。