【論文】自治研究論文部門奨励賞

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

 特別区が基礎自治体としての市になるために、各区に地方交付税を適用し、交付金の算定を試みた。その結果、12区が不交付団体となる。都心3区に膨大な税収が集中する。各区の財政力に大きな格差が発生することなどが明らかになった。以上から、地方交付税交付金の特別区各区への単純な適用はできないこと、また、都区財政調整制度が、国、東京都、特別区で財源を分け合うための制度であることが明らかとなった。特別区が市になるための都区財政調整制度や地方交付税に代替するオルタナティブの構想が今後の課題である。特別区が都区制度から離脱して、基礎自治体として自立した市となるためには、その理念に適合した、それを支える財政システムの確立が不可欠である。本稿では、それに向けての一つの作業として、特別区が一般市になるという想定の下で、各区に地方交付税を適用した場合の基準財政収入額と基準財政需要額の算定を試みる。そして、その際にどのような問題点があるのかを具体的に明らかにしようとするものである。



特別区が自立するための財政システムの一考察
―― 特別区への地方交付税適用とその問題点 ――

東京都本部/葛飾区職員労働組合・葛飾地方自治研究センター 井上 洋一

はじめに

 特別区の地域には「都区制度」という大都市制度が適用されている。上下水道や消防などの市町村事務を東京都が行い、市町村民税法人分、固定資産税などの市町村民税が都税とされるといった特例が設けられている。特別区は事務や税制、財政などの基礎自治体としての権限が制約されている。2000年都区制度改革で、特別区は「基礎的地方公共団体」となり、清掃事業などの事務事業が特別区に移管された。特別地方公共団体の位置づけはそのままとなり、消防、上下水道などの事務は東京都に留保され、都区財政調整制度も存置することになった。2000年都区制度改革では都区制度の枠組みは変化しなかった。東京都が広域と基礎自治体の両側面をもつという性格は変わらず、特別区は基礎自治体としての役割を十分に果たすことができていない。東京都は基礎自治体としての役割を特別区に移譲することが必要である。そのことによって、東京都は広域自治体の役割に徹することができ、特別区は基礎自治体として総合的な行政運営を行うことができるのである。その意味から2000年改革は未完の改革であり、次の課題は、特別区が市(普通地方公共団体)となって基礎自治体として自立することである。
 特別区が自立して市となるためには、その理念に適合した、それを支える財政システムの確立が不可欠である。その具体的財政システムを探求することが筆者の研究課題に他ならない。本稿では、それに向けての一つの準備作業として、特別区が一般市になるという想定の下で、地方交付税を適用した場合、どのような問題点があるかを具体的に明らかにしようとするものである。本稿の構成は以下のとおりである。第1節では東京都と特別区における地方交付税算定の概要を述べる。第2節では、地方交付税を特別区各区に適用した場合の基準財政収入額と基準財政需要額の算定を試みる。第3節で、地方交付税を適用した場合の問題点を明らかにする。むすびとして、特別区が自立するための財政システムを構想するにあたっての課題と本稿で究明できなかった課題について述べる。

1. 東京都と特別区の地方交付税算定

 地方交付税は、地方交付税法に基づき、地方団体間の財政力格差を是正するために税収不足を補う目的でなされる財政援助である(1)。国税のうち、所得税、法人税、酒税、消費税およびたばこ税の一定割合を、地方自治体の財源不足額に応じて配分するものである。
 地方交付税の機能として、①地方自治体間の財政力の格差を解消するため、地方交付税の配分による財源の均霑化を図ること(財源調整機能)、②地方交付税の総額を国税の一定割合として法定化することにより、地方財源の総枠を保障すること(マクロ的財源保障機能)、③地方交付税算定基準の設定を通じて、どの地方自治体に対しても行政の計画的な運営が可能となるように、財源を保障すること(ミクロ的財源保障機能)があげられる。
 また、地方交付税には、政策誘導機能という機能がある。基準財政需要額の算定には、国の政策の意図や判断が含まれており、地方交付税を通じて地方自治体にこれを伝達する機能をもつ。例えば、合併を促進するために地方交付税上有利な取り扱いをするなどである。
 地方交付税の総額は、所得税32%、酒税32%、法人税32%(当分の間35.8%)、消費税の29.5%、たばこ税の25%の合算額として法定されている。地方交付税総額の94%が普通交付税として財源不足団体に交付され、残りの6%が特別交付税として交付される。
 普通交付税は、基準財政需要額が基準財政収入額を超える団体に対して交付される。
 基準財政需要額は、各地方団体が標準的な水準で行政を執行するために必要な経費のうち、一般財源をもって賄うべき額を一定の合理的な方法で測定したものである。基準財政需要額は、「基準財政需要額=単位費用×測定単位の数値×補正係数」により算定される。


図1 普通交付税算定結果の推移(東京都分)

図2 普通交付税算定結果の推移(特別区分)

 単位費用とは「標準団体」(2)において合理的かつ妥当な水準と考えられる地方団体の行政経費を設定し、そのうち一般財源で対応すべき額を基礎に算定した測定単位あたりの費用である。測定単位は、人口、面積などである。補正係数には、種別補正、段階補正、密度補正、態容補正、寒冷地補正が用いられている(3)
 基準財政収入額は、地方団体の財政力を合理的に測定するために、地方団体の一定税目等の収入見込み額を対象に算定される額である。「基準財政収入額=標準的な税収入額(標準税率による法定普通税の収入×75%)+特例交付金の一定割合+地方譲与税」によって算定される。
 特別区各区が一般市として自立したときには、地方交付税の適用を受けることになる。その際、各区の基準財政需要額、基準財政収入額がどのように算定されるのか。市として財政的自立を考える場合、ここが出発点になる。
 地方交付税法では、交付税算定における都の特例として、道府県分については全都域を道府県とみなして(道府県分)、また市町村分については特別区全域を一市とみなして(大都市分)、それぞれに算定した基準財政需要額および基準財政収入額の各合算額を東京都の交付税算定として用いる。これが都区合算規定である。図1、2は普通地方交付税の東京都分と特別区分(大都市分)の推移である。1954年度の地方交付税制度発足以来、一貫して東京都(都区合算された東京都分)は財源超過団体であり、不交付団体である。

2. 地方交付税方式で算定した特別区の基準財政収入額、基準財政需要額

 特別区各区に地方交付税を適用した場合を想定し、基準財政需要額、基準財政収入額の試算を行うことにする。その試算をするために、以下の方法を用いた。
 特別区に関する地方交付税の算定は、特別区を1つの市として算定されており(4)、特別区各区については算定されていない。
 地方交付税の算定のための基礎資料として、「普通地方交付税及び地方特例交付金算出資料(道府県分・市町村分)」がある。当該年度の単位費用、測定単位、補正係数の数値、計算方式が明らかにされている。しかし、同資料を使用して、特別区各区の基準財政需要額・収入額を正確に求めることは難しい。基準財政需要額算定のために必要な測定単位、補正係数の値は、公表されているデータだけでは知ることが困難である。基準財政収入額算定については、市町村民税法人分、固定資産税、特別土地保有税などが都税とされているために、各区にどのように収入されるのか正確には把握ができない。
 そこで、特別区の基準財政需要額については、測定単位ごとの特別区全体の需要額を、各区に占める割合で割り返して、各区の測定単位ごとの需要額を試算した。経常経費の土木費の道路橋りょう費では、測定単位が道路橋りょうの面積であるため、特別区全体の道路橋りょうの面積に占めるある区の面積の割合を求め、特別区の道路橋りょう費の需要額にその割合を乗じて、ある区の需要額を試算した。補正係数については大都市分算定に使用された補正係数を各区の算定に使用した。
 基準財政収入額の算定については、基準財政需要額の算定と同様に、市町村民税の税目ごとの特別区全体の収入額を、各区の占める割合で割り返して、各区の市町村民税の税目ごとの収入額を試算した。都が徴収している固定資産税については、都税事務所が各区に所在しているため、都税事務所における収入額をそれぞれの区の収入額とし、特別区全体の固定資産税総額に占める各区の所在する都税事務所の占める割合で、特別区の基準財政収入額の固定資産税額を割り返して、各区分を求めた。特別土地保有税についても同様である。市町村民税法人分については、特別区各区の都税事務所の都税法人分収入総額に占めるそれぞれの都税事務所の割合で、特別区の基準財政収入額の市町村民税法人分額を割り返して、各区分を求めた。特別とん譲与税については、都税収入分を4区(江東区、中央区、港区、大田区)で按分した。
 この試算で求められるのは、特別区各区の地方交付税の基準財政需要額と基準財政収入額の概ねの数値である。この数値から特別区各区に地方交付税を適用する場合の一般的な特徴を把握することは可能と考えられる。地方交付税交付金方式で算定した2006年度の特別区各区の基準財政収入額と基準財政需要額は表1の通りである。


表1 2006年度 特別区 基準財政需要額・収入額
(単位:千円)
 
基準財政重要額(A)
基準財政収入額(B)
超過収入額(B-A)
交付税交付金額
(A-B)
財政力指数
(B/A)
都区財政調整
基準財政需要
額(D)
交付税と都区
財調の需要額
の差(A-D)
交付税1人当
たり基準財政
収入額
備考
千代田区
9,038,846
245,353,974
236,315,128
 
27.14
26,225,348
-17,186,502
5,458
 
中央区
20,096,592
163,149,434
143,052,842
 
8.12
36,594,538
-16,497,946
1,593
 
港 区
39,618,916
261,474,728
221,855,812
 
6.60
52,298,614
-12,679,698
1,409
 
新宿区
54,386,125
134,364,131
79,978,005
 
2.47
69,740,431
-15,354,306
485
 
文京区
34,850,497
59,656,422
24,805,925
 
1.71
48,194,453
-13,343,956
325
 
台東区
32,694,137
49,036,733
16,342,596
 
1.50
49,341,854
-16,647,717
303
 
墨田区
43,172,880
38,726,815
 
4,446,065
0.90
57,775,768
-14,602,888
168
交付団体
江東区
74,293,233
84,590,602
10,297,369
 
1.14
90,284,649
-15,991,416
200
 
品川区
61,306,093
94,110,735
32,804,642
 
1.54
79,962,425
-18,656,332
279
 
目黒区
53,740,487
63,153,867
9,413,380
 
1.18
58,510,226
-4,769,739
251
 
大田区
124,862,159
121,638,566
 
3,223,593
0.97
143,839,535
-18,977,376
183
交付団体
世田谷区
150,436,824
157,675,210
7,238,386
 
1.05
150,264,195
172,629
192
 
渋谷区
36,059,265
129,105,729
93,046,464
 
3.58
48,383,106
-12,323,841
655
 
中野区
59,233,548
48,908,661
 
10,324,887
0.83
64,898,065
-5,664,517
164
交付団体
杉並区
93,894,353
90,095,146
 
3,799,207
0.96
101,100,270
-7,205,917
174
交付団体
豊島区
46,438,097
57,900,305
11,462,208
 
1.25
58,107,930
-11,669,833
241
 
北 区
60,072,327
42,946,093
 
17,126,234
0.71
76,108,569
-16,036,242
136
交付団体
荒川区
35,584,041
25,456,917
 
10,127,124
0.72
51,434,032
-15,849,991
143
交付団体
板橋区
93,101,897
68,547,300
 
24,554,597
0.74
109,856,534
-16,754,637
134
交付団体
練馬区
126,494,013
90,556,492
 
35,937,521
0.72
140,217,561
-13,723,548
133
交付団体
足立区
116,353,100
69,883,054
 
46,470,046
0.60
146,287,452
-29,934,352
112
交付団体
葛飾区
79,200,819
51,478,972
 
27,721,847
0.65
99,826,314
-20,625,495
120
交付団体
江戸川区
114,807,261
80,585,715
 
34,221,547
0.70
140,820,315
-26,013,054
125
交付団体
特別区
1,559,735,510
2,228,395,603
886,612,759
217,952,666
1.43
1,900,072,184
-340,336,674
268
 

3. 特別区各区へ地方交付税を適用した場合の問題点

 特別区各区に地方交付税を適用すると、2006年度においては交付団体11、不交付団体12という結果となった。墨田区、大田区、中野区、杉並区、北区、荒川区、板橋区、練馬区、足立区、葛飾区、江戸川区の11区が交付団体となった。特別区においても約半数が交付団体になることが明らかとなった。
 この算定結果から以下の3点が明らかとなった。
 第一に、基準財政収入額をみると、都心3区に極端に税収が集中することになり、特別区間の財政力格差が拡大する。とくに千代田区には巨大な税収が集中することになる。
 1人当たりの基準財政収入額で比較すると、最大は千代田区の545.8万円、最低は足立区の11.2万円である。48.8倍の開きがある。財政力指数では、最大は千代田区の27.14、最低は足立区の0.6である。48.2倍の開きがある。特別区間の財政力格差が極端に開く形となる。
 特別区各区が市になるとすると、巨大な税収をもつ富裕団体と財政力指数0.6の窮乏団体が出現することになる。
 第二に、都区財政調整制度と地方交付税の基準財政需要額を比較すると、都区財政調整制度の方が高い。1区を除いて都区財政調整の基準財政需要額が地方交付税のそれを上回っている。都区財政調整制度では、東京都が執行している上下水道や消防などの大都市事務分の需要額が計上されていないにもかかわらず、額が高い。特別区全体の地方交付税交付金は1兆5,597億円であるが、都区財政調整交付金総額は1兆9,000億円である。交付団体においては、現行の都区財政調整制度の基準財政需要額よりも低い額となり、現行の行政需要を賄う財源が保障されないことになる。これは地方交付税の単位費用、補正係数などが、都区財政調整制度のそれに比べ、低目に設定されているためである。
 第三に、交付団体は12区となり、12区に交付する地方交付税の総額は2,179.5億円である。特別区各区に地方交付税を適用しようとすると、この金額を地方交付税特別会計から支出しなければならないことになる。都区財政調整制度が存在することで、地方交付税特別会計からの支出をしないで済むことになる。
 以上みてきたように、特別区間の財政力格差の拡大、現行の基準財政需要額の水準を満たせない、地方交付税特別会計からの支出増大などの点から、特別区各区への地方交付税適用には困難があることが明らかとなった。
 ところで、地方交付税の特別区各区への個別の適用の困難性を明らかにすることは、反面では、都区財政調整制度が果たしている独自の役割を明らかにしていることでもある。特別区各区に地方交付税が適用できないからこそ、都区財政調整制度が存在しているということである。
 それは、都心区の税収を、東京都と特別区で分け合うことだけでなく、国をもふくめた3者で分け合うという構造である。都区財政調整制度が存在することで、第一に、国は、特別区交付団体分の交付金を地方交付税特別会計から支出しなくて済む。地方交付税を適用することで、交付団体となった特別区に対して、2006年度の試算で2179.5億円の交付金を地方交付税特別会計から支出をしなければならないが、これが必要なくなる。このことがわが国の地方財政制度における都区財政調整制度の最大の存在意義である。第二に、東京都は、上下水道、消防などの大都市事務分に関わる経費を得ることができる(2006年度都区財政調整当初算定で1兆5,306.9億円)。第三に、特別区では、地方交付税で算定される基準財政需要額よりも有利な需要額の算定が行われ、財政力の弱い区にも財源保障が行われる。また、そのことを通じて、地方交付税制度を適用すると表面化する巨大な財政力格差を、1つの財政(制度)に組み込むことで、一定程度に圧縮する役割を果たしているのである。
 この3つが都区財政調整制度の意義である。特別区の自治の制約を前提として、国、東京都、特別区の三者の財政上の利害の一致と均衡のうえに都区財調制度は存立しているのである。
 現行の地方交付税制度を前提として、特別区が地方交付税の適用を受け、一般市同様になるためには、この都区財政調整制度の3つの存在意義(財政調整を通じた国、都、区の利害の均衡)を保障することがさしあたり必要となる。
 特別区各区への地方交付税適用は難しいとすれば、特別区に地方交付税を適用し、市となるためには、どのような方法があるのか。
 地方交付税を特別区各区に個別に適用すること以外の方法としては、特別区を1つの地方団体として、地方交付税を適用する方法が考えられる。
 そうすることによって、第一に、特別区は1つの地方団体として算定され、これまでどおり不交付団体となり、個別の算定において交付団体となった区に対しての地方交付税交付金が必要なくなる。第二に、東京都には、大都市事務を委託するなどして、その経費を配分することができる。第三に、地方団体(1つになった特別区)内部の調整によって財政力の弱い区にも財源が保障されることになる。これらのことから国、都、区の均衡を崩すことなく、地方交付税の適用を実現することがさしあたり可能となる。
 1つの地方団体となるためには、特別区が1つの政令指定都市となる場合や特別区各区が連合して1つの市を形成する場合などが考えられる。
 1つの政令指定都市になる場合には、830万人という巨大な人口が集中する基礎自治体において、身近な地方政府として機能することができるのか、住民参加が保障できるのかという基本的な問題が発生する。さらに、政令指定都市では区は自治区ではなく行政区になってしまうという問題がある。
 連合して1つの市を形成するという構想は、第2次特別区制度調査会報告(2007年)が「基礎自治体連合」として提案しているものである。それによれば、特別区各区が市となり連合して1つの市を形成し、大都市事務や財政調整を行うことになる。
 都市が連合するためには、連合の目的を明記した理念が必要である。都市の連合には自治制度や住民自治の前進に寄与する理念がなければならない。また、特別区のためだけの制度ではなく普遍的な自治制度として、開かれたものでなければならない。そうでなければ、特別区の連合は財政の調整だけを目的とした、財政調整連合になってしまう。
 都区財政調整制度は、国、東京都、特別区の間で、財源を分け合う制度である。このことによって国は交付税会計からの支出を免れ、都は大都市分の経費、特別区は財政調整交付金を得るなど、3者にとって利益を得る構造になっている。現行地方交付税制度の下で、特別区各区に、個別に地方交付税を適用することになれば、国は交付団体へ地方交付税交付金を支出し、都心区以外は、これまで以下の交付金水準となる。一方、都心区には膨大な財源が集中することになる。地方交付税制度の存立を脅かす事態が発生することになる。
 国、都、区の均衡を崩さず、現行の地方交付税制度に影響を与えないで、特別区が市になるには、特別区各区が連合して、都市連合を形成し、地方交付税を適用し、市となる方向が、1つの選択としては成り立つのである。しかし、その場合、普遍的な自治制度としての都市連合が求められるのである。
 最後に、特別区各区が市になるための財政システムを、現行の地方交付税制度の改変も含めて展望するとすれば、どのような方向があるのかを考察したい。
 2000年都区制度改革前の都区財政調整制度には、納付金という制度があった。税収が財政需要額を超過しているところからは納付金として、一定の金額を納付させ、それを財政調整の財源に入れるという制度である。この制度のように、財政需要額を超えて一定の税収がある富裕団体から、一定の割合で納付金を納付させ、それを資金としてプールしたものを財源として、地方交付税を補充する財政調整として活用するという方法である。
 納付金は、国の地方交付税特別会計には入れずに、地方団体の連帯的な財政調整資金として、地方団体が共同で管理する会計を創設し、そこに繰り入れることにする。地方団体が連帯して運営する水平的財政調整システムである(例えば、ドイツ州間財政調整制度(5)のような)。それは地方交付税を補完する形で交付される。
 こうした制度を導入することによって、市となった特別区各区は、地方交付税では不足する部分を補完的に保障される。また、特別区だけでなく、地方交付税では算定されない、独自の行政需要をかかえる地方団体に補完的に交付されることになる。

むすび

 次の都区制度改革の課題は、都区制度から離脱し、都区財政調整制度を廃止し、特別区が普通地方公共団体としての市となることである。特別区各区に地方交付税を適用した場合、市になることは可能になるが、特別区間の財政力格差の拡大、都区財政調整制度の基準財政需要額の水準を保障できない、地方交付税特別会計からの支出増などの問題が発生する。なかでも地方交付税特別会計からの支出が最大の問題である。
 現在、国から地方への税源移譲、税源交換など、地方財政改革のありかたをめぐって、様々な提案がなされ、ホットな議論がたたかわされている。そこで提示されている具体的財政システムとその論理は、特別区各区が市になるための財政システムの探求という、本研究テーマとも密接に関わるものであり、その検討は不可欠であると考える。今後の研究課題としたい。


参考文献
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2. 井上洋一(2002)「都区財政調整度改革2つの方向について」都区制度研究会編『都区財政調整改革のための提案』東京自治研究センター
3. ――――(2006)「都区制度と都区財政調整制度」『るびゅ・さあんとる』(6)東京自治研究センター
4. ――――(2009a)「石原都政と特別区の財政-財政分析を踏まえて」『るびゅ・さあんとる』(9)東京自治研究センター
5. ――――(2009b)「石原都政と都区制度改革―2000年等制度改革以降の都区関係」『るびゅ・さあんとる』(9)東京自治研究センター
6. 岩見良太郎(2007)「東京都市再生-その戦略と矛盾」小宮昌平ほか『石原都政の検証』青木書店
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8. 菅原敏夫(2000)「都区財政調整制度改革」都区制度研究会編『新しい財政調整制度をめざして』東京自治研究センター
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17. 東京都総務局行政部区政課(2008)『特別区決算状況』平成18年度
18. ――――――――――――(2009)『都区財政調整』平成21年度
19. 東京都総務局行政部市町村課(2007)『普通地方交付税算定結果』平成18年度
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23. 中村良弘(2004)『ドイツ州間財政調整の改革-「水平的財政調整」の射程』地方自治総合研究所
24. 町田俊彦(2002a)「新都区財調の提案」都区制度研究会編『新しい財政調整制度をめざして』東京自治研究センター
25. ――――(2002b)「ドイツにおける財政調整」都区制度研究会編『新しい財政調整制度をめざして』東京自治研究センター
26. ――――(2002c)『地方交付税改革論と問題点』地方自治総合研究所




(1) 地方交付税制度の制度解説は石原(2000)に詳しい。
(2) 市町村は人口10万人、面積160平方キロメートル。
(3) 単位費用、補正係数は各年度によって変動する。単位費用については地方交付税制度研究会「地方交付税制度解説単位費用篇」(各年度)、補正係数については地方交付税制度研究会「地方交付税制度解説補正係数、基準財政需要額篇」(各年度)に詳しい。
(4) 毎年7月、東京都普通交付税算定結果(道府県分・大都市分)は東京都主計部財政課より公表されている。また東京都総務局行政部市町村課「普通地方交付税算定結果」(各年度)から、特別区(大都市分)の地方交付税の基準財政需要額、基準財政収入額の項目ごとの額を知ることができる。
(5) ドイツ州間財政調整制度は町田(2002b、c)、中村(2004)に詳しい。