【論文】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

 富山県財政の現状について検討を行った。北陸新幹線建設の地元負担分の歳出の増加やこれに当たる県債発行の増加など、財政運営には相当の無理がかかっていると見られる。
 行革債などが発行されているが、予算書などを検討したところ、行革債は新幹線建設の財源に充てられていると考えられた。一方、人員削減は計画以上に進められている。行革と称しての無理な財政運営の問題点を多くの人々とともに考えていく必要がある。



富山県の財政状況と今後の課題
―― 無理を押し通す財政運営からの転換をめざす ――

富山県本部/富山県職員労働組合・平和・地方自治推進センター 八川  久

1. 富山県の歳入歳出の推移

 富山県財政の全般的な状況については、各図のとおりである。歳入の推移については(図-1)、歳入総額は2008年度で5,367億円となった。地方交付税は2000年度をピークに大きく減少している。県税は2002年度に対して2007・2008年度は増加した。国庫支出金は1999年度がピークで、2007・2008年度にかけて大きく減少。県債は1992年度以降ほぼ800億円以上で推移し、2008年度は1,055億円に大きく増加した。新幹線建設負担金に対応する県債収入の増加により、1995~1999年度以来の高い水準となった。一般財源はジリ貧だが、ほとんどの財源を県債に依存する新幹線建設負担金の増加が大きく影響している。
 目的別歳出については、土木費・農林水産業費の減少、教育費は1992年度から2001年度は1,200億円以上あったが、その後減少し、2008年度は1,038億円。民生費は増加傾向が続き、2008年度517億円となっている。
 性質別歳出は(図-2)、普通建設事業費が2008年度で1,080億円とピーク時の43.4%に減少している。人件費は2001年度1,629億円から減少が続き2008年度は1,447億円となっている。公債費は1998年度以降800~900億円以上で2008年度は927億円となった。2008年度の歳出総額は災害復旧の影響もあり増加。公債費を除いた歳出は2007年度4,078億円、2008年度4,300億円である。
 なお、県債残高は2008年度決算で1兆406億円(前年度比300億円増)となった。

2. 借金返済に苦しむ財政運営

 一般財源は(図-3)、1989~1988年度で2,600~2,900億円台での推移であったが、1999~2003年度にかけて3,100~3,200億円台で推移した。県税収入が減少した一方、地方交付税が1,300~1,400億円台から1,700~1,800億円台に大きく増加したことが一般財源の増加につながった。しかし、2004年度の小泉構造改革の影響で一般財源は205億円減少した。その後は増減があってもジリ貧傾向にある。
 公債費は2004年度以降も900億円以上の高い水準であり、財政運営に無理が生じる構造となっている。
 普通交付税の基準財政需要額について(図-4)、最も多いのは経常経費・個別算定経費のうちの教育費で、近年は厚生労働費も目立って増加傾向にある。公債費も増加傾向で、ここ数年は400億円程度で推移している。財政当局が示す「中期的な財政見通し」と比較すると、公債費はほぼ同じである。基準財政需要額の状況では、一般財源から公債費となる金額は2008年度485億円程度と見られるが、実際の公債費は927億円であり、充当一般財源等は907億円であった。
 また、2005年度までの都道府県財政指数表にまとめられた公債費の元利償還計画の推移では、いずれの年度の計画でも、「決算時点の2~4年後に元利償還のピークが来てその後減少する」と予定したが、実際には2010年2月の中期的財政見通しにおいても、2012年度まで公債費(借金返済)は900億円台で推移する見込みであり、ピークが来ない。借金返済の厳しさが目につく状況である。

3. 行革名目に人件費を削り新幹線建設につぎ込む

 富山県内では北陸新幹線建設が進められているが、これには地元負担が伴う。このための起債は、1992年に5億8,900万円の北陸新幹線整備債を発行して以来、1997年以降徐々に多くなり、2010年度当初予算で280億2,000万円の発行となった(図-5)
 「富山県予算に関する説明書」(以下、「説明書」)には、北陸新幹線整備債を含めて「通常債」と分類しているが、「平成22年度一般会計歳入見積額」(ホームページ上にあり。以下「見積額の表」)には、県債を「通常債」「行政改革推進債」「退職手当債」「臨時財政対策債」に分類している(表-1)。「説明書」と「見積額の表」の県債の合計は同じであるが、「見積額の表」にある「行政改革推進債」が「説明書」には記載されていない。つまり、名前は「行政改革推進債」でも何らかの事業(工事)の財源に使われている、と考えられる。
 「見積額の表」の下段には「通常の地方債に加え、行政改革の取り組みにより将来の財政負担の軽減が見込まれる範囲内において、さらに充当することができるもの」と書かれている。近年の団塊の世代の退職に伴って退職引当などされていない状況から発行された「退職手当債」については、将来の人員削減や賃金水準の低下により償還財源を捻出する性質のものであり、事実上「職員の首が担保となる借金」といえる。実際に、2010年3月末退職者から「前年の退職者よりも改悪された部分がある」との声も出た。
 2005年度に賃金カットが始まった時には、北陸新幹線整備債は70億円発行だったが、2010年度は280億円発行と金額が大きくなっている。この財源捻出のために「行革債」が発行されたと考えるのが順当とすれば、新幹線建設に対する無理な財源投入が財政運営に歪みを起こしているといえる。
 なお、「行政改革推進債」「退職手当債」については、2008年度決算で合計298億円の残高となっており、さらに2005年度発行の「財政健全化債」も含めて、これら3つの県債残高が2010年度予算執行後はさらに少なからぬ金額になると想像される。

4. 計画以上に進められる人員削減

 県職員は1991年度の18,680人をピークとしてその後減少を続け、2009年度は15,413人となった(行政職以外に公安・教育・医療など、県費負担の人員数)。一方、人事当局の「定員適正化計画」「集中改革プラン」とその実行状況によると、「2004年4月の一般行政部門4,159人を2009年4月時点で10%、416人削減する」という計画だったが、実際には2009年4月時点で3,613人、546人の減少となっており、計画と比べて130人多く削減している。集中改革プランは1年のずれがあり、2010年4月時点の人員はまだ出ていないが、7:1体制で人員を確保しないと収入が減る県立中央病院と、治安維持のため人員を若干増やした警察部門以外は大きく減少している。
 一般行政部門の「定員適正化計画」の分のみの検討になるが、「2008年度決算カードの一般職員の一人当たり平均給料月額」が350,600円となっているので、350,600円×16.15ヶ月(2009年度水準、一時金も含む)×130人≒7億3,600万円が当初計画時点と比べて「浮いた」と考えられる。このような考えを利用すれば更なる人員削減実施の動機になると思われる。新幹線建設の重い負担の中、「行政改革」名目で借金を重ねる、団塊の世代の大量退職の退職手当準備を行わずに退職手当債に頼る、などが重なれば、いずれ「無担保借金」返済の重圧は加速度的に大きくなると考えられる。

5. 今後の取り組みについて

 富山県の財政分析を続けているが、今後の課題としては、
① 財政の使い方の検討と新自由主義の克服
② 新幹線建設が及ぼす影響
について、考えていく必要があると思われる。
 このうち、①については、今年度の当センターの定期総会での議案書に新自由主義の考え方や行動様式を示すことで問題提起を行った。しかし、7月の参議院議員選挙では「みんなの党」と称する新自由主義政党の「甘い言葉」に流された有権者が多かったように、組合員もこれにつられたのではないかと推測される。自治体財政の分析を行う立場から、県の財政状況が社会に対してどのように影響しているのか、といったところにはまだまだ十分考察が及んでおらず、今後の課題である。
 また、②については、県財政の大きな圧迫要因となっていること、新幹線建設終了及び開業後の状況の想定、などをさらに検討し、多くの皆さんに考えてもらう取り組みが必要と考える。自民党県議会議員の中からさえ「多額の建設費をつぎ込みながら大手ゼネコンだけが潤い地元に還元されなければ、建設費は死に金になる」という声が出るようになり、問題意識の共有化を急ぐ必要がある。
 財政の悪化に対しては、大企業・金持ちに応分の負担を求める、財政を雇用確保・職業訓練・教育・医療等、生活に直結した分野に重点化する、などといった考えを広げていく必要があると思われる。また、公務員労働者も社会の構成員の一部であり、社会の雇用の重要な部分である、という考えも広める必要がある。「人員削減・人件費削減ありき」からの転換は決して簡単ではないが、労働組合組織の内外に問題意識を広げ、様々な議論や行動を行うことが必要であると思われる。


図-1 富山県の歳入の推移

図-2 性質別歳出決算の推移

図-3 一般財源の推移

図-4 富山県の基準財政需要額の動向
(2007年度からは「新型交付税」)


図-5 北陸新幹線整備債(県債発行)の推移

表-1 一般会計当初予算、県債収入の推移