【論文】

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

 現在進行中のデフレの状況は、地方自治体の財政上想定されておらず、持続的な財政運営を困難にしている要因のひとつになっている。本質的な問題解決は、政府及び中央銀行との通貨政策により解決すべき問題であるが、これまでのところ成果があらわれていない。地方自治体の財政、経済を守るための方法論の一つとして、自治体通貨の導入について提起する。



自治体財政の健全化にむけた、
地域レベルでのデフレ対策について
 
~自治体通貨導入によるデフレ解消の提言~

鳥取県本部/鳥取県職員労働組合 谷田 恭伸

1. 要 旨

  持続可能な社会については、安定した雇用が重要であるとともに、一定のインフレが必要である。過度なインフレは問題であるが、同時にデフレも問題である。
 デフレ対策について、一義的な責任は政府、日銀であり一体となった取り組みが必要ではあるが、現在のところ十分な成果が現れていない。
 このため地方自治体が対応可能なデフレ対策として、自治体通貨の導入を提案する。

2. 地方自治体は今後とも必要不可欠

 地方自治体は、地域住民の主権を守るため必要な団体であり、いくら公務員批判、お役所批判を繰り返したとしても、地方自治体の存在自体を否定することは出来ない。

3. 地方自治体の財政状況悪化の原因について

  とはいえ、地方自治体を運営するためには、お金が必要であり、なければ様々な制限を受けてしまう。財政再建団体の例を出すまでもないだろう。
 現在多くの地方自治体では、税収減のため、ありとあらゆる支出削減を求められている。
 年々財政状況が悪化しているためだが、人口減による歳入の減少、景気悪化による歳入の減少、デフレによる歳入の減を理由としてあげることができる。

4. デフレにおける地方財政の悪化について

 デフレの問題点は多いが、ここでは、何故、地方財政に悪影響を及ぼすかについて簡単に説明する。
 自治体財政においては、単年度決算方式が原則として言われているが、庁舎建設や建設事業、システム導入等、長期的な財政運営を見ながら取り組む必要がある。また、行政サービス自体が、殆ど長期的な視野で必要かどうかは判断されることから、行政サービスの維持については、長期的な収入が前提で運営されていることには、異論が出ないはずだ。
 これらの必要経費は、インフレ時においては、通貨の価値が減ることで、将来への負担を減らすことが可能であった。
 しかしながら、デフレの状況は、通貨自体の価値が増えることにより、将来の負担が増え、必要な事業活動に支障をきたすことになる。また、将来的な財政状況が不安定になることで、財政の過度の切りつめが行われ、結果として、さらなるデフレに繋がっていくことになる。

5. デフレ打開のために必要な政策について

 デフレ打開に必要な施策としては、
① 通貨を流通させること(消費に回す)
② 将来に向けて安定した、社会システムを構築すること(将来不安による、必要以上の消費抑制を起こさない)が求められる。
 ②については、政府が国民に対して、将来政策を示すことでしか、確立できない。
 ①については、日銀はこれまで、銀行に対して行ってきた窓口指導により、規制しすぎと謂われながらも、過度の倒産を防いできた。
 日銀がバブル崩壊後、国内の通貨供給量を減らしたことから、デフレが始まった。

6. 地方自治体に何ができるのか

  以上の理由から、現在の地方自治体にデフレ対策を行うために必要な手段は持ち得ない。
 地方自治体が出来ることは政府への要望となるが、主体的な役割とはなりえない。
 それならば、新たな制度を導入し、地方自治体自らが、問題解決にあたることはできないか。解決策の一つとして「自治体通貨」を提案する。

7. 自治体通貨の導入について

  提案する「自治体通貨」に似たような名称として「地域通貨」があるが、「地域通貨」の概念が広域であるため、デフレ解消を目的とした、地方自治体が発行する通貨を「自治体通貨」と名付けて、次のとおり定義する。

(1) 地方自治体が発行し、保障するもの
 地方自治体が主体となり、通貨を発行すること。財源の裏付けが無く発行すると、たちまち信用を失い、通貨価値が極端に減少する。

(2) 通貨として自治体内でのみ通用すること
 地域のデフレを解消し、また、地域外への通貨の異動をさせないため、発行した自治体内でのみ通用させること。

(3) 減価する通貨であること
 デフレ自体が、「通貨の価値が増える」ことから、価値を減らす必要がある。また、価値を減らすことで、通貨を使用する動機付けになり、消費活動の活性化に繋がる。減価する方法の具体例として、発行した通貨に使用期限をさだめ、再発行の際に一定割合を減らした通貨と交換させる手法がある。

8. 想定する運用例

  自治体通貨の具体的な運用例として次のとおり提案する

(1) 都道府県及び複数の都道府県が連携する(財政規模の保障)
 地域に根ざした通貨とはいえ、通貨の裏付けが必要なこと、通貨の発行に費用がかかることから、一定程度の財政規模を持つ都道府県レベルが最低限必要であると想定する。

(2) 専門の通貨政策機関の設立
 通貨をどのように流通させるかの議論については、専門の通貨政策機関が必要であり、地方自治体が承認した運営方針及び役員により、通貨政策を立案する。

(3) 運用開始時の通貨供給量は少ない金額から
 自治体通貨をどの程度運用させる必要があるのかは、上記の通貨政策機関が実施することだが、過度の通貨供給は自治体通貨自体の信用低下に繋がることから避けるべきである。

(4) 目的終了後において、速やかな制度の終了
 自治体通貨は、あくまで地域のデフレを解消するための手段であり、決して地方債のような自治体の借金を増やす目的ではない。このため、目的が終了した時点での速やかな制度終了が求められる。

9. 自治体通貨導入に関する課題

  制度の導入については、いくつか課題があり、以下簡潔に説明する

(1) 通貨発行、使用に係る法整備の問題
 通貨の発行、使用するにあたり、法律により様々な規制がかかっている。解消のためには、特区申請が望ましいが、実現までに時間がかかると考える。

(2) 通貨の発行及び減価方法
 提案した減価方法は、通貨の再発行等手間がかかることから、カード式等運用法には、実情に併せて検討する必要がある。

(3) 日銀、政府からの圧力
 地方自治体が独自に通貨を発行すれば、日銀政府の金融政策に影響を与えてしまう。そのため、簡単に自治体通貨が認められるとは限らない。

(4) 住民の理解
 もっとも必要なことは、地域住民の理解である。住民が理解できなければ、通貨として使用されず、目的を果たすことが出来なくなる。

 以上のとおり、制度の導入に向けて解決すべき問題は数多い。しかしながら、これらすべてが解決するのであれば、自治体は主体的にデフレを解消し、自立した経済活動を行うことを意味し、「地域主権」という言葉が経済的な面で実現することが出来る。

10. 結 論

 繰り返しになるが、自治体通貨の導入はあくまで、一時的な対応策であり、本来日銀と政府が連携して実施すべき取り組みである。しかし、日銀と政府が責務を果たさないのであれば、自治体は住民を守るために、主体的に通貨を流通させる役割を行う必要がある。