1. 公契約における鹿児島の状況
(1) 組合結成
私が所属している組合の企業は1961年創業、2011年で50周年を迎えようとしています。構成としては2010年5月現在、ビルメンテナンス部門として清掃業務員(BC部)が670人(正規従業員・男20人、女100人で計120人)、技術要員(電気・空調設備管理要員)として188人、マンション管理部門に69人、ビジネスサービス部門として受付案内業務員・電話交換・医療事務業務員等に208人、警備保安サービス部門に87人、商品事業部門に9人、ホテルレストラン事業部門その他に163人等、総勢約1,400人の従業員となっています。
今でこそ地元ではトータルメンテナンス会社となっていますが、創業当時は「鹿児島ビルサービス」という社名で市役所の清掃業務や地元の新聞社の清掃業務を数人の社員で始めたと聞いています。当時は業者間の競争も少なく、地道に事業を拡大し今日に至っております。
会社も順調に規模を大きくし社員が増えていきましたが、当時の従業員の給料はまちまちで統一された基準がなく、一時金についても人によって支給が極端に違い不満を抱える社員がいたそうです。
1979年に設備部の一部の人が中心となり、これでは自分たちも不平等だが後に入る社員も悲しい思いをするということで、組合結成に向けた水面下の行動に入りました。
そして先輩方の苦労の末に1980年に総評の仲間となりました。今となっては組合結成とともにユニオンショップ協定を結んだことが会社が大きくなるに連れて組合員が増える確実な方法であったと思う次第です。
(2) 問題点
① おかれている現状
しかし、組合は立ち上げましたが、ビルメンテナンスの仕事は一つの建物に、少ないところでは一人から二人、多い職場では100人近い人が働いています。また、鹿児島市内だけでなく地方の病院などを管理していたので横のつながりというか、連絡が思うように出来なかったと聞いています。当時総評からオルグが派遣され、私たちの職場を回っていただいて、待遇改善や会社に対する意見などを聞いて周り、会社へ要望事項を文書で提出し様々な問題を解決されたそうです。
ある清掃職場などではまともな休憩所もなく、冬などは階段踊り場の片隅に段ボールを貼り付けて寒さをしのいで休んでいたのを見かねて改善要求を提出し、会社が実態を知りオーナーに相談することで休憩所を作ったこともあったと先輩からよく聞かされていました。
また、1980年に組合を結成しましたが、いわゆる清掃業務に従事している方々をBC(ビルクリーニング)部としBC部とBC部以外で、一時金の支給率に差がありました。当然BC部の組合員からは同じ組合費(基本給と業務手当ての2%)を払っているのに一時金の支給率に差があるのは納得がいかないという指摘があり、一時金の支給率を同率にすることを目指して交渉を続けました。春闘・一時金推移表を見ていただければ分かると思いますが、同率2.1ヶ月にするまで13年の歳月を要しました。この間の交渉では会社側に一時金の引き上げにまだ余力があるのならBC部の一時金を0.1カ月でも上乗せできないかといった交渉をし、BC部以外の人には職場委員会や大会のなかで理解を得ながらの結果であったと思っています。
ここでBC部の雇用のあり方の説明をさせていただきますと、契約労働時間は日勤(パート)時間2.5H、3H、3.5H、4H、5.5H、6H、6.5H、7H(週2日間)、労使間では、7H以上の勤務をする場合は正社員へ移行する協約を結んでいて、またやる気のあるパートの従業員には社員登用の道も開かれています。
また、2002年にはそれまで60歳になると社員から嘱託社員へと雇用体系を変更されて雇用されていましたが、入札の際に同業他社との価格競争に勝てなくなったという理由で60歳以降を当面の間パートとして雇用したいとの提案がありました。組合として職場委員会を開き、会社の厳しい現状を組合員へ説明し当面の間と期間をきって60歳を過ぎてのパート化を認めざるを得ませんでした。この事については2007年度の交渉より当面の間はすでに過ぎたのではないかと会社側へ清掃管理業務部の嘱託雇用の復活を促していますが状況は厳しくなるばかりであるとの回答です。
参考までに組合員の平均年齢は男性全体で44.6歳、女性で42.5歳、BC部男性では36歳、女性では47歳。平均勤続は男性全体で11.5年、女性で10.7年、BC部男性では7.6年、女性では10年となります。平均賃金は男性全体で23万円、女性で18万円くらいとなりBC部男性では20万円、女性では17万円くらになります。年収でいうと男性全体の平均で330万円、女性で250万円くらいとなります。このことは少ないように思えますが鹿児島の同業者のなかでは決して低い金額ではないと思います。
② 入札のあり方
ビルメン業界というのは製造会社と違って年度始めの契約更新で向こう1年間の契約金額がほぼ決定されます。これを聞かれた方は1年間の収入が約束されるから営業的には結構楽に思われるかもしれませんが、会社に入ってくる管理費は安定していますが、競争が厳しくなれば入札などで原価を割ってでも応札するという事態が発生することにもなり、収益が安定しなくなっていきました。
また先ほどの推移表を見ていただければ、1998年までは昇給もほぼ6,000円台を維持していましたが、2000年には凍結を余儀なくされました。分会結成後初めての賃金凍結を、いかに組合員に説明すべきなのか苦慮しました。会社はこれまで収益があった場合は年度末手当てとして0.7か月の臨時手当を支給したりしたことなどを説明し、また景気がよくなれば賃金引上げもあり、原状は雇用を守ることが大事だとして重く受け止めていくということになりました。
こんな状況のなか2001年から小泉総理大臣の聖域なき構造改革の名の下に規制緩和が始まりました。鹿児島においても公の施設の契約更新時に県外の大手企業が入札に参加するようになってきました。県外大手は仕事を受注することだけに集中して入札に参加してきました。ビルメン業界の入札というのは古くから建設業とは方法が違い、最低価格なるものが設定されていません。このことが1円でも安い入札業者が落札するという結果になります。典型的な労働集約型の仕事であるにもかかわらず最低価格の設定されていない入札ということは、人の仕事と鉛筆やノートの入札と一緒であるということを意味します。
また、一方では指定管理者制度やPFI事業の導入も大きな問題点のひとつとなっています。ある市の施設を指定管理者制度で受注しました。市側から当該施設で働いていた職員を引き続き雇用するように言われ、会社の規定で給与を決定しようとしていたら、1年間は給与を据え置いて雇用するように指示されました。また、売り上げにかかわらず市に管理費を支払うなど、当初から採算の取れない条件を押し付けられたような形になって、民間に出来ることは民間にという言葉に巻き込まれた形になった事例もあります。
2003年には県の物件である現場を他社に落札され、設備部7人の仲間が次の日から出勤する現場がなくなるという事態になりました。会社としても7人の従業員を置いているほど余裕はありません、組合としてどういった方法で仲間を守るかが大きな課題となりました。
組合が取った手段として188人いた設備管理要員が、毎月の残業代を浮かして7人の売上をカバーできないかということでした。
各職場で発生している残業時間の7時間30分を振り替え休日1日として取得することで7人の雇用を確保し、何とかこの窮地を乗り切っていこうということになりました。1年間この方法を取ることにより次の年には再度契約することで解決しましたが、このことは最低価格のない入札というものがいかに厳しい結果を含んでいるということの再認識になりました。しかし現在この問題は業界としても解決されていません。
また、会社は鹿児島県の5ヶ所ある県立病院全部の医療事務を受託していましたが、これも大手企業が入札に参入することで落札できない職場が出てきました。現在では2ヶ所だけの契約となっています。大手企業が契約する方法は従業員には契約社員を充てることで1年間の有期雇用になります。このことは安定した職場が確保できず社員も一年後の契約に結べるかという不安がいつも付きまとうことになります。このことも規制緩和の弊害ではないかと思います。
(3) 課 題
今組合としての大きな課題は労使交渉だけでは突破できない「最低価格の決められていない入札制度」にあると考えています。民主党が政権与党である現在、国においては公契約基本法の制定とILO94号条約の批准を早急に締結し、各地方の自治体においては公契約条例を確立されることが喫緊の課題です。
鹿児島においては2008年1月に「入札制度や契約制度」に対してかねてから問題意識を持っている民主党A県議会議員(元ビルメン協会顧問・現分会顧問)の呼びかけで「公契約条例制定に向けて」として第1回勉強会を開始しました。これは、「県議会の中にも政策に対するチェック機能と提案機能が求められてきている」という県知事の会見発言に対する県議団の発奮とこれまで県議が抱える問題意識がうまく絡み、県議会の中に政策立案検討委員会が設置されたことによるものです。超党派で設置された検討委員会でアンケート調査を実施、その中から年度ごとの検討内容を決定するもので、「入札制度」の課題をうまく入れ込むことができたため、A県議はビルメン協会の顧問の頃から「労働者を競りに掛けるような入札制度」に大きく問題意識を持っていたため「制度改革のチャンス」として全国一般に呼びかけてきました。全国一般としても、ビルメンの職場における労使間協議・団体交渉の場でも、入札制度や契約のあり方に関して「制度を変えなければ労働条件・職場環境の改善は労使交渉だけでは限界がある」といった問題意識を持っていました。また、これまでの自治労との統合協議の中で、自治労の検討している「公契約条例・公正労働基準」の取り組みや情報に触れ、これを自治体に導入できればという思いを大きく持ち始めていた時でした。A県議と全国一般の思いがうまく合致し現在に至っています。
2008年度は入札制度自体はビルメン業界だけでなく建設業界にも関連するものであり、保守派の建設業界の意向を色濃く反映した内容となり、「工事以外の測量・建設コンサルタント業務、物品調達、業務委託等の入札にも同様の取り組みをすべき」とした内容を盛り込み2009年度につないだ。政策立案検討委員会自体が全会一致性をとっており、保守派の多い鹿児島では条例制定へは乗り越えるべきハードルが幾重にもありなかなか前へ進めない状況でした。A県議としては全国の条例検討状況の収集と鹿児島県の担当部署への聞き取り、全国一般としては交渉相手の企業への聞き取りや社民党市議の協力を経てビルメン協会の鹿児島市長への「陳情書」を入手し、「関連するビルメン業界とその労働者の現状と問題意識」を取りまとめる作業を行いました。また、県連合や自治労県本部にも要請を行い、協働で協議を進めることとしました。
その後定期的に連合鹿児島・自治労県本部・全国一般それに県議団を含めて協議を進め、具体的に条例案を県議が作成したが、保守派の反対を突破できない現状にあります。今年度の最終局面を控え、「条例の制定までは困難」として、今年度の「公契約条例」の検討結果として知事への政策提言を行うこととしました。また、「公契約基本法」制定に向けた「公契約における企業の健全経営及び適正な労働条件の確保を求める意見書」を取りまとめることになるようです。全国一般としても県連合の制度政策委員会メンバーとしても「公契約条例」の重要性について連合の政策要求の中でも追求していきます。
全国一般鹿児島・ソーゴー分会春闘・一時金推移表 |