【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第4分科会 「官製ワーキングプア」をつくらないために

 全国的な自治体業務の外部委託の流れの中で、十日町市においては指定管理者制度を利用した施設の民間委託を進めている。その受け皿として第三セクターがその一翼を担っている。市内の第三セクターで指定管理者制度で施設管理等を行っている事業所は、(株)松代総合開発(市100%出資)(株)なかさと(市81%)など6事業所がある。指定管理者制度における第三セクターの実態を(株)まちづくり川西を例にリポートする。



指定管理者制度と第三セクター


新潟県本部/十日町市職員労働組合連合会

1. はじめに

 新潟県十日町市は、日本一長い河川がその名を千曲川から信濃川に変わる、新潟県の南寄りに位置し、県都新潟市からは約90㎞の距離にある人口約6万人の街で、魚沼コシヒカリの生産地でもあります。また、人口5万人以上の都市では世界一雪の降る都市であり、「きものの里・雪の里・コシヒカリの里」として知られています。2005年に十日町市・川西町・松代町・松之山町・中里村の1市3町1村が合併し現在にいたっています。
 全国的な自治体業務の外部委託の流れの中で、十日町市においても指定管理者制度を利用した施設の民間委託を進めています。その受け皿として第三セクターがその一翼を担っています。市内の第三セクターで指定管理者制度を活用して施設管理等を行っている事業所は、(株)松代総合開発(市100%出資)(株)なかさと(市81%)など6事業所があります。指定管理者制度における第三セクターの実態を(株)まちづくり川西を例に報告したいと思います。

2. 行政が公共施設管理の受け皿として三セクを設立

 十日町市の川西地域(旧川西町)で公共施設管理運営業務を受託している(株)まちづくり川西の起源は、「第5次川西町総合開発計画(1996~2005年度)」に中心市街地の活性化を図る必要がある、とうたわれたことから始まります。1999年秋には「川西町中心市街地活性化基本計画」が、2000年3月には「川西町タウン・マネージメント(TMO)構想」が策定され、その中で「公共施設管理運営事業の受託及び、賑わい空間施設の管理運営を、自ら事業主体となり整備する」受け皿として行政100%出資(資本金2,000万円)で第三セクター(株)まちづくり川西を設立することになりました。
 TMO構想による中心市街地活性化事業は、事業主体は第三セクターが行うことになっており、当時の補助率3/4は高率であり、町財政の上でも第三セクターを設立する必要性がありました。
 2003年に運転資金の確保と金融機関からの借り入れをできるだけ低金利にするために資本の増強にせまられ、資本金を2,000万円から3,565万円へと増資を行いました。増資時には民間企業や個人からの出資を募るため、設立の趣旨や中心市街地活性化事業の概要等が記載されているチラシを広報誌と一緒に全戸に配布し、企業4社(80株・400万円)、個人83人(233株・1,165万円)の増資を受けました。


中心市街地活性化基本計画
 
 
T  M  O  構  想
中小小売商業高度化事業構想
……市町村の認定
……通算大臣の認定
 
事 業 実 施
……賑わい空間創出事業

 

3. (株)まちづくり川西の組織及び業務内容

 公共施設管理運営事業の受託及び賑わい空間施設の管理運営を自ら事業主体となり整備し、住民が「誇れるまちなか」「集い楽しいまちなか」「農と商の連携」「雇用の場の確保」など、住民ニーズに応えるため、民間活力により効率的な経営を目指し、住民の『活性化』の拠点会社として設立することとなりました。


① 設 立
② 資本金
③ 株式構成





④ 役 員  

2000年7月7日
(当初2,000万円その後2003年増資)3,565万円(1株5万円) 株式数713株 株主数88人
十日町市(旧川西町) 400株(56.1%)
川西商工会      20株(2.8%)
JA十日町      20株(2.8%)
新潟県信用組合     20株(2.8%)
千手温泉納入者組合   20株(2.8%)
一般株主(83人)   233株(32.7%)
社 長 十日町市副市長
取締役 6人 十日町市から2人(市長・副市長)、川西商工会1人、
       JA1人、千手温泉納入者組合1人、専務1人、監査役2人

⑤ 社員等                               (単位:人)
 

正社員

契約社員

季節雇用

パート

アルバイト

総務課

温泉施設

22

健康増進施設

ナカゴグリーンパーク

光の館

学校給食センター

12

18

11

10

52

⑥ 事業の経過 【沿革】
  2001年11月に旧川西町より「千手温泉 千年の湯」のグランドオープンに合わせて管理運営を受託したのを手はじめに施設の運営管理を始めました。
  2003年7月会社が事業主体となり金融機関からの借り入れと国県補助金で整備した長屋型共同店舗がオープンしました。長屋型店舗には飲食店・鍼灸接骨院・JA十日町・小売店等が入居し、会社は入居者から地代を徴収し借金の返済に充てています。
  2005年4月から2010年3月まで指定管理者制度を活用して5施設と大地の芸術祭の作品等の管理運営を行ってきました。2010年4月から2015年3月まで2巡目の指定管理に競争入札で落札して現在にいたっています。
  また、公共施設の管理のほかに2008年4月からは1年毎の契約で川西学校給食センターの受託業務を行っています。給食センター長は市の職員で栄養士は県費職員が行っています。給食用の食材や調理器具は市が市費で調達し、会社は納入された食材を使っての調理業務、担当学校への配送と使用した食器や容器、残渣などの回収、食器や容器の洗浄と管理、保管業務を行っています。
  設立当初から2007年度までは赤字が続きましたが、ようやく2008年度からは黒字となり累積赤字を減少させることができるようになりましたが、累積赤字を解消するにいたっていません。

芸術祭作品 ジェームス・タレルの「光の館」
ナカゴグリーンパーク
⑦ 指定管理者制度の委託費の推移
 
 

指定管理1回目

2回目

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

総合緑地公園(ナカゴグリーンパーク等3箇所)

12,780

15,500

13,650

13,970

12,930

12,288

11,910

千年の湯
(温泉施設)

0

0

0

0

※ 1,911

0

0

健康増進施設
(温水プール)

22,810

26,000

26,000

25,500

30,600

26,226

25,200

指定管理 計

35,590

41,500

39,650

39,470

45,441

38,514

37,110


⑧ 学校給食の委託費の推移(1年毎契約)
 

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

学校給食

29,500

29,500

29,500


4. 会社設立の趣旨と現実の整合性

(1) 公共施設の管理運営
 会社設立の一つの柱は、公共施設等の管理運営である。市からは千年の湯(温泉施設)、ひだまりプール(温水プール)、節黒城跡キャンプ場、光の館、ナカゴグリーンパークの管理運営をしています。利用料金収入で経費を賄えているのは温泉施設であり、他の施設は賄えていないため市から委託費を受けていることになっています。というのは、会社は施設間の人員の配置を繁忙期や天候に合わせて流動的に行うことによって、これら施設全体での管理運営を行っているからです。
 公共施設の管理運営という会社設立の目的は、指定管理者制度でも果たしています。

(2) 住民の『活性化』の拠点
 会社設立以降、法律・制度は変わる、管理運営する施設数は増加するという中で、施設の管理運営に追われ企画・提案業務に力が注げないのが現状です。会社で企画部門は総務課ですが、総務課長は学校給食センターの課長と兼務であり、他の課員も兼務をしないと経費の節減ができないため企画・提案部門が手薄になっています。
 住民からは賑わい空間の活性化や地域振興のための企画をもっと出してほしい、という声があがっています。

(3) 農と商の連携
 温泉施設内には大広間と個室の休憩室を設置されていますが食堂は設けず、地域の飲食店からの出前で対応していて、地域の飲食店の売り上げに貢献しています。また、温水プールの燃料は地域の石油商組合が納入組合を組織し、安価な料金で給油してもらっています。
 給食の食材納入組合が市直営時より組織されており、地元の食材が学校給食に供給されており、会社が受託してからも組合をとおして地元食材を使用しています。地元の食材比率は39%であり、市内の他の給食センターが10%代であるのに比べて、地産地消は進んでいます。しかし、地元の野菜は不ぞろいであり、例えばジャガイモは大小様々であり加工に手がかかり、また、冬期間は地元の野菜の供給がほとんどない状態となります。
 温泉の排熱を利用したビニールハウス3棟を農業法人と連携してイチゴの栽培に取り組む等、温泉を核とした新たな試みも始まっています。

(4) 雇用の場の確保
 第三セクターで52人が働いており雇用の場を提供しています。特に学校給食では市直営時には正規職員の調理員は2人しかいませんでしたが、三セクでは5人が正規の調理員として採用され、賃金水準は市直営調理員より安いとは言え、雇用の安定には貢献しています。

5. 今後の課題

 契約期間の5年では経営の中期目標しか立てることができないのが現状で、10年後の経営計画を立てることができません。そのため、目先の短期の経費の節減に労力を割くことになり、特に人件費の削減につながり、パート等の非正規労働者が増加し、官製ワーキングプアの増加をもたらしています。さらに、他の会社が施設の管理運営を落札した場合、現在受託している会社の社員は解雇せざるを得ません。
 また、目先の利益確保に走ることにより、会社設立時のまちづくりの拠点として地域に役立つ第三セクターの役割を追求することができなくなっています。
 公募で、安さだけの入札ということになると、黒字が見込まれる温泉施設のみ入札し、他の施設へは入札が行われず、公共施設複数の人員配置のやりくりでなんとか経営を行っていますが、経営の核となる温泉施設がなくなると、温泉施設以外の施設の委託費が増額となる可能性が高くなります。また、地域内から灯油を石油納入組合をとおして調達してきましたが、他の民間会社が受託した場合は地域外からの調達となる可能性が高くなり、地域に金が落ちなくなります。

6. 最後に

 第三セクター会社を設立した目的が、公共施設の管理運営であり、公募の結果で管理運営に携わることができないということになると、何のために第三セクターに行政と地域住民が出資したのかが不明になります。
 毎年のように委託費に一律3%削減といったシーリングをかけられると、人件費を削減して目先の利益確保に走らざるを得なくなります。行政側の経費の節減には役立ちますが、雇用の場の確保が危うくなります。
 経費の節減に重きを置くのか、地域に貢献することに重きをおくのか、行政の判断となりますが、行政は㈱まちづくり川西については、経費の節減に重心をおいているものと思われます。
  公募を行う場合、地元からの物資の調達率を定める等して、地域経済への貢献度も加味した公募が求められます。