【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第4分科会 「官製ワーキングプア」をつくらないために

 自治労都庁職労働支部では、今年度の自治研集会において、労働相談窓口に寄せられた「有期雇用」に関する相談事例の分析に取り組みました。「非正規切り」などの社会問題の根底にあるのは「有期雇用」であり、雇用不安や権利行使の困難さなど、大変厳しい実態を浮き彫りにすることができました。この成果を活かして、現場からの政策的な議論を喚起し、今後の法改正の議論や業務改善に役立てられるよう取り組みます。



労働相談窓口から見た「有期雇用」の問題点
―― 自治労都庁職労働支部 自治研の取り組みについて ――

東京都本部/自治労東京都庁職員労働組合・労働支部

1. 「有期雇用」をめぐる状況

(1) 自治労都庁職労働支部の業務改善への取り組み
労政分科会の議論風景
 自治労都庁職労働支部は、東京都庁の労働行政(労働相談情報センター・職業能力開発センター・労働委員会・東京しごと財団・産業労働局雇用就業部)で働く現場の労働組合です。支部は、方針として労働行政の拡充強化を掲げていますが、これを実現するため、職場から仕事を点検し、政策要求に結びつける自治研活動を推進してきました。
 また、全国労政・労委連絡会、全国職業訓練協議会の構成組織として、自治労の全国自治研集会にも積極的に参加しています。
 労働支部自治研集会は、今年で第49回を数え、2010年7月16日(金)に開催されました。
 東京都は、6箇所の労働相談情報センターで「労働相談」を実施していますが、センターの職員が参加する労政分科会では、「労働相談から見た有期労働の問題点」と題し、有期雇用に関わる相談事例を持ち寄り、議論を進めました。
 本レポートでは、その成果について報告します。


(2) 「非正規切り」と有期契約労働の関係
① 「雇用危機」の根底にある有期雇用問題
  近年、雇用の非正規化が急速に進行しました。パート、派遣、契約社員等の非正規労働者比率は、1987年には19.5%でしたが、2003年以降は全雇用者の3割を超え、2007年には32.6%となっています。特に、パートではない常用労働者に占める非正規労働者の割合が増加しており、非正規労働者=家計補助的な臨時的雇用というイメージから、生計の中心を担う者へと大きく変わっていることが特徴です。
  2008年9月のリーマン・ブラザーズ破綻以後、雇用状況は急速に悪化しました。この「雇用危機」によって最も大きな影響を受けたのは非正規労働者で、特に輸出関連の製造業を中心に派遣労働者や期間工の契約打ち切りなどが社会問題化しました。総務省が、2009年8月18日に発表した4~6月期の労働力調査の詳細集計(速報)によると、アルバイトや派遣などの非正規雇用者数は1,685万人と、前年同期比で47万人減り、2003年以降で最大の減少幅となっており、非正規労働者が雇用の調整弁にされている実態が分かります。
  その背景には、非正規労働者の多くが、3ヶ月・6ヶ月契約などの、期間の定めのある(有期)雇用契約を更新して働いているため、正規労働者よりも簡単に雇用調整の対象となってしまうことが挙げられます。
  この間の雇用政策は、雇用調整助成金や雇用創出事業などの、緊急避難的なものが中心でしたが、中長期的には、同じ問題を起こさないため、派遣や有期契約労働者などの非正規労働者の雇用の安定をどう実現するかが重要だと考えられます。しかし、雇用保険等のセーフティネットについて若干の改善はありましたが、根本的な対策は依然なされていないのが現状です。安定雇用を実現するためには、今後の働き方や人材育成のあり方について一層議論する必要があります。
  非正規労働者のうち派遣労働者については、「派遣村」などで社会問題となったこともあり、その後、登録型派遣・製造業派遣・日雇い派遣の禁止などを内容とする改正案が国会に提出されました。しかし、派遣労働を含む非正規労働全体に共通する問題として、「有期雇用をどうすべきか」という課題が、依然として残っています。
② 有期雇用問題について国も法整備の検討を開始
  厚生労働省は、有期労働契約に関する今後の施策の検討を目的として、2009年2月に「有期労働契約研究会」を設置し、2010年9月10日、研究会は有期雇用契約の法規制見直しを求める報告書をまとめています。
  報告書では、2008年末の非正規切りに見られるような有期雇用労働者の雇用不安の払拭、労使紛争の発生防止や迅速解決、公正な処遇の下での安定した雇用を確保するために、法整備を含めた検討が必要であるとしています。さらに具体的な検討ポイントとして、締結事由の規制、更新回数や利用可能期間に係るルール、雇止め法理の明確化、均衡待遇および正社員への転換などを挙げています。
  論点ごとに見ると、「入口規制」にあたる締結事由の規制については消極的であり、むしろ更新回数や利用可能期間の上限設定について高く評価しています。また、雇止め防止について法律で明確化することには否定的であり、正社員化については、事業主に対する正社員化推進措置の義務付けや措置導入へのインセンティブの付与、勤務地限定・職種限定の正社員など多様な雇用モデルを選択できる制度を検討すべきだとしています。
  法改正の議論は、厚生労働省が所管する、公労使の労働政策審議会労働条件分科会に引き継がれ、2011年から実質的な議論が始まります。
  有期雇用の今後について考えるにあたっては、雇止めの問題だけでなく、キャリア形成やワークライフバランスの観点、「正社員」の働き方の再検討も含めた、より根本的な議論が必要になってくると考えられます。

2. 労働相談の現場から見た「有期雇用」問題

(1) 行政の実施する労働相談の現状
 現在、行政が実施している「労働相談」には、都道府県の労政主管課・事務所が設置する各種窓口と、国の地方労働局の総合労働相談コーナーがあります。さらに、労働者と会社との間の(労働組合の関与しない)個別労使紛争の解決制度については、東京・大阪・神奈川・福岡など大都市を中心とした都道府県の「あっせん」制度、東京・兵庫・福岡を除く道府県労働委員会の個別紛争「あっせん」制度、地方労働局の個別労使紛争解決制度、地方裁判所の労働審判制度など、多様な制度が並存しています。
 2009年度の、東京都など主要自治体の労働相談件数を見ると、大阪府(15,405件)・福岡県(10,874件)で過去最高となり、神奈川県(11,846件)は前年を下回ったものの、東京都は55,082件で前年をわずかに上回っています。この4都府県では、あっせんも実施していますが、件数と解決率は、東京729件(67.1%)、神奈川173件(53.2%)、大阪府66件(78.8%)、福岡県94件(68.9%)です。また、全国44道府県の労働委員会で行われているあっせん件数と解決率は548件(62.0%)となっています。都道府県の解決率は、裁判官の参加する労働審判(69.0%)にほぼ匹敵し、国の個別労使紛争解決制度(35.0%)に比べると遥かに高いものとなっています。
 東京都でも、都内6か所の労働相談情報センターで労働相談を実施しています。内容的には、「解雇」10,870件、次いで「退職」10,485件で、ともに1万件を超えています。以下、「職場の嫌がらせ」7,113件、「賃金不払」7,065件、「労働契約」6,299件の順となっています。
 労働契約の形態別にみると、パート・アルバイト(15.6%)、契約社員(9.4%)、派遣(5.9%)、請負(1.4%)等、非正規労働者関連の相談は15,705件で、契約形態の分かった相談の33.2%を占めています。これらの労働者は、基本的には「有期」の労働契約で働いていると考えられます。

(2) 労働相談窓口から見た「有期」契約労働の問題点
 労働支部自治研集会では、「有期」契約に関する相談・あっせんの中で相談担当者が特徴的だと感じた事例を、各事務所の分会で集約してもらい、ワークショップ形式により議論しました。
 以下は、当日の議論に基づいて事例を分類し、若干の説明を加えたものです。
① 不安定雇用・雇止めに関するもの

○事例 営業職の適性を見極めるため有期契約終了後に雇止めされた。当初は、正社員で採用する約束であったが、試用期間中は有期雇用(契約社員)となっていた。(製造業)

  東京都が2007年度に実施した「契約社員に関する実態調査」契約社員調査でも、「正社員としての適性をみるため」に契約社員制度を活用していると述べた事業主が約3割(28.7%)有り、試用期間後の解雇を逃れるための有期雇用化が見られます。経営不振による人員削減などがよく報道されますが、それ以外の様々な形で、職場に有期契約労働が入ってきていることが分かります。もちろん、試用期間といっても期間の定めの無い雇用の一部ですから、有期雇用に比べると、雇用は遥かに安定しています。
② ワークライフバランス・育児休業に関するもの

○事例 妊娠の事実を伝えたら、会社は契約期間の短縮(1年→6ヶ月)を提案してきた。あっせんでは、「契約期間短縮前に申請があれば休業を与えなければならない」と会社を指導することで、結果的に育児休業を取得できた。直前の期間短縮であればこの方法で対応可能だが、今後企業側が学習し、採用時から短い契約期間に統一されれば休業は取得できない。(製造業)

  どれだけ更新を繰り返しても、次回契約更新時に子どもが1歳を超えていない限り育児休業の対象にならないため、多くの企業で採用されている6ヶ月契約では、労働者は育児休業を取得できません。有期契約が「自動更新」となっていて、期間の定めの無い契約と同一視される場合には取得できることとなっていますが、労働契約法の施行や、公務職場では中野区保育園裁判等を契機に、契約更新の手続は厳密になってきており、「自動更新」はほとんど無くなっています。
  また、育児休業が取得できないことによって、産前休業に入る前に労働契約満了で雇用を失ってしまうと、社会保険からの給付(産休中の賃金補償である出産手当金や出産育児一時金)も受けられず、さらに在職していないということで保育園の入園も困難になってきます。育児休業の制約は、もともと休業中の雇用保険給付との関連で設けられたものだと考えられますが、当事者にとっては、それ以上の不利益をもたらしているのです。
  日本弁護士連合会は、2010年7月15日に発表した「有期労働契約研究会中間取りまとめに対する意見書」において、女性にとっての有期雇用問題について述べています。総務省の「平成21年労働力調査年報」によると、女性労働者の53.3%が非正規労働者であり、「年齢別の女性の就職率は現在もM字型曲線を描き、結婚・出産を機に退職する女性は少なくなく、復職する場合は現実的には有期契約労働以外に選択の余地がない場合は少なくない。その結果、有期労働契約における雇用の不安定は、離婚後の女性や就業形態に大きな制約を事実上受けざるを得ない母子家庭の貧困を招来」するとし、あたかも労働者が自発的な判断で有期雇用を選んでいるかのように論じている研究会報告を批判しています。
③ 労働条件の不利益変更に関するもの

○事例1 重度の知的障害者の作業所。1人は契約書にある雇止め基準により雇い止め通告、もう1人は契約期間が短縮(1年→6ヶ月)される。
○事例2 契約更新後、契約に無い土日出勤を拒否したところ、今後は契約更新しないと言われた。(小売業)
○事例3 契約期間中に職種転換(事務職→介護職)を通告されたが、説明がないとして拒否。労働条件通知書に配置転換有りとしている。(福祉)

  正社員に関しては、労働契約法によって、労働条件の不利益変更が厳しく制限されています。また、期間の定めが無い雇用であれば、長く勤めることによって、賃金だけでなく解雇の困難性も含めた労働条件が向上していくが、有期雇用であれば労働条件が毎回リセットされてしまいます。さらに、有期契約労働者に対して、新たな(低い)労働条件での契約更新の申し入れと現在の契約の破棄が同時になされた場合(変更解約告知)には、失業を避けるために、著しく不利益な変更であっても断ることができないのが現状です。
  事例3は採用時の労働条件明示に関するものです。正社員の場合には、就業規則等で「配転あり」となっていることが多いのですが、逆に有期契約の場合には、労働契約の中で職務内容や就業場所などを特定するのが普通です。しかし、これには法的な規制がありませんので、事例のようなケースも起こりうるのです。自治研の議論では、正社員との労働条件の違いを考えると、有期契約労働者の配置転換が労働契約書の記載だけで可能となるのでは、両者のバランスが取れておらず、大幅な職務内容の変更を伴う場合には本人承諾が必要だとしたほうが公正であるという意見がありました。
④ 労働法の認める権利行使に関するもの

○事例1 毎月、カレンダーを見て毎月シフトを決めている。年次有給休暇について聞いたら、使用者は、「休みたければシフトを変更しろ」と言うだけ。(小売業)
○事例2 仕事の繁閑によって契約上の労働時間が日々変更されてしまう。休業補償を求めようとすると雇止めをちらつかせる。(イベント業)

  最後は、有給休暇など権利取得の問題です。例えば労働基準法上の権利は、原則的に労働契約の種類に関係なく保証されることになっています。しかし、権利を主張すると「能力不足」など別な理由によって契約更新を拒否されるため、有給休暇や残業手当の支払いなど、労働基準法の認める当たり前の権利であっても、有期契約労働者にとっては行使が困難な場合が多いのです。
  また、コンビニなどシフト制をとっている事業所では、労働時間が流動的であることから、様々な問題が起こっています。そもそも短時間労働者については簡単に勤務時間を変更しても構わないと考える使用者が多いうえ、シフト変更すれば事足りることから、有給休暇の付与について全く意識していないケースも多く見られます。国や自治体は、きちんとパンフレット等で周知すべきです。

3. 今後の取り組みについて

 私たち行政の職場においても、正規職員数の削減と事業のアウトソーシング化が進んでおり、たとえ直営であっても正規職員の仕事の多くを非常勤の職員が担っているのが現状です。行政の単年度会計の下では、非常勤職員や委託先の労働者は有期雇用労働者とならざるを得ず、不安定な雇用や低い労働条件が問題となっています。東京都でも、1年契約の「専務的非常勤職員」の設置要綱が変更され、更新回数の上限が原則4回までとなりました。
 私たちは、有期雇用問題に対して、以下のような対策を採るべきだと考えています。
① 有期雇用契約に対する法規制
  まず、雇用の有期化の流れに一定の制限をかけるべきです。「合理的理由」の存在を有期契約の締結条件とすることや、労働条件の均等待遇実現、労働契約の更新拒否を制限する方向での法整備が必要です。
② 正規・非正規の垣根を取り除くこと(労働条件決定システムの再構築)
  非正規労働者の賃金は労働市場で決定されるため、雇用契約を更新しても、「賃上げ」という概念がありません。一方、正社員については、低成長経済の下、労働組合があってもベースアップが実現せず、逆に非正規労働者の存在が賃下げの圧力となっています。この状況を変えるためには、正規・非正規の垣根を取り除き、労使交渉の場で、両者が納得できる労働条件を実現する必要があります。とはいえ、それは簡単なことでなく、従来の「正社員・非正社員の二極化モデル」に変わる「多様な正社員モデル」の検討など、処遇やキャリア形成について根本的な議論が避けられません。
  ここで重要なのは、集団的な労働条件決定システムの再構築です。正規・非正規の垣根を取り除くといっても、労使の合意なく、使用者ベースで進められれば、労働条件の低い方がスタンダードとなっていくからです。
  しかし、厚生労働省の「平成21年労働組合実態調査」では、労働組合の推定組織率が18.5%となっており、パートの組織率に至っては5.3%です。組織化は少しずつ進んできていますが、多くの労働者、特に非正規労働者は労働組合に加入していない現状があります。
  このため、企業等で働く多様な労働者が自分たちの代表を選出し、労使対等の交渉が行えるような仕組みが不可欠になってきます。行政としては、労働組合のない職場における労働者代表制や労使委員会の実効化も含めてサポートしていく必要があります。このことは、労働条件の問題だけでなく、様々な個別労使紛争の企業内での解決や未然予防、メンタルヘルスを含む安全衛生の充実にも繋がってきます。

 自治労の職能組織である全国労政・労委連絡会は、年2回、対政府予算要求中央行動として厚生労働省交渉を行っており、労働支部も参加しています。2010年8月3日の交渉において、この自治研の成果を、厚生労働省労働基準局に提出しました。
 今後も継続的に相談実態を分析し、自治労・連合に対して現場の意見を上げ、審議会での議論に活かしてもらうよう、取り組んでいきます。