1. 対象となった業務
今回、再直営化闘争の対象となった業務は、2005年に策定された高知県行政改革プラン(以下:行革プラン)のもとで、2008年4月にアウトソーシングされた業務である。県庁内の多くの職場でアウトソーシングが行われてきたが、研究員、現業職員、非常勤職員で構成される試験研究職場も例外ではなく、所管する産業技術部は、研究員数の確保を最優先に考え、非常勤職員が担ってきた器具洗浄や培地作成業務、現業職員・非常勤職員がともに担ってきた園地除草、栽培・飼育業務等の民間委託(請負)を検討し始めた。しかし、県職員との間で指揮命令が発生する偽装請負の可能性が指摘され「請負」を断念。そして、企業内にノウハウを蓄積させる間は、県職員からの指揮命令が可能な「派遣」で行い、将来的には「請負」をめざすとの方針へ変更し、「派遣」による民間委託予算を、2007年12月議会で補正予算として提案してきた。
そして、農業、畜産業、水産業、紙産業の試験研究を担う6所属において、10業務が委託(派遣7、請負3)に出され、それまでそれらの業務を担っていた32人の非常勤職員が雇い止めされた。
2. 過酷な入札結果
恐れていた「叩き合い」が現実のものとなり、予定価格の54.2%で落札された業務もあった(次表参照)。企業が非常勤職員に示した時給は700円程度、年収100万円をも割り込む内容に、現場はまさに絶句することとなる。「価格差は少ないはず」「経験者は集まる」とタカをくくっていた当局も慌てることとなった。
3. 現場の混乱と偽装請負
(1) 検証作業で明らかとなった職場の混乱
4月以降、委託業務が現場にもたらした問題や県職員の負担増の実態、再直営化に向けた糸口等を掴むことを目的に「アウトソーシング検証委員会」を2回開催した。
非常勤職員の大半が再就職できた業務については、同じメンバーなため当初は問題が報告されなかった。しかし、時間が経つにつれ、次の年に働ける保障のない中で、モチベーションが失われていく事実が判明する。一方、企業が新たに労働者を連れてきた業務では、仕様書で条件としていた「農業の経験」「機械操作の経験」が守られず、労働者の入れ替わりも多いため、研究員や残った非常勤・現業職員の負担が増加していることが明らかとなった。また、企業に示す月、週ごとの作業計画作成や調整等を行う担当研究員(係長・チーフクラス)の負担増も報告された。
(2) 偽装請負の発覚
上記検証委員会では、県職員が請負労働者へ指揮命令している実態も判明した。
① 定型的依頼分析試験委託業務(紙産業技術センター)
経 過:2007年3月までは研究員による直営、
2007年4月~派遣、2008年4月~請負
概 要:企業から依頼を受けた試験を、請負労働者が行う業務
特 徴:企業にノウハウが無く、派遣で労働者を育成して請負に切り替える予定だったが、請負化直前に経験を積んだ労働者が退職。請負となって以降も、新たな労働者に県職員が意思疎通を図りながら直接指導(偽装請負)。知識と経験が、企業ではなく労働者に蓄積され、解雇や退職があった場合には、たちまち県業務が滞り、県職員に負担が及ぶことが明らかとなった事例。再直営化闘争の結果、非常勤業務として直営に戻った。
② 実験補助業務委託(農業技術センター)
経 過:2008年3月までは非常勤職員による直営、2008年4月~請負
概 要:試験研究に使用する培地の作成業務(シャーレー等にゼラチン質の培地を塗る作業)や、使用する様々な器具の洗浄を行う業務。経験のある非常勤職員を雇い止めして、請負企業に再雇用した事例。
特 徴:請負労働者に依頼したいことがあったら、県職員がソバに行って独り言(依頼)を口ずさむといったことが行われていた(偽装請負)。現在も請負継続中。
4. なぜ職場の混乱や偽装請負が起こったのか
(1) 経験者が集まらない、経験値が上がらない
労働者の入れ替わりで最も混乱したのが、非常勤職員が再就職しなかった農業技術センターのほ場管理業務(派遣)で、元々民間にニーズがない業務なため、発注当初は未経験者が多数派遣されてきた。単一作物を広く植え付ける一般的な農作業と、異なる品種を小規模で多数栽培する試験研究では、求められる扱いの正確さは大きく異なるうえ、作業の失敗は試験結果にも影響するため、細かい作業が求められた。その結果、慣れない作業にやめる者が多く出た。しばらくすると、現役農家が集められてきたが、自身の農作業の合間を縫っての派遣であり、頻繁に入れ替わる状況は最後まで続くこととなった。労働者が入れ替わるたびに、一から指導を行わなければならない状況が繰り返され、終わりの見えない労働者の交代による負担が、研究員や現業職員に重くのしかかった。
(2) 偽装請負、「請負」に対する無理解
偽装請負とは、発注者と受注者側の労働者間で指揮命令を行っても構わない「派遣」のような働き方をしているにもかかわらず、指揮命令が禁止されている「請負」であると偽っている状況をさす。法違反であり行ってはならない行為だが、行政側の認識は低いのが現状だ。
そもそも、偽装請負はなぜ行ってはならないのか?
① 理由①:責任の所在があいまいに
例えば、県職員から「2階にいって○○をとってきて」といった指示を受けた請負労働者が、その用務途中で階段から落ちてケガをしたとする。この場合、企業から言わせれば、仕様書に明記されていない業務内容を請負労働者が勝手にやったこととして、指示した県職員と請負労働者に責任を押し付けることも可能だ。また、同じように研究上の失敗や器物破損等が起こった場合にも、誰がその責任をとるのかの責任の所在が曖昧になる。契約書上で損害賠償の取り決めをしていても、責任が明確でなければ、その請求もできない。
② 理由②:労災隠しの恐れも
県職員が指示した仕事でケガをした場合は、その県職員に損害賠償請求が行われる可能性も否定できない。企業が労災保険を掛けているから大丈夫と言う人もいるが、労災になるような事故が起これば、ペナルティーとして、その企業は次の入札に参加することができない場合もある。また、労災が認定されると労災保険料(企業による全額負担)も跳ね上がるため、「労災隠し」も横行している。ケガをしても「今後も雇われたければ、黙っておくように」との企業側の圧力に労働者が屈し、労働者が泣き寝入りする例が多くある。企業が責任をとらなければ、県職員個人が損害賠償で訴えられる場合もでてくる。
③ 理由③:特定の企業、労働者に依存
定数削減やアウトソーシングの数値目標を達成するため、県は企業がノウハウを持たない業務までをもアウトソーシングしてきた。そのため、OB(非現業・現業・非常勤)にNPOを設立させたり、企業に移籍してもらうことで、なんとか業務レベルを維持している状況がある。特定の企業にまかせるために、入札にプロポーザル方式を採用しているケースも多い。以前県で働いていた仲間の雇用を守る側面もあり、一概には否定できない部分もあるが、議会等で指摘されれば競争入札に移行しかねない部分も出てくるのではないか。
④ 理由④:知識と経験が断絶
県業務を委託に出したことで、県職員の知識と経験も廃れていっている。委託は定数削減を伴うため、業務に関わる時間が取れなくなるのに加え、偽装請負を避けるために、委託労働者とともに業務を行うこともできない。そのため業務を体験すること自体ができない。企業も余裕をもった人員を抱えられないため、経験と知識を労働者に依存しているが、その労働者が辞めれば、業務はたちまち滞る危険がある。もし、企業が撤退(労災、入札辞退、廃業)することにでもなれば、県職員にノウハウもなくなっていくなかで、誰がどの様にその業務を継続させられるのか……
5. 行政のあるべき姿を取り戻すためには……
(1) 再直営化を展望した取り組み
① アウトソーシングされる前の反対闘争が大きな力になる
② 職場の混乱、偽装請負を見逃さないための検証作業を実行
③ 業務の特殊性、継続性、将来誰がどのように担うべきか、を明らかにする
④ ③を支えてきた職の歴史、職種の必要性、必然性を明確にし、たたかう根拠へ
(2) 委託企業・労働者との連帯
① 賃金・労働条件の実態調査
今回の再直営化闘争では、企業に移った元非常勤職員からの聞き取り調査が、後の取り組みを支えることとなった。以下は、県職新聞に掲載した内容
その取り組みは直接聞き取りで行い、本部専従だけでなく、分会や支部の役員とともに行いました。そこには正規職員には想像すらできないような状況がありました。年収が150万から100万へ下げられたことで、家族の弁当も作れなくなり昼は150円の五目だけ、生命保険自体をやめる検討を本気でしている、一番したくなかった親戚への借金をしている、など生活の苦しさが訴えられました。50歳以上の女性がほとんどで、不景気のなか夫も子どもも非正規労働者で収入が少ないなかで、生計の柱となっている人が多いことも判明しました。病気を持つ夫の世話や親の介護などの負担を抱える人も複数おり、このような状況で賃金を50万円も下げることは許されない行為であることを皆が実感しました。また、来年も働ける保障もない中で、仕事を改善しようという意識が持てなくなったとの声によって、知識と経験が不可欠な試験研究には派遣も請負もふさわしくないとの認識が、確信にまで押し上げられました。 |
② 委託労働者の組織化と労働運動の実践
(3) 公契約条例の制定
① 官製ワーキングプアの議会追及
② 企業を巻き込んだ、条例制定の気運作り(野田市の例を参考に)
|