【要請レポート】

第33回愛知自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による安心のまちづくり

 現在、高齢化社会が進む中、認知症対応型共同生活介護施設(グループホーム)、特別養護老人ホームなど、老人福祉施設等の需要が増加しています。亀山市内においても同様の施設が増えており、施設からの救急要請も増えています。そこで、亀山市内の老人福祉施設等における救急内容を検証し、消防行政としてできるより良い住民サービスのあり方を考察します。



救急隊員の理想と現実
老人福祉施設等における救急を考える

三重県本部/亀山市消防職員協議会 長谷川哲也・大井 一幸・水野 圭介・豊田 賢治・浦野 慎治・古川 良樹・高嶋  剛・宮崎伊佐夫・服部 裕也

1. はじめに

 亀山市は三重県の北中部に位置し、人口約5万人、鈴鹿山脈など豊かな山林に恵まれ、歴史的にも東海道の宿場町として古くから交通の要衝として栄えてきました。近年、液晶関連企業の立地が進み、人口の増加、建築物の建設など目まぐるしく環境が変化しているところです。
 そんな中、亀山市において、なんらかの介護を必要とする高齢者を対象とした住宅や施設など、いわゆる老人福祉施設等が増加しており、施設からの救急要請が増加しています。
高齢者の福祉、介護については、社会の大きな問題でありますが、亀山市内の老人福祉施設等における救急事案にはどのような傾向がみられるか、また、より良いサービスを提供するには消防行政と施設がどのように連携を図っていけば良いか考察します。

2. 亀山市内の老人福祉施設等への救急件数の推移と救急内容

 亀山市には現在、老人福祉施設等として、認知症対応型共同生活介護施設(グループホーム)が7施設、特別養護老人ホームが3施設、養護老人ホームが1施設、介護老人保健施設(老健)が1施設、有料老人ホームが3施設、適合高齢者専用賃貸住宅が1施設存在します。(通所施設、介護療養型医療施設を除く)
 これらの施設における救急件数を過去5年分グラフに表すと以下の通りとなり、一時的には減少した年が見られるが、概ね増加の傾向であります。

 また、救急事故の分類としては交通、労働災害、加害、自損、急病、一般負傷(交通事故や運動競技、労働に際して起こる負傷ではなく、歩行中の転倒やベッドから転落などで起こる不慮の事故、窒息事故も含む)などがありますが、2005年から2009年の5年間では、市内の老人福祉施設等における救急車を呼ぶ理由は急病と一般負傷のみであり、中でも急病が多くを占めています。

 急病の詳細を見てみると疾患別では呼吸器系疾患が最も多く、脳疾患、心疾患が続く結果となりました。具体的な病名としては、肺炎、呼吸不全、脳梗塞、脳出血、心不全など緊急度も重症度も高い疾患が目立ちました。
 一般負傷については、打撲や切創、高齢者に特有な骨折として大腿骨頸部骨折など、入院を要することもあります。また、誤嚥や窒息など緊急性の高い事故で亡くなったケースもあります。

 2005年から2009年の5年間を程度別で見てみると、入院を必要としない軽症は27%であり、3週間未満の入院が必要な中症が52%、3週間以上の入院が必要な重症が16%、死亡が5%となりました。これは亀山市の救急事案全体のパーセンテージを参照すると、軽症51%、中症33%、重症13%、死亡3%となることから、老人福祉施設等から救急要請があった場合、他の救急搬送と比べると中症以上の占める割合が高いことが分かりました。

3. より良い救急搬送のために

(1) 傷病者の情報について
 救急隊から病院へ連絡する際には、傷病者の名前、住所、生年月日などの基本的な情報のほか、発生原因、主訴、経緯など救急要請に関することはもちろん、病歴や服用している薬、普段の状況(意識状態や歩行状況など)との違い、血圧や体温、血中酸素飽和度などのバイタルサイン、関係者(家族)への連絡先などが必要で、救急隊は現場で傷病者本人や関係者等からそれらの情報をひとつずつ聴取し、救急隊もこれらの情報をもとに観察や応急処置を行っています。
 前述したように老人福祉施設等での救急事案は他と比べて重症度が高いため、早急な病院搬送が必要となります。
 傷病者情報をより早く、確実に把握し、より良い救急搬送にするため、施設側と消防行政側がお互いの情報を共有していくことが必要ではないでしょうか。

(2) 現場応急処置について
 119番通報から救急隊が現場に到着するまでの時間は全国平均で約7分、亀山市では約8分かかります。
 老人福祉施設等での救急事案の程度別割合では、入院を必要とする中症以上の占める割合が高く、救急隊が到着するまでの応急処置がとても重要になってきます。
 通常の救急出動事案では、何らかの応急処置が行われていることはほとんどありません。それに対して老人福祉施設等には、看護師や介護士などの医療従事者がいる場合が大半で、応急処置が施されている割合は高いのですが、傷病者の症状の悪化を防ぎ、生活水準を維持するためには更に質の高い応急処置が必要です。
 そのためにも私たち消防行政側と施設関係者だけでなく、医療機関などが共通の認識を持つよう協力していくことが必要なのではないでしょうか。

(3) 搬送病院の選定について
 現在、救急隊員が救急現場でもっとも苦慮していることは、受け入れ先の病院が決まらないことです。ベッド満床や処置困難、専門医不在等の理由で受入れを断られることがしばしばあります。
 老人福祉施設等に入所しており、救急要請される方は重症度、緊急性が高い場合が多いだけでなく、慢性疾患を患っていたり、病歴が多く診察科目が多岐にわたるなど、搬送先病院の受け入れが更に困難になることがあります。
 各施設で医師の応診体制や緊急時の連絡体制などを再構築し、病院との連携を強化することが救急活動を円滑に行える要因の1つになるのではないでしょうか。

(4) 救急車への同乗について
 (1)でも記載しましたが、救急搬送の際には傷病者の情報が必要です。施設関係者が救急車に同乗して頂ければ、走行中にも聴取が可能となり、搬送時間の短縮につながるばかりでなく、病院引き継ぎ時にも直接、施設関係者から医師に説明することで、より確実な情報の伝達が可能となります。
 また、救急車には通常3人の隊員が乗車しており、傷病者を車内に収容した後、救急隊員のうち1人は病院連絡を行い、もう1人は運転手となることから、傷病者への対応が1人となることがあります。施設関係者の同乗が得られれば、情報の収集に止まらず、応急処置を協力してもらうことでより質の高い救急サービスを提供できるのではないかと考えます。

4. まとめ

 今回、救急と介護の関係について、過去の救急事案を検証した結果、当初は救急隊として望む老人福祉施設等の対応を問題提起し、その問題を解決することが、より良い住民サービスにつながると考えていましたが、他の関係機関から情報を得るなど、様々な角度から考察したところ、問題は根深く、施設と救急現場の対応だけでは解決できないことが多く、法整備やシステムの構築が必須ではないかと感じました。我々が描く安心の町をつくるため、今やらなければならないことは、「消防」、「介護」、「福祉」、「医療」、「財政」、「行政」など様々な分野でそれぞれが問題を共有し、広い視野でその問題をひとつずつ共に解決していくことではないでしょうか。