【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による安心のまちづくり

 2008年自治研レポートの第2章として、今年1月策定された、地域医療再生計画を基にこの地域の医療体制の整備・充実を図るために「地域センター病院」としてのあり方、職員組合としての「要求と提言」活動の指針とするためのレポート作成に取り組んだのでここに報告する。



南檜山地域医療の現状と将来 Part2
地域医療再生計画に基づく医療体制の整備、安心して暮らせる
地域社会の実現を目指して、地域センター病院としてのあり方
とは


北海道本部/全北海道庁労働組合連合会・檜山総支部・江差病院支部

はじめに

 国の財政悪化を理由に聖域なき構造改革が推し進められ、総務省から出された公立病院改革ガイドラインに基づき、多くの自治体立病院は事業形態の見直し、診療・病床の削減など経営重視の視点で改革が進められた。また、ちょうど2005年から開始された卒後医師臨床研修制度により医育大学から医師の数が減少することと重なり、地方の病院から次々に医師がいなくなるという現状を生んだ。多くの過疎化・高齢化の進む地方から悲鳴に近い声や、救急患者のたらい回しによる妊婦の死亡事例等が明らかになって初めて、マスコミが相次いで地域医療の崩壊・医師不足の現状を取り上げるようになり、あわてた旧自民党政権は「地域医療崩壊に対する方策は考えていますよ。」との言い訳でもするかのごとく「地域医療再生基金」なる案を昨年提示してきた。少しでも当院の現状を良い方向に向けられるのであればどんなものでも利用していこうという想いから、支部としても計画立案に意見反映をしてきた経緯がある。そして、2011年1月現計画が策定された。この計画を根拠として当院の地域センター病院としての機能強化を図り、道として担う必要のある病院であるということを地域で認めて貰うための「要求と提言」活動の指針とするためにこのレポート作成に取り組んだ。


主たる診療科別の従事医師数(( )内は人口10万人あたりの数)

 
圏 域 内
全 道 平 均
診療科目
16年末
18年末
20年末
16年末
増減
18年末
内  科
13
8
12(41.7)
3,219(57.0)
↓↓
3,008(53.7)
呼吸器科
1
1
 
216( 3.8)
211( 3.8)
循環器科
2
3
3(10.4)
539( 9.5)
513( 9.2)
消化器科
3
3
2( 6.9)
523( 9.3)
547( 9.8)
神経内科
1
1
 
115( 2.0)
122( 2.2)
小 児 科
1
2
1( 3.5)
598(10.6)
604(10.8)
精 神 科
2
2
2( 6.9)
619(11.0)
616(11.0)
外  科
6
7
5(17.4)
1,024(18.1)
↓↓
919(16.4)
整形外科
3
3
3(10.4)
846(15.0)
853(15.2)
脳神経外科
1
1
1( 3.5)
364( 6.4)
364( 6.5)
産婦人科
1
1
 
362( 6.4)
334( 6.0)
産  科
 
 
 
33( 0.6)
25( 0.4)
泌尿器科
1
1
1( 3.5)
330( 5.8)
320( 5.7)
研 修 医
 
3
2( 6.9)
 
642(11.5)
全  科
 
1
 
169( 3.0)
↓↓
18( 0.3)
麻 酔 科
1
 
 
421( 7.5)
400( 7.1)
総 数
36
37
32
11,490
 
11,579

1. 私たちの考える南檜山地域医療再生計画

(1) 目 標
 地域において二次医療が完結できる医療体制整備と健診・予防事業の充実を図るとともに、介護及び福祉サービス提供施設とも連携して、安心して、子どもを産み育て、年をとっても暮らしやすい地域をつくる。

(2) 医療連携体制について
① ITネットワークの基盤整備とネットワークの確立
  目的:圏域内の医療機関(将来的には介護施設・事業所なども入れていく)をITネットワークで繋ぐことにより、患者情報の共有化を図り、診療支援、地域連携パス、患者紹介・逆紹介の促進など圏域内の医療機関がそれぞれの診療機能に即した医療連携を円滑に行うことができる。
 ア 電子カルテの導入:どの医療機関でも共通のカルテを使用することで、外来診療と入院治療を担う医療機関の機能分化、また、急性期・亜急性期・療養期の機能分化を促進する。外来通院は近医や診療所などで受けられ、検査や治療が必要で入院や診察が必要になってもその場で予約も入れられるようなシステムを作る。
 イ 画像伝送システム、システム導入に伴う周辺機器の整備:電子カルテ、画像システムを利用した定期的な患者カンファレンスや画像検討会等の充実により、地域格差を是正し、医療の質及び信頼性の確保を図る。
 ウ 看護支援システムの導入(KOMIチャート・ケアデザイナー):治療だけでなく、看護も共通の視点・支援体制をとれることで転院、施設入所、在宅に戻ってからも継続したケアを受けることができるシステムを作ることで、安心して近医や診療所に移ることもでき、システムが定着することで在宅退院率も増加することが見込まれる。また、地域における看護の質の向上・維持につながり、地域全体での看護師研修体制の構築にもつなげることができる。
② 医療連携体制総合調整事業
  目的:地域の医療連携をスムーズに行うため、地域全体の調整機能を持つ地域医療支援センターを創る。
     地域医療支援センターの創設(センター病院内に)
     センターの機能
 ア 医療機能情報提供の充実:圏内の医療機能情報を一元的に総括し、住民からの相談に対応することができる体制整備。常時保健師や看護師がいて、健康相談等も受けられるようにする。
 イ 患者情報を地域の関係者が共有するための一元的管理及び患者情報の蓄積:一元的に患者情報の管理を図ることで、スムーズな医療機関間の転院や医療機関と介護事業者間の連携ができるようになる。
 ウ 現場の意見を細かく引き出し、引き上げる取り組み:医師・看護師・介護職員・行政職員・住民等が対等に語り合えるミーティングを毎月開催する。また、センターが中心となって医療提供者を中心とした地域医療に関する研修会等の開催など。
 エ 地域医療に関する課題等の検討:地域医療対策協議会に対する提言を行うことを前提に医療資源の配置や機能分化に関する課題を検討する。
 オ 人材交流・派遣システムの構築:単独では確保困難な医師をはじめとした医療スタッフの人材交流・派遣体制を可能とするためにセンター病院の医療スタッフの充実を図り、圏内医療機関のどこへでも必要時派遣できる体制つくりと研修交流などの体制を作ることで医療水準の底上げ・平均化を図る。

(3) 周産期医療確保対策
 目的:圏域内で生み育てる環境づくり・産婦人科救急対策を行うため、医育大学と連携して産婦人科医を確保して分娩を再開するとともに、産婦人科医師の負担軽減とより充実した医療提供体制や妊婦の健診体制を整備する観点から、助産師を活用した周産期医療体制の充実や小児二次救急医療体制確保のため地域全体での支援体制を模索する。
① 医育大学に寄附講座の設置
② 助産師定数の増員:現状定数7人の復活とともに助産師外来設置のための2人の定数増を図り、定期的な研修体制と奥尻におけるサテライト診療体制・地域における性教育講座や妊婦・新生児を持つ母親のサポート体制を確立する。
③ 地域における母親支援:保健所、各町の保健師、保育所・小学校などと連携し、予防事業や病気・けがの時の対処法などの指導の機会や意見交換できる場を作る。

(4) 予防医療の充実
 目的:当圏域での健診受診率はがん検診をはじめとして、心筋梗塞や人工透析などの要因となる生活習慣病といわれる糖尿病・高脂血症・高血圧などの患者が全道平均を上回っている現状にあるが、年々低下している傾向にある。健診受診率を向上させ、早期発見・治療につなげることで死亡要因となるような重症化を防ぐことができ、医療費の抑制にもつながる。
① 病気になってから罹る病院から、罹らないために悪いところがないか診てもらうための病院、気軽に病気のことを相談できる病院へ
 ア 地域での祭りやイベントなどの機会を利用した簡単な健康相談の実施:血圧・身体測定の実施行い、食事指導や日頃飲んでいる薬の相談、健診の重要性のアピールを行う。
 イ 乳がん健診や子宮がん健診を受けやすい環境作り:時間帯の設定や一度に両方受けられる設定、通常の外来と重ならない健診のみの時間帯の工夫など。
 ウ 医師による定期的な医療講座の開催


*「北海道における主要死因の概要6」市町村別標準化死亡比(SMR)による

【周産期死亡数・乳児死亡数・新生児死亡数】

 
昭和55年
昭和60年
平成2年
平成7年
平成12年
平成17年
周産期死亡数
7
7
2
2
0
1
乳幼児死亡数
3
1
2
2
0
0
新生児死亡数
1
0
2
0
0
0
*人口動態統計

【南檜山圏域の主な死因の割合(男女別)】
(人)
 
悪性新生物
脳血管疾患
虚血性心疾患
肺炎
虚血性以外の心疾患
その他
男性
662
356
128
211
151
907

 
虚血性心疾患
悪性新生物
脳血管疾患
肺炎
虚血性以外の心疾患
その他
女性
100
391
319
140
235
664
*平成8年から平成17年主要疾患の標準化死亡比(SMR)
*その他=交通事故、不慮の事故、自殺を合算

(5) 救急医療体制の整備
① 一次救急と二次救急のすみわけ、役割分担をきちんと行う。:一次は近医や地元医療機関が担い、二次は道立江差病院が担う。
② 夜間救急医療体制と二次救急医療体制に対応するための道立病院の体制整備を行う。:医師の配置やコメディカルスタッフ、看護師体制の整備

(6) 看護師確保対策
① 江差高等看護学校における地域枠の拡大と奨学金制度設置
② 院内保育所の充実:保育時間の拡大(早朝と準夜勤までの勤務に対応できる時間までの延長)、育児休暇中や産休中でも上子を受け入れてもらえるようにする。

2. わたしたち組合として取り組むこと

(1) 「要求と提言」の活動の強化
 目的:自分たちの考える地域医療再生に向けて、病院に必要な機能の強化・人員配置について考え、当局に対して提案していく。このことを通じて職員が全員共通の視点に立ち、この地域で暮らす住民として病院のあり方、仕事の仕方を考えることでやりがいや誇りを持って働くことのできる職場を作ることにつながる。

(2) 職員組合としてできる地域貢献や情報発信の取り組みの強化
 目的:地域に出て行く機会を増やすことで、今の現状を理解してもらうこと、ともにどういう医療体制が望ましいのか考える機会を持てること、地域の生の声を聞く機会をもてること、こういうことから、本当に望まれている医療体制や当院のあり方を考える材料とすることができる。
① 救護班活動
② 小学校での「手洗い講習」
③ 地域の集まりや学校の親子レクなどでの「救急蘇生法やAED使用法」講習など

おわりに

 財政状況は悪化する一方で、毎年のように赤字を生み出している道立病院への風当たりは依然として厳しい現状にある。欠員は補充されない、育児や産休の代替職員もいない、経営の観点から、定数は凍結される等で、職場環境は年々厳しさを増している。実際第一線で仕事をしながらこのような活動を続けていくということを組合員全体に受け入れられているのかということや率先して協力してくれる組合員がどれだけいるのかということも指摘されたら答えに窮することもあるのが現状である。しかし、自分たちの暮らす地域の医療や職場を守るためにはこの厳しい現状でもなかなか進まない状況でもやり抜く決意と覚悟でたたかいつづけなければ、私たちが暮らすこの地域の医療が、職場が崩れ去ってしまいかねないのです。少しでも私たちの考えや取り組みを多くの人に発信し、励ましや助言を頂き、これからの活動の力にできればと思います。