【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による安心のまちづくり

 近年、総務省から出された「公立病院改革ガイドライン」は公的医療費削減を最優先に効率・採算性のみを重視したものであった。道においても国にならって「北海道病院事業改革プラン」を策定、道立病院の経営効率化を図るために経営形態を「指定管理者制度」へ移行する旨を示した。しかし、南檜山地域の江差病院にこの経営形態が本当に適当なのか検証してみたので報告する。



檜山の医療を守るために


北海道本部/全北海道庁労働組合連合会・檜山総支部・江差病院支部

1. はじめに

 近年、小泉政権により「民間でできることは、できるだけ民間で」というスローガンのもと、行財政改革が推し進められてきた。その中で、これまで高度な医療や医療機関の中核をなし、救命救急センターや医師の研修を行う、また中山間へき地、離島など採算上、民間病院の解説が困難な地域において医療提供を行ってきた自治体病院もまた例外ではなかった。
 この意向を受けて、総務省から出された公立病院改革ガイドラインは、公的医療費削減を最優先に効率・採算性のみを重視したものであり、道においても「経営効率化」「再編・ネットワーク化」「経営形態の見直し」の3つの視点に立った「公立病院改革プラン」の策定を求められ、2008年3月に「北海道病院事業改革プラン」を策定。それにより今後の道立病院経営形態について、指定管理者制度の導入を図ることが明記された。
 このような流れの中でこの地域・病院の現状を考え、公設民営と言われる指定管理者制度の導入で本当に適当なのかを今一度検証するためにこのレポート作成に取り組んだ。

2. 江差病院の現況

 1948年に日本医療団から移管(一般87床)を受けた後、1965年に構造設備変更を行い、150床(一般101床、結核49床)とした。1969年に江差町円山に移転し、地域センター病院に指定される。
 その後、診療棟の増築や診療科の増設などを行うとともに、1993年には救急告示病院の認定及び人工透析治療の開始、1997年には災害拠点病院の指定を受け、1998年には現在地に移転改築を行うほか、2001年には病院群輪番制に参加するとともに、第二種感染症指定医療機関の指定を受け、専門病床4床を整備するなど、南檜山第二次保健医療福祉圏の中核医療機関として、圏域内の医療需要に対応し得る機能の充実整備を図ってきた。また、2003年には臨床研修病院の指定を受け、2006年には地域の医療機関との連携や支援体制の整備を図るため保健医療連携室を設置した。診療科目は、内科、循環器内科、消化器内科、呼吸器内科、外科、小児科、産婦人科、整形外科、精神科、神経科、耳鼻咽喉科、眼科、皮膚科、泌尿器科、リハビリテーション科、麻酔科であり、病床数は一般146床、精神48床、感染症4床の計198床である。
 江差病院は、南檜山第二次保健医療福祉圏における唯一の地域センター病院として、高齢化率が高く、民間医療機関の進出が少なく、地方センター病院等への通院にも相当の時間を要するなど公共交通機関の利便性が低下している地域において、二次医療機能を担っている。

3. 経営悪化の構造要因

 2007年、全国47都道府県の自治体病院の管理運営および医療計画担当部署あてに行われた「医療供給における公私役割と地域連携についてのアンケート調査」の中で、自治体病院の経営悪化の要因についての問いにたいし、やはり全体の80%以上が、自治体病院の経営悪化要因として、診療報酬引き下げ、政策医療、不採算医療、給与体系・人件費をあげていることがわかった(表1)。このうち診療報酬引き下げは、民間医療機関の経営悪化要因でもあるのでここでは取り上げないこととする。

表1 自治体病院の経営悪化の要因

(1) 政策医療・不採算医療
 民間医療機関と違い、自治体病院に期待される役割・機能として政策医療、不採算医療があげられるが、当院においても地域災害医療センター病院指定(災害拠点病院)、エイズ拠点病院指定、病院群輪番制参加病院、救急告示病院、地域周産期母子医療センター指定等を受け、その役割を担っている。また南檜山圏内において唯一の精神、小児医療を市場の失敗ともいえる不採算地区における不採算医療を行っていかなければならない地域であるため、自治体に変わり民間医療機関が積極的に介入してくるとは考えにくい。指定管理者制度を導入するということは、前述した自治体病院に期待される役割・機能を民間の医療機関が十分に補えるとの見積もりなのであろうか?

(2) 給与体系・人件費
表2 平成16年度の状況
 経営悪化のもう一つの要因として多くの意見があった給与体系・人件費であるが、当院における平均給与も全国平均に比べ高い比率となっている(表2)。これは本当に公務員の年功序列型の給与体系による高額な人件費によるものなのか? しかし、詳しい内訳を見てみると看護師、准看護師に関して全国平均と大きな差はないのに対し、当院医師の平均給与月額が全国平均を大きく上回っていることがわかる(表3)。これはいわゆる公務員の年功序列型の給与体系の影響による給与費比率の引き上げではなく、全国的な絶対的医師数の不足に加え、2005年度以降は卒後医師臨床研修制度導入の影響による医師不足、圏内で十分な救急対応ができる病院がないために生じる時間外診療の多さ。また産婦人科、小児科、呼吸器内科、麻酔科常勤医も欠員が生じ、その補填として各病院からの派遣医師にかかる人件費が大きく影響していると考えられる。また、医師のその他として高額な医学調査研究手当も費用を圧迫している要因と思われる。当院における給与費比率の引き下げを図るということは、即ち医師に関わる人件費の削減を行うこととなる。現状況においても常勤医の確保が非常に困難であるのに、更に医師への人件費の抑制が行われるようなことがあれば、医師の確保はほぼ不可能ではなかろうか。まして看護師、准看護師等への給与引き下げを更に加速させると、離職率の増加を招き、マンパワーの不足による医療サービス提供の悪化が懸念される。


表3 当院の平均給与額の状況(平成15年度)

(3) コスト意識の欠如
 アンケート調査ではあまり高い比率ではなかったものの、当院では道庁施設の中でワースト2の高コスト施設として名が上がっている現状がある。コスト削減対策として、電気料金のプラン変更によるコストダウンを行ってはいるが、依然職員一人一人の節電等コスト削減に対する意識の薄さは否めなく、現状においてまだまだ改善できる部分が多いと考える。しかし、このコスト削減に対する意識を高めることは公設民営でなければできない事項であろうか? 指定管理者制度を導入することで、コスト削減に対する意識はより高くなるであろうが、道直営であることが直接障害となっているとはいえない。これは民間医療機関でなくとも対応できるものであり、またしていかなければならないことである。

4. 「要求と提言」の活動の強化

 以上をふまえて、自分たちの考える地域医療再生に向けて、病院に必要な機能の強化・人員配置について考え、当局に対して提案していく。このことを通じて職員が全員共通の視点に立ち、この地域で暮らす住民として病院のあり方、仕事の仕方を考えることでやりがいや誇りを持って働くことのできる職場を作ることにつながることを期待する。

江差病院「2010要求と提言」
 実施すべき医療機能として「基本的医療機能」を挙げる。病院運営上の理念である「地域住民のために、地域住民とともに、健康を守っていく病院」のもと、南桧山の保健医療福祉圏を守るための地域センター病院として、地域の医療・福祉に貢献する。運営方針として他の医療機関との連携を図りながら、急性期・亜急性期を中心とした管内の二次救急医療・災害医療・僻地医療・周産期医療・小児医療体制機能を安定的・効率的に担う。
 2つ目に「政策的医療機能」である。その第1は「24時間365日の二次救急医療」である。南桧山唯一の二次救急医療を担う当院で、他院では対応できない疾患はすべて受け入れ、3次救急必要時は速やかに函館への転送体制をとる。また、転送などで当直医不在となる時は副当直が必ず院内で対応できる体制をとる。看護師不在となるときは外来師長または副総看護師長が院内で対応できる体制をとり、前記人的配置が可能な職員の人員数を確保すること。
 第二に「小児救急体制」である。小児科医の人員体制として地域に当院のみしか小児科医師がいないため、2人体制を追求する。見極めが難しい小児の救急患者への対応は原則当直医が診ることになるが必要時は小児科医師の診察、当院で対応不可能と判断した場合は速やかに3次救急に搬送。その他、診療方針・診療体制として、基本的に昼夜を問わず、小児科はすべて受け入れる。体制も原則当直から小児科医師をはずし、緊急時・必要時呼び出し体制とし、いつでも対応できるよう2人体制をとる。
 第三に「災害時医療」。災害医療の考え方・訓練の内容等は、災害拠点病院としての役割を全職員に周知徹底、災害時におけるマニュアルの整備、指揮系統の明確化、年1回の災害時想定訓練の実施をする。例として、地震・津波による災害発生を想定。マニュアルに沿って全職員が参加して行う。外来での受け入れ、軽傷者と重傷者の選別、手術室の体制、入院受け入れ体制、搬送体制、事務処理体制等確認しながら行い、問題点を把握、マニュアル点検や設備点検、体制の点検に努めるなど。
 第四に「住民の健康危機への対応」である。健康危機に対する取り組みの基本姿勢として、流行性疾患や伝染性疾患の予防、感染対策の住民への啓蒙、情報発信、ワクチン等の実施、健診事業の充実。特に地域における死因割合の高いものについては検診の必要性や疾患について住民に広く情報を提供するとともに検診受診率を上げるための取り組みを行う。例として、定期的な健康講座の開設、健康祭りの開催、検診を受けやすいように検診のみの外来日の設定など。

5. まとめ

 2008年に策定された「北海道病院事業改革プラン」による指定管理者制度導入に対し、南檜山の医療を守っていくには本当に適切なのであったのかを検証し、当局への要求と提言をしてみた。近年における地域医療の崩壊の危機に、住民は南檜山二次医療福祉圏唯一のセンター病院がなくなってしまうかもしれないという不安が生まれている。道としても不採算地区における不採算医療を守っていくには、やはり直営堅持の姿勢が必要なのではないかと考え、南檜山住民と一体となり、安心して医療を受けられる将来を願い、このレポートを締めたいと思う。