【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による安心のまちづくり

 急激なスピードで高齢化が進んでいる当町において、介護・医療の連携はかねてからの懸案事項でありますが、合併後の医療体制の推移や再編の状況等を見直し、現状と課題、今後のあり方について検証します。



せたな町の医療体制に係る現状と課題


北海道本部/自治労せたな町役場職員組合

1. はじめに

 2005年9月1日、旧3町(北檜山町、大成町、瀬棚町)の合併により新町「せたな町」が誕生しました。
 旧3町においては、北檜山町と瀬棚町に公設及び民間の医療機関が各1施設ずつ、大成町に公設の医療機関が1施設の合わせて5施設が運営されていました。町立3医療機関は、当該不採算医療地域における政策医療の実施や診療報酬マイナス改定あるいは患者数減少等の影響により、町の一般会計からの繰り入れを受けながらも、極めて厳しい経営状況が続いていました。また、一部施設の著しい老朽化や医師・医療スタッフの慢性的な不足などから、患者への医療環境・医療サービスの提供が困難な状況となってきました。
 一方、町の財政状況は、長引く景気低迷の影響を受け、町税収入の落ち込みに加え、国の三位一体改革による地方交付税や国庫支出金の著しい減少などにより非常に厳しい状況にあり、2006年7月末には町が「財政非常事態宣言」を出すまでに至りました。  
 こうした背景のもと、2006年4月、町長の諮問を受けて今後のせたな町における医療体制のあり方について検討し答申するため、「せたな町医療等対策審議会」が設置され、幅広い議論・検討が行われた末、2006年12月に町長に対し答申書が提出され、これを踏まえ、本町における今後の公的医療体制等についての基本方針が策定されました。
 以下、合併後の医療体制の変化、問題点、課題について報告します。

2. 合併後の医療体制の基本方針

 せたな町医療等対策審議会の答申を踏まえ、せたな町における2007年度以降の公的医療体制等についての基本方針を次のとおりとしました。

(1) 公的医療機関の体制
① せたな町の医療体制は、北檜山国保病院(現せたな町立国保病院)を中心とした町立医療機関による公的医療体制を基本に、町内民間医療機関との役割分担や高度・専門医療等に対応する二次及び三次医療機関との一層の連携強化を図りながら、町民の安心・安全を確保できる医療提供体制を構築する。
② 公的医療機関の経営状況や町の財政状況並びに町民の医療ニーズ等を総合的に勘案しながら、将来的にも安定した医療サービスを効果的に提供できる体制を確保するため、本町の公的医療機関については、一次医療の規模を基本として、中心的医療機能を持つ病院と初期医療を担う診療所に再編し、一体的・効率的な運営を図る。

(2) 医療と連携した保健・福祉施策
① 高齢化の進展に伴う要介護者の増加や国の医療制度改革による療養病床削減方針に対応するため、本町における介護老人保健施設の整備について、民間能力の活用を視野に入れながら検討を進める。
② 生活習慣を改善して健康を増進し、生活習慣病等の発症を予防することにより「健康寿命」の延伸を図ることを保健事業の最重要課題として位置付け、これに対応して保健活動をより効果的に展開するため、保健事業を総合的・一元的に推進する体制を整備する。

3. 実施された施策

(1) 2007年4月の3施設の再編
   <公的医療機関の体制>
   ○ 現在の施設規模や本町の位置的中心地にあり、人口集中地区であることなども考慮の上、北檜山国保病院を公的医療機関の中心として病院機能を維持・充実させるとともに、大成国保病院については診療所化し、瀬棚国保診療所と合わせて、1病院2診療所による相互に連携した公的医療体制を構築する。
   ○ 再編に伴い、より一体的な医療提供機関として有効に機能させるため、3施設を一つの組織(本院及び附属的診療所)として位置付け、本院において一元的な管理運営を行う。
   ○ 組織の一元化に伴い、医師及び医療スタッフを本院に集約した上で、必要な人員を診療所に再配置するとともに、病院・診療所間における医師・医療スタッフの柔軟で効果的な相互支援・連携を可能とする。
① せたな町立国保病院(本院)
 ア 医療機能
  ・ 基本的な初期医療をはじめ、休日・夜間を含む24時間対応の救急医療、末期がん患者などに対応した終末期医療、高齢者などを受け入れる慢性期医療など、1次医療規模の中で、地域全体の医療ニーズに対応する。
 イ 病床数
  ・ 一般病床60床、療養病床39床(計99床)(増減なし)
  ・ 大成国保病院及び瀬棚国保診療所を無床診療所化することとし、その削減ベッド数を包含する。
  ・ 一般病床、療養病床については、当面、他2施設の無床化に対応するため、現行病床数を維持するが、今後、国の療養病床削減方針や町内民間医療機関の患者動向等を見据えながら、病床数の見直しを検討していく。
 ウ 診療科目
  ・ 内科、外科、小児科、婦人科、泌尿器科、リハビリテーション科、歯科
  ・ これまで行ってきた産婦人科及び循環器科委託診療の継続実施に加え、新たに医療ニーズの高い眼科、整形外科について、委託診療を実施する。
 エ 医師及び医療スタッフ
  ・ 病院機能に見合った必要な医師数の確保に努め、医師標欠に伴う診療報酬減額の解消を図る(基準必要医師数の70%以上を確保)。当面、常勤医師2人、嘱託医師2人
  ・ 医療スタッフについては、医療機能に見合った適正な職種・人員を配置する。看護職員~10:1(対入院患者数)の職員配置とし、入院基本料の高額診療報酬確保に努める。
② せたな町立国保病院大成診療所
 ア 医療機能
  ・ 病院から診療所へ転換する。
  ・ 国保病院と連携し、地域に密着した医療機関として、初期医療を中心に、在宅医療を含め地域住民の医療ニーズに対応する。
 イ 病床数
  ・ 入院病床は無床とする(現行32床)。入院患者については、国保病院で対応する。
 ウ 診療科目
  ・ 内科、外科
 エ 医師及び医療スタッフ
  ・ 常勤医師1人。 医療スタッフについては、適正な職種・人員を配置する。
③ せたな町立国保病院瀬棚診療所
 ア 医療機能
  ・ 国保病院と連携し、地域に密着した医療機関として、初期医療を中心に、在宅医療を含め地域住民の医療ニーズに対応する。
 イ 病床数
  ・ 入院病床は無床とする(現行16床)。入院患者については、国保病院で対応する。
 ウ 診療科目
  ・ 内科、小児科、整形外科、リハビリテーション科
 エ 医師及び医療スタッフ
  ・ 常勤医師1人 。医療スタッフについては、適正な職種・人員を配置する。

(2) 2008年度以降に行われた再編等
① 2009年4月 瀬棚診療所に併設されていた瀬棚総合支所訪問看護ステーションを、せたな町立国保病院へ移設した。町の中心部にあるせたな町立国保病院(本院)へ機能を集約し、3区(旧3町)平等にサービスを提供することを目的としたもの。
② 2009年10月 せたな町立国保病院の院内薬局を廃止し、院外処方とした。
③ 2010年4月 瀬棚診療所で行っていたデイ・ケアサービスを、作業療法士や理学療法士の退職による人員不足により、一時休止とした。
④ 2010年4月 大成診療所の医師が定年退職により、瀬棚診療所の医師が自己都合退職によりそれぞれ嘱託医師となった。
⑤ 2010年4月 定年退職により両診療所の放射線技師が欠員となったため、せたな町立国保病院在勤の放射線技師3人が交代により勤務することとした。

(3) 配置職員数の推移
 職員数の推移(嘱託医師含む)

病院・診療所
2005
2006
2007
2008
2009
2010
せたな町立国保病院(本院)
40
40
45
45
48
49
大成診療所
18
18
13
11
11
10
瀬棚診療所
20
13
11

4. 現状の医療体制の課題

(1) 町財政の影響
 国の医療制度改革に伴う療養病床削減方針や入院病床に係る看護師配置基準の見直し等により、著しい収益の減少が見込まれることに加え、一般会計からの繰入金に頼っている現状から、一段と厳しさを増す町財政の危機が、そのまま病院事業を直撃しています。

(2) 医師の確保と医療スタッフの適正配置
 現在、本町の公的医療機関においては、医師の絶対数が不足しています。せたな町国保病院に入院病床の集約、休日・夜間の救急患者対応など機能集約を進めている状況において、新たな機能に見合った適正な医師数の確保は不可欠です。また、各診療所については、無床化に伴い医師1人体制となっており、週休日の交代派遣医師は契約により確保しているものの、業務は激務であり、業務量の緩和と医師不足対策のため、医師を本院へ集約しての各診療所への交代勤務等も検討する必要があります。
 一方、放射線技師や作業療法士・理学療法士などの医療技術職員については、本院に集約して1日おきに各診療所で勤務するなどして、スタッフ不足を補っていますが、毎年、依願退職者が後を絶ちません。

(3) 在宅医療の充実
 現状では医療と介護の連携は上手くいっているとは言い難い状況にあります(特に医療側の敷居が高い)。
 国においては施設介護から在宅介護へ、病院医療から在宅医療へという政策が急ピッチで打ち出されていることから、診療報酬改定等を考慮しながら、町として在宅医療及び老人保健施設等のあり方について、検討を進めなければならないと考えます。
 特に在宅医療については、診療所の無床化に伴い、その果たす役割はますます重要なものとなっています。このため、今後の医療体制においては、民間医療機関とも連携しながら、終末期患者等へのきめ細かなケアを含む、訪問診療や訪問看護といった在宅医療の一層の充実を図らなければなりませんが、現実には人的資源の不足、在宅医療・退院支援機能の不足が課題となっています。

(4) 受診患者への交通手段の確保
 せたな町国保病院における入院病床の集約化や診療科目の見直しなどに伴い、大成区及び瀬棚区と北檜山区における地域間の医療格差を最小限に抑える必要があります。このため、患者受診の利便性を配慮し、せたな町国保病院と各診療所をつなぐ定期的な送迎バスを週1回と委託診療時(整形外科・眼科・隔週実施)に運行しているものの十分とはいえない状況にあり、より一層の交通手段の確保を図るべきであると考えています。
 なお、交通手段の確保に当たっては、現在各行政分野ごとに別々に運行されている輸送バス等の一元的で効率的な活用方法などを検討する必要があります。

5. おわりに

 3町合併によって、行政面での効率化は進んだのかもしれません。しかし、旧3町がひとつの生活圏になったという一体感は生まれていません。また、対等合併とされていたものが、結果的には役場、学校、病院など地域の生活支援機能の中心部への集約化により、大成区と瀬棚区を衰退させる吸収合併であったという町民の声も聞かれます。特に大成区においては地勢的にも北檜山区との庁舎間の距離は32㎞あり、峠越えをして40分弱かかることから、集約化による影響は住民の不安を煽るものとなっています。
 3町合併において、町民の一番の関心事は医療問題でした。しかしながら合併協議会において結論が出ず、合併後に先送りされました。確かに生活支援機能の拡散は、行政サービスの運営が非効率になり、苦しい町財政を一層苦しいものにさせ、医療機能や介護機能を中心部に集約化させることは苦渋の選択により導き出されたものでありますが、大成区、瀬棚区の町民にとっては合併前の医療体制からの大幅な後退となりました。
 また、せたな町においては、いわゆる「限界集落」が多く点在している状況にあります。現在、限界集落等の問題解決の方策として、中心部への移住によるコンパクトシティー化を推進する自治体もありますが、町の多くの集落の住民は、農業や漁業の一次産業により生計を維持しており、居住地を離れることは生計手段を失うことになります。強制的な移住・集約化などは到底できません。また、地域の高齢化が一層進み、在宅で病気がちな要介護高齢者が増加してくることは避けられません。それに向けたさらなる体制作りが求められ、介護・医療サービスの連携強化や今後の対応の可能性を検討する必要があります。