【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による安心のまちづくり

 2006年度の介護保険法改正により、地域支援事業の「介護予防事業」を市町村が取り組むこととなった。対象者は65歳以上の一般高齢者と、介護認定に近い状態の特定高齢者である。しかし、それぞれの事業内容が異なるため、いろいろ矛盾が生じている。その矛盾について、京田辺市の取り組みをとおして考えてみた。



介護予防事業について


京都府本部/京田辺市職員組合 中捨納理子

 2006年度(平成18年度)の介護保険法改正により、地域支援事業の「介護予防事業」が開始された。介護予防事業は、65歳以上(介護保険第1号被保険者)を対象としている。対象者は、介護認定に近い状態と判断される「特定高齢者」と、65歳以上であれば参加できる「一般高齢者」に分けられ、それぞれ「特定高齢者施策」と「一般高齢者施策」として事業が異なる。今回は、自分の担当事業でもある「介護予防事業」について、その矛盾などを考える。

1. 特定高齢者の判別方法について

 特定高齢者施策は、要支援・要介護認定のある方を除く虚弱な状態の高齢者の「特定高齢者」が対象となる。特定高齢者の判別方法は、「基本チェックリスト」の該当項目で低下が認められた方で、かつ「生活機能評価」(健診)で低下が認められた方のうち、市町村が決定した方となっている。
 特に、「基本チェックリスト」は、国の形式に沿わなくてはならない規定があり、その文言についての意見・苦情は多い。25項目の質問形式であるが、「わかりづらい」「失礼だ」などといわれる。チェックリストに対する改善は実施予定であるが、チェックリストはあくまでも主観的に答えるものであり、高齢者が回答すると実際と合っていない場合もある。このような形式で最初のスクリーニングを実施していること自体がおかしいと感じる。
 そして、新規特定高齢者数は国の当初計画では高齢者人口の5%としていたが、実際のところは2.4%(2008年度)である。
 以上のような点から、特定高齢者の判断基準が厳しいのではないか、もしくは偏っている・間違っているのではないかと考えることができる。まずは、この特定高齢者の判別方法に疑問を感じる。

2. 特定高齢者施策の費用対効果について

 特定高齢者施策は、圧迫する介護保険財政のために「要介護状態にならないこと」を目的に実施されているが、費用対効果としては疑問に感じる点が多い。この点については、2つの項目で考える。
 1つ目は、実際に現場でみていると「特定高齢者」として判断される方は、介護申請をすれば「認定されるであろう方」が大多数である。確かに要介護状態に「近い」対象者に運動器向上などのトレーニングをすれば一時的には改善するかもしれない。しかし高齢者にとっての「改善」は厳しく、せいぜい「維持」がいいところという方が多いのである。
 2つ目は、少ない特定高齢者と決定された中で事業へ参加する割合が、高齢者人口の0.5%(全国平均)と低いことである。特定高齢者の事業参加までには、チェックリスト・健診を受け、包括支援センターによる「ケアプラン」の作成に同意し、やっと参加となる。参加すれば「送迎」もあり、安い費用(京田辺市では無料)で教室が受けられるが、なかなか参加までの道のりが遠く、気軽に参加できない教室になってしまっているのである。
 以上より、事業に参加した方「個人」としては、送迎もある手厚い教室に参加でき、多少なりとも機能が向上することで元気になるかもしれない。しかし、高齢者全体を考えるとあまりにも少数の方に対する手厚いサービスであり、無駄が多いと考えられ、費用対効果に疑問を持つのである。

3. 一般高齢者施策の充実の必要性について

 「保健事業」の考え方では、ポピュレーションアプローチ(ここでは一般高齢者)とハイリスクアプローチ(ここでは特定高齢者)を検討することは当然のことである。そして、ポピュレーションアプローチに力をいれ、全体の底上げをしていくことが健康につながるのである。
 京田辺市の介護認定率は15.7%である。つまり高齢者の80%は認定されていない方ということである。その80%の少数(特定高齢者)に対してきめ細かなアプローチを行うより、高齢者全体に対して実施する「一般高齢者施策」について、力を入れていくべきだと現場の担当者としては考える。
 京田辺市の一般高齢者施策では、直営・委託を合わせ、運動機能・栄養改善・認知症予防・うつ予防などを対象に、様々な事業を展開している。また、教室参加後の行き場として「OB会」(サークル活動)を立ち上げ、その活動が継続できるように支援も行っている。現在の課題は、地域単位での支援がなかなか厳しく、どう展開すべきかという点である。この点については特に担当して検討していきたいと考えている。
 しかし、現在の介護予防事業は、特定高齢者施策については規定が細かく決まっており、参加者が少ないなどの点を考慮し、把握方法や名称、実施方法などの見直しを検討しているようである。その一方で、一般高齢者施策は特別な報告も少なく、極端に言えばやってもやらなくても変わらない状況となっている。
 前述したとおり、ポピュレーションアプローチは重要であり、参加者の少ない特定高齢者施策を事細かに検討するよりも、一般高齢者施策のように柔軟に対応できる施策に力を入れていくべきだと考える。参加しやすい教室で高齢者全体の健康を底上げしていくことが最大の介護予防となるのではないかと考える。

4. 介護予防事業の対象年齢拡大について

 介護予防事業の対象者は、特定高齢者施策・一般高齢者施策のどちらも65歳以上となっている。これは、介護保険の第1号被保険者が対象となっているためだが、実際に指導していると65歳では遅く感じる時がある。もちろん他法により64歳以下の方が対象となる事業や教室は多数あるが、介護予防という観点で考えても65歳より低い年齢でも参加できればいいと考える。なぜなら介護予防は低下が認められる段階から開始するより、低下する前から始めて低下を遅らせる方がよほど効果的なのではないだろうか。
 介護保険の第2号被保険者は40歳以上である。また60歳で定年を迎えられる方も多い。ご近所同士のお友達だと64歳と65歳に差はない。また当市における老人福祉センターの利用は60歳以上、老人会参加年齢は自治会によって異なるが60歳以上となっているところが多い。大きく年齢を下げる必要はないかもしれないが、市町村によって対象年齢を柔軟に検討できるように、第2号被保険者である40歳以上が対象になればいいと考えるところである。

 以上、4点について検討した。
 担当している者としては、介護予防事業は高齢化社会を考えると必要な事業だと感じているし、直営で実施している一般高齢者に対する介護予防教室は、地域活動支援(サークル活動支援)などを通じて顔見知りの方も増え、市職員として働く楽しさを感じやりがいも多い。だからこそ、市町村の実状にあった施策が展開していけるようになるべきだと考える。介護予防事業の改善点を訴え、よりよい事業になっていくように努力していきたい。