1. 西伯病院の概要
(1) 沿 革
南部町は鳥取県の西部に位置し、その面積は114.03k㎡で人口は2008年12,112人です。
西伯病院は地域医療を目的として、1951年10月に法勝寺に内科、外科、産婦人科で開院、1955年3月に町村合併、名称を変更。その後精神科、神経科、小児科、整形外科、理学診療科、精神科デイケア、訪問看護などを開設。1996年に結核病床、1997年に産科を廃止した。2003年に着工、2004年10月町村合併により南部町国民健康保険西伯病院と名称変更、2005年10月に新病院に移転、物忘れ外来、通所リハビリ、認知症デイケアなどを新たに開設、2008年4月小児科閉鎖されたが2010年4月より再開、地域に根づいた病院を目指している。
(2) 診療機能
診療科目―内科、外科、整形外科、婦人科、精神科、神経科、歯科、小児科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、麻酔科
病床数 ―198床[一般病床42床、療養病床57床(医療37床 介護20床)、精神科病床99床(精神科急性期50床、精神科療養病床49床)]
(3) 施 設
敷地面積 15,674.53㎡
構造 鉄筋コンクリート造一部鉄骨造、免震構造(県内の病院で初めて採用)、地上5階+塔屋1階
病床面積 15,633.15㎡
(4) 職員と組合員数
西伯病院の職員及び組合員数は2010年7月1日現在、以下の通りとなっている。( )内は組合員
職員数213人(173人)
事務員 28人(14人) 医師 14人(0人) 看護師 94人(87人) 医療技術員 31人(26人)
その他職員 46人(46人)
2. 西伯病院の財政分析
(1) 施設及び業務概況に関する調
事業開始年月日、法適用年月日、法適用区分、管理者、施設、業務、職員数について記載。
(2) 損益計算書
① 総収益
総収益は医業収益、医業外収益、特別利益で構成されている。外来・入院患者への医療行為を行う事による収入であり、財政分析上重要な指標になる。医業外収益は他会計からの負担金や補助金である。他会計補助金は一般会計からの補助金、他会計負担金は負担金であり一般会計からのルール化(地公企法17条)分である。
② 総費用
総費用は医業費用、医業外費用、特別損失で構成されている。医業費用は医業行為を行う上の費用であり、職員給与費、材料費、減価償却費等が重要な数字となる。職員給与費は職員の人件費及び退職金を含めたもの、材料費は薬剤費、使用材料費などである。
③ 経常利益又は経常損失
赤字か黒字かである。2005年度707,347千円、2006年度71,090千円、2007年度141,111千円、2008年度120,116千円の赤字となっている。これは新病院建築となり減価償却費の伸びが大きい。
経常収支比率=経常収益÷経常費用×100
100以上が黒字、100以下が赤字となる。2003年度は100.1で黒字だが、2006年度96.6、2007年度93.4、2008年度94.5と下回っている。この比率は重要な指標のひとつで100を超える努力が必要である。
医業収支比率=医業収益÷医業費用×100
90%以上が頑張っている病院といわれる。財政上、経営努力の指標であり90%を超えなければならない。2006年度88.2、2007年度83.9、2008年度83.9と下回っている。
他会計に関するもの
1床あたりの繰入金の算出根拠になる数字である。2006年度245,300千円、2007年度266,826千円、2008年度250,850千円が他会計から繰入れられている。
(3) 貸借対照表及び財務分析
病院の資産状況・負債状況を明らかにし病院の財務分析を行う指標になる。
2008年度でみると資本合計4,870,645千円、負債資本合計4,941,768千円、累積欠損金は2004年度にはなかったものが2008年度1,023,609千円となっている。
(4) 資本収支に関する調
資本的収支とは企業の経営活動に備えて行う建設改良及び建設改良にかかる企業債償還金等の支出とその財源となる収入である。2003年度から2004年度、2005年度にかけ建設改良のための企業債合計4,605,700千円となっている。建設改良費と企業債元利償還金は一般会計からの繰り出しの対象になっているが、元金償還は、建物の場合は5年据え置き30年償還、機器の場合は1年据え置き5年償還となる。(据え置き期間は利子のみ償還)建物だけでみた場合、2008年度より30年間にわたり償還しなければならない。2008年度は建設改良費11,270千円、企業債償還金94,680千円となっている。
(5) 費用構成表(比率)及び医業収益に対する費用比率
費用構成比率より医業収益に対する費用比率を用いることが多い。
職員給与費比率=職員給与費÷医業収益×100
人件費で50%以下が望ましく、53%が赤字、黒字の境界といわれ人件費攻撃の最大の指標である。2006年度65.8%、2007年度67.0%、2008年、67.2%となっている。人事院のマイナス勧告、給与カットなどで2006年度に大きく下がっている。単純に給与を下げると比率は下がるが、医業収益を上げることでも比率は下がる。
(6) 経営分析に関する調
① 病床数
2005年度から198床(一般42床 療養57床 精神99床)となった。2010年10月から療養50床に、一般49床に変更される。
② 病床利用率
2005年度から2008年度で90%を超え高い利用率となっている。直接、収益とつながるもので毎年度90%を超える安定した利用率が望ましい。
③ 患者数
入院は安定した患者数を確保しているが、問題は外来患者数の少なさである。この3年間を比較しても伸びがなく、しいては入院患者数の減少につながるものである。いかに外来患者数を確保するかが大きな課題である。
④ 収 入
単純な年度による比較は出来ないが、類似団体、近隣病院と自院の比較が大切になる。
(7) 職種別給与に関する調
ここでは各職種の人数、給与、平均年齢、経験年数を記している。
3. 問題点
2006年4月に「地域住民への安心の提供」を基本理念にグランドオープンした。5年が経過し新たな問題が生じている。
(1) 医師不足・看護師不足
医師不足から規模縮小・閉鎖、看護師不足から看護基準の変更を余儀なくされている。医療費抑制から労働環境の悪化、医療スタッフに過重な役割と責任、自治体病院の経営困難を招いている。医療スタッフの募集をしても応募がなく定数の確保ができない。メンタルヘルス、職場環境、賃金・労働条件が問題となっている。
(2) 病院財政
2003年度から3カ年建設改良のために4,605,700千円の企業債、2008年度固定負債(企業債)4,941,768千円、2008年度企業債償還金は94,680千円と財政を圧迫している。地方公営企業法全部適用を受けており普通交付税の繰入が必要である。2008年度、現金支出を伴わない減価償却費で178,543千円、経常損失120,116千円で数字の上では内部留保金として上回っているが累積欠損金は1,023,609千円となっている。
(3) 医療体制の確立
病床利用率は90%を超え安定しているが、精神科、療養病棟の病床回転率が悪い。このことは一般病床の回転率を悪化させる要因となり強いては診療収入の低下を招く。また、外来患者数の低下、新患の伸びがない。療養病棟廃止に伴う転床など中・長期的な対応が課題である。
4. 西伯病院の改善への提言
(1) 地域住民への安心の提供
地域住民が安心して利用でき、安全な医療・看護を提供するためには医療スタッフの充実が望まれる。
医師・看護師不足は当院でも深刻である。幸い閉鎖していた小児科の再開はできたが、医療スタッフの応募が少ないのはなぜか、看護師が離職するのはなぜか、安心・安全な医療を提供できるよう根本原因を探り、メンタルヘルス、職場環境、賃金・労働条件の改善を図り、安心して利用できる病院、安心して働ける病院づくりが求められる。
(2) 財政について
2004年度から建設改良を行い2006年4月にオープンした。50億弱の起債残高、毎年1億弱の起債償還金が病院財政を逼迫している。より良い地域医療を提供しながら医業収益を増やし医業費用の削減を進めるなかルールに沿った他会計からの繰入金、一般会計からの繰入金もチェックする必要がある。財政分析を行い、考えられる赤字の原因を探り医業収益を増やす施策が必要である。安易に赤字だからと給与カットを行うのではなく地域住民、職員に負担をかけることなくきめ細かなサービスの提供を行わなければならない。
(3) 病床利用
病床利用率は医業収益の要であり各病棟共に90%を超える病床利用率となっている一方、長期入院患者も受け入れている。外来患者数が伸び悩んでいる中、利用率を保ちながら回転率を上げていくことが必要である。予測される療養病棟廃止に伴う転床問題など中長期的に対応し、地域医療の役割と病院経営を両立させることが必要である。
(4) 在宅支援
高齢化社会が進み在宅支援が重要となる。在宅での生活を支える訪問事業、通所サービスを利用しながら在宅生活を支え、保健・福祉との連携を図り、必要とされる医療を提供していくことが重要である。
(5) ITの活用
2005年11月から電子カルテシステムを導入、2009年には鳥取大学付属病院との電子カルテ相互参照システムが稼働した。患者の情報が参照でき、高度医療との連携、患者の負担軽減が図れている。
5. おわりに
医療崩壊を食い止めるためには、財政分析を行い収支の中身を理解、収益につながる外来患者数、入院患者数、収益単価、一般会計からの繰り入れ、また費用の内訳を知ることが重要である。また、医療現場で起きている問題に取り組み、また充実した医療スタッフの確保と共に地域医療を守り、職員が働きやすい職場環境、地域住民に信頼される病院づくりを進めていかなければならない。
|