【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第6分科会 自治体から子育ち支援を発信する

 現在、旭川市において「市立保育所運営方針」に基づいた市立保育所の民間移譲に伴う統廃合と保育サービスの充実を目的とした「特別保育等」の実施が検討されています。この方針に対して、現場で働く保育士の視点から、この間の議論の経過を踏まえ、下記に示した点を中心に、その問題点等について記載しています。子どもたちのために、限られた財源・人材の中で何が出来るかをこの問題を通じて考えて行きたいと思います。



市立保育所の「集約」と、新規事業への不安


北海道本部/旭川市職員労働組合 和久 貴仁

1. はじめに 

 旭川市は、市立保育所を市内に5か所設置している。5か所はそれぞれの地域で住民の皆さん方の協力を得ながら日々保育に、保護者支援にと奮闘しているところである。
 2年前に、そのうちの市立神楽保育所(市内神楽地区)が、高齢者健康福祉センターとの合築による新築にあたり、直営方式から指定管理者制度への移行が子育て支援部(以下、当局)より提案された。しかし、利用する保護者や私たち労働組合も、安易な指定管理者導入に反対し、長い議論の末、直営方式を勝ち取ることができた。
 新築された保育所を、自分たちの手で運営することに喜びと安堵を感じるのもつかの間、依然として続いている市の財政難、進む少子化、市立保育所の老朽化は喫緊の課題として残された。そこで、当局は今後の市立保育所のあるべき姿を探るべく「市立保育所のあり方検討委員会」を立ち上げた。この委員会では、当局の事務方と現場の保育士も参加し、厳しい現状を確認しあい、市立保育所が取り組むべき課題を整理する中で、長い間議論を重ねることとなった。その結果として「市立保育所運営方針」(以下、方針)が今年の1月にまとまった。このレポートでは、この方針の内容を私の勤務する新旭川保育所で取り組まれる事業等から3点ほどのテーマをピックアップして報告する。

2. 提案状況

 方針では、市内5か所の市立保育所のうち、老朽化の著しい2か所を民間に移譲し、市立保育所の機能を3か所に「集約」すること。市立保育所での一部で取り組まれている0歳児保育、特別支援保育(旧障害児保育)を残る3か所の保育所で実施すること。新たに、新規事業として病後児保育、体調不良児対応型保育に取り組むことなどが明記された。多様化する保育ニーズに対応するため、多様な保育事業を展開することに対して異論をはさむ余地はないが、現場の保育士の中には、新規事業に対して不安を抱く者も多い。
 まず「集約」についてだが、「集約」とは、当局側の表現として便利な言い回しだと、現場では批判的に受け入れられている。市内の保育所および保育士を3か所にまとめて、市の保育の実践・調査・研究等のアンテナ的役割として、機能を充実したいというのが当局の大義名分である。批判的な見方をすれば財政難で、保育所の運営、維持管理が困難になったことに加え、保育士の新規採用をしてこなかった結果、正規職員の保育士が年々減少していることが裏側にあるのである。

3. 病後児保育について

 つぎに、私の保育所で取り組まれる予定の病後児保育についてである。病後児保育とは、病気回復期にある児童を保育することで、当局の計画では市内の認可保育所に通うすべての児童を対象とすることが検討されている。病気回復期にあるということは特別な配慮や、休養のスペースや専門職員(看護師等)が必要となる。2年後の実施に向けて当局からスペースの確保の意見集約に対し、現場保育士としての提案をするなどのアクションを起こしているが、財政難という大きな壁があり、遅々として話が進まないようである。また、専門職員の採用や、実施した場合の入所定員など細かい部分については具体的な話が全く決まっていないのが現状である。

4. 特別支援事業について

 三点目は、特別支援保育についてである。前述の事業と同時期に特別支援保育も実施予定となっている。特別支援保育は、他保育所で経験をしている者や、施設勤務を経験している者もいるので、実施にあたり、病後児保育ほどの戸惑いなどは少ないと言える。しかし、新規に取り組むとなると問題が多い。広汎性発達障害等の場合、保育室に慣れない時、パニックになった時、また、担当保育士と信頼関係を密にするために専用スペースの確保は必須と考える。この点においても前述同様、現場からの提案をしても、当局からの回答は得られず、現場にやる気があっても、見通しが立たず不安を抱くだけである。

5. まとめ

 市の財政難を克服するには、私たち職員一人一人が協力し合いながら取り組んでいくべき課題という認識を持つべきだと日々感じている。しかし、財政負担を極力避けながら新規事業を実施していくには、かなり困難であるという意見もある。批判的な見方があるとはいえ、市の保育行政をより発展させていきたいという目標は、当局側も現場側も持っていると信じたい。一方で当局側の緊縮財政のために中途半端な設備と職員配置でスタートしてしまっては、せっかくの方針を活かしきれなくなってしまうおそれも出てくる。
 今回の方針案の完成にあたり、私を含め現場の保育士一人一人が問題意識をもち、今後の旭川市の保育行政のさらなる発展をめざすべく研鑽を積まなければならないと痛感した。そのためには、当局側と意見を交換し、時には批判もし、たたかうこともあるであろう。
 子どもたちの健やかな成長発達、保護者の信頼をさらに高める保育の実現のため、これからも日々の研究・実践に努めたい。