1. はじめに
札幌市では本格化する少子高齢化を迎えるにあたり、2002年度に「公立保育園のあり方」「子育て支援事業のあり方」の検討が行われました。これにより、①10区ある行政区ごとに「基幹園」に位置づける公立保育所を配置し、「基幹園」は養育困難家庭への相談・支援(個別支援)や小中高生の育児体験提供(次世代育成支援)、保育所開放(常設サロン)などに取り組む、②地域には、小学校区程度の区域ごとに平日の日中時間帯に子どもを連れて行ける集いの場(子育てサロン)を設ける、③各行政区では、子育てボランティアの育成、地域関係団体とのネットワークづくりや地域の取り組みのサポートなどに取り組む、④全市的には、専門的相談や先駆的なモデル事業を行う、という方針が打ち出されました。
この方針に基づき、2004年には「札幌市子育て支援総合センター」がオープン、2006年からは「基幹園」としての「保育・子育て支援センター(通称:ちあふる)」が順次オープンし2010年現在6か所まで来ています。
また、各行政区では2003年から、それまで本庁出先機関であった区の子育て支援担当部署を区役所の機構に組み込み、子育てサロンの開設など地域と連携した活動に取り組んできました。
2. 子育て支援事業の現状
(1) 保育・子育て支援センター(ちあふる)の取り組み
常設サロン利用状況(2008年度集計・4か所計) |
常設サロン利用組数 |
30,352組 |
常設サロン利用者数 |
70,896人 |
子育て相談件数 |
1,830件 |
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① 常設子育てサロン…月~土の9時から17時まで子育てサロンを開催し、子育て家庭が自由に集い交流できる場としている。また、月1回日曜日もサンデーサロンを実施している。
② 子育て相談…子どもの成長・発達への心配や悩み事などの相談を子育てサロンや電話で受ける。
③ 子育て講座…育児力向上のため、心身の発達や親子の関係などを学ぶ内容や、親のリフレッシュや親子で楽しむなどを目的に講座を実施。内容によって託児も行っている。
④ 個別支援…発育などに心配がある子どもや養育困難など、特に援助を必要とする親子に対して他機関などと連携し効果的な支援を行う。また、常設サロンや一時保育を活用し不安感や負担感の軽減を図り見守りなどの支援を行う。
⑤ 子育て支援者の育成…ボランティア活動の場及び活動情報の提供を行う。
⑥ 次世代育成支援…小・中・高校生などに乳幼児とのふれあいや体験の機会を提供している。
(2) 区役所(地域子育て支援事業)の取り組み
地域子育て支援事業概要その1 (2009年3月現在) |
子育てサロン |
地域運営サロン数 |
175か所 |
児童会館委託サロン |
99か所 |
児童会館参加組数 |
130,411組 |
地域連携 |
ネットワーク会議回数 |
95回 |
地域活動の支援 |
3,081件 |
子育て相談件数 |
686件 |
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① 子育てサロン支援…地域運営のサロンの開設・運営に関する支援
② 地域連携…地域における子育て家庭への支援状況について共通認識をもち連携するよう子育て支援推進ネットワーク会議を主催している。また、子育て家庭が地域や学生と交流し、相互理解を図る活動の開催及び支援を行っている。
③ 子育て相談…子どもの成長・発達への心配や悩み事の相談活動。2008年からは相談家庭を訪問する「出前子育て相談」も実施している。
④ 子育て講座…食育や絵本、安全など子育てに関する理解や技術習得を深める講座を開催、託児により参加しやすい環境を作っている。また、保護者の仲間作りを目的とした、少人数でのグループ懇談も託児を行いながら実施している。
⑤ 子育て情報室…書籍など子育てに関する資料を気軽に閲覧・貸出をするとともに様々な子育て情報を提供している。 ⑥ 子育てサークル支援…親同士がつながりを持ち、互いに支えあい交流を深めるため、サークルの育成及び活動の支援を行う。また、サークル同士が交流し情報交換や活動への参考になるための記述などを学ぶ研修会や交流会を行っている。
⑦ 子育てボランティア育成…子育て家庭を支える人材確保に向け、子育てボランティアの育成を目的にボランティア講習会を実施、活動の場の広がりと充実を図るための情報提供を行っている。また、ボランティア同士の交流を図り、技術や知識を学ぶ場として研修会や交流会を行っている。
地域子育て支援事業概要その2 (2009年3月現在) |
子育て講座受講者数
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34回583人 |
子育てサークル
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子育てサークル登録数 |
173か所 |
サークル支援件数 |
107件 |
子育てボランティア
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ボランティア登録数 |
2,681人 |
ボランティア講習会 |
20回213人 |
託児ボラ派遣人数 |
1,072人 |
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⑧ 次世代育成支援…小・中・高校の授業として乳幼児親子と出会い実際にふれあうことで、乳児の発達や命の尊さ、男女が共に育児に関わることの大切さを学ぶ「赤ちゃんてすごい!」事業を2008年より実施。また、育児体験支援として、乳幼児とふれあう場を提供している。
⑨ さっぽろ親子絵本ふれあい事業…10ヶ月検診時に絵本を通じて、親と子が心ふれあうきっかけづくりを目的に、2009年10月より事業を開始。健診会場、子育て情報室にて絵本を配布している。
3. 子育て支援事業の課題
札幌市の子育て支援事業は、「さっぽろ子ども未来プラン」前期計画の中で「基幹園」である「保育・子育て支援センター(ちあふる)」が公立保育所の充実・機能強化として地域に開かれた保育所づくりの観点から、ノウハウを活かして養育困難家庭への支援を中心にすえた「個別支援」を担い、また区役所は行政機関として「地域支援」を主眼にして地域で子育て家庭を見守るための各機関との連携・支援を担い、この両者はいわば両輪として機能するよう期待されました。私たち現場で働く保育士もその理解でそれぞれ取り組んできたところです。
ところが、上記現状に掲げたとおり、目的や志向は異なっているものの実際の事業メニューには両者に似通ったものが複数存在します。こうしたことから、「わかりにくい」「効率がよくない」という指摘がなされるようになりました。
札幌市には全事務事業を対象とした「行政評価制度」がありますが、特に学識経験者や一般市民などで構成される「行政評価委員会」による外部評価では「市全体として効率的な子育て支援を行う体制を構築」するよう強く求められています。
こうした指摘を背景にして、2009年には市当局から「さっぽろ子ども未来プラン後期計画」策定に向け、「『ちあふる』と区役所の子育て支援事業を業務整理し、『ちあふる』をさらに拠点化、区役所はこれを補完する方向としたい」という提案がなされるに至りました。職員組合としては、①「わかりにくい」という指摘は確かにあると思われるが、それは市当局が実施目的や内容を市民に十分説明しきれていないからではないか、②核家族化や地域とのつながりが希薄になっている現状で、育児に対する不安や悩みを抱え込み、孤立していく家庭が増えていく中で「効率重視」がよい結果を招くのか、③そもそも『ちあふる』の箇所付けが7か所に止まっている(残る3区は白紙)状態で業務整理と言われても3区の事業はどうするのか、④『ちあふる』設置時に、区の業務を移管する前提での施設設計にはなっていないため、再度設計変更や改築の問題があるなど、さまざまな意見が出されました。しかしながら、「行政評価」をないがしろにすることもできず、やむなくその方向性については検討を受け入れることとし、2010年度に業務整理の具体的内容を労使協議にのせることとしました。
4. 終わりに
上記のとおり、業務整理についての議論を今後進めていくこととなります。職員組合としては、子どもの数は減っているにも関わらず、育児相談は急増し、また児童虐待などが後を絶たない状況下で、地域との連携・協力のもと子育て家庭を孤立させず相談・支援につなげていくためには何が必要か、という観点を見失うことなく、活発に議論していきたいと考えています。 |