1. はじめに
私たちはこれまで、子どもの育ちを保障する就学前教育の在り方について認識を深め、その重要性について理解してもらえるよう行政に働きかけていくことを目的として取り組んできました。その甲斐もあって、今年度開催される予定の幼稚園審議会においてはその諮問内容に幼稚園現場の考えも反映するという教育委員会の意向もあります。しかし、政権交代により就学前教育・子育て支援に対する政府の考えが大きく変わり、関連する制度も改定されようとしています。今までの考え方だけで施設の整理・統廃合をした場合、公立幼稚園の存続自体が危ぶまれます。動向をしっかり把握して、それが子どもや地域の実態に即したものかを見極めていく必要があります。
「子どもの育ちを守るために」今私たちがすべきことは何か。今年度はこの視点に立ち、これまでの取り組みを見直しながら新たな方向を探っていこうと考えています。
2. 子どもの育ちとこれからの課題
近年子どもの育ちが大きく変化しています。その要因の一端が遊ぶ環境の変化にあります。少子化により兄弟姉妹がいない、近所には遊ぶ友だちがいないという子どもが増えており、加えて交通量の増加・多発する不審者等の事案などから、子どもだけで安心して遊べる場所がほとんどありません。そのため家庭でゲームなどの一人遊びをして過ごさざるを得ない状況にあります。友だちと遊ぶ経験が不足しているのでかかわり方を学ぶことができません。また、十分に体を動かすこともないため身体の発達にも影響があると考えられます。
さらに、家庭の教育力が低下していることも重大な要因の一つと言えます。幼稚園等から帰宅した後、子どもの世話ができない(どのようにかかわればよいかわからない)という親も多く、基本的生活習慣やその年齢なりの規範意識が身についていない子、自己中心的でわがままな子、自分で考えようとしない子が増えてきました。しかし、その悩みを相談する相手もなく一人で抱え込んでいる親(特に母親)も少なくありません。遊ぶ仲間や遊ぶ場所がない子どもにとって幼稚園や保育所(園)が唯一の発散場所であると同時に、母親にとっても数少ない不安のはけ口でもあります。それだけに幼稚園・保育所(園)の担う役割は大きく、公が責任を持って果たしていくことが求められています。
今の子どもたちに必要なことは①たくさんの人と出会い、かかわりを多く持つこと②戸外での活動や集団でのあそびなど、家庭ではできにくい体験をすること③思いっきり身体を動かして遊びこみ、満足感・達成感・充実感を味わうことです。
こういった状況を踏まえ、幼稚園・保育所(園)では①子どもどうしのかかわりが深まるような環境の構成や援助を工夫すること②子育て支援センターの機能を充実させ、保護者が子育てについての悩みを気軽に相談できる体制づくりをすること③幼稚園・保育所(園)を出会いの場として、子どもと子ども・保護者と保護者・子どもと大人など様々な出会いを経験させること……について今まで以上に配慮をする必要があります。
しかし、少子化と保護者の就業率が高くなったことにより幼稚園では園児数の減少、保育所(園)では待機児童(希望する施設に入所できない幼児を含む)の増加がみられます。施設の許容量を超えた幼児の受け入れをしている園では職員や保育室の不足により、安心して穏やかに過ごす時間と空間を保障することが難しい、小規模園では集団あそびが成り立ちにくく、幼児教育本来の目的が達成できないなどの課題があります。前述の役割を果たしていくためには、地域の実情や園児数・職員数の適正規模などを総合的に捉えて、施設の配置・在り方について見直していく時期と言えます。
3. 保育制度改革から
政権交代による保育制度改革と子ども・子育て新システム制度(案) ―― 特に保育にかける要件の撤廃、子ども・子育て勘定(特別会計)……(仮称)による財源の一本化は、公立幼保の存続に大きく影響するものであります。
① 保育制度改革の基本的なポイント
ア 要保育要件の見直し……例外のない保育保障の観点から撤廃の方向。
イ 公的保育契約制の導入
ウ 多様な保育サービスと指定制の導入……客観的な基準に基づき質の保証された事業者の参入促進
② 子ども・子育て新システムの基本的方向
ア 子ども・子育て勘定(特別会計)による財源の一本化……地方裁量。
イ 基礎給付と両立支援・保育・幼児教育給付
ウ 子ども指針、こども園、幼保一体給付
エ 懸念される課題……保育制度改革と連動した仕組み
*保育要件がなくなるので保育所(園)は自動的に新「こども園」に移行。
幼稚園は長時間保育を行っていなければ移行できない。
③ 自治体への影響
ア 基礎給付及び両立支援・こども園・幼保一体給付に係る必要な財源が確保できるのか。
イ 公私の格差是正を目的とした価格制度の一本化
④ 工 程
ア 2011年1月の通常国会に法案提出。こども指針を2011年度内に制定。
イ 2013年度の施行を目指す。2011年度から実施できるものについては前倒しして実施。
4. 私たちがすべきこと
(1) 情報収集
子どもたちを取り巻く環境の変化を敏感に察知し、新しい制度が地域や子どもの実態に即したものかどうかを見極めていかなければなりません。また、他の都道府県本部や単組の状況を知ることにより、自分たちの取り組みのヒントにしたり、将来私たち自身に起こりうる状況を予測し事前に対策を講じるための情報収集が必要になります。
① 各種学習会・研修会への積極的な参加
ア 自治研集会
イ 全国保育集会
ウ 九地連介護福祉集会
エ 私立幼稚園連合会主催『幼児教育行政研修会』 2010.7.7別府市にて開催。講師:吉田正幸氏
*豊後大野市職労自治研部主催で、市内の私立幼稚園と協力して同講師を招き、豊後大野市にて保育制度改革(案)についての学習会を開催することを計画中。市職労執行部・組合員はもちろん、関連部署の管理職、事務職員、議員も参集予定。
② 近隣単組との情報交換(合同学習会の開催)
近隣自治体の状況は良くも悪くも影響を受けやすくなります。経費削減や民営化等の合理化攻撃についてはもちろん、逆に、勤務労働条件等で改善されたことについて情報を得ることで私たち自身の取り組みの足がかりとすることができます。単組を超えた協同の取り組みが、今後はますます必要に
なってくると考えられます。
ア 2009.10.29 臼杵市(旧野津町)職労幼稚園部会との合同学習会開催
イ 今年度は竹田市職労幼稚園部会との合同学習会を計画中
ウ 県本部幹事会における情報交換、部会員への周知。
③ 保育部会との連携
ア 合同学習会の開催(それに向けた合同役員会の開催)
イ 子ども部会の立ち上げ計画中 ※具体的内容は(3)に記載
(2) 子どもを育てる環境づくり
① 働きやすい職場づくり
心身の不調は子どもに影響します。健康であるためには働きやすい職場環境をつくっていくことが大事であると考えます。
ア 非正規職員の待遇改善
・有資格職員の賃金値上げ
・嘱託職員の病休獲得(10日以内、無給)
② 職員の資質向上
子育て支援等新しい分野についての専門性を高めていく必要がある。
ア 非正規職員についても正規職員と同様に研修を深められることを確認済み。
③ 教育委員会との密な連携
子どものために必要と思われる保育環境の整備については、強く訴えていかなければなりません。
常に教育委員会へ現場の状況を伝え、理解と協力が得られやすい関係を築いておく必要があります。
(3) 子ども部会の立ち上げ
子育て支援とは幼稚園・保育所(園)・児童館等の施設のみで行うものではありません。地域社会全体で見守り育てていくことが必要です。これまでの部会は現場の職員だけで構成していましたが、子育てに携わる職員が誰でも気軽に参画できるものにしたいと考え、保育部会と連携して「子ども部会」の立ち上げを計画しています。調理員や保健師など職務として関わる職員はもちろん、施設の整理・統廃合にかかわる教育委員会・生活支援課・行政管理室の職員や子育て中の職員にも声をかけ、多方面から幼児教育や子育て支援に求められていること、その在り方について意見を出し合うことで、誰もが安心して子どもを生み育てることのできる魅力あるまちづくりをめざした「地域で取り組む子育て」の第一歩にしたいと考えています。
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