1. はじめに
昨年9月以降の労働行政に関わる政策論議の著しい混迷があるなか、2009年11月30日(月)、12月21日(月)の2日間にわたり、ハローワークにおいて緊急雇用対策に基づき「ワンストップ・サービス・デイ」を実施した。ワンストップ総合受付利用者は1,044人(東京)と一定の効果を生んだが、期待された施策であったのか検証が必要となった。また、「年末年始の生活総合相談」が実施され、東京都のみが国の要請で「公設派遣村」を設置した。自治労東京都本部は、東京都や自治労本部・連合東京を通じて国へ要請してきた。この、自治労東京都本部が設置した「ワンストップ・サービス・デイ」等困窮者支援対策委員会の取り組みから、新たなセーフティネットをどう再構築するのか、ハローワークの現場から課題についての改善策を提起する。
東京労働局におけるワンストップ・サービス・デイの実施結果 |
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2. 東京におけるワンストップ・サービス・デイの実施を振り返って
(1) ハローワーク=第一線の実情
雇用失業情勢の危機的状況から求職者・雇用保険受給者の増大により、ハローワークの窓口フロアーは足の踏み場もない混雑、職業相談窓口は1時間から2時間待ちの状態にあった。その中で、ベテラン職員を職業相談窓口から抜いてワンストップ・サービス窓口に配置した。その結果、実施当日ハローワークのサービス機能が低下せざるを得なかった。ハローワーク現場からは、実施日を平日としたことは問題が残った。休日(土曜または日曜)開催の選択肢はなかったのか。また、「緊急雇用対策」の位置づけから、都および市区町村との調整に東京労働局と各ハローワークが奔走する結果となり著しい負荷となった。
(2) ハローワークを実施機関とした問題点
政策を総動員してワンストップのサービスが社会的に求められていた。しかし、事前に危惧された課題は解決しないまま、緊急雇用対策として実施にあたることとなった。第一線機関の現場の意向が生かされる検証が必要であろう。当日の実施体制から浮き彫りになった問題点を述べる。
① ハローワークを実施機関とした問題点
利用者が少なかった点について、なぜ少なかったのか。広報・周知不足が指摘されているが、そもそも実施場所であるハローワークが「新たなセーフティネット」対象者のニーズを捕捉するに適した機関であるのか問題があった。継続する場合は実施体制、相談のあり方について検討を要する。
② 利用者ニーズに即した業務フローが必要
職業相談を前置し、事実上インテーク・ワーカーとして機能させた。しかし、雇用と住居を失った方のニーズとしては、迅速な住居と金銭の確保が最優先事項であり、職業相談は衣食住が確保された上で実施されることになる。実際の対応としては、「たらい回し」との非難を回避するため、利用者を椅子に座らせたまま、ハローワーク相談者が優先事項である金銭・住居を確保するため、他チームと折衝するという対応が多くみられた。したがって、ハローワーク・チームが前置されるべきではなく、福祉事務所チームや社会福祉協議会チームの相談が前置されるべきではなかったか。
③ 現金・住宅現物の確保が一義的に重要であった
最優先事項である住居と金銭の確保は迅速になされなければならない。このため、「新たなセーフティネット」のメニューの中では、「つなぎ資金」の運用改善と活用可能な住宅現物を提供するための仕組みが必要となる。ワンストップ・サービス・チームにおいて直接活用可能な現物資源としては、「雇用促進住宅」のみであった。都営・市営住宅や民間賃貸住宅は情報提供のみにとどまり、住宅相談は最も活用されることが少ないチームとなっていた。このため、シェルターなども含め対人サービスとして住宅相談を実施することが必要。全国的にも、県もしくは市町村住宅部局が、チームに参加しているという事例は少ないため、参加を促進するとともに、活用可能な住宅現物資源を大幅に拡大する必要がある。
④ 「ワンストップ・サービス」は機能の明確化と権限配分の問題を改善することが課題
物理的に複数機関を同一場所に配置(仮に「ワン・フロアー方式」)すれば、「ワンストップ」が可能となるわけではない。コスト・パフォーマンスも悪い。物理的近接ではなく、調整機能を明確化し、可能な限り権限を集中することで実現できないか。制度・機関が分立する場合の調整スキルとして「ケース・マネジメント」も活用し、物理的近接なしに「ワンストップ」を実現する(仮に「マネジメント・センター方式」)。利用者ニーズに即し、金銭・住宅優先で実施する場合、市町村実施が望ましいが、ハローワークで実施する場合でも固有のハローワーク業務(職業相談)にインテーク・マネジメント機能を付加することは非効率的である。別途、訓練を受けたコーディネーターないしケースマネージャーを配置し、被調整機関に応諾義務を課すことも検討課題であろう。「新たなセーフティネット」におけるハローワーク前置の仕組み自体の見直しが必要である。
⑤ 年末・年始相談実施の総括(考え方)
年末においては、迅速な住居と金銭の確保ニーズが格段に重要性を増し、職業相談ニーズは低下した。「つなぎ資金」の運用改善等による迅速な金銭給付の確保や活用可能な住宅現物提供の仕組みを整備できなければ、実施の意義が低下することが明らかであった。今後は、区市町村参加を促進するための特別地方交付税措置など財源確保を急ぐべき。
(3) 実施後に改善された課題
実施後に一定改善された課題もある。今後、検討の内容、体制と実績を評価し政策反映が求められる。
① 「生活福祉・就労支援協議会」の設置
この取り組みで明らかになった課題を踏まえ、地域ごとに関係機関が参集し地域におけるワンストップ・サービスの在り方を検討する場として「生活福祉・就労支援協議会」が設置された。
② 「住居・生活支援アドバイザー」がハローワークに設置
また、「第2のセーフティネット」等に関する総合相談を日常的にワンストップで実施する「住居・生活支援アドバイザー」がハローワークに設置されている。
③ 「個別支援」サービスの導入に向けた検討
さらに、様々な生活上の困難に直面した求職者に対して、個別的かつ継続的に相談・カウンセリングや各サービスへのつなぎを行う「パーソナル・サポート(個別支援)」サービスの導入が現在検討されており、現場レベルでの取り組みを踏まえた実際的な論議を行うためモデル・プロジェクトの準備が進められている。
3. 職安行政としての政策目標とハローワークを拠点とした支援の強化
今後、ハローワークには、地方公共団体や「新しい公共」を担うNPOや社会的企業等関係機関と連携しつつ、制度や組織体制の面からも雇用と福祉の連携を図るポジティブ・ウェルフェア(積極的就労・生活支援)の拠点としての役割が期待されている。一方「国の出先機関の原則廃止」に関連して、全国知事会は労働行政の地方移譲を主張している。厚生労働省は、「求職者支援制度の創設」に向け労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会での論議を進めている。第2のセーフティネットの制度設計と政策実施体制は労働政策および社会保障政策の根幹である。
(1) 地域主権改革に係る問題点
① 職業紹介、雇用保険及び雇用対策は、国が直接一体的に実施することが不可欠である。雇用保険は、保険集団を可能な限り大きくしてリスク分散を図るため、国が全国的に運営することが最も効率的。認定等の事務のみを地方が行うこととすることは、保険財政の責任を負わない自治体が認定等を実施することとなり、不適切である。雇用情勢の地域差等を反映して、近年都道府県別の雇用保険の収支差の格差が拡大する傾向にあり、例えば、2006年度の実績を単純に置き換えると、青森県は全国平均の3倍以上、東京都の7倍以上の保険料が必要となる。
② 職業紹介と雇用保険を国が一体的に実施するのが連邦制国家であるドイツを含む国際標準である。「職業安定組織は、国の機関の指揮監督の下にある職業安定機関の全国的体系で構成される。」というILO第88号条約に明確に違反する。地方移管は法定受託事務又は自治事務が前提となるが、条約上それは不可能。先進国は、例外なく国で実施している。
③ 都道府県域を越えた広域の労働移動や、企業の全国本支店一括の求人に応えるためには、全国的同一組織の職員による指示、調整等が必要。東京で受理した求人について、4割が東京以外からの紹介により就職。全国どこでもセーフティネットとしての職業紹介が提供されなければ、人と企業を効果的・効率的に結びつけられない。労働者の希望にも応じられず、勤労権を保障できなくなる。
④ ハローワークの職業紹介においては、求人条件の事実確認や是正指導などについて、日常的に相互の指示、調整等を行っているが、仮に、国は全国ネットワークシステムの運用管理のみを行うとする場合、都道府県域を越えた職業紹介を効果的・効率的に実施することが出来ない。雇用を取り巻く状況の変化等に即した適正な業務運営を行うには、全国一斉に統一的な指揮命令の下で迅速かつ機動的に対応する必要があり、法定受託事務では不可能。今般の厳しい雇用失業情勢の中、ジョブサポーターの緊急配備による新卒者の就職支援や、雇用調整助成金について、全国統一の申請処理期間を設定し、支給の迅速化を図るなど企業の雇用維持支援を実施できた。
⑤ 地方移管した場合、国は自治体に対する指揮命令権が無いため、機動的な雇用対策を全国一斉に実施することが困難になる。(平成21年末の、ワンストップ・サービス・デイの取り組みが全国的規模で実施できたのは、ハローワークが国の出先機関であったからではないか。)
⑥ 労働行政の実施には労使の意見は最大限尊重されるべきである。ハローワークの利用者たる労使は、「国による全国ネットワークのハローワーク業務は堅持するべき」との意見を明らかにしている。
【労使の意見】
○労働政策審議会(公益、労側、使側の委員が参加)
「国の様々な雇用対策の基盤であるハローワークは地方移管すべきでなく、引き続き、国による全国ネットワークのサービス推進体制を堅持すべきである。」(同審議会意見(2009年2月5日)(2010年4月1日))
○連合「無料職業紹介を行う国による全国ネットワークの組織として現行制度を堅持する」
○経団連「ハローワークの機能は雇用のセーフティネットであり、無料かつ全国的な職業紹介組織を維持していくべきである。」(2008年版 経営労働政策委員会報告) |
(2) 「求職者支援制度の創設」にむけた社会的合意をもとめて
雇用保険制度の改善につづき、厚労省は第2のセーフティネットの恒久化に向けて「求職者支援制度の創設」を検討している。労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会での論議が整いつつある。「2度の『派遣村』で顕在化した」と言われている非正規雇用問題は、「求職者支援制度」が有効な政策となるかが重要課題である。
これまでの日本の社会保障政策は、企業が正社員に与える年功賃金、家族手当、住宅手当といった制度を前提とし、それに相当する部分を社会保障として実施してこなかった。年金や医療保険は欧州諸国に匹敵する制度を構築してきたが、育児や子どもの教育、住宅保障といった人生前半期の社会保障はほとんど欠落していることが明らかとなった。さらに、社会的セーフティネットの整備には、雇用創出・地域活性化のため、制度への参加者の意見、労働組合の意見等をふまえ利用状況を検証し、見直しを行うことが不可欠であろう。
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