【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第7分科会 貧困社会におけるセーフティネットのあり方

 ここ数年、若者の就労支援は、フリーター問題からニート問題へ、そして最近では貧困問題へと社会問題化し、複雑化している。地域若者サポートステーション(サポステ)は、一定期間無業の状態にある若者に対し、職業相談やキャリア形成に向けたプログラムを実施している。このレポートでは、その取り組みの内容と、非正規職員が多い相談スタッフの育成について考える。



公共サービスを支える非正規職員たち
就労支援現場から見た、さまざまな課題を持つ
若者への対応
 

京都府本部/京都若者サポートステーション・総括コーディネーター 山田 宏行

 今回紹介する地域若者サポートステーション(サポステ)は、2006年(平成18年)厚生労働省が都道府県の推薦による民間団体に委託し、15歳~35歳(現在概ね40歳)までの一定期間無業の状態(ニート状態)にある若者に対し、職業的自立に向けた専門相談やキャリア形成に向けたプログラムを実施支援する機関として設置された。2010年度(平成22年度)は、全国100か所に設置され、京都市域には財団法人京都市ユースサービス協会が受託運営をしている京都若者サポートステーションがある。
 設置される経緯としては、何らかの理由により社会に一歩踏み出せない若者に対して就労訓練であれば研修作業を、心の問題があればカウンセリングを民間団体が支援し、就職活動についてはハローワークが行うという分業体制がつねとされてきた。しかし、フリーターのように働けるわけでもなく、ひきこもりのように自宅から出られない若者だけでなく、「ニート」と呼ばれる、働いてもいず、学校にも通っていない、職業訓練もうけていない状態の若者の存在が認知され、徐々に官民一体での自立支援へと加速度的に取り組まれるようになった。また、ここ数年若者の就労支援を考えるに、フリーター問題からニート問題へ、そして最近では貧困問題へと社会問題化が進み複雑化している。これは、我々支援者にとっても影響があり、キャリアコンサルタント、臨床心理士、精神保健福祉士など分野の異なる専門家が集まり、保健・福祉の幅広い機関や人材と支援体制を組み、その知識と経験をもとに若者の自立に向けた重層的な支援対応が求められるようになった。

1. 就労支援現場からみた、働けない複合的な課題

・発達障害を抱える若者、心理面での支援を必要とする若者、成長過程で心に傷を負った若者(DV、いじめ、依存による中毒症状など)など
・これら若者で障がい者認定を受けられない境界例で社会参加、就労での困難状況にあり社会関係スキルの不足した若者など
・家庭の貧困や崩壊による自立的困難な状況にある若者
・学校や職場でのいじめ経験や対人関係での挫折経験を持った若者

 支援体制が整いつつあるとはいえ、それでも“自立困難な若者”の存在である。
 フリーター170万人、若年無業者64万人(2008年厚生労働省調べ・内閣府とは集計考え方が異なる)。このような数字からもいかに多くの若者が社会との接点もなく、かろうじて支援機関との関わりにおいてつながっている。
 京都市における若年無業者数は、5,300人前後とみられているが、うち京都サポステへの登録者数530人(2010.6現在)であり、1割の若者への対応がされている。この数字が多いか少ないかは別として、働くことに困難さを抱え課題を持つ若者としてとらえるとき、支援機関はサポステだけではない。上記課題に関わる支援機関は、保健・福祉の関係からも多く見られ、官民一体となって重層的な支援対応が求められる所以である。
 就労支援のプログラムにも変化と柔軟性をもたらしている。キャリアコンサルタントがキャリア形成支援に必要な職業適性検査をはじめ能力検査などを基にワークショップ、職場体験を企画し、心理面での不安や解消となれば、個別カウンセリングや不安障害への対応としてワークショップ、合宿などを実施した。若者自身が動けなければ保護者の支援が行われ、困難な状況があれば訪問支援を実施するようにもなって来ている。
 対象者のニーズが変われば個別ニーズに合わせたプログラム提供を行っている。

2. サポステ事例から

(1) 若者本人プロフィール
 性別・年齢:男性 31歳
 相談期間 :1年半
 通院歴  :有り

 中学1年生の終わりで不登校。通信高校4年で卒業、15年間ほとんどひきこもり状態。いじめにあったうえ、夫婦仲が悪く父親の母親に対する暴力もあり、本人が母親の盾になっていた。2年ほど前より母親、本人と気を遣わなくてよい会話ができるようになり、父親とは別居生活をする。本人2007年3月からNPO支援の居場所へ。以前からあった社会不安障害「あがり症」の診断で薬を飲む。居場所でのボランティアとバイトをすこし。 居場所での人間関係のしんどさからほぼ半年でやめる。

(2) 経 過
 1回 居場所問題での話題を中心に母親のわだかまりを解消する。 
 4回 本人来談、「失敗を恐れず、柔軟性をもち」という発言。働くことへの意欲あり。
 5回 知人の紹介でコンビニでアルバイトをするが、間違い多く落ち込み辞める。その直後ホテルでの宴会係のアルバイトを始める。約3カ月、いじめに会いながら長時間勤務を続ける。結局そこもしんどくなりやめて、週3日早朝4時間のアルバイトをやりだす。薬を飲みながら続けるがその後薬はやめる。
 6~14回 
 15回 自分で独立した生活をしたいのでお金を貯めることが目標になる。

(3) 所 感
 このケースは、子が保護者の関係に翻弄されている事例で、母子関係の安定を図り、本人の自立心を支えたものである。
 経過としては本人と2回会ったが、「失敗を恐れず」といって自分のモットーを言ったり、彼女がほしいと言ったり、家族関係に課題があったことを明確にしつつ、あがり症の対応をしながら、本人の欲求を重視、就労へと展開させていった。母親のパニック・不安を取り除くことと、子どもへの信頼を増すことに努めた結果、母親の変化もかなり大きく、自分の時間も持てるようになってきた。
 長期のひきこもり状態を経験しており、かなりのネガティブな発言もあったが、6回目で何らかのチャレンジが起こったことは評価できる。
 この1例のように、いじめ、DVなど家族問題、ひきこもり、精神疾患、社会資源の活用などさまざまな問題を抱えながらの自立に向けた一歩を踏み出したケースである。
 社会がニート、ひきこもりなど職業的自立が必要と考えていた若者の中でも、より深刻な問題を抱えている層への対応が現場での大きな課題となっている。特に就労支援機関だけでなく、医療機関、保健・福祉機関、教育機関、職業訓練機関、民間支援機関が個別ケースに包括的につながる体制構築を図る必要がある。

3. コーディネートの力量が試される

 若者の自立支援は、より困難な状況にある若者をいかに社会とつなげるかが問われることになっている。一つの専門家・専門機関ではなく、複数の専門家・専門機関が集まり、変化と柔軟性を持ち、個別ケースにいかに対応できるか。これらの体制の構築が求められおり、これらをコーディネートするスタッフの育成が急務である。
 そして、これらに関わるスタッフが非正規職員という現実があることを忘れてはいけない。
 フリーター支援を行ってきた旧ヤングジョブスポットスタッフ、ニート支援に関わる多くのサポートステーションで働くスタッフのほとんどが、非正規職員である。