【要請レポート】自治研活動部門奨励賞

第33回愛知自治研集会
第8分科会 地方再生とまちづくり

 私たちの自治研究活動は、端的にいうと左図を証明し、新しい仕組みを提案する作業であると言える。研究チームが、高知大学生、直売所、ビジネスサポーター、地域のおばちゃんたちと交わりながら、超高齢社会の中で地域社会をどのように維持していくべきかを模索した試みを以下に報告する。


小金稼ぎの営みが地域の元気を再生する
―― 産業福祉の試みと、その果実 ――

高知県本部/(社)高知県自治研究センター・黒潮町研究チーム 友永 公生

1. はじめに

 筆者は、町役場の防災担当になって8年目である。それがどうした?と思われるであろうが、これがこのレポートのひとつの鍵ではある。では、本題に……
 私たちが暮らす地域、研究テーマの背景たる中山間地域の現状は、高齢化の進展・若者の流出・コミュニティの希薄化(高齢者の孤立)・JA合併・地元商店の廃業etc.とにかく人がいないことが相まって、地域社会の維持が困難な状況にある。高知県で言えば、高齢化率はすでに25%を超え、全国の10年先をひた走っているらしい。
 この、世界最先端の社会問題(談:一橋大学関満博教授)をどのように解決するか?が自治体の大命題である。
 ちなみに、黒潮町の高齢化率はすでに34%を超えている。まさに、世界でも相当先を行く地域なのだ。

2. 研究テーマの仮説と目標……産業 ≠ 福祉?

 ご承知のとおり公共サービスでいうところの“福祉”と“産業”の関係は相容れないものがある。水と油とまでは言わないが、大きな隔たりというか壁がある。
 表現は乱暴だが、既存の福祉サービスは、心身の虚弱化や生活困窮を要件として受給できるサービスと言えよう。弱者救済の福祉関連法の精神からいえば当然であるが、救済を受ける(弱い立場)のだから、儲けたり、働いて稼ぐことに一定の制約を設けている。
 また、介護保険などの福祉系サービスに参入する民間事業者がいるということは(社会的意義は少し脇に置くとして)、金の回る仕組み(産業)ではある。これは、福祉が産業として成り立っているカタチであるから、この場では「福祉産業」と呼ぶ。
 これに対し、私たちの研究はこうである。高齢者の働ける・稼げる力に投資をし、高齢者自身が産業を担う仕組みとなり、「儲け」を「楽しみ」、「元気となる」営みの創造である。言い換えると、産業活動=「小金稼ぎ」が、福祉的効果=「元気・生きがい」をもたらすというカタチであり、「福祉産業」と対比して「産業福祉」と呼ぶ。
 この「産業福祉」という仕組みが成り立ち、働く・稼ぐことに投資することで得られる果実の価値が証明できれば、既存の福祉部門の予算を投じることも可能になり、これからの社会に必要な公共サービスを生み出せるという仮説のもと、研究活動を進めてきた。

【仮設のフロー】


3. 黒潮町で実施した庭先集荷サービスについて

黒潮町大方地域の主要道路網
 研究開始当初、まだ机上の空論であった頃に開催した「地域を元気にするコミュニティ・ビジネスを考えるワークショップ」で出会った田辺さん夫妻にビジネスサポーターとしての協力を得られたことで、空論は現場を駆け巡ることとなった。こうして、当町でも生粋の山間部である湊川、馬荷地区を中心に庭先集荷サービスを2007年10月から展開した。
 さらに、サービスを続ける中で利用者が増え、集荷範囲が拡大した。これは住民ニーズにマッチしたサービスの証である。
 これは、当町(大方地域)のように海岸沿いに幹線国道が1本しかない「まつげ型」の道路網という物流に不利な地形だからこそ、より必要とされるサービスであったとも言えよう。

4. 庭先集荷サービスの様子

 湊川系統、馬荷系統ともに週に2回ずつ(計4回/週)下図のようなイメージで集荷作業を行っている。写真のようにビジネスサポーターの到着を待ち、早朝から談笑する声が集落にこだまするのも馴染みの光景となった。


5. 地域のリアクションから……産業 ≒ 福祉?!

 研究活動と銘打つだけあり、地域の声をアンケートによって収集した。この作業は、高知大学人文学部の鈴木ゼミの協力を得ながら進めてきた作業である。
 聞き取りした項目は下のとおりであるが、ここではアンケート時の写真とともに、その他の意見を紹介する。



 このように利用者のアンケートからは、小金が稼げているだけでなく、出荷に関連した楽しみを得、地域内外の交流をも楽しんでいる様子が伺えるのである。
 また、ビジネスサポーターからも、いつも出荷をしている人の商品が出ていないときは、自発的に様子を見に行くという事例も聞き取ることができた。これは全く予想していなかった見守り活動=高齢者の孤立防止という効果であった。



 イメージだけでなく、出荷状況の変遷も地域のリアクションとして触れておきたい。
 上のグラフから読み取れるように、出荷者数、出荷品数、出荷金額とも微増ではあるが右肩上がりであるし、出荷先である各直売所とも商品はほぼ残ることなく売れている(研究活動で実施した直売所関係者による座談会より)とのこと。多くの方が楽しみを得ながら、実際に金を回しているのである。

6. 庭先集荷で各集落とつないだ「直売所」という場を考える

 ところで、庭先集荷に欠かせないセクションである直売所のイメージはどうであろうか?
 一般的には「安い」「安心・安全」「地産地消」「高齢者が出品」「地元の新鮮な食材」などが思い浮かぶのではないだろうか。
 しかし、研究活動の中で直売所は単にモノを売り買いするだけの場ではないということを、私たちは知った。
 直売所は、さまざまな多面性と多様性をもっているのである。要するに、各集落の“活力を生む”場であると言えるのである。
【直売所のもたらす各集落への効果】
○家庭にいながら収入を得られる ○高齢になっても働き続けることができる
○役割を持てる・趣味を生かせる ○出荷者同士の交流を生む
○生きがい・楽しみをもたらす  ○出荷できる = 農地(生活環境)が保全される

7. 試みの果実は……産業 = 福祉??

 この集落を元気にする魔法のような力を持つ直売所と、各地域をつなぐ庭先集荷という営みがもたらす効果を整理してみると、おおむね次の3要素に大別できる。

産業振興的効果

・農地保全
(地域にいる方が耕作し続ける)
・高齢者の小遣いが増える
(所得保障にも繋がる)
・集落ごとの作物が流通に乗る
(小ロットでも流通に乗る)
・直売所の品揃えや売上げに貢献
(少量だが多品種の品ぞろえ)
・伝統の農法や在来種が守られる


保健福祉的効果

・小遣いが増えることの楽しみ
(孫の小遣い・趣味の旅行)
・出荷日の確認や値段を決めるこ
 とが脳の活性化となる
・ビジネスサポーターに会う楽しみや
 直売所の販売状況や社会時事など
 の情報交換による精神的な効果
(社会との接点による安心感)
・農作業による身体機能の維持
(身体の健康)
・生きがいづくり(精神の健康)

地域活性化・集落維持の効果

・在宅生活を維持
(集落に人を残せる)
・環境保全(ムラ・ノラ・ヤマ)
・出荷者同士の話題が増え、地域
 内の接点が増える
(地域コミュニティの形成・再生)
・集荷者による見守り・地域内交
 流による相互の見守り
(地域の安心・安全を生む)
・田舎暮らしの可能性
(IJUターンの促進)

 庭先集荷は、一見すると高齢者の所得保障が目的と捉えられる可能性もあるが、地域社会の維持に貢献しうる仕組みであると言えるのではないだろうか。そして、活力を失いつつある地域社会を対象にした福祉施策であるとも言えはしないだろうか。

8. 内外の反応……大きな果実

 産業≠福祉 ⇒ 産業=福祉 という考え方を提唱してきた私たちの活動に、内外の反応が多くあった。
 国交省の「新たな公」によるコミュニティ創生支援モデル事業(2008~2009年度)に採択されたり、全国紙や地方紙に取り上げられるなどしたおかげで、多数の視察を受け、あるいは庭先集荷と同様のサービスを公共で実施する事例が出てくるなど、多くの反響を得たのである。
 で、わが町はどうか……
 暫定的ではあるが、2010年度から町の事業として走り始めたのである。しかも、町内全域を対象として。まさに結実したのである。
 事業形態は、私たちがこれまで運営してきたシステムを踏襲、町から直売所を経営している企業への委託業務とし、既存ルートは町単事業、新規ルートは雇用対策を活用した2本立ての運営で、地域の再生へ向けた新しい公共サービスとなったのである。
 ただ、外形上「赤字」のサービスであるため、独自で維持することは今のところ難しく、今後は公共交通の課題や、いわゆる“買い物難民”の課題解決など、地域に散在する課題と関連付けた施策が摸索されるようである。

9. これからの社会の支えあい方は?

 いわゆる「ほどこし」的な救済や、「丸抱え」が本当のやさしさではないし、今後の社会で通用するやり方ではないのは明らかである。
 支えられる側の人間も、ときには支える側となれる仕組みであるべきなのだ。
 今ある力を“生かしきる”ことが、住民を尊重し、これからの地域社会を維持していくために必要な術のはずである。
 この術を導くときに必要となるのが、地域社会はさまざまなものが絡み合い、お互いに作用しながら成り立っていることを理解する視点や、産業福祉のような概念であるというのが、私たち研究員がこの間に得た確証である。
 そして、目指すべきこれからの地域社会のあり方が、この模式図である。

10. 終わりに

 「庭先集荷」の営みは多くの果実を生んだ。出荷者、集荷者、内外の反響など。
 この営みに係わってきた私たちのグループは、町役場のさまざまな部署の寄せ集めのメンバーである。チームリーダーの発案からの仮説に基づき、地域住民の協力や参加を得ながらメンバー各々が持ち合わせたノウハウや思考を少しずつ出し合いながら研究活動を進めてきた。
 業務ではない任意の場であるため、各自が許せる範囲での活動ではあったが、ある面では1つの担当部門ではできない多様な対応もできたとも言え、それなりのカタチと実績が生まれたと思うし、自治体職員として公共サービスのあり方を考える有益な場にもなった。
 冒頭で述べたが、筆者は防災担当8年目である。この活動をしていなければ、このような視点や意識は、少なくともこの数年間は培えなかったであろう。
 地域社会を維持していくための新しい公共サービスのあり方を考える中で、公共サービス提供者の新しいあり方を学んだ。これは、もうひとつの大きな果実である。