1. はじめに
全国各地の地域経済は厳しい状況にあります。その地域経済を担っているのは中小企業であります。私達の組織は、その中小企業経営を支援する組織です。
中小企業者は、地域経済だけではなく、地域コミュニティの世話役でもあります。地域の自治組織や文化行事の担い手であり、地蔵盆、体育祭などイベントのリーダーとしての役割も担っています。その中小企業を元気にすることは地域そのものも元気にすることになります。
地域の中小企業の状況は、統計や数字には、なかなか現れません。私見ではありますが、「見えるか化」しているのに商店街の状況があります。商店街は、魚屋さん・肉屋さん・八百屋さん・乾物屋さん・酒屋さんが少なくなり、閉店のシャッターが目立ちます。地域経済の顔である商店街が商業施設としての機能がなくなってきています。商店街の店舗は、目に見える地域中小企業の経営状況の一旦を表しています。地域には商店街のほかに西陣織、友禅染、工務店、工場など多くの中小企業がありますが、この地域経済に明るさを取り戻す必要があります。
2. 京友禅の新たな商品開発を求めて
私がかかわった事例を紹介します。京都を代表的する伝統的な地域産業として、京友禅があります。その京友禅業界は、京友禅協同組合連合会の調査によると、総生産量は55万2,641反となり、1968年(昭和43年)を100とした場合の2001年度(平成21年度)の生産量は型染2.2%、手描染で5.0%であり、最盛期の30分の1にまで生産量が減少しています。生活様式が洋風化したことによって需要の減退が続いています。京都の中京区には多くの友禅工房がありましたが、現在は、友禅工房の跡地にワンルーム・マンショションが建設されるのが、目立つようになりました。友禅流しの姿も見なくなって久しくなりました。古く江戸時代から伝わる地域産業が産業として生き残れない状況になっています。
私は仕事の関係から、高齢の友禅職人さんと出会いました。年齢は86歳と普通であれば既に現役を引退されている年齢ですが、友禅の技を後世に残そうと日夜奮闘されておられます。地域には、このような方は少なくありません。本当に元気です。
私たちは、2007年にこの職人さんの技と友禅独特の色を残すために若手デザイナー、友禅の悉皆業者とともに「創巧舎」という組織を立ち上げました。初めは商品の勉強会をしました。友禅工房の見学会、商品説明などを行い東京の青山、代官山の専門店の見学会などを手弁当で行いました。
職人さんは、私達が驚くすばらしい技にも、あたりまえのことのように平気で簡単だと言います。その日も、そのようなことがあったのですが、若手デザイナーは反物の端にあるランダムな友禅独特の色見本に目がいきました。商品化される段階では切りはなされ、世間には出ません。若手デザイナーは「繊細で華麗な京友禅の完成品も素晴らしいのですが、ここは職人の方の製作現場が直に伝わる部分だと感じて」と言っています。
この色見本を「京色布」と名付け、バックやポーチを作り、ブランド名を友禅染と京都弁の「染めてんね」をアレンジして「そめてん」としました。ここまで来るのにおよそ2年の歳月を費やしました。ときには、職人のこだわりと若手デザイナーのプライドがぶつかり、メンバー間の大激論がありました。
カバンは、友禅の色彩をポイントにおいた製品ですが、カバンの加工業者を必要としました。そのため価格は、予定より高くなりました。
2009年秋に試作品の展示会を開催しました。三条通りのにぎわいのあるところで行い、お客の反応を確認しました。予想した通り、最初は友人・知人が多かったのですが、徐々にチラシや新聞を見て来てくれる人が多くなり、その人達へのアンケートや聞き取り調査の結果を見ると友禅の色への評価がかなり良く、価格はそんなに高いという感じを受けていないようでした。
この結果を受けて個数を増やし、本格的な販売実験を実施しました。同じ場所にて、個数を増やし、商品紹介のパンフレットを作成し、経験豊富な店員さんによって売り始めましたが、ほとんど売れません。残り1カ月となった時に専門家のアドバイスを受けて宣伝広告を行いました。ラジオ局、新聞、リビング新聞などに依頼をしましたが、反応は良くありませんでした。たまたま知り合いがいたラジオ放送で数回流れ、新聞にも載ったことにより、またたく間に商品が売れました。その後の検討会においては、消費者からの様々な意見をもとにした商品の改良、販売店舗の開発、ネット販売の検討、資金調達、法人組織の検討などが出ています。
京友禅の場合には、職人さんは作り手であり、売れるものを作っていた時代はよかったのですが、需要が減退した状況において、新たな商品開発が必要になりますが、作り手が売れるものを作るには、様々な経験が必要になります。また、専門家のアドバイスやコーディネーターが必要になります。
3. まとめ
中小企業者の抱える課題として、その解決には労力と粘りが必要になると考えています。例えば資金の問題を考えた場合に、赤字決算が続き、明確な事業計画がない、経営者は高齢で後継者もないとなった場合に融資には不利となりますが、この状況を打開するとなると企業・経営者の状況を知ることが重要となります。書類には記載できないものがあります。これらを知り、現場でその臭いと空気を感じることも必要となります。この頃は成功モデルではなく、中小企業支援機関には様々な現場で独自の事業の仕組みづくりが求められています。
商品開発には、多くの失敗がつきものですが、この失敗を少なくする。資金的なリスクを少なくする方法、新たな組織の成立などがあります。そして、最後は中小企業者が自信をもって自立できるように導いていくことが求められます。
私達、中小企業支援機関は、新しい時代にあった、中小企業の支援を身につけなければなりません。その第一歩は、地域の中小企業者の所に足を運ぶことにより、その課題を見つけ出すことから始まります。同じ資金繰りで困っている中小企業経営者であっても、必要としている内容や置かれている状況は全て異なります。
また、課題を知ることにより、かかえている情報の整理を行い。融資制度や各種制度を活用することも必要です。それでも対応できない場合があります。そのためには、中小企業応援システムとして、金融機関・支援機関・行政・大学・労働組合などによる応援プロジェクトを設立するなど、総合的に支援する仕組みづくりが求められます。
地域経済の活性化は、全国各地の中小企業を活性化することになります。
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