【自主レポート】自治研活動部門奨励賞

第33回愛知自治研集会
第8分科会 地方再生とまちづくり

 住み慣れた地域で最後まで自分なりの生活を続けたい願いは、人が生きる当たり前の「願い」でしょう。でも私たちの住む山間の過疎地で高齢化が進行し続ける地域では、介護が必要になれば直ちに施設入所の選択をせざるを得ない状況にあります。地域に助け合い制度を再構築する「介護と福祉でまちづくり」の取り組みが求められています。自治労組合員がリードし地域住民とともにNPO活動に取り組む重要性を提起します。



福祉と介護でまちづくり
~一組合員一NPO~

 奈良県本部/東吉野村職員労働組合 辻本 恵則
自治労奈良公共サービスユニオン 蛯原能里子

1. 「最期まで住み慣れた地域や家で暮らしたい」市民の願いをどう受け止めるか

(1) 過疎地移送サービス事業に取り組む
① 過疎地の住民は通院、買い物など交通手段に困っている
(奈良県東吉野村大字木津から見える高見山) 
   人口約2,400人、山間僻地で高齢化率46.4%に達する東吉野村の住民は、通院、買い物などの交通手段に困っています。過疎地移送サービス事業は、公共交通機関で網羅しきれない山間僻地の支線まで乗用車で入り、門口から目的地まで送迎するもので、高齢者の一人暮らしや車を運転をしない、できない方々に喜ばれています。また透析患者を30㎞離れた病院まで、週に2回移送する取り組みが2年目に入っています。料金は、陸運局からの指導でタクシーの半額以下と設定しており、運転手については、時間給の賃金で地域の団塊世代の方々にお願いをしています。乗用車については、個々の車を借用する契約をNPOと結び運行を行っている現状です。運行に当たっては、バス会社、タクシー業者、利用者、運営主体団体そして村役場で構成する過疎地運送運営協議会を設置し、その必要性を議論していく事になっています。年間延べ120回程度の利用があり、運行拡大が切望されています。このサービス事業を展開しているのは、自治労東吉野村職労が関わり住民とともに5年前に結成をした東吉野村まちづくりNPOです。
② 過疎地移送サービスにかかる課題
  この事業は、収益を上げる事を目的にする運営は望めないことがネックとなっています。また、高齢化とともに身体の不自由な住民の利用申し込みが増えています。個人借り受けの乗用車には、福祉仕様の車両はなく、利用者の乗り降りには、運転手の介助で対応していますが、そうした車両の必要性に迫られNPO一番の悩みである資金調達に努めています。自らの介護が必要になっても可能な限り住み慣れた環境の中でそれまでと変わらない生活を続け、誕生から最期までその人らしい人生を生き生きと暮らせる地域づくりに、この過疎地移送サービスは欠かせない取り組みとなっています。公共交通機関で網羅できない地域、わずかな年金暮らしで高額な移送料金が支払えない人々にとって、低額な運行が求められています。過疎地で通常に生活をするに当たって買い物を自分でしたい、病院へ行きたいなどの願いを支える事業である、この事業の資金調達が課題となっています。
③ 市民は、期待を込めて私たちの行動を見つめています
  私たちが住む地域は、65歳以上の人が2人に1人という高齢化率になろうとしている所です。「限界集落」と言われる地域で、つまずいて転び起き上がれない状況で新聞配達の人に発見され、病院に運んでもらったとか、人と話をしない状況が三日も続いているなど、一部の地域では、一人暮らしができない実態にあります。
  こうした状況であることを把握しない限り、市民の側に立った行政の執行など、ほど遠いことですし、市民の信頼を得ることができない公共サービスとなってしまいます。地域に出かけて市民と接して、課題を聞き取ることから始めなければなりません。自らの仕事を見直すことの重要性を提起します。
  一人では、決して生きていけないことを一番よく知っているのは、そのことを体験している高齢者です。「最期まで地域で住めるような取り組みにカンパをしてもいいし、寄付を知り合いに呼びかけます」と言う訴えに応えていける行政施策の展開が求められています。
  住み慣れた地域で最期を迎えたい、この究極の思いを支えるのは、公共サービスを提供する責任を持つ自治体でもあります。高齢者が発想する「ともに生きたい」思いは、具体的な行動も提起してくれますし、市民は期待を込めて私たちの行動を見つめてます。私たちは、行政職員であるとともに自治労組合員として「一組合員一NPO」活動を展開することをもって応えています。

(2) 「あいの家デイサービス」事業所を開設して
① 「自治労が担う市民のための公共サービス」のあり方の一つとして
  東吉野村職労は、2005年に当時の執行委員長など、自治労組合員と地域住民が連携をして「東吉野村まちづくりNPO」結成にかかわりました。そのNPOが今年6月にデイサービス「あいの家」を立ち上げました。

(畑、井戸、旧伊勢街道、杉林が目の前にある「あいの家デイサービス」) 

(「おくどさん」のある「あいの家デイサービス」)
   介護保険法に基づく通所介護事業所です。高齢者とともに障害者も子どもも集える「家」を目指して、常勤者3人非常勤4人で始めています。一日の利用者定員10人規模の小さなデイサービスですが、地域の方々の協力を得て、築300年近い古民家を借り受け、民家の良さを残しつつバリアフリーに改修しました。「自治労が担う市民のための公共サービス」のあり方の一つとして、このデイサービスを発展させたく取り組んでいます。
  家屋面積174㎡、畑130㎡そして山林を借り受けて開設をしたばかりです。
  旧伊勢街道が庭先を通っていることや昔ながらの「おくどさん」を復元させ、昔ながらの番傘の置き場が並んでいること、年代物のピアノを使わせて頂いているなど、利用者が自然と昔話に花を咲かせる雰囲気をもった施設となっています。
② 「あいの家」スタッフは、公共サービスユニオン組合員
  あいの家デイサービスの理念は、「よかった、会えて」です。一人暮らしの中で久しぶりに出会えたことに喜びを感じるデイサービスの場にしたいと話し合っています。また、最期のときには、良い出会いがあったと心静かにつぶやき目を閉じることができる「場」としてのデイサービス事業所を目指しています。
  こうした話は、スタッフ研修の場で出てきた内容です。そのスタッフの労働条件は、ヘルパー、介護福祉士、保健師、ケアマネージャーなど、一律の時間給とし、一時金無し、但し、年度決算収支をもって黒字財政時に一時金支給あり。資格手当は介護福祉士以上にあり。年齢給、能力給は導入せず、定年制無しの雇用契約としています。
  一方、収入収支のバランスは、一日利用者6、7人、利用登録者30人前後を確保する必要がありますが、開設3ヶ月目で6人の登録者です。
  労使の目的は、利用者の「よかった、会えて」をどこまで支える介護ができるか、デイサービスの時間帯に止まることなく、在宅介護のありようについても議論しています。こうしたことを自治労の中で議論したいとスタッフ7人中5人が公共サービスユニオンに加入しています。

2. 「福祉と介護でまちづくり」事業の展開に取り組み

(1) 「まちづくりサポーター」の募集
① 「まちづくりサポーター」募集の目的
  私たちの村は、このままでは近いうちに人が住まない地域が発生する状況にあります。この地で最期まで住み続けたい願いを打ち砕いてしまう地域の荒廃状況に歯止めをかける話し合いを行う必要があると考えました。
  この地域に住んでいくための介護予防のためのおしゃべりを通して、毎日を元気に過ごせる「寄り合い」を定期的に行い、この「寄り合い」を世話する「まちづくりサポーター」制度を創設して取り組もうとしています。今この地に住む者が楽しく、元気に暮らせるために何をすればいいか、明らかにしていくことが「まちづくり」を具体化していくことととらえています。「福祉と介護でまちづくり」事業の実施主体は、「東吉野村まちづくりNPO」です。
② 「まちづくりサポーター」の役割について
  「まちづくりサポーター」は、自分たちの地域の産業基盤、生活基盤、自然環境、災害、地域文化、景観、住民生活などの崩壊、荒廃がどこまで進んでいるのか、点検し状況把握を行うことで、課題を明らかにする役割を任務とします。
  具体的には、「おしゃべり出前介護予防サービス」で話し合う場を設定することをまちづくりサポーターの役割とします。小集落ごとの介護予防事業の展開を通して集落の状況把握、集落点検の実施と集落のあり方に関する話し合いの場に発展していきたく計画しています。

(2) まちづくり講座の開催
① まちづくり講座の目的
  過疎化によって孤立化した高齢者は、人と人をつなげるまちづくりをする起点となる方たちととらえます。話し合いの場に出ていただくためにきめ細かく話し合う場を設定するため「まちづくりサポーター」を制度化し、その力量を高めるための「まちづくり講座」の展開を実施します。
  まちづくりは、地域でサポートする人々の力量によって成功するか、挫折するか決まるととらえています。
   まずは、人づくりを制度化し、併せて事業展開を行っていくことを目指します。高齢者に視点を当てた介護 保険制度の関わりでデイサービス事業や訪問介護事業、小規模多機能型介護事業に結びつけることを目指します。それにも増してこの事業を継続する重要性は、地域の文化や助け合い制度を復活させ、地域に住み続けたい基本的な生活基盤が再編されていくことにあります。
  人と人のつながりのある地域社会実現に向けて事業の継続をリードするサポーター集団の育成は、若者に引き継いで行く財産となると確信しています。
② 効 果
  この事業は、独立行政法人福祉・医療機構の「社会福祉」振興助成事業」(助成金額200万円)によって、実施するものであり、景気動向の悪化で沈滞ムードにある山間僻地の東吉野村を人と人をつなげる地域づくりを通して元気にしていくきっかけづくりになると考えています。孤立した高齢者の方々に接触することは、人権尊重の課題でもあり、人とのかかわりの重要性を浮き彫りにする取り組みです。そして、何かしたい、何かができるはずと考えている団塊世代の方々個々の思いを制度化する事で地域を元気にしていく効果が必ず出せると確信しています。

(地域の高齢者の方々とともに「あいの家」スタッフ一同) 

3. 東吉野村議会議員活動を通したまちづくりの取り組み

(1) 市民の声を行政に反映させるために
① 村に暮らすみなさんの声を村政に届けること。それが何よりも必要です。「介護、福祉でむらづくり」を提案し、仕事、若者の定住、自然保護などの議論からアイデアを形にする「まちづくり条例」の実現に取り組みます。
② 高齢になっても、障がい者になっても、安心してこの村で暮らせる、介護・福祉のさらなる充実に取り組みます。例えば、公共交通機関を下支えする「福祉移送サービス」や空き家を利用した「介護保険事業」の展開に取り組みます。 

(2) 政策提言と条例づくりに
① 村に暮らす団塊の世代の行動力をつなげる「まちづくりサポーター」の制度化、育成に取り組みます。林業振興など、村の産業の活性化に向けて、アイデアを出し合う「場」づくりや、子育てに悩む若い夫婦を支える仕組みを作り、若い人たちがこの村に住みたいと思えるむらづくりめざし、議論を活性化することから始めます。
② 誰がどのようにむらづくりに取り組むのか、過疎化と高齢化が進む東吉野村では、待ったなしの課題です。明日の東吉野村をどう描くのかが今緊急に求められています。「むらづくり基本条例」を制定し、具体的な施策が進むように全力で取り組みます。

  2010年4月25日、奈良県東吉野村議会議員選挙において、地元の方々の運動と自治労奈良県本部、各単組、連合奈良などの支援を受けて、私(辻本恵則)は当選を果たすことができました。自治労運動で培った自治研活動を地方自治体議員として政策提言を行い、条例づくりに取り組んでいます。行政として取り組まなければならない政策は、地域の暮らしの中に存在しています。地域の中に入ってこそ、政策提言ができると考えています。