【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第8分科会 地方再生とまちづくり

 自治労広島県職員連合労働組合(以下「県職連合」)は、自治研活動の推進に当たり、NPOをはじめとする民間団体や地域住民との協働による「新たな公共」の創造と、若手組合員の自治研活動への参加拡大を目標に取り組んでいます。自治研の若手リーダー養成に向けて2007年から始めた「自治研担い手講座」もその一つで、2009年は体験型講座を企画し、中山間地域の活性化に取り組む団体と協働で「夏休み子どもキャンプ」を実施しました。本レポートでは、その概要について報告します。



自治研「担い手」講座と夏休み子どもキャンプ


広島県本部/自治労広島県職員連合労働組合 中川 裕将

1. はじめに

 県職連合では1997年に自治研活動を本格化し、職域単位の自治研活動を中心に取り組んできましたが、自治体職員の視点に偏った公共ではなく、行政以外のNPOや地域住民との協働による「新たな公共」の視点が必要と考えてきました。その考えから、ひろしまNPOセンターと協働で「NPO研究会」を行うとともに、県内のNPO団体との交流を目的に分権自治推進集会を開催してきました。また、2008年には「地域政策センター」を設立し、組織内議員や県職連合OBに加え県内有識者やNPO活動家を運営委員や研究員として迎え、自治研活動をより豊富化、専門化するとともに「新たな公共」の視点で知事への政策提言を行うべく研究活動を開始したところです。
 自治研活動のもう一つの課題が、柔軟な発想力を持つ若手組合員にいかに多く参画してもらい、活動を担ってもらうかということです。このため、2007年から職域等から選ばれた原則35歳以下の若手組合員(以下「担い手」)を対象に「自治研担い手講座」を隔年開催しています。2回目となる2009年は、参加者に自治研活動の面白さを感じてもらうとともに、地域の活性化や県職員に求められるものについて考えてもらう目的で、デスクワークではなく体験型講座を行うこととしました。
 とはいえ、こうした活動は過去に例がなく、担い手に地域の課題や講座の目的をどう理解してもらうか、NPOや地域住民とどのように協働するかなど、様々な課題がありました。また、今回の子どもキャンプはゼロの状態からすべてを企画・運営しなくてはならず、キャンプ成功というミッションの達成は「おもしろいけど大変な」ものになりました。


図1:県職連合の自治研

2. ほしはらとの協働

 今回の担い手講座は、三次市上田町で廃校となった木造の小学校(旧上田小学校)を拠点に農山村の体験活動に取り組んでいる「ほしはら山のがっこう」(以下「ほしはら」)と協働することとしました。「ほしはら」にこの企画を打診したところ快く引き受けていただき、「ほしはら」のスタッフと一緒に夏休み子どもキャンプを開催することになりました。
 「ほしはら」もこういった形での協働は初めてであったため、事前準備の段階でキャンプの目的について時間をかけて話し合い、「自然や人との触れ合いを通じ、子どもたちに田舎の楽しい思い出をたくさん作ってもらうためのキャンプを企画・成功させる」との共通目標を確認しました。また、担い手の勤務の関係と「ほしはら」の意向により、キャンプは夏休み土日の1泊2日とし、「ほしはら」スタッフの助言のもと、担い手自らが企画・運営することとしました。


図2:協働モデル

3. 担い手講座の実施(企画・運営・準備)

 今回の講座には、県職連合の若手組合員10人(女性2人、男性8人、年齢25~43歳)が担い手として参加したほか、県職連合の役員と三次市在住の組合員の計5人が裏方として活動を支えました。
 担い手の職域は、農林、土木、環境、職業訓練、研究と様々で、ほとんどが初対面でしたが、全員キャンプ経験があり子ども好きだったこともあって担い手の連帯感は自然に生まれました。なお、担い手のうち自治研活動の経験者は3人(07担い手講座受講者)、初参加は7人でした。
 担い手と「ほしはら」スタッフは、5月から8月までの毎月第2土曜日に現地で企画会議を行い、キャンプ成功に向けて準備を進めました。また、広島市などで参加者を募集したところ、小3から中3までの19人の申し込みがありました。内訳は、三次市内9人、市外(広島、呉ほか)10人と、中山間地域の子どもと都市地域の子どもが半々でした。

4. 担い手が感じた上田町の課題と魅力

<写真:ほしはら山のがっこう(旧上田小学校)>

 広島県の農山村の少子高齢化は深刻で、上田町はその中でも厳しい状況にあります。1975年からの30年間で人口は約200人に半減、2030年には50人になると予想されています。イノシシやシカの被害で農地の維持が困難なことに加え、地域の小学校が廃校となったことで、住民には「あきらめ感」や「行政からの見捨てられ感」があったそうです。そうした中、廃校となった小学校は、地域住民の手で新たな地域の拠点(ほしはらの山のがっこう)として生まれ変わり、農山村の体験交流施設として運営されることになったそうです。
 現在「ほしはら」を訪れる参加者は、年間で延べ1,000人以上となり、夏休みには7泊8日キャンプをはじめ子どもを対象とした多くのイベントが行われています。木造小学校とその周辺の豊かな水田や畑は「いつか来たことのある」なつかしさを感じさせ、そこにいると自由でゆっくりとした時間を体験することができます。また、地域の里山や池、瀧などは子どもたちの絶好の遊び場となり、夜にドラム缶風呂からながめる満点の星空は、記憶に深く残ります。
 しかし、こうした豊かな景観や農地・里山の維持を地域の力だけで行うことは困難です。空き家や耕作放棄地が増え、里山は管理されず荒れています。
 こうした課題の解決には行政の役割が大きいと考えますが、地域の側からは行政(とりわけ県)の姿はよく見えず、県職員との関わりもほとんどありません。「ほしはら」のスタッフも「役場の職員に地域のことをもっと知ってほしい」「農山村の課題を地域に押し付けるのではなく、地域が行政の責任にするのでもなく、地域と行政が一緒に関わることが必要」とおっしゃっていました。
 このまま上田町のような豊かな農山村が消えていくことは、その地域の住民だけでなく県全体にとっても大きな損失であり、行政や都市住民も含めて、何ができるか早急に考えなければなりません。
 キャンプの準備の合間に、担い手全員で「ほしはら」スタッフや地元の人に上田町の話を聞きながら、今回のキャンプは都市住民や子どもたちに田舎の魅力や必要性を直接伝える貴重な機会であること、県職員がこうした地域活動に参加することは地域の課題と役割を共有化することにつながることを確認し合いました。


5. 子どもキャンプ

 キャンプは、好天にも恵まれ8月22,23日(土日)に実施しました。
 当日は、農山村に暮す人たちの営みを感じてもらうために、地元農家を尋ねて食材を収穫し、ご当地カレーを農家の方と楽しみました。また、自然との交流を目的にフールドワークで地域の探検をしたり、池での釣りや森の広場でダイナミックなブランコ遊びやクラフトワークを楽しみました。夜は星空観察、ドラム缶風呂やキャンプファイアーで交流を深めました。


●写真左
アイスブレイクのためのゲーム
「ほしはら」では、初対面の参加者同士が短時間で仲良くなるために必ず行われる。
●写真左
里山整備で作った森の広場でクラフトワーク。

●写真(上中下)
食材調達を兼ねたウォークラリー。
飯盒炊爨後に、農家の方と「ご当地カレー」をいただく。


●写真左:近くの池で釣り。釣れたブルーギルは自分たちで捌いて朝食に。
   中:パンも手作り。生地を棒に巻いて炭火で炙る。右:森の広場に作った里山の景色を堪能できるブランコ


 2日間で多くのメニューをこなしたため、担い手にとっては忙しい内容となりましたが、子どもたちには好評で田舎を十分に楽しめる内容となりました。田舎には普通にある自然や人々の暮らしが、子どもたちに魅力的なものと受け止めてもらえたことは、担い手にとって大きな自信となりました。閉校式では親御さんと一緒にキャンプの様子をスライドで見ましたが、子どもたちが楽しむ姿から、改めて田舎の魅力を感じてもらえたと思います。
 また、このキャンプは、子どもたちを受け入れる地元の方々の優しさや、豊かで手入れの行き届いた自然があったからこそ成功しました。協力いただいた「ほしはら」スタッフと地元の方々には、感謝の言葉しかありません。

6. 反省会

 企画終了後、担い手講座の参加者、関係役員が集まって次の5点について感想交流しました。
 キャンプについては大満足との意見が多かった反面、今回の講座の到達点については、評価すべき点と次回に向けた課題が明らかになりました。

参 加 者 感 想
(○:評価、△やや不満、×要改善)
①全体的な感想 ○休日返上で忙しかったが、楽しい思い出になった。
○都市に住む職員が、山間地に来て何かやったというだけでも大きな意味がある。
○子どもたちの笑顔が嬉しかった。
△キャンプ当日、私用で参加できなかったのが心残り。
②企画(キャンプ)の達成度 ○子どもたちに楽しんでもらえたし、田舎の魅力を伝えることができたと思う。
△もっとやりたいこともあったが、日程の都合で仕方ない面もあった。
③県職員としての意識の変化、その役割について感じたこと ○中山間地域の存在が身近に感じられるようになった。
○自分の仕事、それ以外の部分でも地域の視点で考えることを意識するようになった。
○県は組織再編で地方事務所を縮小したが、地域対策ということで言えば、こうした住民の活動をサポートする機能も重要ではないかと感じている。
④「ほしはら」の活動に対する意見・提言 ・地域の財産(自然)に誇りを持ち、都市との交流等で活かせれば、田舎から若い世代が出て行かなくなり幅広い年齢層の活気のある地域ができると思う。
・活性化という意味では、特産品の開発等、自立した産業の育成も欠かせないと思う。
・時間はかかるが、「定住」につなげるための活動の方向性は間違っていないと思う。
・農家の「大変さ」を分かってもらうことも必要。(野菜もぎだけでなく草取りとか)
⑤「担い手講座」の今後について成果と課題 ○体験型学習の形を続けるべき。現場での見る、聞くは大変重要。
○座学でなく実際に体験することは、記憶に残るので良い。
○地域のことを考えるには、遠回りであるが入りやすい題材だった。
△地域の活性化についてある程度学習した後に実践する方が良かったのではないか。
×キャンプ準備が忙しくて、地域の活性化を考えるまで至らなかった。
×自治研の取り組みとキャンプ企画が結びつかなかった。もっと丁寧な説明があれば。


7. まとめ

 今回の講座は、何もかもが初めて尽くしでした。
 「ほしはら」には、その後、参加した子どもの両親や知人から「すごく楽しかったと話してくれた」「今年はないの?」という声も届いたそうで、キャンプの目的は概ね達成できたものと評価できます。また、体験型方式も好評だったことから、今後の担い手講座の手法として定着させていきたいと考えます。
 しかし、参加者の感想にもあるとおり、今回の講座で目指したものが十分達成できなかった面があるのも事実で、次回の担い手講座をどのような形で行うにしても、まずは自治研の必要性と講座の狙いを十分に説明することが重要と感じました。
 その後、参加者の何人かは、県職連合の基本組織や自治研の役員となって現在も活躍していますが、今後は、他の参加者も職域自治研等に関わっていけるよう、組織として継続して取り組む必要があります。
 なお、参加者の中には、今でも「ほしはら」にサポーター的に関わっている者もおり、今後も交流を通じて県職連合の自治研活動に係るヒントが得られれば幸いです。