【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第9分科会 都市(まち)のコミュニティを再生させる

 全国的に見ても珍しい金沢市独自の納税組織である「金沢市納税協力会」が地域コミュニティに果たしている役割や現在抱えている課題を検証して、今後の組織のあり方などについて考察する。



金沢市納税協力会から見る地域コミュニティ


石川県本部/金沢市役所職員組合 中西 真久

1. 金沢市納税協力会とは

(1) 金沢市納税協力会の概要
① 歴 史
  納税協力会は、金沢の公私協働の土壌に育まれた、歴史と伝統のあるコミュニティのひとつである。
  1923年、町会毎に「納税組合」が組織され、当時は、市税とともに市営電気会社の電気料も集金していた。
  1942年には、電気事業が民間へ移ったこと及び戦時中の影響もあり、「納税組合」は自然消滅することになるが、戦後の1950年に市が「納税組合」の復活を呼びかけ、201組合が再設立された。
  1951年には、納税貯蓄組合法が施行され、全国的にこれまでの組織が「納税貯蓄組合」に統一されるなかで、金沢市は「納税組合」を「納税協力会」に改め、法施行に基づく「納税貯蓄組合」も別に発足されたことにより、二つの組織が並立することとなった。
  1953年には、各納税協力会の連合体である、「金沢市納税協力会連合会」が設立された。

② 納税貯蓄組合との違い
  金沢市には、納税協力会の外に金沢地区納税貯蓄組合が存在する。両組織とも「納期内納付の推進」が趣旨となっており、大きな違いは見られない。金沢市では、市税は納税協力会・国県税は納税貯蓄組合という位置づけとなっている。

[納税協力会と納税貯蓄組合の比較]
名 称
金沢市納税協力会 金沢地区納税貯蓄組合
根拠法令
金沢市納税奨励規定(1950年) 納税貯蓄組合法(1951年)
連合会設立年
1953年 1957年
範  囲
金沢市 金沢市・かほく市・津幡町・内灘町
組 合 数
307協力会 83組合
組合員数
14,324人 31,852人
会  費
なし 2,000円/年
事業概要
市税の納期内納付の推進
納税知識の啓発および普及
主として消費税などの租税の納期内納付推進
納税資金の計画的貯蓄と納期内完納の定着化
振替納税制度の普及拡大とe-TAXの普及
納税道義の高揚
奨 励 金
市県民税・固定資産税の納付に関する事務費相当額 2007年度に廃止

③ 市との関わりについて
  市においても、納税協力会は期限内納付の推進・納税思想普及啓発だけでなく重要な地域コミュニティとして認識しており、納税協力会に対して支援を行っている。財政的支援としては、納税奨励金として納期内納付件数に応じて事務費相当額を各納税協力会に交付している。また、功労があった納税協力会員については、毎年表彰式を開催し、市長が表彰状等を贈呈している。

[納税奨励金の算定] ※年1回(A)+(B)の金額を交付
・会長が全会員分の納税通知書を受け取る納税協力会 300円×納期内納付件数(A)
・会員が個別に納税通知書を受け取る納税協力会    50円×納期内納付件数(A)
年間納付件数
事務費相当額(B)
 40件~199件
30,000円
200件~299件
50,000円
300件~399件
70,000円
400件~499件
90,000円
500件~599件
110,000円
年間納付件数
事務費相当額(B)
600件~699件
130,000円
700件~799件
150,000円
800件~899件
170,000円
900件~999件
190,000円
1,000件以上   
210,000円

④ 納税協力会の推移
  納税協力会の数と会員数はともに減少している。1974年に610あった納税協力会は2008年には半分の307まで落ち込んでいる。特に納税奨規程の改正により納税奨励金の額が大幅に減額された2000年以降の減少幅は大きくなっている。


[納税協力会の推移]


(2) 地域における役割
 納税協力会は設立当初から町会との関わりが非常に強く、町会とともに金沢市の地域コミュニティを構築する重要な組織として現在に至っている。納税協力会の第一の目的は「期限内納付推進」と「納税思想の高揚」であるが、それとは別に地域に密着した組織であるということが挙げられる。納税協力会長が納期ごとに地域の会員宅を訪問して税を集金するシステムは、地域住民の密接な信頼関係に支えられたものといえる。そして、納税協力会活動を通じてそのような密度の高い地域コミュニケーションを維持していくことが期待されている。
 また、納税奨励金は使用用途が限定されていないため、町会単位で組織している納税協力会については、各種の町会活動に使用されている場合も多く、町会の貴重な財源となっているとも聞く。額自体は多くはないが、納税奨励金が町会活動の一助になっているものと思われる。

[納税協力会の構成表]
 
協力会数
協力会員数
年間取扱税額
地域協力会
276件
13,368人
3,971,904千円
職域協力会
10件
195人
283,771千円
その他協力会
21件
761人
577,758千円
合  計
307件
14,324人
4,833,433千円

2. 金沢市納税協力会が抱えている課題

(1) 市民アンケートから見る課題
 金沢市納税協力会も外の地域組織と同様に組織の弱体化と会員の高齢化問題を抱えている。前頁の[納税協力会の推移]を見ても、1974年に比べて協力会数・会員数とも半減している。また、2000年に納税奨励金の額が大幅に減額となったことも、協力会が減少した要因として考えられる。
 2002年に金沢大学文学部社会学研究室と金沢市が「市民のコミュニティに関する意識・行動調査」についてアンケート調査と結果報告をしているので、その結果を基に現在の地域コミュニティが置かれている現状を分析してみる。(調査対象は主に「町会活動」であるが、納税協力会についても同様の問題点が存在すると考えられるため、当該データをもとに分析を行う。)

① 町会活動の問題認識について
 「役員任せになっている」(78.9%)、「活動に変化がない」(70.5%)、「特定の人に業務が集中している」(67.2%)、「参加が自主性に欠けている」(57.3%)、「若者等が参加しにくい雰囲気がある」(54.2%)
との順で問題点が認識されている。そのうち、納税協力会にも当てはまる問題点としては、「役員任せになっている」・「特定の人に業務が集中している」・「若者等が参加しにくい雰囲気がある」が考えられる。

② 町会の運営実態の分かりにくさについて
 世代別にアンケート結果を集計した結果、「分かりにくい」と認識しているのが50代以上は半数以下であるのに対して、30代以下は約6割が「分かりにくい」と認識している。納税協力会についても、同等の認識であるものと考えられる。

③ 好ましいおつきあいの程度について
 「よくつきあう」(8.7%)、「ある程度つきあう」(83.0%)となっており、9割以上がある程度以上のつきあいが好ましいと考えている。この結果は、一見すると良い数字に思われるが、逆の見方をすると9割以上が緊密なつきあいを望んでいないということになる。納税協力会の活動は緊密な地域コミュニティが必要となることから、厳しい現状であると考えられる。
 

(2) 金沢市の行政評価
 金沢市では事業の見直しを行っており、納税協力会に交付する納税奨励金ついても見直し対象となっている。

年度
評       価
方向性
理由等
評 価 コ メ ン ト
09年度
見直し
内 容
見直し
納税意識の啓発と納期内納付率の向上に対する効果を検証したうえで、奨励金について、納税協力会の活動を踏まえ、算定基準を見直す必要がある。 
08年度
見直し
終期
設定
納税意識の啓発と納期内納付率の向上に対する効果を検証したうえで、終期を設定する必要がある。 

 行政評価の結果は、納税奨励金の縮小・廃止を求めているものと見ることができる。しかし、2000年に納税奨励金を減額して以降の協力会の減少幅は大きくなっており、さらなる縮小は納税協力会の減少傾向に拍車がかかるものと思われる。また、納税奨励金の廃止については、納税協力会の存続が困難なものとなることが容易に想像できる。

3. 金沢市納税協力会の将来像について

 納税協力会を今後とも地域のコミュニティツールとして活用していくには、前述の課題を克服していく必要がある。まず、第一に30代以下の若年層の取り込みが急務となっている。アンケート結果でも若年層は約6割が「分かりにくい」と答えており、若年層に対して様々なアプローチを行い、多様な人が参加しやすい環境にしていくことが組織の活性化につながっていく。
 次に、個人情報の問題である。近年個人情報に対する関心が強くなっており、納税協力会長に納税通知書を預けておくことに不安を感じる会員も少なくない。その点については、自治体と個人情報に関する検討を行い、個人情報のあり方を整理することにより、会員の不安を解消していく。
 また、金沢市の行政評価については、納税奨励金の交付目的は「期限内納付の推進」であるが、それだけでなく、地域コミュニティの構築に重要な役割を果たしていることもアピールするべきである。
 最後に、金沢市では地域コミュニティを再構築するために、様々な新しい試みを行っている。その一つにマンション単位の町会設立の支援事業がある。納税協力会についても、これまでの既存組織だけでなく、マンション単位で協力会を設立するなどの新しい取り組みを進めていくことが求められる。歴史と伝統だけでなく、時代に適応した組織作りを行うことにより、地域住民に受け入れられる組織として変化していくことが、地域コミュニティとして今後発展していくために重要なポイントとなる。そのためには、自治体も地域コミュニティに対して制度・財政面で積極的に支援していくことが必要である。